第298話 空振り

 それから何回か戦ったが、砂漠のエイは何故か3匹編成でしか現れない。推測だが、サソリと緋牡丹ズは待ち伏せタイプなので、積極的に狩りに行くエイは反りが合わないのだろう。

 その為、道中は、レスミアがエイを釣ってきては、〈ウォーターフォール〉で始末した。砂山の上で待ち構えれば、水流に巻き込まれる事もない。偶に変な方へ流れて行って、隠れていたサソリが寄ってくるのはご愛嬌。3匹編成なら大した敵ではない。


 それと、折角編み出した〈ファイアマイン〉手榴弾は、イマイチ効果範囲が狭く、投擲しても3匹纏めて釣り上げるのは難しかった。やはり、専門の爆音弾の代用程度にしかならない。魔道具を買うよりリーズナブルではあるが、どの道魔法陣に充填するなら、〈ウォーターフォール〉の方が、確実である。


 ただ、代わりと言っては何だけど、鬼徒士が使えそうなスキルを覚えた。



「『空も飛べないエイは、地べたを這いずり回るのがお似合いだな!!』

 レスミア! 離脱しろ!」

「はい!」


 元気に返事をしたレスミアは、俺とベルンヴァルトがいる砂山の頂上ではなく、中腹辺りで横に抜けて行った。すると、〈ヘイトリアクション〉を掛けられたエイ3匹は、頂上の方へ向かってくる。〈挑発〉が効いたようだ。ベルンヴァルトを鬼徒士にしたので、代わりに俺が重戦士で〈ヘイトリアクション〉役をした。最後は止めの新スキル……


「吹き飛べやぁ!〈爆砕衝破〉!!」


 ベルンヴァルトの右手の集魂玉が光り、大上段に構えた飢餓の重棍が地面に振り下ろされる。爆音の様な音と共に砂が宙を舞う。そして、一拍遅れた後、その前方10m程が同じように爆音と砂が舞い上がった。その中には、爆発で打ち上げられたシュヴィロッヘンも舞い上がっている。新しい集魂玉スキルは、中距離攻撃出来る範囲技であった。



【スキル】【名称:爆砕衝破】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。手持ちの武器を地面に叩きつけ、同じ衝撃を効果範囲全体に与える。この際、筋力値及び武器の攻撃力が高い程、衝撃波の威力も強くなる。巻き込み注意。



 要は通常攻撃の全体化みたいなものだ。打点から10m程の扇状に広がるので、シュヴィロッヘンが飛び掛かる前に、打撃できるのである。

 そして、鬼徒士レベル25では、もう一つスキルを覚えた。



【スキル】【名称:心眼入門】【パッシブ】

・視覚外の攻撃を察知出来るようになる。



 どこぞの盲目の侍のようだけど、どちらかと言うと気配察知の様なものだろう。ただ、入門レベルでこれだと、上に行くとどうなるか、興味が湧く。



 砂煙が熱風に押し流され、その風に背中を押されるようにして前に出た。軽戦士を重戦士に変えてしまったせいで、足が砂に取られる。追加スキルで〈フェザーステップ〉だけでも付けておけば良かったと、後悔しつつも砂山を駆け下りた。


 そして、ジタバタと陸に上がった魚の如く暴れるシュヴィロッヘンの元へ到着。鋭利なヒレが動かないように足で踏みつけ、拳を打ち下ろす。狙いは弱点の頭……ではなく、尻尾の付け根だ。骨を圧し折る感触とともに下まで貫通し、ヒレと共にバタバタ動いていた麻痺尻尾が動かなくなる。

 もう一匹の尻尾も部位破壊したところで、足の遅いベルンヴァルトが合流した。


「集魂玉用に、取っといたぞ!」

「すまねぇな、助かるぜ!」

「あっ、こっちもギリギリ生きてますよ~」


 最後の1匹はレスミアが切り刻んでいた。尻尾とヒレの甲殻の繋目をまとめて〈不意打ち〉で切り取ったようだ。

 それを順に、飢餓の重根の尖った先端で突き刺し、集魂玉を上限である3個、手に入れた。この〈爆砕衝破〉を使った方法だと、シュヴィロッヘンを楽に水揚げ出来るが、倒せる訳では無いので止めを譲る必要がある。集魂玉が減る一方になってしまうからな。適度に調整していく必要があるのだった。



 それからの道中は、〈ウォーターフォール〉を使うか、〈爆砕衝破〉を使うかは、地形次第。〈ウォーターフォール〉の方が楽ではあるけど、こっちが巻き込まれたり、遠くまで流れたりする地形だとドロップ品の回収が面倒なのだ。


 食材が欲しいレスミアと、酒の肴を確保したいベルンヴァルトが頑張ってくれた。特に走り回るレスミアには、こまめに水分補給と小休止を挟む。


 そんな中、シュヴィロッヘンがレアドロップを落とした。



【素材】【名称:砂泳魚の麻痺尻尾】【レア度:D】

 ・シュヴィロッヘンのしなやかで強靭な尻尾。先端から中程に掛けて麻痺毒の針が仕込まれている。



 細長い鞭のような尻尾だ。曲げると、中に仕込まれている麻痺毒の針が顔を出す。鑑定文にあるとおり、3本もの針が仕込まれていた。

 根本を掴んで振り回せば、敵を鞭打ちしつつ、麻痺針で状態異常にする事が出来る……のか?

 俺は鞭なんて扱った事が無いので、他の2人にも聞いてみると、


「馬車を動かす時には使うが……武器になるのか? 麻痺針があるんじゃ馬には使えんし……魔物を麻痺させる用か?」

「私も知りませんね。こんな長いの振り回したら、槍以上に危なそうですけど……」


 まぁ、俺としても思い浮かぶのは、SMや拷問で鞭打ちに使ったり、某考古学教授のように天井にぶら下がったり、手元を打ち据えて武器を奪ったり、RPGでグループ攻撃したり、巻き付いて電撃流したり。


 ……武器として、使えなくね? 

 特にグループ攻撃。振り回して1匹目に当たったら、運動エネルギーの大半を使ってしまうので、2匹目以降は当たっても大したダメージにならないと思う。

 ついでに言うなら、スキルもないと決定打にならない。何だかんだ言っても初期スキルの〈二段斬り〉があるだけでも違うからなぁ。

 鞭スキルがあれば……って、そもそも鞭を使うジョブってなんだろうね?

 取り敢えずは、ストレージの肥やしにしておく事にした。



 そして、砂漠の行軍を続け、目印である岩山が見えなくなった頃、ようやく目標である転移陣を発見した。遠目で見たときは、分からなかったが、近付くと変な場所だと知れた。砂山に囲まれているのに、そこだけ砂が無いのだ。砂に埋もれない様に、ダンジョンに保護されている場所なのかも知れない。

 実際に足を踏み入れると、防具やブーツに付いた砂が、転移陣の外枠に弾かれるようにして落ちた。砂避けの結界でもあるのだろうか?


 しかし、踏み入れても転移する気配もない。足元には赤茶けた地面に黒い魔法陣が描かれているだけ。起動していないのでハズレのようだ。

 念の為、地面を鑑定してみたが只の土である。錬金術師協会の採取パーティーが言っていた『魔力の籠もった土』とやらは、起動していないと採れないみたいである。


「ハズレなら仕方ねぇさ。後2箇所、どっちかだろ?

 例のサソリのレア種とも会わねぇし、のんびり行こうぜ」

「私は先を急ぎたいですね。リスレスお姉ちゃんが来る明後日までに、難所の砂漠フィールドを攻略したよって話したいです。ここから次の場所に向かえないのですか?

 ザックス様、地図を見せて下さい」


 レスミアの言い分も、良く分かる。『難所を攻略中』では心配させてしまうだけだからだ。ついでに後援者ソフィアリーセ様へのアピールにもなる。

 ただ、事前に計画を立てていた俺としては、今日は切り上げたい。地図を広げて、レスミアへ説明する。


「残り2箇所は砂漠の中で、どっちも半日程歩けば行ける距離ではあるよ。ただ、問題なのが、ここからだと目印も無いから、彷徨い歩く事になるんだ。

 ほら、村のダンジョンで暗闇の大部屋で迷ったろ? 

 あれと同じで、地図からおおよその方向だけで進まないといけなくなる」

「あ~、初めて喧嘩した……砂漠の中で探すのは大変そうですね」


 一応、地図に書いてあるルートならば、目印がいくつかあるので迷い難い。

 その場合、砂漠の真ん中の転移陣は、1日(フリッシュドリンク2回分の6時間)も歩けば行ける。

 そして、もう一箇所は、入口から中心を挟んで対称の位置。地図によると、外周部の荒野を大回りして反対側まで行き、目印から少し砂漠に入った所にあるらしい。概算で2日分(ドリンク4回分)くらいなので、出来れば行きたくない所である。

 この炎天下(夜無し)を2日歩くとか、拷問の粋だ。むしろ〈熱無効〉な俺が、魔物を避けてマラソンしたほうが楽かも知れない。


 どちらへ向かうにしても、今日は無理と判断して〈ゲート〉のスキルで脱出した。



 家への帰途に就くと、その足でレスミアはナールング商会へ出掛けて行った。お姉さんへ明後日の面談の話をするついでに、妹猫のスティラちゃんと甥っ子のティクム君に会いに行くらしい。

 赤ちゃんは兎も角として、猫族のスティラちゃんは俺も撫でたい。


 ……いや、13歳と聞いたので、撫でたら事案だろうか?

 レスミアの婚約者ならば、義理の兄(予定)になる訳で、ワンちゃん有りか? ネコちゃんだけど。

 ちょっとだけ、姉ぶるソフィアリーセ様の気持ちが分かった気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る