第328話 迷路の途中で小休止(的当て大会

 28層では3箇所の採取地を巡り、ベルンヴァルトはお酒系、レスミアは環金柑やプラスベリー等の甘味類や食材、俺は高く売れる樹液系、それぞれ大いに採取を楽しむことが出来た。

 ただ、3箇所目は他のパーティーが採取した後なのか、取られた痕跡が残っていた(主に、地面に並ぶ水筒竹が緑色ばかり)。それでも、再生した分を含めて7割程、半分ルールで3割5分だけ採取出来る。


 ここまで、戦闘も多かったお陰で、育成枠に入れていたジョブが色々とレベルアップしている。レベル25を超えて、新スキルを覚えたので、確認しておこう。



【スキル】【名称:営業スマイルのペルソナ】【パッシブ】

・仮面を張り付けたように、どのような状況においても表情を笑顔に出来る。ただし、極端に動揺すると、仮面が崩れる事も……同業者と商談する際は、子細な機微を捉えると良い。また、その逆も然り。ON/OFF可。



【スキル】【名称:週刊帳簿チェック】【アクティブ】

・スキル使用時から、1週間前までの取引内容と金額を表示する。



 新興商人レベル25では、上記の2つを覚えた。

 〈営業スマイルのペルソナ〉を使うと、自分でも意識せずに笑顔でいられる。試しに付けっぱなしにしてみたところ、

「戦闘中も、ずっと笑顔なのは気味悪いぜ」

「笑顔でも、微妙に表情は変わっていますよ。目とか分かりやすいです」

 なんて、評価を頂いた。笑顔の仮面と言っても、ずっと同じ笑顔ではないらしい。まぁ、これを付けたから貴族対応も出来るとか、過信をしてはいけないな。


 そして〈週刊帳簿チェック〉は、既に習得していた〈日刊帳簿チェック〉の上位互換のようで、上書きされた。日刊だと、その日の夜に使って書き写すか、〈鑑定図鑑閲覧〉の図鑑に登録するしかなかったが、週刊では7日分まとめてくれる。その為、帳簿の付け忘れても、一週間までは平気ってね。

 既に書類仕事は店長に任せきりなので、俺よりフォルコ君に必要なスキルだ。30層までいったら、レベルリングしてあげよう。



 続いて、熟練職人レベル25でも2つ新スキルを覚えた。1つは既に覚えている〈アイテムボックス中〉である。これは、ファーストクラスの職人を余計に育てて、レベル20で覚えているので、その差は5だ。ダンジョンで上げるならば、直ぐであるが、普通の仕事をして得るだけの経験値だと、かなり日数が掛かる。以前、メイドコンビに聞いたところ、レベル1上げるのに、半年から1年は掛かるらしい。しかも、レベルが上がれば上がる程、必要経験値も増える。

 ここから推測すると、3年から5年程か。ダンジョンでサクッと上げられるなら、それに越した事はないが、地道に仕事で上げるなら、熟練職人で上げた方が無難か?

 いや、職人からの発生である錬金術師と付与術師、料理人に至っては、レベル25を超えても〈アイテムボックス中〉は覚えていない。仮にレベル30で覚えたとしても、10の差は大きいと思う。

 まぁ、職人をカンストまで上げるかどうかと言うネタは、錬金術師とかの覚えるレベルが判明してからにするか。



【スキル】【名称:オートスピニング】【アクティブ】

・綿や羊毛などの糸になる細い素材を紡ぎ、糸玉へと加工する。

 この時、素材が太い場合は紐や縄になるが、精度は甘い。あくまで糸紡ぎのスキルである。火風魔法の亜種。



 もう1つの覚えたスキルがこれだ。

 完全に専門外なうえに、糸になる素材なんて持っていない。シルクスパイダーがドロップした『シルクの糸束』が10個程残っているが、既に糸である。いや、この場合だと太い素材になるから、絹の縄が出来るのか?

 ただ、試すには絹が勿体ない。何故なら、これを布に加工すれば、貴族向けの服や、ハンカチ、スカーフなどの小物にも使えるからである。

 もっと、手軽に試せるものはないかと、ストレージのフォルダを漁ってみたところ『丈夫な縄』を発見した。これは、フルナさんの雑貨屋で買ったもので、採取物をくくったり、背負子に荷物を固定したりするのに使っている。ストレージがあれば、無用にも思えるが、買い取り所に出す際には縛ってまとめた方が良い物もあるからだ。


 そんな丈夫な縄の材料は、採取地で取れる『丈夫な蔦』である。単価が安いので、ヴィントシャフトに来てからは採取していない。折角なので、3つ目の採取地で樹液が溜まるまでの休憩時間で試してみた。

 採取した3本の丈夫な蔦に〈オートスピニング〉を使うと、緑色の膜が広がる。1m程の球体の膜の内側に取り込まれた丈夫な蔦は、表面の硬い皮が霧散して消えていくと、独りでに3本が絡み合い編まれていく。ものの1分もしないうちに、1本の縄へと生まれ変わった。糸ではないので玉にはなっておらず、円形に巻いた状態になっている。

 鑑定文には『精度は甘い』などと書かれていたが、店売りの物と大差がない。いや、店売りの物も、同様に作られた物なのだろう。

 まぁ、然程高い物でもないし、自作する意味も低い。採取地で縄が足りなくなった時に、現地調達で作れると思っておこう。おっと、本来の使い道については、糸になる素材が手に入ってからでいいか。




 戦技指導者も大幅にレベルが上がり、一気に16になった。


【ジョブ】【名称:戦技指導者】【ランク:2nd】解放条件:修行者Lv30。

・アクティブスキルに頼らず、自身の肉体を鍛え上げ、修行を終えた者である。今後は後進の育成に努めて、自ら会得した技を伝授していこう。

 様々な武器の『心得』系スキルを会得し、使いこなすことが出来る。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値中↑、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:修行者スキル、基礎指導、剣術の心得

・習得スキル

 Lv 5:身体操作の心得

 Lv 10:槍術の心得、指弾術

 Lv 15:棒術の心得


【スキル】【名称:槍術の心得】【パッシブ】

・槍類全般における、武器の扱いを補正する。


【スキル】【名称:棒術の心得】【パッシブ】

・主に刃物の付いていない棒や棍における、武器の扱いを補正する。



 心得系のスキルは、特に説明は不要だろう。〈剣術の心得〉でも、なんとなく補正が効いている気がするので、槍の扱いも良くなると思う。なお、棒術に関しては、手持ちの武器が無い。何度も修理して使い倒してボロボロな金砕棒か、3m棒くらいなので、どちらも折れそうだ。ベルンヴァルトの飢餓の重棍を借りても良いけれど、俺は棍の扱いは習っていないので無理に扱う必要は無いかと考えている。習ったはずの剣でも、自身が上達したのか、補正のお陰なのか分かり難いからなぁ。



【スキル】【名称:指弾術】【パッシブ】

・小石などの小さな物を、指で弾いて飛ばす際の命中率を補正する。

 敵の注意を引くだけでなく、指導に集中していない不心得者や、動きの悪い箇所を指摘するのに最適である。



 こちらは心得ではなく、〈投擲術〉の亜種っぽい。違いは良く分からないけど。

 取り敢えず試してみたところ、親指で弾いた小石が狙った所に当たった。こちらもなんとなくだが、弾く方向だけでなく、力加減も調整してくれるようである。

 鑑定文的にチョーク投げかな? いや、チョークを投げる教師とか、漫画の中でしか見た事がないけど。

 まぁ、戦闘に活かすにしても、小石を持ち歩かないといけない。鉱石の採掘で石ころなど沢山手に入るけど、強度的に威力はなさそうである。目とか顔を狙って、不意を突くくらいか。それならばいっその事、金属球とか弾丸みたいのを作って威力を持たせる案もある。


 そこで、不意に閃いた。ストレージから釘を取り出して、親指で弾いてみる。長い釘は持ち難いので、短めの物で(どちらも村で借りていた家の倉庫にあった日用品。少し錆びている)。

 3つ目の採取地で、魔絶木に向かって弾いてみたところ、真っすぐ飛んで行き、突き刺さった。ただし、先端が刺さっただけ……1㎝程度では、魔物に使っても致命傷にはならないだろう。


 さらに、ジョブを入れ替えて軽戦士をセットする。これは軽戦士が覚えている〈パワースロー〉の効果を期待した。



【スキル】【名称:パワースロー】【パッシブ】

・物を投げる際の命中率を補正し、更に威力が上昇する。



 同じ〈投擲術〉の亜種なので、効果は有るはず。そう期待して、指で弾く。すると、先程の倍以上の速さで飛んだ釘は、木に当たり『バシッ!』と、矢が刺さったかのような大きな音を立てる。結果を見に行くと、釘が木に埋没して、中の黒い樹液が漏れ出ていた。想像以上の威力に驚いていると、一緒に見ていたレスミアが、何故か対抗して弓を手に取る。


「そんな釘で弓矢と同じ威力を出されたんじゃ、立つ瀬が無いですよ!」


 そんな意気込みで、的までの距離を徐々に離しながら打ち合ったところ、釘の〈指弾術〉は5m程から威力が落ちていった。10mくらいでも当たるが、刺さるだけである。流石に弓の射程には敵わなかったようで、レスミアは勝ち誇った後に、胸をなでおろしていた。


 因みに、ベルンヴァルトも参加したがって、〈二天・流星落とし〉で参加したものの、魔絶木の幹をへし折ってしまったので、ノーカウントとなった。ミニマム級な釘と、ヘビー級な重棍では、土俵が違いすぎる。




 29層に降りて来た。ここも同じく紫陽花迷路である。

 ただ、時刻は既に15時を回っていた。流石に29層を突破するには時間が無いが、近くの採取地に行くならば十分だろう。ショートカットルートを再確認してから、先へ進んだ。


 リーリゲンを〈ロックフォール〉で押し花にしたり、隠れ灼躍の目玉に釘打ちしたりした。紫陽花の伐採にも慣れてきて、庭の生垣の手入れもやり易くなるに違いない。

 そんな感じで進んでいると、不意に遠くの方で青い光が走った。


 思わず目を向けると、遠くの生垣の上にリーリゲンが居る。先程の光は、魔法発動による物に違いない。しかし、俺達からは遠すぎる。〈オートマッピング〉には、敵影を示す赤点は表示されていない程の距離なのだ。


 不審に思っていると、再度光った。リーリゲンは2匹いるようで、その花弁に出した魔法陣を上に向けていた。


「上です! 誰か飛んでいますよ!」

「ありゃ、天狗族だ……もう一人抱えているみたいだけどよ。大丈夫そうだぜ」


 〈アクアニードル〉の水の針が飛んで行く先を見ると、1人の鳥……の羽根を持った人が、大きく旋回して飛んで行くところであった。遠くて見えにくいが、その足元にはハーネスの様な紐で、もう一人括られている。

 その天狗族は、2匹のリーリゲンの波状攻撃を悠々と躱し、そのまま飛んで行ってしまった。


「あ~、あの飛んで行く先、今俺達が目指している採取地じゃねぇか?」

「ショートカットして、なるべく直線に移動しているからな……確かに、あっちの方角には採取地しかないよ」


 念の為に地図で確認してから答えると、ベルンヴァルトは残念そうな顔で、後ろ頭を掻いた。


「酒場で聞いた話だがよ。郵便配達をしている天狗族は、仕事終わりにダンジョンで酒盛りをしているらしい。

 このまま行っても、酒は飲み尽くされているかもなぁ」

「……まぁ、酒以外が残っているなら採取は出来るし、挨拶をしておくのも良いかもな。明後日も、ここの階層に来るんだ。取り合いになるなら、お互いの顔くらいは覚えていた方がトラブルにならないと思う」

「私は採取していますから、酔っぱらいの相手はお任せしますよ~」


 アルコール臭すら苦手なレスミアはしょうがない。取り敢えず、予定通りに先へ進んだ。



 そして、採取地に辿り着いた。その中では、小雨が降っているというのに、木陰で宴会が繰り広げられている。15人程であろうか、男性の天狗族が多く、数人女性天狗族や、普通の人族が少し居た。

 皆、楽しそうにエール筒竹を乾杯しては、飲み合い、笑いあっている。


 そんな中、目立つ人がいた。黒く大きな翼を上に掲げ、傘替わりしている偉丈夫。それは、この街に来た時に会ったギルドマスターだった。

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