第301話 袖すり合うも他生の縁
思わず振り向くと、黒いフードから見える顔はテオである。口元まで覆っているから、一瞬分からなかった。残りの3人も口元の布を外せば見覚えがある。細長いプリメルちゃんに、丸々とした犬族執事のヴォラートさん、そして普通体型の司祭のピリナさんだ。
特に背が低いのに、フード部分だけ長いプリメルちゃんは、直ぐに分かった。長い耳の分だね。
そして、犬頭のヴォラートさんは外套を膨らませて丸々としている。ヴァルトと同じくクーラーの付け過ぎかな?
駆け寄ってきたテオだったが、近くまで来たところでUターンしていった。
「お前、何か熱くないか?! それに外套も無しで……」
「すまん、話はサソリを始末した後でいいか?」
直ぐそこまで近寄ってきたサソリを指差すと、向こうも大きく頷いた。そして、俺の周囲を見回すと、直ぐに言い返してくる。
「そっちのパーティーは3人だったろ? 他の奴は居ないのか?」
「ああ、今は別行動中だ」
「しゃーねぇ、一人じゃ厳しいだろ。俺達も手伝うぜ。
お前ら! 戦闘準備だ!!」
「後ろの2匹は俺がやるから、先頭を頼む!」
巻き込んだのは俺なので、多く受け持つつもりで前に出た。
先頭のサソリを斜めにステップしてすれ違い、2匹目の正面に向かって走る。大鋏を振りかぶるのが見えたが無視、そのままの勢いでスライディングして下に潜り込んだ。
そして滑りながら、弱点の真下辺りの腹を殴り、魔法陣を埋め込む。後は、勢いのまま後ろに抜けた。
そして、地面を叩いて立ち上がると、直ぐ側に最後尾のサソリがやってくる。その時、後ろで爆音が響いた。〈敵影感知〉の圧力が1つ消えたので、倒せたようだ。
……迅速に爆殺! これで、後顧の憂いなし。前に集中出来るな。
手に魔法陣を出して、最後の1匹と相対した……のだが、目があった途端に急停止して、大鋏を眼前で交差させた。そのまま動かない。
……〈ファイアマイン〉の爆発で、仲間が吹っ飛んだから、ビビってる?
好都合だ。どの道、充填が完了するまでは時間稼ぎをするつもりである。地蔵になったサソリに正面から行く必要も無い。側面に回り込み、脚を攻撃する。殴り壊す毎に〈ヒートアップ〉していく。片側4本を破壊すれば、擱座して移動はできない。尻尾の後ろに回り、攻撃しつつ充填の完了を待つ。
少し余裕が出来たので、テオのパーティーの方を見ると、1匹目のサソリはテオと正面切って戦っていた。盾で大鋏の一撃を受け止め、剣で反撃をしている。その後ろには女の子2名が魔法陣を展開し……いや、ピリナさんの魔法陣が光り、テオの身体を赤いオーラが一瞬包み込む。攻撃力アップの奇跡だろう。そして、プリメルちゃんが掲げる魔法陣は緑色、大きさからして〈ウインドジャベリン〉に違いない。
魔道士の魔法が充填できるまで、戦士が前線で抑えて、司祭がバフ掛け。堅実な戦い方だ。あれなら、サソリ1匹くらい訳ないだろう。
そっちよりも、一人遊撃に回っているヴォラートさんの方に興味が湧いた。素手で殴り掛かり脚を喰い千切っている。いや正確には、腕に纏った黒いオーラが、攻撃をしているのだ。ヴォラートさんのガントレットが脚を掴むと、黒いオーラが大きな
脚を破壊し、尻尾の付け根を喰い破って行動不能にしたヴォラートさんだったが、止めは刺さずにテオ達の元へ戻っていった。
その少し後、テオが大鋏を切り飛ばし、空いた防御の隙へ〈ウインドジャベリン〉が打ち込まれ、終了となった。
……おっと、俺の方が終わっていない。
充填は終わっていたので、背中の弱点に打ち込んで爆殺した。
巻き込んだお詫びとして、ドロップ品のサソリの甲殻を進呈したところ、案の定、質問攻めにあった。
「最初に物凄い速さで走っていたアレは何だ?」とか、
「さっきの爆発は何だ?」とか、
「ザックスは魔道士だろ?! そりゃ、剣は中途半端になるから止めろってアドバイスしたがよ。何で、素手で戦ってんだ?!」などなど。
戦闘を見られていたのでは隠しようがない。いや、隠すことでもないので、ダンジョンギルドにも話している程度の事情を掻い摘んで話した。ついでに、軽く情報交換をして、テオのパーティーの進捗も聞く。
「複数のジョブを持っていて、その特異性からアドラシャフトと、ヴィントシャフト伯爵家の後援を受けているとか……
いや、
それに、〈熱無効〉なんて凄いスキルの武具は、領主様くらいでないと、手に入らないか……あぁ、そうか。学園に行かせられなかった、罪滅ぼしって感じか?」
端折ったせいで、斜めに解釈された。分不相応の武具を持っている=貴族の支援という感じなのだろう。
それよりも、テオのパーティーも目的が同じ事の方が問題である。今日は2の鐘が鳴る前からダンジョンに入り、隅の転移陣はハズレと確認して、次に向かう途中だそうだ。1日半の強行軍で、一番遠い転移陣を目指す……そう、行き先が被っているのである。
転移陣が見つかっても、使用したら効果が消えてしまう。そして、どう考えてもバイクで移動する俺の方が早いので、競争にもならない。かといって、一緒に行こうと提案するのも、時間が掛かり過ぎて意味がない。
……いや、一緒に行くのは有りか?
交渉の道筋を立てる。取り敢えず、バイクを取り出して、俺が先に行くことを説明した。
「……と、言う訳で、この新型ゴーレム馬、通称バイクを使えば、一番遠い転移陣は午前中に確認できる。
早い物勝ちって意味合いもあるけど、今回は俺に譲って貰えないか?
勿論、起動している転移陣が見付かって、下へ降りられたら、一時的にパーティーを組んで28層へ連れて行ってもいい」
友人でもあるので、こちらとしては好条件を提案してみた。このまま進んでも無駄足になるのは間違いないので、了承してもらえるかと思いきや、テオは悩み始める。頭に手を当て、「俺は良いと思うんだが……」パーティーの方へちらりと目を向けると、ヴォラートさんが歩み出てきた。
「うむ、良い話ではあるが、それでは鍛錬にならんな」
「つってもよ、ボラ爺。金稼ぎと装備新調するのに、砂漠には通ったんだ。この階層はこれくらいで良いじゃねぇか。後から来たザックスに追いつかれちまったしな。
それに、こんな暑い所は、暑がりなボラ爺だって終わりにしたいだろ?」
真ん丸に膨らんだ外套を指差して食い下がるが、ヴォラートさんは頭を振る。
「この過酷な環境で一泊……長時間の探索する経験も必要だと言っているのだ」
「え~、ボラ爺、厳しすぎ! 長時間で良いならもっと普通のフィールド階層にしようよ~」
「アタシも日焼けが酷いから、サッサと抜けたいね。〈ヒール〉で治ると言っても、女は大変なんだよ」「そーだ、そーだ~」
向こうには、向こうの事情があるようだけど、察するにヴォラートさんが教育係みたいなものなのかな?
それならば、丁度良い
「あの~、続きを話しても良いですか?
下の階層に行ける、行けないに関わらず、俺のパーティーは午後から砂漠の中心を目指します。サソリのレア種討伐の指名依頼を受けていますから。
そこで、提案なのですが、合同でレア種討伐しませんか?
巨大なサソリらしいので、良い経験になると思いますよ」
「あぁ、あの山のようにデカくて、硬いサソリのレア種か……ふむ、魔道士2人を含めた6人パーティーなら、いけるか?」
魔法があれば、硬い装甲を弱体化させられると聞いている。しかし、どうにも山のようにデカいと聞くと、カボチャこと、ジャック・オー・ランタンを思い出してしまう。アレは、精霊を取り込んだイレギュラーなレア種である。今回は違うと思うのだが、念の為、人数が多いに越したことはないだろう。
……回復と補助を専門に頼めるピリナさんと、サードクラスのヴォラートさんが居れば保険もバッチリだからな。
結局、レア種との戦いも、合同パーティーも、良い経験になると了承してくれた。しかし、詳細な戦術を話し合うには、暑い荒野は不向きだ。そこで、家に居るレスミアとベルンヴァルトの方と、相談してもらう事になった。
これにはプリメルちゃんとピリナさんが、諸手を挙げて賛成した。うん、お菓子目当てなのは、明らかである。
「俺達は先に出るけど、ザックスは一人で大丈夫なんだよな?」
「ここまで、順調に走ってきたからね。魔物は全部無視するから大丈夫だ」
「レスミア達とお茶して待ってる」
「いや、打ち合わせを終わらせてからにしてくれよ」
まぁ、事情を簡単に紙に
俺はボチボチ移動しないと午前中に辿り着けなくなるので、テオ達と別れてバイクで先へ進んだ。
因みにテオ達は、ヴォラートさんの〈帰還ゲート〉で外に出るらしい。犬族専用のサードジョブ、
本人は「戦闘もできるスカウト系だ」と言っていたが、狩猫系も似たようなスキル構成である。もしかしたら、レスミアも、こういった便利スキルを覚えるのかもな。
それからは荒野をひた走った。速度を上げながらも、走りやすい道を選び、魔物も避けて進む。景色を楽しむ暇もない! どうせ荒野だから面白い光景でもないけどな!
一応、また他の探索者パーティーを巻き込まないように、カーナビ代わりの〈オートマッピング〉を表示させている。魔物は赤点、パーティーメンバーは青点、それ以外の探索者は緑点で表示されるのだが、走行中に見るのは危ないな。
舗装された道路でも無いので、障害物も多い。余所見していたら、事故りかねない。
結局、視界内に小さく表示しておいて、光点が付いたかどうかだけ見るに留めた。カーナビのように、音声案内してくれれば良いのになぁ。『この先、魔物多発地点です』とかさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます