第317話 通行許可と第1ダンジョンギルド

 娘にすげなく扱われ、落ち込んでしまったシュトラーフ団長。

 仕方が無いので、声が掛かるまで待つ事にした。暫しの静寂を経て、団長が顔を上げる。


「みっともないところを見せた。あの年頃の娘は難しい」

「はい、思春期ですから、気難しいのでしょう。その上、女性ですから。2倍難しいと思います」

「ハッハッハ、女が気難しいのは同感だな!

 息子の方は訓練で扱いてやれば、簡単に尊敬して貰えたのだがなぁ」


 一頻り笑って、場の空気が和んだところで、挨拶を交わしたのだが、俺とは初対面ではないらしい。


「第2騎士団、団長のシュトラーフだ。まぁ、兜を被っていたので分からないのも仕方が無い。エディング伯爵に婚約の申し出をした時、力試しをしただろう?

 剣技を選んでいたら、私が相手だったわけだ」

「あっ! 全身をミスリル装備で固めていた騎士?!」


 なんでも、娘のパーティーメンバーになるかもしれない男なので、力量を見ておきたかったそうだ。


 ……セーフ! 魔法を選んでよかった! 騎士団長とか、レベル60前後に違いないからな!


「戦えなかったのは残念だったが、〈プラズマブラスト〉を撃たせてもらっただけでも十分だ。

 先程、娘に貸していた盾……夕方になれば消すと言っていたが、もしやアレもか?」

「ええ、そうです。〈ヒール〉が使える程度のミスリルの盾です」


 癒やしの盾を貸すことになった経緯を、掻い摘んで話した。


「それは、婚約者のランディロに見せたいだけかも知れん。あの娘は武具の類、特に綺麗な物が好きなのでな」


 そう言えば、着ている姫騎士の様な鎧も装飾が多めであるし、武具に詳しいとも聞いた覚えがある。



「雑談はこれくらいにして、本題には入ろう。のんびりしていては、昼食を食べ損ねる。

 あのバイクと言うゴーレム馬だが、量産するつもりがあるのか?

 中央門でルティルトが走って見せてくれたが、かなり気に入っている様子である。一緒に見学していた団員も、興味を示していた。馬の代わりになるかもしれないとな。

 ただ、アレが何台も街中を走り回ると考えると、混乱を招く危険性がある。馬が驚くのもあるが、道を横切る歩行者も危ないだろう」


 流石は、治安維持組織の長だ。ゴーレム馬と言いながらも、馬とは完全に違う乗り物であるのに、危険性まで考えるとは。


「試作の段階ですので、量産はまだまだ先の話だと思います。私が試運転をしているように、アドラシャフトでも開発されたばかりですからね。

 今日も走っている間に欠点が見つかりましたし」


 心配するシュトラーフ団長に時期尚早だと、笑い掛ける。そして、その時間で交通ルールを決めることを提案した。


「バイクに〈騎乗術の心得〉が効くと分かりましたから、先ずは騎士団で試験運用して、運用ルールを決めてはどうかと、ノートヘルム伯爵に提案してみます。

 ヴィントシャフトの騎士団に置かれましては、輸入が可能になってから、アドラシャフトのルールを参考にしては如何でしょう?」

「……ふむ、一理あるな。アドラシャフトが開発した物ならば、向こうで運用方法が検証され、ある程度広まらないと、他領には出さんか」


 交通ルールが領地によって変わると面倒だからな。規格として、ある程度統一して欲しい。

 ノートヘルム伯爵には迷惑を掛けるけれど、これは個人で出来る事ではないからしょうがないだろう。こちらの世界に合わせたルールが必要となるからだ。


 ……まぁ、あのマッドなランハート工房長は開発が楽しいだけで、その後の運用方法なんて、知らんぷりしそうだからなぁ。



「しかし、君のバイクに利用許可を出すならば、大枠でも決めておきたい。ルティルトが話していた天狗族の例を参考に決めてしまおう」


 そう言うと、シュトラーフ団長はペンを手に取った。




 それから、簡単なルールを箇条書きにして、俺が守ると約束した後に、許可証代わりのプレートが貰えた。これは、南門の屋上、伯爵家へ向かうためのスロープの通行証らしい。立体駐車場のようなスロープは便利ではあるが、重要拠点である為、一般人が登らないように制限されている。

 ついでに、長い坂道なので昇るのが厳しく、登れる者を選別する意味もある。重装騎士が騎乗していても、登れるだけの体力があると許可された馬と、ゴーレム馬車のみだ。


 普通の馬やゴーレム馬は、許可証を首から下げている。バイクは首がないから、ハンドルにでも引っ掛けておくか。


「元々、君への支援の一つだそうだ。緊急で困ったことがあれば、訪ねると良い。レベル30を超えた今ならば、他の者も無碍には扱えまい」


 ……情報が早いな!

 昨日の事なのにと驚いていると、苦笑された。錬金術師協会から、騎士団宛にグランツの討伐依頼の打診が来ていたのだが、今朝方討伐されたからキャンセルすると連絡があったそうだ。


「砂漠フィールドは、騎士団でも嫌がる者は多い。しかも、強化個体のレア種が相手ならば尚更だ。

 又、騎士団の手が足りない時は、頼んだぞ」


 何か貧乏くじを引かされたような気もするが、シュトラーフ団長のイケオジ笑顔の圧に押されて、承諾する他なかった。


「……ギルド経由で指名依頼して頂ければ、微力ながら手伝いましょう」


 今回の件でも手間を掛けさせてしまったからなぁ。まぁ、貢献を稼げると考えれば良いか。





 騎士団の本部から出た。騎士団の食堂も気になったけれど、部外者がウロウロするのも不味いと思い直し、道順を覚えているうちに脱出した訳である。ダンジョンじゃないから〈ゲート〉で出られないからね。



 用事は終わったが、折角ここまで来たついでに寄り道をすることにした。南門のすぐ近くに店を構えている、ツヴェルグ工房だ。

 実は昨日の戦いで、ベルンヴァルトが使っていた大盾がボコボコに凹んでしまったのである。グランツの大鋏の振り下ろしや、〈グランドファング〉の威力を物語っていた。

 ウーツ鋼製の盾に買い替えても良いかと考えたが、ちょっと先立つ物がない。最近は砂漠フィールドばかりで、売れる物が少なかったから……。

 それに、素人の俺が〈メタモトーン〉で直すより、専門家の鍛冶師の方が良いだろう。そう考えて、店に足を向けた。



 予約をしていなかったのだが、前回ソフィアリーセ様と来たことで、顔を覚えられていたらしく、直ぐに対応してもらえた。


「……大分凹みが酷いですが、修理可能な範囲ですね。勲章持ちのザックス様であれば、少し優先して鍛冶師に回しましょう」


 念の為と付けておいた、銀盾従事章が役に立った。ここもダンジョンギルドと提携しているので、優先権が効いたようだ。それでも、修理には2日掛かるが、配達までしてくれるのは助かる。

 修理費を払うついでに、気になっていた事も聞いてみる。


「こちらの商品に、刀とか、太刀、日本刀と呼ばれる武器はありませんか?

 こう、細身の曲刀みたいなヤツで……こんな絵のやつです」


 フロヴィナちゃんに書いてもらった絵も見せたのだが、店員さんは心当たりが無いようで首を捻るばかり。他の店員にも聞いてみたところ、


「そう言えば、平民街に刃物ばかり扱う店があるそうですよ。そちらを訪ねては如何でしょう?」

「ああ、いや、そこになかったので探しているのです」


 結局、ツヴェルグ工房に無ければ、後はギルドのレアショップで宝箱産から探すしかないようだ。


 第1ダンジョンギルドは、大通りを挟んだ向かい側である。乗り掛かった船なので、そちらにも足を伸ばすことにした。



 こちらのギルドも防壁と一体化している。それでも、正面玄関は貴族街では定番の、博物館のようなお洒落な外観だ。出入りしている探索者も、お洒落な格好が多い。

 ルティルトさんのような装飾付きの鎧姿の男性もいれば、フリフリなドレスに宝石付きの杖を突く女性も居る。フルプレートメイルに、トゲトゲな肩アーマーの人まで。


 ……いや、アレはお洒落か? 両手を上げたら、トゲトゲが顔に刺さりそうだけど。


 取り敢えず、第2ギルドよりも、強そうな人が多い。装備だけでなく、雰囲気もだ。



 入口付近に案内板が出ていたので、見てみる。

 どうやら、貴族用、一般用みたいな区別は無いようであった。その代わりに、受付や買い取り所、売店等の施設が大きい。目当てのレアショップも3階に見付けた。


 ただ問題は、上の階に上がって良いのかどうかだ。ギルドの第2支部では貢献を積んで許可を貰ったけれど、ここも一緒に許可が出ているのか、それとも別計算で貢献を積まないといけないのか?


 ……勝手に階段を登ろうとして、結界に引っ掛かったら、恥ずかしいよな。大人しく受付で聞くか。


 その受付なのだが、昼過ぎぐらいなのに、混雑していた。大きい受付カウンターには窓口が沢山並び、綺麗な受付嬢が笑顔で接客している。


 空いていそうな窓口を探しつつ移動すると、壁際の掲示板に恒常依頼貼られているのを発見した。流し読みしてみると、ギルドの第2支部にはあった雑用のような依頼は無い。代わりに街道の見回りや、近隣の町への護衛等があった。そして、鉱物等の業者向けの納品依頼はランクアップして、ウーツ鉱石や黒魔鉄、幽魂桜の木材等が増えている。

 ただ、俺達が一番こなしている、お菓子の納品依頼は無かった。



 一番端まで来てしまったところ、そこで空いている窓口を発見した。そこには『勲章所持者、専用受付』の文字が書かれている。


 ……持っていて良かった、銀盾従事章!


 勲章を身に着けたままなのを確認し、受付に備えられていたベルを鳴らす。すると、奥のデスクから受付嬢がやってきた。その彼女には、見覚えがある。


「あら? はじ「アメリーさん? どうしてここ第1ギルドに? あぁ、忙しいから応援にきたとか?」」


 やって来た受付嬢は、いつもお世話になっているアメリーさんだった。

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