第332話 幼児の為の知育玩具

 あらすじ:子供に合わせてあげると、ナールング商会を訪れたら、契約書とこんにちは。


 リスレスお姉さんは仕事中だったのか、今日は事務員のような地味な服を着ている。幼児の世話は、雑用メイドのおばちゃんがしているので(乳母と言うよりはベビーシッターか?)、付きっ切りで見ている訳ではないと、レスミアが言っていたな。既に仕事復帰をしているようで、作成された契約書を突き付けられていた。


「ピーラーなら、婚約の返礼みたいな物と思っていました。なので、そちらの好きにして頂ければ良いですよ?」

「それは、駄目よ。ソフィアリーセ様との伝手が出来ただけでも、十分な返礼なの。貴方からも返礼を受け取っては、こちらがお返しを考えないといけないわ。

 それに、考えたくない話ではあるけれど、レスミアとの仲が悪くなって、婚約が破棄された場合も考えないとね。……商品が売れるようになってから、権利を主張されると面倒だもの。商業ギルドで〈真偽の裁定〉されるのも、痛手になるし……。

 あぁ、貴方がそんな人だとは思わないけれど、時間が経ってお金に困ったりするとね、人が変わる事もあるのよ。

 それなら、今、権利の買い取りをしておいた方が良いわ」


 この辺は、商人的な考えなのだろう。人の善意を信じて口約束するよりは、契約書の公平性を求めるみたいな感じだな。リスレスお姉さんの言う事も尤もであると、納得して商談に入った。


 ただ、商談とは言え、殆ど向こうの要求を呑む形で、終わらせた。権利を全て譲渡するが、自作して家で使う分にはお目こぼしを貰う。報酬も、利益の数%とか提案されたが、一時金の30万円で終わらせた。長い目で見れば配当金の方が良いだろうけれど、先よりも今現在に、お金がある方が助かるのだ。

 それに、事務手続きが増えるだろうし、自分の発明でもないので、少しばかり後ろめたく感じる。


 それらの商談内容も記載して、署名からの血判し、〈契約遵守〉で契約を行った。


 ……一仕事終了。さて、俺もティクム君と遊ぼう。


 と、椅子から立ち上がろうとしたのだが、リスレスお姉さんに引き留められ、お茶のお替りを入れられた。ついでに、新しいお茶菓子……金柑ジャムが乗ったクッキー……を勧められる。

 そして、書類を脇に片付けたリスレスお姉さんは殊更に、にっこりと笑う。


「先日はあまり時間が無くて、『後ほど相談させて下さい』で終わってしまったのよね。続きと行きましょう。

 ナールング商会は食料の輸入販売と、飲食店の経営をメインに行っているの。それに、関連するような商品なら高く買うわよ?

 それに、レスミアから色々と開発しているって聞いたわ。料理に使う道具とかなら、あの子も喜ぶわよ」


 前回は、ルティルトさんと騎士団へ出かける為に、話が途中になったけれど、ピーラーを渡した時点で新商品については終わったものと勝手に思っていた。しかし、商人なリスレスお姉さんは商機を見逃さないようだ。にこやかに笑っているけど、目は猛禽類が餌を見つけたように光っている。


「あ~、パッと思い付くのはレスミアと、ウチの料理人に話した後なのですよ。元々料理をする機会も無かったので、それ程、詳しくないのでして」

「それなら、料理以外でも良いのよ?

 ただ、錬金調合でしか作れない様な物は困るわ。ウチの商会には錬金術師は居ないから……鍛冶師や服飾職人、木工職人なら専属や懇意にしている職人が居るから、彼らが作れる物だと良いわね」


 それぞれ、調理器具やカトラリーを作る鍛冶師、従業員や店員の制服を作る服飾職人、小物から内装、大工までを兼ねる木工職人らしい。外注するとコストが高くなるので、専属として抱え込んでいるそうだ。

 確かに、それだけ職人が居れば、色々出来そうである。肝心のアイディアが出ればの話だけど……



 期待するような目に追い詰められながらも、前世の記憶を掘り返す。しかし、電子機器以外で作れそうな物と言われてもパッとは出てこない。

 そんな時、「あーーー!」と、悲し気な声が響いた。何事かと声のした方を見ると、レスミア達が遊んでいる一角である。そこでは、バラバラに崩れた積み木を手に、ティクム君が涙ぐんでフリーズしていた。


「だいじょうぶだよ~。崩れても、また積めるからね~」

「そーそー、お姉ちゃんが見本を積んであげるにゃー」


 レスミアが頭を撫でてあやし、スティラちゃんがバラバラになった積み木を集めて、簡単な家を組み始める。その、微笑ましい光景を見て、リスレスお姉さんが目尻を下げた。


「うちの子のお気に入りなのよ、積み木遊び。実家に行った時にね、少し年上の子が遊んでいたのを見て、真似したくなったみたいなの。お婆ちゃんに貰った積み木で毎日遊んでいるのよ。

 最近はスティラがお手本に組んであげて、それを真似して積もうと頑張っているわ。まだ、2段しか積めないけどね」


 子供の成長が嬉しいのか、上機嫌に話してくれた。

 そんなティクム君が積み木遊びに興じているのを見て、ピンッときた。


 ……木製の知育玩具なら、作れそうじゃないか?


 真っ先に思い付いたのは、自分でも遊んだ覚えのあるレゴブロ〇クである。単純なブロックを組み合わせて作る想像力だけでなく、思考力や集中力が子供を成長させそうだ。

 ただし、1歳ちょっとの幼児には早いか。それに、木製で大量のブロックを作るとなると、画一性を持たせるのは大変そうだ。アレは金型で、プラスチック成型するから成り立つ商品だろう。錬金調合ならレシピ登録で出来そうだけど、ナールング商会には錬金術師が居ないのではしょうがない。没。


 次のアイディアは、四角柱な棒をタワー状組んだだけのジェ〇ガである。これならば、四角い棒を作るだけなので、簡単だ。ただし、対象年齢は小学生くらいからだったような。積み木を練習中な幼児では無理だろう。没。


 ……もっと単純な物じゃないと。


 考えを整理し、積み木から連想する事で、パズルボックスを思い出した。四角い箱に、丸や三角、四角、星などの穴が開いていて、同じ形のブロックを嵌めて中に入れる玩具である。誰かは分からないが、小さな子供が夢中になって、ブロックを入れていた覚えがある。中にコトンッと、落ちる木の音も良いんだよな。

 パズルボックスならば、俺でも作れそうだ。そう考えて、リスレスお姉さんに提案してみた。既に似たような玩具があっては意味が無いので、簡単な絵を描いて説明する。



「……少なくとも私は知らないわね。でも、これ面白いのかしら? 決まった図形に入れるだけよね?」

「幼児には、丁度良い難易度なんじゃないですか?

 まぁ、実際に作ってティクム君に遊んでもらえば分かりますよ。ちょっと、工作しても良い場所を貸して下さい」


 そんな訳で、庭の一角を借りて作業する事になった。当初の目的であるティクム君とは、遊ぶどころか認識すらされていないけど、しょうがない。これをプレゼントすれば、良い叔父さんとして認識してもらえるだろう(願望)。




 はい、ではまず、箱の材料を作りましょう。

 どのご家庭にもある、半透明な魔絶木と、聖剣クラウソラスを準備して下さい。ノコギリでギコギコ切ると、白っぽくなるので、切れ味の良い聖剣が一番ですね。そして、子供が抱えられるサイズくらいが良いので、20㎝角の板材を切り出します。

 ここでは、まだ組み立てずに、先に図形の穴を空けましょう。地面に置いた板に対して、聖剣の先っちょで三角とかの穴を空けていきます。多少、図形が大きくてもOK。むしろ、小さいと幼児には難しくなるし、誤飲の可能性もあるので、大きい方が良いまである。


 次に、中に入れるブロックを作ります。切り出した透明な図形の板では、透明と透明で見え難いので、別の材料で。ゴリラゴーレムがドロップしたヒノキの木材を使います。木の香りが良いので、親も喜ぶこと請け合いかも?

 図形のサイズに合わせて木材を切り出し、〈メタモトーン〉で柔らかくします。後は、図形の穴に押し当てて、絞り出すように成型すればOK。


 そんな感じで、作業をしていると、屋敷の中からレスミアが出て来た。キョロキョロと辺りを見回していたが、俺と目が合うと、小走りに駆け寄って来る。


「こんな所に居たんですか、ザックス様。

 リスレス姉さんが無理を言ったみたいで、すみません」

「いいって、これもティクム君へのプレゼントだからな。ついでに、作っていると楽しくなってきたし」


「ありがとうございます。私も手伝いますよ」

「それじゃ、こっちのブロックにやすりを掛けてツルツルにしてくれ。角っことか、ティクム君が怪我しないように丸くしてな」


 やすり掛けすれば、手触りが良くなるうえに、少し小さくなって穴に入れやすくなる筈だ。

 ブロックはレスミアに任せて、箱の組み立てに入る。釘を打てば早いけれど、半透明な木枠に釘が見えるのは無粋だ。開閉させる蓋部分は蝶番を使うが、それ以外は接着剤で組み立てる。そして、表面に透明なニスも塗ってから、熟練職人のスキル〈エアリング〉で音風乾燥させれば完成である。

 最後に、ブロックが入るか試す。カコンッ、カコンッと、ヒノキのブロック同士が当たる音も良い。半透明なので、中が埋まっていくのが見えるのも良いな。


「へ~、形を合わせないと入れられないのですね。あ、横にしかない図形もある。面白いけど、ティクム君には難しそうですよ」

「まぁ、最初は難しいかも知れないけど、親がやって見せれば、真似して覚えるさ。多分ね」


 2人で、ブロックが全て通る事を確認してから、屋敷の中に戻った。

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