第323話 二天と連携技

 カレーライス(甘口、トンカツ載せ)の美味しさを、スティラちゃんに布教した次の日、20層へ降りた。新しく増えたジョブである戦技指導者のレベル上げ……と、いう訳でもない。ついで、ではあるけれど。

 メインの目的は、ベルンヴァルトの鬼徒士が覚えた新スキルの試し打ちである。



 昨日のビュスコル・グランツ討伐により、ベルンヴァルトも基礎レベルが31に上がり、レベル10毎のステータスアップは耐久値が上がっていた。(以下は討伐後のステータス)


【鬼人族】【名称:ベルンヴァルト、18歳】【基礎Lv31、鬼徒士Lv31】

 HP  B □□□□□

 MP  F □□□□□

 筋力値A【NEW】

 耐久値D【NEW】

 知力値F

 精神力F

 敏捷値C

 器用値D

 幸運値C


 ボス討伐証:AL077ダンジョン20層●、KM284ダンジョン20層●

 所持スキル

(省略)



【ジョブ】【名称:鬼徒士】【ランク:2nd】解放条件:鬼足軽Lv25以上、集魂玉を50回以上使用する。

・前衛系の鬼族限定ジョブ。専用スキル〈集魂玉〉が強化され、強力な魂玉スキルを多数習得する。その分〈集魂玉〉の消費も増えるため、優先して魔物の止めを刺すようにしなければ、攻め手が止まってしまう。

 耐久値が低いのは相変わらず。攻撃は最大の防御、ダメージが増える前に敵を粉砕しよう。


・ステータスアップ:HP中↑、筋力値大↑【NEW】、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:鬼足軽スキル、集魂玉強化、集魂玉解放

・習得スキル

 Lv 5:受け流し

 Lv 10:器用値中↑

 Lv 15:疾風突き、魂ノ戒メ

 Lv 20:HP中↑

 Lv 25:心眼入門、爆砕衝破

 Lv 30:筋力値大↑【NEW】、二天・流星落とし【NEW】



 ベルンヴァルトも種族的に筋力値が高い事に加えて、鬼徒士の筋力値補正が大になり、Aランクへ到達。なんと、あの重い紅蓮剣も振り回せるようになった。重さのせいで、身体が流される事もあるが、十分に扱えるレベルの筋力である。

 まぁ、普段使いにはアビリティポイント10pは勿体ないので、切り札枠だけどね。(砂漠でブラストナックルを普段使いした事からは目逸らし)



 そして、新しいスキル〈二天・流星落とし〉を試すのに、殴りがいのある獲物を考えたところ、20層のソディウムゴーレムに白羽矢を立てたのだ。10層のクイックボクサーでも良かったのだが、アレは〈一天・金剛突撃〉で瀕死になっていたからな。もうちょっとタフなのが良い。

 取り敢えず、小部屋で余っているカブトムシを〈ウィンドジャベリン〉で摘まみ食いしつつ、20層のショートカットを走った。




「お供のカブトムシに〈ウィンドジャベリン〉!

 後は任せたよ」

「ようし、俺の試し打ちだからな。タイマンで行くぜ。

 おっと、レスミア、弱点のコアの位置を教えてくれ」

「はいはーい……丁度、胸の真ん中ですよ」


 ベルンヴァルトは左手にカイトシールド(大盾は修理中なので、俺を貸出中)、右手に飢餓の重棍を構えて前に進み出た。魔法陣から登場したソディウムゴーレムも、ゆっくりと進む。

 そして、武器の間合いの少し手前で、カイトシールドを前に構えてスキルを発動させた。


「〈一天・金剛突撃〉!」


 グローブに嵌められた集魂玉が輝き、その光がベルンヴァルトの身体を包み込む。

 次の瞬間、光が残像を残す程の早さで突進すると、ソディウムゴーレムの巨体に対し、カイトシールドから激突した。質量ではソディウムゴーレムの方が重そうだが、そこはスキルのノックバック効果が効いた。後ろへ数m吹き飛ばされ、たたら踏んで尻もちを付いて倒れ込む。


「〈二天・流星落とし〉!」


 盾を構えて体当たりをした直後のベルンヴァルトが、新スキルを発動させた。

 ノックバックされたソディウムゴーレムを追うかのように、斜め上に大跳躍……高い!

 身長の倍以上、5mは飛び上がっている。そして、頂点で武器を振り上げ、全身のバネを使って斜め下へ投擲した。


 集魂玉の光を纏った飢餓の重棍は、スキル名の『流星』の如く落下する。その流星は、倒れたソディウムゴーレムの胸に直撃、貫通した。轟音と共に土煙が舞い上がる。

 〈ブリーズ〉で煙を吹き飛ばそうかと考えていると、煙を切り裂いて飢餓の重棍が飛んできた。くるくると回転し、丁度着地したベルンヴァルトの右手に収まった。着地や武器をキャッチするところまでがスキルの一環なのだろうか? 着地から腕を掲げて、手に収まるまでが、流れるように自然な動きであった。


 後で聞いてみたところ、「あの勢いで棍棒が飛んでくるのは、冷や冷やしたぜぇ」とのこと。傍から見ると、格好良かったのに、スキルのお陰だったか。



【スキル】【名称:二天・流星落とし】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。高く飛び上がり、武器を流星の如く投げる。対象に命中後、武器は自動的に戻ってくる。

 〈一天・金剛突撃〉の直後に使用する場合、スキル使用後の硬直を失くし、即座に〈二天・流星落とし〉を使用可能となる。



 まさかの一人コンボ技である。一天から二天に繋ぐだけであるが、ノックバックから近付かずに、追撃を掛けられる。ついでに鬼徒士のスキル構成の中で、唯一の遠距離攻撃な点も良い。

 薙ぎ払った後に追撃する〈旋風撃〉と似ているが、あっちは敵陣に突っ込むからなぁ。


 煙が晴れた後には、胸に大穴を空けたソディウムゴーレムが倒れていた。そればかりか、石床にも穴が開いている。筋力値Aが、ウーツ鋼と同レベルの棍棒をぶん投げたら、こうもなろう。

 弱点であるゴーレムコアは、粉々に砕かれたのか、穴の中に散らばっている。そして、程なくして霧散していき、ドロップ品と宝箱が現れた。


 ナトロンの塊と、ソリをゲット……もとい、鉄甲虫の甲殻な。

 取り敢えず、試し打ちも済んだことなので、休憩所から一旦外にでて、本来の目的である28層へと降り直した。




 そこは、小雨が降ったり止んだりする時雨しぐれのような天気の階層である。いや、気温的に冬ではなく春か秋だな。そうなると『花時雨』か、紫陽花が咲いているので『紫陽花の雨』か。そのまんまか。


 ただ、風流な気分になるのは最初だけ。雨具であるフード付きの蠟引きマントを羽織って行動するのは、地味に陰鬱な気分にさせられる。雨が止んでいる内はフードを外せるので、砂漠フィールドよりは断然マシだけどな。


 雨に濡れると地図本がヨレヨレになってしまうので、28、29層分は木の板に書き写して来た。ついでに採取地を巡るルートも記載済み。例によって、生垣を伐採するショートカット前提である。


「登場する魔物は、『隠れ灼躍』と『リーリゲン』の2種類のみ。どっちも戦った事があるから、そこまで脅威じゃないよ」

「それなら、私はトレジャーハンターにして、弓で灼躍を狙いますね。

 折角、闇猫の敏捷値の補正が上がりましたけど、トレジャーハンターのレベルも上げておきたいです」


 そう言ったレスミアは、昨日のビュスコル・グランツ討伐により、レベルは31に、レベル10毎のステータスアップは筋力値が上がっていた。(以下は討伐後のステータス)



【猫人族】【名称:レスミア、15歳】【基礎Lv31、闇猫Lv31】

 HP  D □□□□□

 MP  F □□□□□

 筋力値C【NEW】

 耐久値E

 知力値F

 精神力F

 敏捷値A【NEW】

 器用値B

 幸運値C


 ボス討伐証:AL371ダンジョン20層●、KM284ダンジョン20層●

 所持スキル

(省略)

・魔法適正:水、風



【ジョブ】【名称:闇猫】【ランク:2nd】解放条件:狩猫Lv25、不意打ちを10回以上決める

・猫の身体能力が更に強化された、戦闘寄りのスカウト。その名の通り、闇に紛れて、音もなく獲物を狩る。3次元機動が取れる閉所や、障害物が多い場所を得意とするが、敵の数が多い場合は範囲攻撃スキルが無いため苦手としている。

・猫族が闇猫の上位にクラスチェンジすると、猫人族よりの体格に近づく。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値小↑、敏捷値大↑【NEW】、器用値中↑

・初期スキル:狩猫スキル、無音妖術

・習得スキル

 Lv 5:地図作成

 Lv 10:耐久値小↑

 Lv 15:猫体起動、猫目の暗視術

 Lv 20:筋力値中↑

 Lv 25:宵闇の帳、狩の本能

 Lv 30:敏捷値大↑【NEW】、耳ペタ防音術【NEW】



 元のステータスの筋力値が上がった事により、Cに到達。並ばれた。

 いや、肉体的な筋肉量は、訓練をしていた俺に分があるので、互角ではない。男のメンツは保たれている……はず。それは兎も角として、重めの武装も出来るのは良い。攻撃力を欲しがっていた事であるし、そろそろ強弓や複合弓を買っても良い頃合いかも知れない。


 そして、種族的に元々高かった敏捷値が、専用ジョブの大補正が付いて、Aランクへ到達。Bの時と比べても、明らかに軽やかな動きが出来るそうだ。昨日の最後の山登りも、一人だけ楽々上っていたのは、スティングレイブーツのせいだけではない。また、回避に磨きがかかるに違いないだろう。



【スキル】【名称:耳ペタ防音術】【パッシブ】

・一定以上の大きな音を低減する。また、状態異常の難聴に掛からなくなる。



 〈猫耳探知術〉を習得して以来、爆発音や破裂音を苦手としており、一種の弱点になっていた。それが、〈耳ペタ防音術〉のお陰で完全無効となった次第である。

 試しに耳元で大声を出してみたところ、猫耳が独りでに、ペタンと伏せた。そして、数秒で元に戻る。俗に言う、横に倒すイカ耳ではなく、スコティッシュフォールドのように、耳の穴を塞ぐように伏せるのだ。言うまでもなく可愛い。


「自分で動かしたつもりは無いですね。勝手に伏せて、勝手に戻るみたいです」


 因みに、人間の方の耳は動かないが、低減効果はあるらしい。



 レスミアのジョブをトレジャーハンターに変更し、弓と矢筒セットも渡しておく。そして、ベルンヴァルトはどうしようかと相談したところ、逆に問われた。


「リーリゲンってのは、俺は戦った覚えがないんだが……どんな魔物だ?」

「……ああ、ランドマイス村で戦った魔物だから、ヴァルトがパーティーに加入する前か。

 ええと、植物型で、大きな百合の花だな。根っこを脚のように使って歩いたり、鞭のように振り回して攻撃したり。遠距離だと、〈アクアニードル〉を撃って来るけど、水を吸う事で充填が早くなる。つまり、この雨降りな階層は向こうの土俵だな」


 小雨程度の雨で、どれだけ充填が早くなるか分からないが、複数いた場合は交互に撃ってきたりして面倒だ。見敵必殺くらいの勢いで、〈ロックフォール〉で圧し潰した方が良いかもしれない。


「それなら、盾が要るな。もう少し借りとくぜ。」

「ああ、構わないよ。俺は魔法を使うから、盾役は任せる。それなら、今日は重戦士で構わないよな」


「おう、重戦士のレベルも上げとかんとな。魔法を使う魔物にゃ二天が良いのかもしれんが、武器を投げるだけなら、スキルじゃなくても良いさ」

「……いや、自動で戻ってこないから、拾いに行くことも考えて投げろよ」



 そして、俺の方は魔道士レベル31、トレジャーハンターレベル31、戦技指導者レベル6、新興商人レベル23、熟練職人レベル24をセットした。メインとなる魔法系と、罠看破と索敵のスカウト系は適正レベルを超えてしまっているが、必須スキルが多いのでしょうがない。残りの3つは育成枠だな。追加スキルには〈フェザーステップ〉を始めとして、使えそうなものをいくつか。


 20層の道中とボス戦でも経験値増4倍を付けていたお陰で、戦技指導者はレベル5で新しいスキルを覚えた。

 レベルの上り幅が少ないのは、レベル差による軽減なのでしょうがない。



【スキル】【名称:身体操作の心得】【パッシブ】

・身体を動かす行動全般に小補正が付く。体幹が強化され、バランスを崩し難くなり、思い通りに身体を動かす事が出来るようになる。



 どこかで見た事がある文面と思いきや、〈フェザーステップ〉と似ている。比べてみると、


【スキル】【名称:フェザーステップ】【パッシブ】

・羽の様な軽やかな足取りで、足運び全般に補正が付く。体幹が強化され、バランスを崩し難くなり、思い通りに身体を動かす事が出来るようになる。



 〈フェザーステップ〉が足運びだけなのに対して、〈身体操作の心得〉は身体を動かす行動全て、ただし補正である。なるほど、差別化されている。〈フェザーステップ〉には大いに助けられているので、こちらにも期待してしまう……まぁ、小補正なので、程々に考えた方が良いのだろうけどね。



 粗方準備を終えて、地図板でルートを確認し、出発……しようとしたところで、レスミアに袖を引かれた。何かと思えば、俺の腰に佩いた雷のホーンソードを指差して、おずおずと言う。


「その、生垣を伐採してショートカットするのに、ミスリルソードでなくて良いのですか?

 いえ、私は弓を使うので、使いたいと言う訳では無いのですけど」


 村の迷路階層でレッドロビンを伐採した時の事を思い出したらしい。少なからず、久しぶりにミスリルソードを使いたいという欲求も無きにしも非ず、と言った感じだけど。

 それに対して、準備は整えて来た。ストレージからある物を取り出して、見せ付ける。


「紫陽花の枝は細いから、ホーンソードでも切れると思うけど、折角だから専用の道具を用意したよ『シャキーン! シャキーン!』」


 それを開閉させてやると、子気味良い音を立てる。

 そう、猟師さそりの大鋏を加工して作った高枝切狭……もとい、高枝サソリ鋏だった。

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