第319話 予兆

「う~ん、刀、日本刀といった名前の武器は、在庫に無いですね。それに、私もここに務めて5年程になりますが、見た覚えがありません。

 曲刀で、変わった拵えの柄なので、見ていれば覚えていそうなので」

「そうですか。ここのダンジョンでは出ないってことかな?」


「それは早計かと存じます。ここに入荷されるのは、買い取り所で売却された物のみです。

 宝箱から出た物を探索者自身が使ったり、他で売却したりした可能性はあります。

 その依頼者さんが、ここで手に入れたのならば、出る可能性はありますよ」


 レアショップの武器コーナーに居た男性店員を捕まえて、帳簿から調べて貰ったのだが、空振りに終った。

 確かにリウスさん(刃物店の工房長)は宝箱から手に入れたとは言っていたけど、宝箱巡りするのも、かなり博打だよなぁ。


「曲刀なら、こちらのシミターは如何ですか。形は似ていますし、スキルも付いていてお買い得ですよ」


 悩んでいた俺に対し、男性店員は別の商品を勧めてきた。ちらりと値札を見ると、400万円。手持ちじゃ無理だ。

 第1ギルドのレアショップは、第2支部と比べても品数が多い。スキル1つの武具ならばゴロゴロしているが、お値段が安いわけでもない。もちろんスキル2つだとか、見た目が絢爛な武具もチラホラと……値札は見なかった事にしたい。


 現状では見るだけでも毒である。男性店員には手間を掛けさせた事に対してお礼を言ってから、そそくさと退散した。




 さて、どうしようか?

 帰って錬金調合もしないといけないが、第2支部に寄ってみるのも良い。あの件について聞く必要もある。

 そんな事を考えながら、受付の前を通り抜けようとしたところ、大声が響いた。


「地元なんだ! 俺達に任せてくれ!」


 喧騒の方に目を向けると、カウンターの前に人集りが出来ている。とあるパーティーが依頼か何かで、受付嬢と揉めているようだ。そして、その後ろの方で、オロオロしている女の子が居る。何処かで見掛けたような……不意に目があった。すると、ハッと目を見開いた後、こちらへやって来る。


「……あっ! ザックスさん! お久しぶりです!」

「あ~、モンスターハウスで助けたクンナちゃんだっけ?」


 確か24層で助けた、村からの出稼ぎパーティーだ。彼女等も第1ダンジョンに来ていたのか。

 クンナちゃんは人懐っこい笑顔で、胸を張った。


「わたし、念願の植物採取師に成れたんですよ! えへへ、まだレベルの上げ直し中ですけどね」

「お~、おめでとう!」


 あの後、図書室で灼躍とサボテン達の情報を集めてから、25層を攻略したそうだ。そして、何度か通い詰めてレベル25になり、セカンドクラスへ変更した。その際、クンナちゃんも調べて見たところ、植物採取師が増えていたそうな。


 ……俺のアドバイスというか、誘導が効いたのか、25層でプラスベリーを食べたみたいだな。良き哉、良き哉。

 それは良い事であるが、パーティーメンバーが窓口で揉めているのが気になる。野次馬根性であるが、聞いてみる。


「それで、揉めているみたいだけど、どうかしたのかい?」

「あれはちょっと、依頼にしてくれって頼み込んでいまして。

 その、私達の出身のルイヒ村の近くで、土砂崩れから泉が塞き止められていたみたいで……いえ、それは、土木業の業者が派遣されて復旧したみたいです。

 ただ、仕事を終えた筈の土木業者の人達の半数が、行方不明らしくて……」


 仕事を終えて村に報告に行った親方と他数名以外は、次の仕事の準備の為、先に帰らせたそうだ。その後、親方達がヴィントシャフトの街に帰ってきたのに、先行した筈の人員は、帰って来ていなかった。なにか事故でもあったのか、仕事が嫌で逃げ出したのかは分からないが。門番の騎士に聞いても、それらしき人達は通っていないそうなので、もう一度ルイヒ村までの道中を探しに行くらしい。


「なんでギルドに? 騎士団に捜索依頼を出した方が良いんじゃないか、魔物の仕業かもしれないだろう?」

「う~ん、ウチの村は北の方だから、魔物の可能性は低いんじゃないかなぁ?

 それと、騎士団にも相談済みだそうです。ただ、騎士団と言っても、数人の見習い騎士見たいですけど……ホラ、ウチのリーダーと話している人」


 カウンターの前には、クンナちゃんのパーティーだけでなく、黒い甲殻鎧の若い男が数人いた。ヴィントシャフト騎士団の緑の隊服を着ていないので、分からなかったが、見習い騎士らしい。そう言えば、アドラシャフト騎士団でも青い隊服は、セカンドクラスに至った正隊員のみである。見習いだったベルンヴァルトも、持っていなかったな。


 そして、その見習い騎士から地理の把握の為、北のルイヒ村出身のパーティーが呼ばれたそうな。


「ただねぇ、ウチのリーダーが『情報提供だけじゃなくて、手伝わせろ』って、要求しちゃってね。そこからは、『騎士団の任務だから部外者は不要』とか『見習いのお前たちより、セカンドクラスの俺達の方が戦力になる』って、揉めちゃって……

 まぁ、地図じゃ分かり難い場所もあるし、わたしも村に何かあるのは困るし、ついでに馬車で帰れるなら便乗したほうが良い……のかなぁ?」


 25層のサボテン達の相手は大変だったようで、パーティーに限界を感じ始めているそうな。他のメンバーは、セカンドクラスになったから、まだ行けると第1ダンジョンの攻略に移ったが、クンナちゃんとしては田舎に帰りたい。

 今回の話は、渡りに船かも知れないそうだ。


「お兄ちゃんも司祭になったから、村で重宝されるし、わたしも植物採取師になったから、農村じゃモテモテになるよ!

 無理してダンジョンに入る必要が無いんだよね~」


 〈自動収穫〉は普通の畑でも効果がある。そりゃ農家さんは欲しがるよな。かぐや姫の如く引く手数多で、相手を選ぶ権利が生まれるに違いない。


 クンナちゃんから状況を聞いたものの、俺の出る幕はないな。依頼のついでに里帰りするだけのようであるし……行方不明というのが気になるけど。

 交渉は長引きそうなので、クンナちゃんに別れを言って外へ出た。




 街中でもバイクが使えるのは良い。馬車を用意してもらうよりは、手軽に移動できる。周りに注目されるのは気になるが、便利さを知ると使わずにはいられない。


「うわぁ! 何アレ~。お母さん、変なのが走ってる~」

「コラッ! 指差さない!

 (ああ言う変わった物は大抵魔道具、つまりお貴族様よ)」


 ……うん、気にしたら負けだ。





「あぁ、あの子、まだ私の真似しているのね。うふふ、驚いたでしょ。髪の結い方から、化粧の仕方まで教えたら、双子コーデを始めてね」

「驚きましたよ。いや、寧ろアメリーさんが、3児の母って方が驚きですけど。少し年上のお姉さんくらいに見ていたのに……」


「アハハッ、そう云う種族だからね。昔はいつまで経っても子供みたいな身体が嫌だったけれど、この歳になると若く見られて良い事尽くめなのよ」


 ダンジョンギルド第2支部に顔を出したところ、受付にアメリーさんが居た。折角なので、娘のメリッサさんに会った事を話してみたところ、大笑いされた。

 アメリーさん自身も、結婚前は第1ギルドで働いていたそうな。そして、子供の手が掛からなくなった頃に、第2支部へと復帰したそうだ。


「アッチは娘が就職したもの。親と一緒に仕事もやり難いでしょ。それにあの娘も、そろそろ相手を見つけないとねぇ」


 気遣いだけでなく、第1の方が将来有望そうな男が多い。ついでに、第2支部から第1に上がれそうな男の情報も、娘に流しているらしい。そんなアメリーさんは口元を押さえて、目元を緩める。


「ザックス君が、フリーだったら紹介したんだけどねぇ。伯爵家のお嬢様が居るなら、ウチの娘じゃ無理ね」

「そうしてください。俺も両手でいっぱいいっぱいですから」

「あら? ちゃんと青春しているのね? 貴方達はダンジョンにばかり構っているから心配していたのよ。休みの日くらいデートなら、貴族街の大通りのある……」


 実際の年齢を知ったせいか、仕草が世話焼きオバちゃんに見えてくる。レスミアやソフィアリーセ様との仲を、アレコレ詮索され始めたので、適当にはぐらかして、2階へと逃げ出した。

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