第303話 パーティー間の擦り合わせ

「では、俺とベルンヴァルト、プリメルちゃんがローテーションを組むと言う事で。

 レスミアが索敵して、こちらに向かってくるシュヴィロッヘンは、〈ウォーターフォール〉でまとめて倒すか、〈爆砕衝破〉で釣り上げましょう」

「うむ、MPの負担を一人に押し付けるよりは、分担した方が良いであろう」


 昼食を取りながら、ヴォラートさんと役割分担について話す。俺達3人とテオ達4人では、パーティーの上限6人を超えてしまう。その為、今回はヴォラートさん以外でパーティーを組むことになった。「どの道、レベル的に経験値など入らんからな。パーティーは組まずとも、同道してサポートに徹しよう」と引率を引き受けてくれたのだ。後衛であるプリメルちゃんとピリナさんの護衛を頼めるだけでも助かる。


 なぜ、リーダーのテオでなく、ヴォラートさんと打ち合わせをしているかというと、テオのパーティーが食事に夢中になっているからである。昼食は好評で、特にテオはお代わりを何度も頼む程であった。定宿の食事に比べると、雲泥の差らしい。


「ああ、やっぱり羨ましい。俺も専属の料理人欲しいぜ。平民街に、家でも買うかなぁ?」

「料理人の当てがないでしょ……代わりにアタシが作ってあげようか? 効果も付かないし、こんな美味しいのは無理だけどね」

「私もお菓子なら覚えようかな~」


「ピリナは孤児院で料理していたから、作れるのは知ってるけどよ、プリメルは無理だろ。食う専門だしな!」

「むむっ! 私も白銀にゃんこのお菓子作り手伝ったもん!」


「お前達、少しは静かに出来んのか……

 すまんな。いつまでも、子供のような奴らで」

「いえ、ウチの料理を美味しいと言ってくれると、レスミアも喜びます。な?」


「ええ、良い食べっぷりで、作ったかいありますよ。

 プリメルにピリナ、お休みの日にでも遊びに来てくださいね。お料理も教えてあげますよ」

「良いのかい?! 助かるよ。孤児院だと大雑把な料理がメインで、大きな鍋で作るのには慣れても、手の込んだ物は作ったことも無いからさ」

「わたしも、わたしも!」


 女性陣が楽しそうに予定合わせを始めた。明日が曜日的な意味での休日であるが、伯爵令嬢が来ると話した途端に、「別の日にしましょ!」と、避けていた。上級貴族は恐れ多い存在らしい。ソフィアリーセ様本人は親しみやすい人なのにな。


 テオ達に簡易ステータスを見せ、パーティーに加えた。


【人族】【名称:テオ、18歳】【基礎Lv27、戦士Lv27】

【兎人族】【名称:プリメル・ヴァロール男爵、17歳】【基礎Lv27、魔道士Lv27】

【人族】【名称:ピリナ、19歳】【基礎Lv27、司祭Lv27】


 ……プリメルちゃんは俺よりも年上?!

 こっそりとステータスを見させてもらったら、予想外な事実に声を上げてしまうところだった。

 個人的にはヴォラートさんの神使狼しんしろうが気になる。しかし、パーティーを組めないのでは、ステータスを見る事ができない。他の3人は、至って普通のジョブなので、年齢以外に新鮮味は……ふと、思い付いた。料理の練習をするなら料理人も取ったほうが良いのではないだろうか?


「魔法を使うプリメルちゃんは兎も角、ピリナさんはレア種に遭遇するまでは温存ですよね?

 それまでの雑魚戦は、ジョブを職人に替えるのはどうかな?

 レベル15まで上げれば、晴れて料理人に成れるよ」


 パーティーを組めば、ジョブを入れ替えられる事も説明する。

 既に司祭がレベル27なので、経験値が勿体ない。ただし、半日で15まで上がるかは分からないけどね(経験値増のポイントをブラストナックルに使っているので)


 我ながらいいアイディアと思ったのだけど、両手でブンブンと振って断られてしまった。


「アタシは女神様使える司祭よ! 駄目に決まっているでしょう!?

 ジョブを変えるなんて、破門された人への罰じゃない……」


 色々聞いてみたが、宗教上の理由らしい。要は教会の規則だな。僧侶の解放条件で揉めるわけである。

 宗教を持ち出されると、どうしようもない。矛先をテオに向けた。


「それじゃあ、テオはジョブを重戦士にしないか?

 その鎧で砂漠を歩くのは大変だろ。重戦士の〈装備重量軽減〉があれば、軽く感じられるよ?」


 玄関に脱ぎ捨てたままの鎧を指差して、提案した。



【武具】【名称:シュヴィラーアーマー】【レア度:D】

・砂泳魚のヒレの甲殻を加工し、繋ぎ合わせた鎧である。構造が簡素なため、作成難易度が低く、破損しても修理がしやすい。薄い甲殻を積層しているため防御力も高いが、枚数を使っているので、それなりに重い。



 エイヒレの甲殻を板状に加工しているらしく、見た目は戦国武将が着ていた甲冑に近い。もっとも、飾り気がないので地味ではあるけど……角とかは無い。

 部品数的に、フルプレートアーマーよりかは軽いだろうが、肩から膝下まで覆う鎧なんて重いに決まっている。


「あ~、確かに重いけどよ。俺は騎士目指してっから、途中で変えるのもなぁ……」


 以前聞いた、ダンジョンギルドへのアピールらしい。どこまで効果があるのか分からない。

 しかし、そんな話なら簡単である。


「それなら、ダンジョンに入った後に替えれば、バレ無いな。ホラ、試しに替えてみよう。ステータス開けてみろよ」

「そりゃそうだけどよぅ……うおっ! マジで変わってやがる。

 って、おいっ! コロコロ替えんな!!」


 ちょっとした、お茶目心である。重戦士に変えたあと、鎧を着てもらい、〈装備重量軽減〉の効果を実感させる。更に、午後からは長丁場と決まっている事も強調すると、手の平を返した。



 食事を終えてから、作戦会議本番である。俺が集めてきたビュスコル・グランツの情報を展開し、依頼主の錬金術師協会からの情報と、ヴォラートさんの体験談も合わせて検討し、戦術を決めた。




「皆さん気を付けてねー。お夕飯は沢山作っておきますよ~」


 ベアトリスちゃんに見送られて、出発した。

 ついでの話であるが、女子会の際に今夜は宴会と、女性陣の間で決まっていたらしい。

 いや、転移陣も最後の一つであるし、レア種の移動方向も掴んでいる。どっちも片付けられると奮起して、手を振り返した。




 砂漠の中心部を目指すのは、簡単である。目印の岩とか休憩所もあるが、大雑把に太陽を目指せば中心に辿り付ける。その分、砂漠を歩く時間が長い訳だけど……


 歩きやすい荒野は直ぐに終わりを告げ、砂漠へと足を踏み入れる。先頭はレスミアで、索敵とシュヴィロッヘンの釣りがメインで、余裕があれば陽光石の採取も行う。


 その後ろに、俺とベルンヴァルト。真ん中に女の子2名。最後尾はテオとヴォラートさんだ。

 この配置にも意味はある。砂漠の環境は女の子には辛く、砂山を登る時には、歩みが遅れることが多々あるので、最後尾のテオ達がフォローするのである。

 要は後ろから押すので、同じパーティーメンバーの方が良い。


「ちょっと~……レスミア元気過ぎない? 何で走り回れるのさ……」

「……あれはきっと、砂漠闇猫って新種族」

「いやいや、ただのスキルと、ブーツのお陰だよ」


 〈宵闇の帳〉は種族専用ジョブのスキルなせいか、あまり知られていないようだ。27層に降りた際、直ぐ様〈宵闇の帳〉で身を隠すものだから、テオ達が「一人足りないぞ」とキョロキョロするのは、少し面白かった。

 直射日光が遮断されると聞いたプリメルちゃんが「うらやま」と暗幕の中に入ったところ、密着しても背中がはみ出ていた。レスミアが、両腕で抱き締めれば暗闇に覆われるのだが、真っ暗で何も見えないし、抱き合うので冷気が循環しなくて暑苦しくなる。5分も保たずに合体は解除されていた。



 俺達は砂漠を歩くのも慣れてきたものであるが、テオ達のパーティーは、女性陣が少し遅れ気味であった。ただでさえ暑いのに、砂地は非常に歩きにくい。体力が資本の前衛陣は問題無いのだが。

 テオは重戦士にしたことで、歩き難そうなだけで、大分余裕があるように見える。ヴォラートさんはレスミア並みに余裕がある足取りだ。何かのパッシブスキルがあるのかも知れない。


 ピリナさんは、ラクロスのラケットみたいな杖を突きながら、何とか付いてきている。

 問題はプリメルちゃんだ。小柄なので体力が低いのはしょうがないが、早々に背中を押されて砂山を登っていた。いっその事、背負ってあげたらとヴォラートさんに提案したところ、


「歩けなくなる疲労したならば背負うが、まだまだ歩けるな。それに、背負うとしても冷気の循環が止まって、暑さで駄目になるぞ」

「それなら、背負籠に入れるって手もありますけど……」


 フロヴィナよりも小柄なプリメルちゃんならば、余裕で入るだろう。提案した手前、俺が背負ってみた。


 ……足が沈む! 

 背負籠に掛かる重さはそれ程でも無い。30kg前後ってところだろう。それでも、足を取られる事で、砂山を登る労力が倍増した。それに、


「ザックス~、揺らしすぎ……気持ち悪い……」


 坂道で揺さぶったせいもあり、中身のプリメルちゃんが酔ってしまった。衝撃吸収用のクッションを、暑いからと無しにしたのも敗因だ。


 結局、〈付与術・敏捷〉を掛けて、歩く事になってしまった。敏捷値が上がることで、多少は歩きやすくなったと、喜んでくれたのは幸いか。

 テオには「本当に多才だな」なんて、呆れ半分、関心半分な声を頂いてしまったけど。



「私のスティングレイブーツを貸そうにも、サイズが合いませんでしたからね」


 レスミアも心配そうに、後ろを見ていた。妹猫ちゃん程ではないが、小柄ながらも頑張る姿に兄心このかみごころが湧いたのだろう。姉だけど。


 彼女自身も走り回っているのだが、後続が追い付くまでに時間が掛かるので、こまめに休憩が取れていた。それに、エンカウントする魔物たちも、戦法が確立したことにより、戦闘が早めに終わるので、俺達も休憩する時間がある。

 その為、ベルンヴァルトとも話して、プリメルちゃんをローテーションから外す事も検討していた。魔法と体力は別だけど、戦闘による緊張も疲れの一旦だからだ。


 追い付いたプリメルちゃんに、提案してみたところ、


「むー。わたし頑張るから大丈夫。心配御無用。

 レスミアの後ろに魔法を打つだけだから、難しく無い。

 あとウチのメンバーが、あんまり役立って無い。わたしが頑張らないと……」


 事実として、前を行く俺達の方が、魔物の殆どを倒している。偶にサソリ相手にテオが混じる程度で、後はローテーションで〈ウォーターフォール〉を撃つプリメルちゃんだけ。

 ピリナさんは温存、ヴォラートさんも保険なので、プリメルちゃんが気にすることは無いのだけれどね。見た目よりも……いや、年相応に責任感があるように感じられた。


「ともあれ、ここで小休止を入れよう。

 レスミア、俺は日陰用の壁を作るから、コレ配っておいて」


 ストレージから冷たいスポーツドリンクと、スタミナ回復用のお菓子を出して渡す。そして、ブラストナックルの発熱が皆に影響しない距離に離れてから、〈ストーンウォール〉を立てた。プリメルちゃんのケアは同性のレスミアに任せて、何か対策を考えるとしよう。


 ……さて、どうしたものか。

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