第318話 ドッペルゲンガーの正体とカフェテリア

 あらすじ、初めて第1ギルドを訪れたところ、そこの受付嬢もアメリーさんだった。なんで?



 一瞬、キョトンとしていたアメリーさんだったが、直ぐに笑顔に戻る。


「……はい、見ての通り、第1ギルドは忙しいので、お手伝いに来ています。貴方の方こそ、おめでとうございます。 、第1ダンジョンへデビューですね。

 ……こちらでの窓口利用の手続きの為、セカンド証の提示をお願い致します」

「ん? あ、はい」


 何か違和感を得たが、言われるがままにセカンド証を渡した。それを碁盤のような読み取り機に翳し、なにやらチェックしている。こっちからは画面が見えないけど、簡易ステータスや、パーティーの情報、貢献等が管理されているらしい。

 パソコンじゃんと思ったが、端末同士でデータを共有して閲覧する以外は、自由度は低いらしい。これも錬金釜と同じく、統一国家時代の遺産で、王都でしか作れないそうだ。



「はい、セカンド証をお返し致します。

 それでは『夜空に咲く極光』のザックス様、本日はどのような御用でしょうか?」

「……いえ、大した事ではないのですけど、上の階の図書室や売店が使えるかの確認です」


 掻い摘んで説明したところ、直ぐに問題無いと教えてもらえた。そもそも、第1ギルドでは制限されていないそうだ。

 貴族街にいる時点で貴族関係者か、セカンドクラスに到達した者であるからだ。ある程度は、素行の良い者が選別されている。


「こちらのダンジョンの情報を先に集めるのは、いい判断と思います。2階の図書室にはどうぞ。前準備として武具を揃えるのであれば、3階の売店でお買い求めください。

 パーティーで打ち合わせしたい場合は、2階と3階の会議室も使えます。

 他にも、2階のカフェテリアはお勧めですよ。バフ付きの軽食やお菓子が販売されており、ダンジョンに入る前に立ち寄る人も多いです。貴族家出身の料理人なので味も良いと評判ですね。

 平民街では食べる機会の少ないバフ料理、一度お試し下さい!」


 にこやかに施設の宣伝をしてくれた……のだが、違和感が確信に変わった。美味しいから勧めるのは分かるけど、俺にバフ料理を『一度お試し下さい!』はおかしい。


「あの、貴女はアメリーじゃないですよね?

 俺のサポートメンバーに料理人がいて、何度もバフ付きのお菓子を納品していますから、アメリーさんが知らないわけ無いのですよ。

 似姿は瓜二つなので、姉妹……双子とか?」


 そう指摘したところ、アメリー(似)さんは額に手を当てて、苦笑した。


「あ~、あのお菓子依頼か~。そんな事からバレるなんて、思いもしなかったわね」


 なんでも就職してからというものの、第2支部上がりの人から、似てる似てると散々指摘されたそうだ。それなら、いっそネタにしてやれと、髪型や化粧を真似て見たところ、面白いほどバレなかったそうな。


「こんなに早く見抜かれたのは初めてかなぁ。

 では、改めまして、揶揄ってごめんなさい。

 アメリーので、次女のメリッサです」


「…………娘?!」


 一瞬、何を言われたのか、分からなかった。アメリーさんもメリッサさんも、どちらも20歳前後に見えるからだ。いや、TVで姉妹みたいな母娘とか、見た覚えがあるけれど、それにしたって限度がある。


「うふふ……見破った貴方には正解を教えてあげましょう。

 お母さんはビルイーヌ族の40歳、対して私は人族の19歳ですよ。私は見た目相応ですからね」


 ビルイーヌ族……ムッツさんと同じ種族か!

 確か、歳を取るのが遅いと聞いた覚えがある。ムッツさんも20代半ばなのに中学生みたいな容姿をしていた。そして、子供のムトルフ君が人族で、成長スピードに追い抜かされると心配していたような。

 つまり、成長が追い付かれたバージョンが、アメリーさん母娘か。


 ……思い返すとアメリーさんにも、違和感を覚えるところがあったな。見た目は20前後に見えるのに、アラサーっぽい同僚から『先輩』と呼ばれていた。支部長とも普通にやり取りしていたし、ギルドマスターに至っては酒の飲み過ぎを心配していた。若い子の仕事じゃないな。


 衝撃な事実を何とか飲み込んだところで、メリッサさんが営業スマイルで、1冊の本を取り出した。その本を左右にフリフリして、露骨にアピールする。


「ところで、第1ダンジョンは初めてですよね?

 地図は、ご入用ではありませんか?

 今なら何と、第2ダンジョンの地図を購入していた人限定のお得なセットが御座います!」

「確かに30層までの冊子を持っていますけど……こっちだと、1層から地形も変わるのでしたよね?

 また、新しく買わないといけないのか」


「ええ、その為の値引き制度ですよ。実力者には早く下の階層に行き、稼いで頂きたいからですね。

 こちらの、50層までの全階層が書かれた地図本がオススメですよ。もちろん、30層分は値引きしまして、定価が127万5千円のところ、今だけ100万円で提供させて頂きます!」


 ……圧が強い!

 アメリーさんから、地図本を売り込まれた時と、そっくりだ。見た目だけでなく、中身もそっくりとか……娘なら無理もないのか?


「今は手持ちが無くてですね……第2ダンジョンの30層で稼いでから出直します。

 それでは、教えてくれてありがとうございました」


 ギリギリ買えなくもないが、今買う必要も無い。この後にレアショップに行くのだから、万が一に備えて温存しておきたいからな。

 以前のように、セールスに負けて買わされる前に、離脱した。


「あっ、またの御越しをお待ちしております。


 それにしても、レベル31で勲章持ち? ギルマスから詮索不要? 普通の男にしか見えなかったけど……偶には実家に帰って、お母さんから聞いてみるのも良いかなぁ」



 後ろから声がしたものの、後半は小さくて聞こえなかった。




 2階へ上がったのだが、どっと疲れた気分だ。嘘と見破ったら、それ以上の驚きが待っているとは予想できない。ついでに、お腹が減った。飢餓の重棍を持ったらパワーアップ出来そうな気がする。

 折角なので、お勧めされたカフェテリアへ足を向けた。



 こういった場所で、お約束なのは酒場だと思う。ただし、ここのギルドの中には、所謂大衆酒場は無い。(近所に歓楽街はあるらしいが)

 家での飲み会の際、フォルコ君との雑談で教えて貰ったのだが、理由は幾つかあるそうだ。その中でも大きいのは、貴族が出入りする、且つ、女性探索者や女性職員が多いからだそうだ。

 貴族が大衆酒場で馬鹿騒ぎするのは醜聞が悪く、酔っぱらいが女性客に絡むこともある。その為、ゾーニングされたそうな。


 つまり、ここにあるのは如何にも貴族向けの、お洒落なカフェテリアだった。昼休みも過ぎた後ではあるが、そこそこ混み合っている。

 特に窓際のテーブル席は、椅子がソファになっており、ゆったりお茶を楽しむ女性客で満席だった。

 おっと、立看には『ソファ席は、鎧を着たまま禁止』なんて書かれている。店内には金属鎧を着たまま食事をしている男性客もいるが、そちらは頑丈そうな椅子に座っていた。ついでに、食べていたハンバーガーのような物にも目を引かれる。


 ……美味そうなカツサンドだ。いや、薄いからシュニッツェルの方か? 代わりにパンからはみ出るほど大きい。

 家ではトンカツの方が、食卓に上がる事が多くなったが、薄いシュニッツェルも、サクサクで美味しいからな。

 良し、昼食はアレにしよう。


 ここもカウンターで、注文と支払いを先にするようだ。ウェイトレスさんが食器下げをしているから、半セルフかな。

 因みに受付嬢と同じ制服の上から、フリフリのエプロンを着けていて可愛い。胸元が開いたままなので、目の保養にもなる。


「いらっしゃいませ! こちらでお召し上がりですか? お持ち帰りメニューもありますよ」

「食べていきます。これが持ち帰り用? ちょっと小さいんだね」

「そちらは、アイテムボックスが無い人の為に、小さくしてあります。ポーチや、大き目のポケットに入りますよ。保存性もバッチリ、2週間は持ちますが、食べるときに水は用意してくださいね」


 どれも手の平サイズで、布に包まれている。ジャーキーとパンのセットや、干し果物が入ったクッキー、ずっしりと圧縮されたパウンドケーキ等々。そのどれもが『筋力値 小アップ』等のバフが付いていると、値札に書かれていた。

 ただ、値段が少しお高く、1個3千円前後。


 因みに普通のメニューも、持ち帰り用の木箱に詰めてくれるそうだ。ただし、今日中に食べないといけないし、箱も大きいから、アイテムボックスがないと持ち運ぶには不向きである。



 取り敢えず、気になったコカトリスのシュニッツェルサンドとジェラートを頼んで、空いている席に陣取った。


 ……アイスがあるとは思わなかったな!


 冷蔵の魔道具よりも、更に高価な冷凍の魔道具が必要である。離れにも、今の借家にも無かったからなぁ。夏場までには欲しい魔道具だ。取り敢えず、コレはデザートなので後回し。先にハンバーガーのような丸いパンズのシュニッツェルサンドに手を伸ばした。



【食品】【名称:コカトリスのシュニッツェルサンド】【レア度:C】

・滋養とマナをたっぷり蓄えたレッサーコカトリスの腿肉を、引き伸ばして焼き上げ、パンズで挟んだ一品。噛めば噛むほどジューシーな味わいを、酸味の効いたソースと香ばしいパンが受け止める。

・バフ効果:麻痺耐性 中アップ

・効果時間:10分



 名前だけは有名なコカトリスであるが、ワイバーンと比べると地味な印象がある。鶏の尻尾が蛇になった奴だよな?

 その腿肉なら、ほぼ鶏肉じゃん。

 はみ出たシュニッツェルをサクッと頂いたが、美味い鶏肉だ。某有名地鶏と良い勝負な味わいである。確かにこれは、ずっと噛んでいたくなるな。ゆっくり味わいながら食べ進め、パンズに到着。ガブリと噛み付くと、今度はトマトの酸味が広がった。キノコ……エノキダケの歯応えも、アクセントに良い。恐らくバフ効果増強の為の踊りエノキかな?

 ソースのお陰で、大きかったシュニッツェルも、飽きることなく食べてしまった。



【食品】【名称:氷結樹の実と蜜リンゴのジェラート】【レア度:C】

・ハスカップが変異した魔木、氷結樹の実の氷菓子。ミルクを練り合わせ、蜜リンゴの蜜を薄い層に仕立てている。甘さと甘酸っぱさが交互に訪れ、頭が冴え渡る。

・バフ効果:知力値小アップ、精神力 小アップ

・効果時間:15分



 こっちもレア度C、後衛向けのバフ付きであるので、高い訳である。皿からはみ出る程の大きさのコカトリスのシュニッツェルサンドが3千円に対して、コップサイズのジェラートも3千円なのだ。素材や立地的に高いのは仕方ないけどさぁ……ウチの店と比べても、単価が高い。それでも売れているのは、味の良さかブランド力か。


 淡い紫色で、ねっとりとした舌触りのアイスだ。ガラスの器を横から見ると、パフェの様な地層に見えるのは蜜リンゴの蜜だ。最初は甘さ控えめで甘酸っぱく、食べていくと甘い蜜がガツンと来る。女性が好きそうな感じだ。

 ちょっと、冬に食べるのには寒いけどね。コタツとか、暖炉の前で食べたらもっと美味しくなるだろう。

 家にも暖炉はあるが、まだ使っていない。11月に入り朝晩は冷えるようになったが、陽光石を袋に入れたカイロで十分に暖は取れているそうだ。


 女性陣へのお土産用に買おうとしたところ、ジェラートは溶けてしまうのと、ガラス容器の関係上お持ち帰り不可だそうだ。残念、別の機会にでもレスミアを誘って来るか。






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 小ネタ、メリッサさん誕生秘話

 昔のRPGで、どの町に行ってもショップの店員さんが同じグラフィック(使い回し)な事は良くありました。それに対して『姉妹とか従姉妹です』で押し切った作品が、記憶に残っていたんですよね。いや、姉妹でもそっくり過ぎだろとw

 そんなネタを盛り込んでみたら、こんな感じになりましたw

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