第297話 酷暑ところにより洪水、時々サソリ

 次に釣ってきたエイ御一行には〈ツナーミ〉を御馳走してあげた。分裂した5つの魔法陣から、怒涛の水が溢れて壁を作る。そして、津波となってエイを含めた一切合切を押し流した……前方にあった砂山2つ纏めて……

 このままでは、洪水になって前に進めなくなりそうであるが、ランク6の魔法なので問題はない。大量の水も効果時間が過ぎれば、マナの煙となって霧散していく。残されたのは、平になった砂浜だ。


「こりゃひでぇ」

「いやむしろ、山が無くなって歩きやすくなったろ? セーフだって」


「3つ先の砂山の上は、まだ見てなかったんですよ。陽光石が有ったかもしれないのに~

 ……っと、前から魔物が来ます……音からしてサソリです!」

「遠くの方に見えるけど……数が多いな。5、いや〈自動マッピング〉だと6匹か。小さい乱れ緋牡丹も1匹混じっているみたいだ」


 押し流された終着点の砂山が動き出し、中からサソリの群れが現れた。〈ツナーミ〉で押し流された範囲に隠れていたのだろう。サソリは水属性に耐性があるし、乱れ緋牡丹は弱点だけど〈リアクション芸人〉の無敵があるので生き残ったと思われる。

 戦い慣れた連中ではあるが、如何せん数が多い。聖剣を使うことも視野に入れ、〈緊急換装〉にセットされていることを確認。

 先ずは直接戦闘する数を減らすことにする。


「サソリの直線上に〈落とし穴の罠〉を張って〈ヘイトリアクション〉で誘き寄せて落とす。落ちなかった奴から倒していくよ。レスミアは罠を迂回して敵の後ろに回ってくれ」

「はい!」

「〈ヘイトリアクション〉は俺がやるぜ。重戦士にしてくれ」

「頼む。手に負えない時は、〈フルスイング〉のノックバックで、落とし穴に落としてもいいから」


 魔物との距離がある内に、軽く打ち合わせをして、準備を始めた。〈落とし穴の罠〉は罠術師レベル25で覚えたばかりの新スキルだ。ぶっつけ本番になるが、罠としての落とし穴は見た覚えがあるので大丈夫だろう。



【スキル】【名称:落とし穴の罠】【アクティブ】

・接触箇所の前方に落とし穴を設置する。穴の蓋は、元々の地面を魔力で固めた物であり目立たないが、耐荷重性能は殆ど無い。小動物が乗っただけで崩れ落ちる。



「〈落とし穴の罠〉!」と、3回繰り返し、横に並べる。魔法と違って点滅魔法陣が出ない為、効果範囲が分からないが、確か半径5mくらいだったはず。横いっぱいに並べておけば、どれかには掛かるとおもう。


 罠術スキルは手早く仕込めるのが良いところ。ただ、早く終わり過ぎて、サソリ達が来るまでに時間の余裕が出来てしまった。ついでに、魔法版の落とし穴である〈ベリィ・ピット〉も端の方に1つ設置してから、配置についた。




 トップランナーは、1匹だけ小さくて身軽な赤いサボテンだ。砂の上だというのにアスリートのような走りで、サソリと比べものにならない速さ3倍?で近づいてくる。


「こっちがゴールだぞ! こっちに来な!」


 俺の〈挑発〉で〈ベリィ・ピット〉に誘き寄せた。効果があったのか、乱れ緋牡丹はコースを45度修正、こちらへ走り寄ってくる。

 そして、走りながら頭のダイスマジックの実をもいで、投げようとした時、足元の砂地が消え、穴底へ落ちていった。その直後、上空に現れた大量の砂が穴に雪崩れ込んだ。


 ……土でなく砂なのは地形のせいか。あれでは圧死はしなさそうだ。


 なんて考えていたら、砂の下から爆発音が聞こえ、〈敵影感知〉の反応が消えて行った。


「あっ! 投げようとしていたダイスマジックか!

 ハズレを引いたか、穴の中で自爆したんだろう」

「まぁ、楽に終わったなら良いぜ。アイツらチョロチョロと鬱陶しいからな。

 それより、残りのサソリ共が来たぜ!

 オラッ! 酒の肴にもならん雑魚どもは、纏めてゴミ箱行きだ!!」


 ベルンヴァルトの〈ヘイトリアクション〉の声が響き渡る。残りの5匹の内、並んで走っていた第2集団の3匹が、声の元へと押し合いへし合い殺到した。

 そして、ベルンヴァルトの前に設置された〈落とし穴の罠〉エリアに踏み込むと、底が抜けて落下していった。


 ついでに、すぐ後ろにいた1匹も穴の縁で落ち掛けている。体の前半分を宙に浮かし、後ろの多脚で落ちないように踏ん張っていた。尻尾を精一杯後ろに倒し、バランスを取っているのは、少しだけ滑稽に見える。


「往生際が悪い!」


 落とし穴を回り込んで接近した俺は、その後ろ脚の1本に殴り折る。ブラストナックルの貫通効果だけでなく、甲殻も傷だらけなので、〈ツナーミ〉で弱っていたおかげだろう。

 そして、背後にも黒い影が忍び寄り、〈不意打ち〉で尻尾を刈り取った。それでバランスの拮抗は崩れ去り、斜めにズリ落ち始める。


 ……勝機!

 斜めになった腹の下に潜り、止めとばかりに魔法陣付きのアッパーカットをお見舞いした。

 これが決定打となり、穴の底へ落ちていき……穴の中で先に落ちたサソリも巻き込んで〈ファイアマイン〉が爆発した。


「よし! これで後は……「後ろに来てんぞ!!」」


 穴の下の様子を伺っていると、向こう側にいるベルンヴァルトの注意の声が飛んで来た。振り向くと、サソリは両の爪を広げて突進して来ている。

 穴の下ばかり気に取られていて、最後の1匹を忘れていたようだ。そいつは脚が何本か無い。恐らく〈ツナーミ〉に巻き込まれた際に欠落し、1匹だけ移動が遅れていたに違いない。


 左右に避けるには、ハサミが広げられていて、逃げられそうにない……殴り壊せるけど。

 かといって、背中に跳び乗ろうとすれば、尻尾の一撃が飛んでくる……カウンターで殴り壊せるけど。


 ……さっさと仕留められるように、背中に行くか。


 拳に魔法陣を展開し、突っ込んで来るサソリに跳び移るタイミングを測る。十分に引き付け、足を踏み締めた時……「〈カバーシールド〉!」の声と共に、目の前に赤いジャケットが現れた。

 盾を構えたベルンヴァルトが、両サイドからの大鋏を受け止めた。重戦士レベル25で覚えたスキルである。



【スキル】【名称:カバーシールド】【アクティブ】

・任意の対象が攻撃を受ける際にのみ発動可能。対象と敵との間に高速移動で割り込み、攻撃を盾で受け止める。

 移動できる飛距離は、基礎レベルに比例して延びる。



「おおっし! 穴も飛び越えて移動するとは使えるな……って熱っ! おい、リーダー! 燃えすぎだろ!」

「急に前に来るな!」


 魔法陣に充填して発熱しているので、割り込んだらそうなる。俺は脇を擦り抜けて、盾に受け止められた大鋏を足場にすると、サソリの背中に跳び乗った。その勢いで、背中の丸い甲殻を殴り、魔法陣をスタンプする。後は打ち付けた拳を起点に前転して、尻尾側から下に降りた。こうすると、爆発に巻き込まれないのだ。


 爆発の余韻が消える頃、サソリが崩れ落ちる。無事倒せたようだ。サソリを挟んだ向かい側にいるベルンヴァルトへ声を掛けた。


「ヴァルト、庇ってくれたのはありがとうだけど、あれくらい殴り壊せたぞ?」

「ああ、すまんだろ。なかなか試すタイミングが無くてなぁ」


 軽く事情を聞いてみると、俺とレスミアは回避重視なうえ、ギリギリのラインで避ける事が多く、ピンチなのか平気なのか、分かり難いそうだ。

 今回は俺がサソリに気付くのが遅かったので、ピンチに見えて〈カバーシールド〉を発動するいい機会だったらしい。

 俺も色々な検証に突き合わせているので、文句も言えないな。取り敢えず、事前相談しようと約束した。


「もう一つの〈ブラッドウェポン〉はどうする?」

「アレを試すのに怪我するのもなぁ……試し切り程度にしておいて、回復量は機会があったらで良いんじゃないか?」



【スキル】【名称:ブラッドウェポン】【アクティブ】

・使用後一定時間、HPダメージを与えた敵から、HPを吸収する。



 重戦士レベル25で覚えた2つ目のスキルだ。使用すると、刀身が赤黒いオーラを纏って格好良い。その代わり、MP消費は多いらしいけど。HPが減る機会が少ないので効果が実感しにくい。ついでに、魔物のHPを吸収して大丈夫なのかという疑問もあるけど……輸血でもないのだから、たぶん大丈夫と思いたい。

 そんな話をしていると、珍しく切羽詰まったレスミアの声がした。


「ちょっと、二人共!こっちも手伝って! 穴を登ってくる~」

「すまん! 今行く!」


 落とし穴の方では、サソリが上にあがり掛けていた。レスミアは〈不意打ち〉でしか甲殻を突破出来ないので、分が悪い。俺よりも近い位置にいたベルンヴァルトが駆け寄って〈フルスイング〉のノックバックで穴に落とした。


 俺も2人とは離れた場所に行き、穴の縁から様子を伺う。すると、中で動いているのは2匹のみ、それも甲殻がボロボロだった。〈ツナーミ〉と〈ファイアマイン〉の2発で大分ダメージを負っている。


 ……あれなら〈ウインドジャベリン〉を撃つより、まとめて爆発した方が早いか?


 対エイ用に、考えていた戦術を試すことにした。砂地なので手頃な石がない。ストレージから石球を取り出して、〈ファイアマイン〉の魔法陣付きの拳で軽く叩く。魔法陣が石玉に移ったのを確認して、穴の下に転がした。


「爆発するから、穴から離れろ!」


 転がった石玉は、サソリ達の下に潜り込み爆発した。


 砂煙を便利魔法の〈ブリーズ〉で吹き飛ばし中を伺うと、脚が吹き飛び、ひっくり返ったサソリ達がいた。弱点でもないので即死はしなかったが、傷だらけの脚は耐えきれなかったようだ。

 まだ、ギリギリ生きているようなので、下に降りて介錯してあげた。



 結論として、砂漠で〈ツナーミ〉を使うと効果は絶大だけど、巻き込んだ数パーティーの魔物を蹴散らせる実力が入る。

 歩きながら〈ツナーミ〉を連打して、寄って来る前に押し流す手もあるけど、ドロップ品が手に入らないからなぁ。


 それに、落とし穴で分断するのは良かったが、止めを刺すのに降りたのは不味かった。砂地の落とし穴、登ろうにも崩れてきてしまうのだ。サソリが8本脚で苦労していたのに、手足で4本しかない人類が登れる筈もない。(高級ブーツを履いた忍者にゃんこは除く)

 砂に埋もれながらも、ロープで引っ張り上げてもらったよ……

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