第312話 祝勝会とモチモチなお菓子

「では、27層突破とレア種討伐を記念して、乾杯!」

「「「かんぱーい」」」


 宴会の始めに、戦利品である星泡のグラスで乾杯した。もちろん、ベルンヴァルトが待ちに待った、お酒も解禁である。


「かーっ! こりゃ良いじゃねぇか! エールに炭酸追加は当たりだぞ!」

「いいや、ワインに炭酸の方が美味いって。炭酸割りは上級貴族の飲み方だからな」

「ううむ、良いウイスキーではないか。アドラシャフト産は香りが違うな」


 呑兵衛な男たちは、最初の1杯を飲み干すと、お代わりを頼んでいた。今日は帰りが遅くなった事もあり、サポートメンバーが給仕を買って出てくれている。

 フロヴィナちゃんがグラスを回収して、樽から酒を注いでくれていた。


「は~い、お待たせ。炭酸を入れるのは自分でやってね~」

「アタシはワイン半分、ブドウジュース半分で頂戴」

「あ、俺もそれで」


 ピリナさんの注文に、俺も便乗した。要はカクテルみたいなものだ。ジュースで薄めるから、アルコールが苦手な俺でも飲みやすい。炭酸を込めれば、殆どブドウサイダーである。


「教会での修行期間中に、偶に飲んでたのよ。お祭りとか、結婚式とか、貴族の子供のジョブ選定の儀とか、ワインが差し入れられてね。見習いにも少し回ってくるのさ。それに、ジュースを混ぜてかさ増しってね。

 意外に飲みやすいでしょ? 成人したばかりなら、酒精が薄い方が、悪酔いしないしね。

 アタシもそんなに強くないから、甘いくて、ほろ酔い出来る程度が良いのよ。ただ~、炭酸入れると美味しくなるのは、知らなかったわ~」


 2杯目だというのに、既にほろ酔い気分なのか、よく喋る。空きっ腹で飲んでは身体に良くない。食事も色々用意されているので、甘口カレーシチューを勧めてみた。

 ボス用のバフ料理の出来がアレだったので、ちゃんと美味しいカレーを用意したそうだ。


「辛いけど美味しいわね! パンもふかふかで柔らかいし、スープも具がゴロゴロ入っているし、豪華な料理よね……テオじゃないけど、専属料理人か~。アタシも教えて貰えれば作れるのかなぁ。

 プリメルも食べてみなさいよ。美味しいわよ」

「辛いなら、いらない。兎人族はお菓子出来ているから、お菓子食べる。

 これ、モチモチしてて桃の甘さが美味しい。新作? お店で売る?」


 プリメルちゃんがテーブルの端に出ていた唯一のデザートを、モグモグ食べていた。他のデザートは食事の後に出る予定なのだが、ベアトリスちゃんが試食して欲しいと俺に持ってきた奴だ。



【食品】【名称:モモモチ】【レア度:D】

・甘いジャガイモであるカルトネクタルを、丁寧に練りあげ、餅に仕立て上げた。桃クリームと共に頬張れば、桃いっぱいの甘みとモチモチ食感を楽しめる。

・バフ効果:HP小アップ

・効果時間:5分



 カルトネクタルのいももちに、硬めに作った桃クリームが載せられている。これは、ずんだ餅のアイディアも取り入れたそうだ。これはこれで美味しいのだが、ネーミング的に桃クリーム団子の方が近い気がする。


「店売りはしませんよ。材料のカルトネクタルを取ってくるのは大変ですから」


 ここ数日の砂漠探索で集めていたが、自分達で食べてしまえる量でしかない。

 店で出すとなると、まとまった数が定期的にいるので、入荷する伝手が入るのだ。流石に砂漠フィールドへ通うのは大変だからな。砂漠で有用な物といえば陽光石があるが、既にレスミアが大量に採取してきた。現状で通うほど必要なものはない。そんな時間があれば、アリンコ鉱山をしばいた方が金になる。


「むぅ、残念。こんな冬場に、桃のお菓子とか珍しいのに……桃好き」

「あ~、それならプリメルも、砂漠で取って来れば良いじゃないですか。作り方は結構簡単ですよ」

「えっ!? 私でも作れるの? 詳しく!」


 レスミアは料理を教えてあげると、約束していたからな。そこに給仕をしていたベアトリスちゃんも交えて、楽しく相談を始めた。


 男が混ざる雰囲気でもなくなってきたので、フォルコ君から店の売れ行き報告を受ける。食事をしながら報告を聞いていると、突然肩を叩かれた。


「リーダーとフォルコも、こう言う時くらいは一緒に飲もうぜ! ホラホラ、グラス持って、こっち来いよ」


 大分酒臭いベルンヴァルトに、肩を組まれて連行された。反対側にはフォルコ君も捕まっている。


「付き合うのは良いけど、明日も色々と予定があるから、そんなに飲めないぞ?」

「ええ、ヴァルトに付き合うと、切がありませんから」


 呑兵衛達が集まったテーブルでは、近くに酒樽が置かれ、揚げ物が山と鎮座していた。テオと、ヴォラートさんがトンカツを貪っては、お酒で流し込んでいる。


「かーっ! このとんかつって料理にはワインだろ。サクサク感と脂の甘さに、ワインの酸味が合わさって堪んねぇんだって!」

「テオはまだまだ、子供だな。脂の多い料理こそ、ブランデーの香りがよく合うのだ」

「おいおい、炭酸強めのエールで流し込んで、サッパリするのが最高だろ。何度でもトンカツの美味さが新鮮に味わえるって!

 おい、リーダーとフォルコも、どの酒が揚げ物に合うか試してくれ。どれが一番か、決めるぞ!」


 なんか、大学生の飲み会みたいなノリになっていた。ちょっと懐かしい。

 何種類ものお酒をちゃんぽんしたせいで、フォルコ君が酔い潰れてしまったが、楽しい宴会は夜遅くまで続いた。




 今日1日のレベル変動は以下の通り。レア種討伐は経験値が多いので、段階的に記載する。

 ・基礎レベル28→31  アビリティポイント43→45

 ・村の英雄レベル28→30E   ・軽戦士レベル26→27→31

 ・魔道士レベル26→27→31  ・司祭レベル24→25

 ・トレジャーハンターレベル25→27→31

 ・新興商人レベル20→22   ・熟練職人レベル22→24

 ・修行者レベル25→30E   ・戦技指導者レベル1





 翌朝、酷い二日酔いになっていた。寝る前に〈ディスポイズン〉を掛けた筈なのに、頭痛がする。追加で使用してから、特殊アビリティ設定を変更し、癒やしの盾を取り出して背負った。〈HP自然回復量 大アップ〉の効果で多少マシになるだろう。


 既に6時半過ぎ。店の早朝営業は終わりがけで遅刻ある。いや、今日くらいはサボっても良いか。

 リビングに向かうと、ソファでテオが寝ていた。床にはベルンヴァルトが、いびきを立てて転がっている。

 毛布が掛けられているので、風邪を引くことは無いだろうけど、何でこんな所で寝ているのやら。取り敢えず、自分でミルクティーを入れながら、段々と昨晩の様子を思いだす。


 デザートを食べた後、女性陣はレスミアの部屋で、2次会兼女子会兼お泊まり会をすると言って、上がって行った。ヴォラートさんも、報告があると言って帰った。

 俺は呑兵衛2人に付き合ってリビングで、駄べっていたような……酔った調子で色々と喋ったし、聞かされたな。まぁ、テオも大変だ。プリメルちゃんとは異母兄妹で、パーティー内で三角関係、いや一通三角関係?

 ピリナ→テオ→プリメル→?(お菓子の可能性も?)

 ただし、テオの主観らしい。それ以外にも実家のしがらみが大変だとか。


 ……貴族生まれも大変だ。


 その他に、役に立つ話として28、29層の水筒竹が取れる採取地マップを教えてもらえた。あの迷路の中には結構な採取地が点在しているらしく、穴場らしい。(普通は第一ダンジョンに行くので)

 俺からは、アリンコ鉱山のやり方をレクチャーしておいた。ロックアントの脚を落としてダルマにすれば、罠術〈トリモチの罠〉が無くても可能である。ヴォラートさんなら、脚だけ破壊するのも楽々だろう。

 以前、金策を教えてもらったお返しでもあるし、こちらとしても次の金策(30層)が見えて来たので、友人に教えるくらいなら問題無いと思う。



 2の鐘が鳴った後、営業を終えた女性陣が戻って来た。フリフリメイドの中には、プリメルちゃんとピリナさんも混じっている。どうやら営業を手伝ってくれたそうだ。


「大した手伝いは出来なかったけどね。アタシは列の整理だったけど、お客さんが自発的に並ぶし、プリメルはマスコットとして、撫でられていただけだし」

「ふふんっ! このメイド服も似合うって褒められた!」


 手伝い賃として、お菓子を貰ったプリメルちゃんは上機嫌でくるくると回る。兎人族は小さいから、子供がお手伝いしているように見えるからな。お客のお姉様方に可愛がられたのだろう。




 朝食後、テオ達は帰るそうなので、見送りに出た。それと言うのも、この後上級貴族のソフィアリーセ様が来るからだ。ほぼ平民なテオ達からすると、領主様一族は恐れ多いらしい。お近付きになるメリットよりも、粗相をして不興を買うデメリットの方が大きいそうだ。


「んじゃ、またな。機会があったら、また組もうぜ」

「アタシも、料理教室では宜しくね」

「今週いっぱいお休みだから、お菓子買いに毎日来る」


 テオ達は砂漠攻略という一段落ついたので、一週間程休みにするらしい。制限時間のある俺達とは違い、のんびり目な攻略だ。女の子2人は、砂漠の行軍で疲れ切っていたからな。それくらいの休暇は必要らしい。

 めいめいに別れを言うと、足取りも軽く、帰っていった。



 さて、今日の予定は、ソフィアリーセ様が遊びに来るので近況報告と、試作バイクとボールペンの相談をする。そして、レスミアのお姉さん、リスレスさんとの面談だ。

 レスミアからの情報によると、伯爵家との伝手を欲しがっているそうなので、ついでに紹介すれば良いかと思っている。


「リスレス姉さんは、10時に来る予定ですから、応接間の準備をしておきますね。

 ……大丈夫ですよ! 姉さんには、ランドマイス村でのザックス様の活躍を始めとして、色々と話しておきましたから。婚約の承認なんて、向こうからお願いしてくると思います」

「あぁ、ありがとう。妹のスティラちゃんも来るんだよね?」

「はい、新しいお兄ちゃんの話を聞いて、楽しみにしてましたよ」


 ……よしよし、計画通り。

 後は、ソフィアリーセ様が同じ時間帯に来てくれれば、勝ち確定だ。

 既に、こちらの状況を手紙に認めて、送っておいた。ただ、学園から帰ってくるのは、昨日の夜である。読んでくれていれば、早めに来てくれるだろう。

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