第302話 先行偵察

 荒野を外壁沿いに進む途中で、蟻塚のように穴が沢山空いた岩山を発見した。岩山は所々にあるが、穴だらけの物は珍しい。速度を落として徐行すると、その周囲に三角屋根の石灯籠が立っているのが見える。見覚えのあるオブジェと思いきや、『安息の石灯籠』だ。



【魔道具】【名称:安息の石灯籠】【レア度:B】

・魔物を寄せ付けない光が灯された灯篭。破壊不可、接触不可。



 つまり、休憩所だ。地図上には休憩所のマークが印されていたので、存在は知っていたが、砂漠だけにオアシスを想像していたよ。


 折角なので蟻塚PAパーキングエリアに寄る事にした。


 蟻塚の中は空洞になっているようで、入口らしき大穴が開いている。中に入ると、いきなり地下へのスロープが続いていた。下にと言っても、下の階層に行けるわけでもなく、地下室のようだ。バイクごと入れそうなので降りてみると、地下室の各部にも穴が空いており、風がそよいでいる。念の為、ブラストナックルを外してみると、少しだけ涼しい風だった。


 ……あくまでも、外よりはマシってくらいだけどな。涼やかな北風よりは、だいぶ温い。

 それでも、常時炎天下の中で休憩するよりは、良いのだろう。地図と〈オートマッピング〉を照らし合わせれば、道程の半分くらいの位置である。テオ達のように、強行軍で移動するパーティーにとっては重要な施設に違いない。


 少し休憩する。バイクの振動はマシになったとはいえ、荒野のデコボコ道であり、振動が腕と腰にきていた。〈ヒール〉で回復し、スタミナッツと全粒粉のシリアルバーで、スタミナも回復する。ザクザク感のする歯応えが、ジャンクっぽくて偶に食べたくなる。チョコでコーティングしたいところではあるが、現状ではダイスの実で当てるしかない。王都の特産品と聞くが、只の食欲のためにエヴァルトさんに送ってと頼むのは、流石に厚かましい。いずれ、王都に行った時の楽しみにしよう。



 ついでに、バイクの状態もチェックすると、概ね問題なさそうである。ただ、タイヤには小さい石片がめり込んでいたので、掃除しておいた。


 ……少しだけタイヤの溝が浅くなった気もする……か?

 まぁ、走るのには支障はないだろう。程々に疲れが取れたところで、PA……いや、トイレも自販機も無いから、只の休憩所だな……を後にした。





 そして、走り続けて、反対側の目印の岩山まで辿り着いた。ここからは砂漠へ踏み入り、少し歩いた所に転移陣がある筈。

 駄目元でバイクのまま砂漠へ入ってみたが、砂山が登れずにスタック(タイヤが空転)してしまった。オフロード用に作った訳でもないし、砂地を走るタイヤの構造も知らないのでしょうがない。普通に歩き始めた。


 砂漠へ入っても魔物を避けて進むのは変わらない。3対1でも戦えない事もないが、囲まれたくないからな。取り敢えず、周囲を警戒しながら歩みを進める。


 サソリは岩に擬態したり、砂に埋もれていたりすると〈敵影感知〉に引っ掛からない。しかし、何日も見てきたお陰で、大体予想が付く。迂回すればいい。


 面倒なのは、エイヒレことシュヴィロッヘンだ。こちらの足音でも聞き取っているのか、結構遠くからも襲いに来る。音に反応するのは知っての通りなのだが、感知能力が高過ぎ。まぁ、爆音弾や〈爆砕衝破〉の爆音で、逆手に取られてスタンさせられるけど……今更であるが、昨日は結構な数のシュヴィロッヘンと戦ったのだが、1戦闘ごとの間隔が短かった。もしかすると、戦闘音に反応して遠くから寄ってきて居たのかもな。


 ともあれ、接敵にさえ気付ければ、〈ウォーターフォール〉の充填が間に合う。魚の癖に、水に弱いシュヴィロッヘンを蹴散らして進んだ。




 若干迷いかけたが、何とか転移陣を発見して、その上に寝っ転がっていた。


 ……起動していないけどな!


 いや、落胆したけれど、不貞寝している訳では無い。


 先に迷い掛けた言い訳をすると、地図に載っていない大岩が前方に見えたせいである。

 外壁と目印の岩山を、背にして進む。それだけで良いはずなのに、前方が大岩で通せんぼされていた。幸いにも、大岩の手前に転移陣があったので、周囲をウロチョロするだけで発見できた。セーフである。


 そして、地図と照らし合わせて、誤植かなと思い始めた頃、大岩に脚が生えて動き出したでござる。慌てて伏せたので、見つかってはいない、セーフ!



【魔物】【名称:ビュスコル・グランツ】【Lv32】

・ビュスコル・イエーガーのレア種。エケベリア・サンドローズに出来る陽光石が好物で、常に砂漠を移動しては食べ歩いている。そして、食べた陽光石を身に纏い、防御力を向上させている。

 背中には巨大なエケベリア・サンドローズと陽光石を背負っており、巨大な体を維持する魔力元とするだけでなく、魔法の媒体として利用する。ただし、背中の陽光石を破壊されると著しく弱る。

・属性:土

・耐属性:水

・弱点属性:風

【ドロップ:陽光石(大)】【レアドロップ:グランツラムダの重槍】



 ……やっぱりレア種だ!


 そして、改めて見ても、段々と遠ざかっていくのに、見上げるほどデカい!

 ジャック・オー・ランタンよりかは小さいけれど、比較対象が悪いだけだ。目算で5m以上……いや、サソリなのに尻尾を折りたたんでいるようなので、伸ばしたら全高10mはいくかもしれない


 全身に岩を纏っているのは、小さいサソリと同じで、見間違えた原因でもある。ただ、依頼を受けた際に聞いた情報に依ると、硬いと評判の甲殻は纏った岩の下にあるそうだ。つまり弱点の風魔法〈ストームカッター〉で切り刻むとしても、2発はいる。


 ……流石に一人で挑む気にはならないな。質量の大きさが、それだけで脅威なのは、よく知っている。

 そして、情報の大切さも。


「〈潜伏迷彩〉」


 念には念を入れ、スキルで姿を消してから、ゆっくりと後を追った。



 魔物を避けつつ、レア種に近寄り過ぎないようにして、側面に回り込む。あのデカブツは時折止まり脚をしまうので、何とか追いついた。


 前の方で、小さいハサミが動いているのが見える。つーか、デカい大鋏と小鋏、2対もある……小さくて見え難いが、砂漠の薔薇を摘んで食べているような……大岩に擬態したのではなく、ただ食事をするのに地面に座っただけのようだ。


 ついでに気付いたが、随伴する雑魚敵が見当たらない。むしろ、レア種が移動すると、進路上のサソリとエイが逃げていく。お陰で追跡はしやすかった。



 ある程度の情報を集めた後、逃げ出したサソリがこっちに向かってくる。流石に魔法を使って迎撃したら、レア種にも気付かれるだろう。

 ここまでと、見切りを付け〈ゲート〉のスキルで脱出した。





 家に帰ると、玄関前の石畳に男3人が車座に座っていた。テオとヴォラートさん、それにベルンヴァルトである。家に入ればいいのにと思いつつも、声を掛ける。


「ただいま。テオとヴォラートさんもいらっしゃい。

 例の転移陣は外れだったけど……なんで、こんなところで打ち合わせしているんだ?」


「ああ、お疲れさん。邪魔してるぜ。

 ダンジョンから直接来たんだ。砂埃は払ったが、あんな綺麗な応接間に入れる格好じゃないからな。ベルンヴァルトが『外でも良い』つってくれたから、軒下を借りたんだよ」


 どうせ昼から、またダンジョンに入るだろ、と脱いだ鎧を肘置きにして座っていたのだった。

 誘った手前、家にも入れないのはどうかと思ったが、納得しているならいいか。石畳には27層の地図だけでなく、ティーカップとお茶菓子も出ている。おもてなしはされているようだ。


「おう、リーダー。取り敢えず、レア種のグランなんたら、とか言うサソリの情報は話しておいたぜ。こっちの爺さんは知ってたみたいだけどよ」

「昔の話だが、討伐したことはあるからな。補足くらいはしてやろう」


 重々しく頷くヴォラートさんは、頼もしく見える。経験者の保険も付くとは、誘って良かった。

 おっと、作戦会議の前に、腹ごしらえもいるな。ストレージから、ダンジョンで使っているテーブルと椅子のセットを取り出し、その上に温かいお茶も人数分用意する。


「取り敢えず、地べたに座るのも何だし、ここで昼食にしよう。今、準備させるから、座って待っていてくれ」


 何故か唖然とするテオに椅子を勧めておく。飲み終えたティーカップやお菓子皿を回収し、家の中に入った。



 リビングからは、姦しい話し声が聞こえてくる。ウチの女性陣に加えて、プリメルちゃんとピリナさんが女子会を開いていた。

 後でテオに聞いたが、女の子達は男たちとは別行動し、ダンジョンの外にあるシャワールームで汚れを落としてきたそうだ。お茶会するのに汚れたままは嫌だという心理だろう。この辺は男女差が出るな。


「ただいま。

 楽しそうなところ悪いけど、ベアトリスとレスミア、昼食の準備をお願い。外にテーブル出したから、そっちで食べるよ」

「はい! 直ぐに用意します」


 料理人二人が、テーブル上の空き食器を片付けてキッチンに行く。残ったフロヴィナちゃんも、手元に残っていた紅茶を飲み干して出来を立つ。


「お帰り~、もうお昼か~。私もそろそろお店を開けてくるよ。

 プリメルとピリナも、ダンジョン頑張ってね~」

「ういうい、フロヴィナもお店ガンバ。また、休みの日にはお菓子買いに行く」


 リビングにはお客さん2人が残されたので、昼食兼作戦会議ということで、一緒に庭先へ誘った。今日は日差しが暖かいので、外でピクニック気分になるのも良い。砂漠に比べれば、初冬の陽気なんて天国だ。

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