第337話 アルラウネと言えば綺麗系?可愛い系?

「二人とも、以前渡した資料は呼んでくれたよね?

 それじゃ、30層のボス『花乙女ポージー』の情報について、おさらいしておこうか」

「俺はアルラウネつーのは、初めてなんだけどよ。いまいち想像がつかないんだが、根っこや蔦で攻撃するなら、あの歩く百合の花リーリゲンみたいなボスなんだよな? サボテンの方じゃないよな?」


 ボス部屋前の休憩所でミーティングを始めた。俺達の他には誰も居ないので、ボス部屋への扉も空きっぱなしであるが、情報の摺り合わせは重要である。その一環として、事前に図書室で集めた情報を、資料としてまとめて展開したのだが、ベルンヴァルトが要領を得ないといった様子で腕を組み、首を傾げた。

 俺とレスミアは、村の侵略型レア種『氷花雪女アネモネ』と、その本体である『娘樹精花こじゅせいかアネモネバルブ』と交戦しているので、同種のアルラウネを想像するのは容易い。ただ、ベルンヴァルトは、見た事も無い魔物を想像できなかったようだ。


「巨大な牡丹な花らしいよ。その花の中心である雌しべの位置に、人型……女性の上半身だけが生えている。ただ、これは只の疑似餌みたいなもので、切っても倒せない。ダメージにはなるみたいだけどね。本体は下の牡丹の花の方。花を真っ二つにするとか、地面に生えている茎を切ってしまえば倒せるらしい」

「はいはい! 今回は上の花を倒したら、カボチャ……球根が出てくるなんて事は無いのですよね?」


 逆に、侵略型レア種を知っているレスミアは、別の心配をしていたようだ。2連戦となると、心構えが居るからな。ただ、ポージーに至っては、そんな心配は無用である。なにせ、只の30層のボスなので、そこまでの特異性はないからだ。


「侵略型レア種と比べるのは酷だって。普通に花を倒したら終わりだよ。

 ただ、その花を守るように、根っこが張り出していて、近付く者に攻撃を仕掛けてくる。多分、リーリゲンと似たような感じだと思う。それと、人型の腕も蔦が絡んだみたいに長くて、攻撃に使ってくるから、この二つを排除しないと本体には届かないね」


 根っこは全周囲に生えているが、排除するのは一部でいい。それに対し、蔦の腕は長くて振り回すので、切断するなりして、短くしないといけない。しかも、この蔦の腕には百合の花が生えており、振り回すと麻痺効果のある花粉を撒き散らす。前衛は、麻痺対策に抗麻痺剤を飲んでおかないと、直ぐに行動不能に陥ってしまう。


 状態異常攻撃は、それだけでない。限定条件ではあるが、花乙女ポージーを3人以上で囲むと、頭を振って盲目効果のある花粉を撒き散らすそうだ。盲目の状態異常は、かなり厄介である。何せ、予防出来ないのだ。



【薬品】【名称:千眼孔雀の目薬】【レア度:C】

・状態異常の盲目を治す薬品。事前に飲んでも効果はないので、状態異常になった場合のみ服用しよう。

・錬金術で作成(レシピ:千眼孔雀の羽+ホズルブライト+ポーション+薬瓶)



 治す薬品はあるけれど、予防効果はない。しかも、薬瓶3本セットで1万5千円と、結構お高いのだ。抗麻痺剤なんて20錠も入っていて2千円程度なのに……

 人数分×2で6本は用意してあるが、毎戦使うのは勿体ない。その為、囲んで叩く戦法は使わない予定である。


 因みに、図書室の自伝で多かった戦法は、前衛2名で戦い根っこや蔦腕を排除していき、軽度の麻痺に掛かったら交代するそうだ。麻痺の花粉は、いきなり身体全体が動かなくなるのではなく、吸い込む量が多い程、指先から動かなくなっていく。一昨日のベルンヴァルトもそうだったな、ロケットキノコの胞子だったけど。


 ただ、俺達がこれを真似るには人数が足りない。そこで、準備してきたコレを使う。ストレージから、魔絶木の透明な木材から作ったゴーグルと、マスクの替わりに布を積層させたスカーフを取り出して配った。


「ヴァルトが作ってくれたゴーグルに布を接着して、頭に巻けるようにしてある。隙間が出来ないように、少し強めに巻いてくれ」

「あぁ、アレか。酒場で聞いた話じゃ、前衛の戦士はフルフェイスの兜を被るって聞いたんだが、それじゃ駄目なのか?」

「フルフェイスの兜でも、目とか空気穴が空いているから、花粉が入り放題じゃないか。だから、麻痺するんだよ」


 ゴーグルは、砂漠フィールドをバイクで走った時にも使ったのだが、それの改良品である。当て布の素材や厚さを変えて、隙間が無くなる物を選んだ。ついでにレスミアの物は、お洒落な柄物の布を使ってある。それらを身に着けると、「どうです? 可愛いですか?」なんて聞いてきた。


「可愛い……って言うべきなんだろうけど、顔の殆どが隠れているからなぁ。女性らしい布ではあるけどね。普段の方が可愛いよ」

「あ~、それじゃあ、仕方ないですね。ヴァルトは角ですぐわかりますけど、ザックス様も髪の毛を見ないと、誰だか分かり難いですし」


「ハハハッ、違いねぇ! 3人揃って街中歩いていたら、山賊に間違われて騎士団に掴まりそうだぜ!」

「いやいや、街中に山賊は出ないだろ……強盗か泥棒か。まぁ、ボス戦の間だけにした方が良いのは確かだな」




 ボス戦用のジョブは、主戦力として軽戦士レベル31、魔道士レベル31。育成枠として、〈ディスパライズ〉の使える司祭レベル27、珍しいジョブの罠術師レベル27、絶賛育て中の戦技指導者レベル21の5ジョブをセットした。


 午前中の探索でレベルが上がった戦技指導者は、レベル20で新しいスキルを覚えている。



【スキル】【名称:受け身の心得】【パッシブ】

・受け身行動に補正が付き、地面に倒れる際の衝撃を和らげる。また、即座に次の行動へ移る事が出来る。


【スキル】【名称:盾術の心得】【パッシブ】

・盾類全般における、防具の扱いを補正する。また、攻撃を受けた際の衝撃を、少しだけ和らげる。



 どちらも心得系のパッシブスキルである。受け身はウベルト教官に扱かれる前に欲しかったよ。いや、訓練したお陰で助けられた部分も多かったので、無駄ではないのだけどね。少しだけ、思うところはある。

 そして、盾については補助的にしか使っていないので、何とも言えない。今日も槍を使う予定なので、外しているし……手が空いた時にでも、ベルンヴァルトと訓練をして補正を体感しておこう。


 そのベルンヴァルトのジョブは、重戦士レベル28で、ツヴァイハンダーと大盾装備である。爆発力のある集魂玉スキルがあると、戦闘も楽になると思うが、鬼徒士は既にレベル31である。先ずは30以下のジョブを上げないとな。


 レスミアも同じ理由でトレジャーハンターのレベル28で、弓矢装備である。後方からお供の魔物を倒したり、花乙女ポージーの人型を狙って牽制したりする予定だ。

 まぁ、どちらもレベル28なので、経験値増4倍と、戦技指導者の〈獲得経験値大アップ〉があれば、1戦で30を超えると思う。



 そんな準備と、各種バフを掛け終えると、ボス部屋へと踏み込んだ。

 すると、部屋の外周部が一面ぐるりと、花畑になっていた。迷路階層でも見かけた物(隠れきれてない擬態用)と同じく、百合の花と芍薬の花が咲き乱れている。


「あ、牡丹の花も混じって咲いていますよ。芍薬と似ているから、間違えやすいんですよね。後で摘んでいこうかな?」


 レスミアが花の一角を指し示すが、俺には区別が付かない。百合の花ほど違えば一目瞭然だけど。

 それはさておき、部屋の中心辺りは土床で、戦闘出来る様に空けてあるようだ。そして、真ん中に近付くと、床に魔法陣が現れ光り始める。

 ボス召喚の魔法陣を前に、俺達も配置に付いた。ボスに向かって4時方向の前衛にベルンヴァルト、俺は8時方向辺りの前衛である。お互いの獲物が長いので、巻き込まないようにしているのだ。そして、レスミアは6時方向の正面後方から弓で援護する。


 光が収まり、中から巨大な牡丹の花が現れた。白っぽいピンクの花は上を向いて咲いており、その中心からは人型の上半身が生えている。情報通り、腕は蔦の集合体のようであり、その上には百合の花が連なって咲いている。そして、その頭にも、灼躍(もしくは牡丹?)の花と葉が密集して咲いていた。花束と言うか、花環と言うか、髪の代わりかな。

 ただし、その身体は、女性らしい形はしているものの、蔦のような緑色をしており、裸体でも嬉しくない。顔もマネキンのように、のっぺりしており、目も真っ黒。


 ……うん、人外だな。萌え系ではなかったよ。

 氷花雪女アネモネは、綺麗なお姉さんから美少女に若返っていったので、少しだけ期待していたのに。こっちは正しくモンスターだな。いや、心理的に倒しやすいから、こちらの方が良いか?


 そんな花乙女ポージーの足元には、リーリゲンと隠れ灼躍が1本ずつ、お供として出現していた。

 先ずは、小手調べ。槍の穂先に灯った魔法陣を敵に向け、魔法を発動させた。


「〈ロックフォール〉!」


 花乙女ポージーは、木属性魔法を使うらしい。その為、おそらく属性も同じく木属性。中級属性なので、初級属性である土魔法の〈ロックフォール〉では、ダメージを軽減されてしまい決定打にはならない。しかし、それでも土属性の特性である物理的に打撃する効果は効くはずだ。あわよくば、お供の2本も潰れて欲しい。

 そんな思惑で放った魔法により、魔物たちの頭上に巨大な釣鐘岩が現れる。


 しかし、釣鐘岩が落下するよりも早く、花乙女ポージーが両腕の蔦を振り上げた。地面に届くどころか、本体の全高の倍はある長さである。両腕の蔦が絡まり太くなると、振り下ろされた。鞭のように撓み、遠心力も加わった両腕は、落下し始めていた釣鐘岩を横から殴打する。

 木を叩いたような鈍い音と共に、釣鐘岩が横にズレた。吹き飛ばす程ではないが、横にズレた分斜めに落下し、花乙女ポージーのギリギリ横合いで、地響きを立てた。


 ……力尽くで、ずらしやがった!


 もちろん、お供の2本はおろか、周囲に生えた根っこにすら当たっていない。魔法は効き難いとは書いてあったが、こう来るとは予想外だった。

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