第294話 砂漠の目印と宝箱

「それでティクム君が可愛いのですよ~。よちよち歩くのも可愛いし、ポテッと尻もち付くのも愛らしいです!

 スティラが手を引いて歩く姿なんて、可愛さ倍増でした!」

「レスミア、さっきから可愛い以外言ってないぞ。

 まぁ、赤ん坊は無条件に可愛いから仕方ないけどさ。猫人族なら猫耳付きの赤ん坊か……確かにヤバそうだ」


「え? ティクム君は人族ですよ?」

「あれ? 母親の種族を引き継ぐんじゃないのか?」


 村の雑貨屋のフルナさん(人族)とムッツさん(ビルイーヌ族)の子供、ムトルフ君は人族だった。てっきり母体の種族と同じになると、勝手に考えていたが違うらしい。

 レスミア曰く、夫婦の種族が違う場合、子供はどちらかの種族になるそうだ。俺とレスミアの場合、産まれる子供は男か女、人族か猫人族を組み合わせた4パターンである。


 因みにハーフという概念は無いらしい。推測だけど、種族専用ジョブなんてものがあるから、混ざらないようになっているのかもしれない。遺伝子的な話なのか、神様の奇跡なのか分からいけどな。


「貴族には専属絵師がいて、子供の肖像画を書かせるなんて聞きましたけど、ちょっと気持ちが分かりました。

 あんなに可愛いんじゃ、絵に残したくなりますよ」

「リスレスお姉さんとの面談希望日って、明後日……休日だろ?

 ソフィアリーセ様か、ルティルト様に気に入られれば、描いてもらえるかも?

 ただ、面談に赤ん坊を連れてくるのもアレだから、最初はスティラちゃんで釣るといいよ」

「はーい、今日の帰りにでもナールング商会に寄っていきますね。

 あっ!あの大きな岩、地図にあった目印じゃないですか?」


 暗幕状態のレスミアが遠くに見える岩塊を(多分)指差した。

 今日は砂漠フィールド2回目の攻略である。目標は砂漠の中の転移陣で、その中でも一番近い場所だ。

 1回目とは逆回りに外周部を回り、今見つけた目印の岩塊から砂漠に入れば、到達出来る筈。砂漠を歩く距離をなるだけ少なくしたかった……それでも目算で、荒野を3時間、砂漠を2時間程歩く工程である。暑さはなんとかなっているけど、過酷な環境だ。


「鉱石掘りは程々にしてきたから、少し時間に余裕あるな。あの目印の日陰で長めの昼休憩にしょう」

「助かるぜぇ……回復と解毒の奇跡をもらったとはいえ、昨日は飲み過ぎて本調子じゃないからな」

「1日中、宴会を続けるのもどうかと思うけど、酔わなきゃハーレムするのも大変だもんな」

「ハーレムじゃねぇよ!」


 今朝方、二日酔いがキツそうなベルンヴァルトに〈ディスポイズン〉で癒やした際に、昨日の様子は聞いておいた(主に女性陣の恋話尋問)。


 フロヴィナちゃん監修の告白で、シュミカさんとの寄り?は戻せたそうだ。まぁ、父親に挨拶に行くのは、騎士ジョブを得た後にするらしいけど。

 問題は、シュミカさんのパーティーメンバーも居合わせた事で、そちらにも気に入られたそうだ……女の子5人全員に。


 男勝りなシュミカさんが、女の子を助けたり、意気投合したりして出来たパーティーらしい。その姉御が情熱的に告白されたついでに、自分たちにもプレゼント(綺麗なリキュール)されたせいで、「私達も一緒に!」となったそうだ。


 入れ物である宝箱には3瓶しか入らなかった為、2箱6瓶にしたので、丁度人数分となっていた。その為、「飲み頃になったら皆で飲みましょう」と贈ったのも変な意味に捉えられてしまったようだ。

 飲み会も、親睦会兼ハニトラが混じっていたようで、中々良い思いをしてきたらしい。


 ……ヤンキーのレディース総長を落としたら、グループごと乗っ取っていた、みたいな感じかな?


「ヴァルト、パーティーを抜けるのはダンジョンを攻略してからにしてくれよ?

 ハーレムするにしても、貴族の肩書があった方が良いよ」

「いやいや、抜ける予定なんぞねえよ! あと、ハーレムじゃねぇって」


 ……少し茶化し過ぎたかな?

 今のところ、パーティーから抜ける気がないと聞けて内心ホッとした。




 目印の岩塊を目指し歩みを進める。採取はジャガイ桃こと、カルトネクタルは収穫するけど、アリンコ鉱山でも代用が効く鉱石は後回し。

 そして、魔物とも戦う。暴れ緋牡丹は切り倒し、乱れ緋牡丹は暗幕さんが蹴り飛ばし、サソリはしめやかに爆殺した。

 最近は尻尾を切らずとも〈ミラージュフェイント〉で隙を作り、背中に乗り込み爆弾〈ファイアマイン〉設置で、楽に倒せる。いや、毒尻尾の鋭い一撃を躱して、肉薄するのは楽ではないけどね。テンションが上がると気にならなくなるだけで……


 サソリも沢山倒した成果として、レアドロップの大鋏を2個手に入れた。カニの爪なら、根本の部分をコロッケ等の料理にする手もある。サソリは知らないけど部位的には似ているから、食材かなと思っていたのだけど、当ては外れた。



【素材】【名称:猟師さそりの大鋏】【レア度:D】

・ビュスコル・イエーガーの大鋏。手に持ち、2本の刃を開閉する事で挟み切る。切れ味は鋭く、植物の伐採に最適。

 武器としても使えるが、突き刺しや、大鋏のサイズ以下の敵の手足等を挟み切る程度であり、固い敵には不向き。



 サソリの大鋏そのままなのは予想通りだけど、中身の肉がない。甲殻の内側は空洞であり、手を突っ込めば大鋏を開閉させる事が出来た。『シャキーン、シャキーン』と鳴らせば、気分は殺人鬼?


「植物を切るのに最適と言ってもなぁ。玉仙人掌の頭を切るくらいか? 〈自動収穫〉出来るから意味ないけど。

 少なくとも同じサソリには効かなそうだ。

 ヴァルト、暴れ緋牡丹相手に使ってみる?」

「両手持ちで使うには軽過ぎだろ。『シャキーン、シャキーン』サイズ的に、切り倒すにしても2,3回はいるな。殴り倒した方が早い」

「あ、私もやらして! 『シャキーン、シャキーン』 音が癖になりそう~。でも、〈不意打ち〉するなら剣の方がいいなぁ。

 ……あ!無理にダンジョンで使わなくても、庭木の手入れに使えないですか?

 手持ちの小さい採取ハサミよりも、上の方に届きそう!」


 こちらの拠点に移って2週間、秋の終わりである為、雑草や枝葉が伸びる量はそれ程でもない。ただ、店を開いたので、見栄え的に多少の手入れは必要である。フロヴィナちゃんとフォルコ君が、手隙の時間に手入れをしてくれている。


 ただ、背の低いフロヴィナちゃんは下の方しか手が届かない。


「そう言えば、高枝切鋏なんてアイディアもあったな。〈自動収穫〉を覚えたから要らないと思って、作っていなかったけど……手が空いたら試作してみるか。棒を突っ込むだけだし」

「ヴィナが使うなら、軽い物でお願いしますね」



 おっと、非力なメイドなのを忘れていた。甲殻部分を削って、ハサミと取付け部分だけにすればマシになるだろう。




 目印の大岩に到着した。10m程の高さがあるので日陰が出来ているのがありがたい。砂混じりの風が吹くので、〈ストーンウォール〉で壁を作らないといけない事には変わらないけどな。

 昼食を終え、雑談している時に、ふと思いついた。


 ……こういう岩場の上とか下って、宝箱が置いてあったりするよな? ゲームの話だけど。

 ただし、見上げる範囲からは見えない。頂上付近は尖っていない……台形っぽいので可能性はあるかも。

 そんな話をすると、レスミアが乗り気になった。


「これくらいの傾斜なら、〈猫体機動〉で行けますよ!」

「それなら、頼む。俺は下を探すか」

「岩の周囲に何も無かったのは、休憩前に見たじゃねぇか? 何処を調べるんだ?」

「そのまんま下だよ〈サーチ・ボナンザ〉!」


 ソナーのように知覚の波が広がる。すると、斜め下から反応が返ってくる。その場所の辺りをつけると、この岩塊の真下だった。それ程深くはないが、岩をなんとかして退かさないと、掘り起こす事も出来ない。

 さて、どうするかと考えていると、上から声が降って来た。目を離した隙に、頂上へ上っていたようだ。


「ザックス様~、本当に宝箱がありました~!

 でも、鍵掛かってる~。登って来れませんか~」

「無茶言うな!

 ええと、宝物の種類は何? 木箱? 鉄箱?」


「鉄です~」

「それならジョブをトレジャーハンターに変えるから、スキルの〈アンロック・アイアン〉で開けられるぞ!」


「ああ!そんなの有りましたね~。

 うわっ、暑い!」


 ジョブを変えたため、〈宵闇の帳〉が切れたようだ。上でわちゃわちゃ、ガチャガチャする音が聞こえた後「降りるから戻して下さーい!」と声が降りてきた。この高さでは流石に〈猫着地術〉がいるのだろう。

 ジョブを闇猫に戻すと、直ぐ様〈宵闇の帳〉を使い、斜面を滑り降りてきた。


「宝箱からは格好良いブーツが出てきましたよ! 鑑定お願いします!」



【武具】【名称:スティングレイブーツ】【レア度:C】

・シュヴィロッヘンの革で作られたブーツ。水と熱に強く、硬く、砂漠を泳ぐように歩く事が出来る。

 また、表面の細かい鱗には光沢感があり、砂海の宝石と呼ばれることもある。

・付与スキル〈接地維持〉〈天眼〉



 テーブルに置かれたのは、ガラスビーズを散りばめたように、きらめくブーツだった。しかも、スキル2個付き、大当たりだ!

 鑑定結果を読み上げると、驚きの声が上がった。レアショップでスキル2個装備のお値段を知っているので無理はない。


「わぁぁぁ! スキル2つ?! もしかして、これも500万円とかする?!」

「見た目も良いから、貴族に売ればもっと高くなると思うよ。ただ、砂漠を歩きやすくなるなら、使った方が良い。

〈接地維持〉てミスリルフルプレートにも付いていた、足が滑らなくなるスキルだぞ」

「つーか、小さくねぇか? 見ただけで俺には入らんって分かるぜ」


 ベルンヴァルトの言うように、俺の足と比べても、かなり小さい。つまり、女性用だ。レスミアには丁度良く、まるであつらえたかのようにピッタリだった。そして、赤っぽい茶色なので、雷玉鹿のジャケットにも合う。個人的には、足の甲の部分に白い目のような模様が気になるけど……全体にキラキラ光を反射しているので、そっちの方が目立つか。


「良いんですか! 私が貰っても?!」

「ああ、レア物なら売るより使った方が良い。レスミアに似合っているし」

「俺も飢餓の重根とかリキュールとか、色々貰ったからな。構わんぜ」


 パーティーのルールだと、宝箱を手に入れた時にはボーナスを支給する筈だったが、ベルンヴァルトは辞退した。〈相場チェック〉を掛けてみたところ、お値段800万円と出たせいである。3人で分配するなら、一人頭266万円。手持ちじゃ足りん!

 結局、次の宝箱を見付ける機会があるか、もしくはスティングレイブーツが不要となって売り払うまで待ってもらうことにした。


「そこまで気にせんでも、いいんだがなぁ」

「いや、こういう事が積み重なると禍根になるからね」


 何か良い物が出てきますようにと、内心祈りつつ〈サーチ・ボナンザ〉で反応があった方に取り掛かった。

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