第285話 魔喰掌握

 先へ進みながら、他の武器でも検証してみた。ブラストナックルで持った武器に魔力を一定以上(ランク4魔法くらい)流すと、〈魔喰掌握〉で取り込めるようだ。

 ホーンソードを取り込めば〈雷〉が追加され、攻撃に雷属性が乗るようになった。その状態で大鋏を殴れば、若干動きを鈍らせる事が出来る。多分、雷属性の追加ダメージが入っているのだろう。

 ただし、貫通効果もないのに硬い甲殻を殴ると、反動で拳や腕が痛い。仕方がないので、〈ファイアマイン〉を甲殻に打ち込み、爆殺した。



 特殊武器も取り込めるかな?と、ミスリルソードで試してみた。



【武具】【名称:ブラストナックル】【レア度:A】

・アダマンタイトとミスリルの合金と、火竜の革から作られたガントレット。各金属特有の特徴は失ったが、硬度と軽量化、魔力伝達率が両立している。魔力を込めるとガントレット全体の温度が上がり、火属性を帯びる。更に、魔法陣に充填した状態で殴れば、そこに〈ファイアマイン〉を埋め込む。

・付与スキル〈ヒートアップ〉〈熱無効〉〈ファイアマイン〉〈魔喰掌握〉【〈剛腕〉〈敏速〉〈軽量化〉】



 スキルの数が凄い事に! レア度によって付与スキルの上限があるはずだが、〈魔喰掌握〉で喰らった分は表記が違う。その為、制限の網を潜り抜けているのだろう。実際、〈剛腕〉の効果で筋力値が上がり、〈敏速〉の効果で敏捷値が上がって戦闘能力は、硬い甲殻を殴り壊せる程に向上した。


 ただし、耐久値が上がっていないせいで、反動が酷い。ブラストナックルは無事でも、中身の腕や骨が軋むように傷んだ。


 ……殴った反動で、自分のHPが減るとか、自爆技かよ!

 不幸中の幸いであるが、〈ヒール〉で直せる痛みであり、骨折やヒビではなかった。無理して攻撃していたら、ヒビは入っていたかも知れない。



 そして、同格の特殊武器、プラズマランスも取り込めた。



・付与スキル〈ヒートアップ〉〈熱無効〉〈ファイアマイン〉〈魔喰掌握〉【〈黒雷〉〈雷精霊の加護〉〈電光石火〉〈プラズマブラスト〉】



 2個合わせてアビリティポイントが30pもいる、贅沢品だ。ここまで注ぎ込むと、ジョブが2つしか付けられない。

 その反面、腕に魔力を通すと、発熱するだけでなく、バチバチと放電する雷もまとえるので格好良い。プラズマランスの穂先でも帯電していたが、自分は感電しないのでセーフ。益々、パーティーメンバーが近寄りがたくなったけど……


 そのままサソリを殴れば感電させて、麻痺の状態異常にすることが出来る。殴った腕は痛いが。

 〈プラズマブラスト〉も使用できるみたいだが、充填に時間が掛かるうえ、近接距離で使う意味が見いだせなかった。0距離ビームという浪漫なら分からんでも無いけど、見栄えだけだよなぁ。



 更に上を目指して、聖剣クラウソラスを取り込もうとした。アビリティポイントの最大値が43で、外せないストレージ5pを除くと、必要なポイントは35p。3pしか余らないのは、ジャックオーランタン以来である。


 ただ、結果として〈魔喰掌握〉で取り込む事は出来なかった。レア度Aのスキルだから、レア度EXの〈プリズムソード〉は喰えなかったに違いない。まぁ、〈プリズムソード〉なんて、光剣を生み出して操るだけなので、取り込んでも意味なかったと考えて、すっぱり諦めた。



 そして、気分が高揚する原因もなんとなく分かった。

 魔力を込めて発熱した状態で魔物を殴ると、テンションが上がるっぽい。多分、名前的に付与スキルの〈ヒートアップ〉が関係していると思われる。

 魔物を殴るたびにテンションと発熱量が上がって行き、接近戦が怖くなくなる。過熱していくのは熱量だけでなく、精神的にも燃え上がるので〈ヒートアップ〉なのだろう。


 それに加えて〈ヒートアップ〉すればするほど、〈ファイアマイン〉の充填速度が早くなるのも確認出来た。普通に使った時と比べて三分の一程の時間……10秒程と短さで充填できる。最早、ランク1よりも早い。

 更に普通の〈ファイアマイン〉と仕様が違うのか、地面等に遠隔設置は出来ず、殴った箇所にしか設置出来ない。しかも、設置から5秒で爆発する、爆弾の様なものだ。〈熱無効〉のお陰で爆発に巻き込まれても平気なので、近接戦闘でも十分に使える。


 ……爆発に混じって、体液や肉、甲殻の破片が飛んでくるので、巻き込まれたくはないけどな。



 そんな感じで、先に進みながら検証を重ねて来たが、話し相手が居ないのはちょっと寂しい。それというのも、ブラストナックルが発熱しっぱなしなので、レスミア達とは距離を取っているからだ。

 まぁ、テンションが上がると、気にならなくなるけどな。寧ろ、戦闘が楽しくて仕方がなくなる。尻尾の攻撃範囲に躊躇なく飛び込めるし、ギリギリで攻撃を躱す事さえ楽しい。ついでに〈カウンター〉が発動するのも快感を得ていた。


 グラップラー用の武器……いや、使用者をグラップラーにする武器だというのが良く分かった。




 そんなこんなで、27層の道中は順調に進んだ。

 懸念していた暑さも、ベルンヴァルトへ涼やかな北風2個装備することで、対処出来た。新たに登場したサソリも、フェケテシュペーアを取り込んだ防御貫通で、ボコボコにして爆殺すれば早い。ベルンヴァルトとレスミアのペアで1匹倒す間に、俺だけで2匹倒せる程に。


 土山で鉱石を取り、玉仙人掌で喉を潤し、サボテンから桃を掘り起こし寄り道もする……ここだけ聞くと訳が分からんな……閑話休題。


 昼休憩から2時間ほど歩き続けて、正面の外壁が近付いてきた。階段から壁沿いに進んで突き当りの角、そこが1箇所目の転移魔法陣の候補地である。


 ここまでの戦闘で、軽戦士とトレジャーハンターのレベルが25へと上がっていた。どちらも新スキルを覚えている。



【スキル】【名称:パワースロー】【パッシブ】

・物を投げる際の命中率を補正し、更に威力が上昇する。



 軽戦士レベル25で覚えたスキルで、解説文的に〈投擲術〉の威力が上がった上位互換のようだ。村で一緒に調査した軽騎兵のルイーサさんが使う投げナイフは、急所に当たれば、サーベルスタールトを一撃で倒せる程の威力があった。恐らく、このスキルの補助があったのだろう。俺も投擲用のナイフは持っているので、魔法以外の遠距離攻撃として活用するのもいいかもしれない。



【スキル】【名称:ミラージュフェイント】【アクティブ】

・攻撃を仕掛ける直前に、確率で発動する。幻影を生み出しフェイントを仕掛ける。

 発動確率は術者の基礎レベルによる。



 自分でフェイントを掛けずとも、自動でフェイントしてくれるのが素晴らしい。徒手空拳でも発動するようで、殴り掛かる直前に分身の様な幻影が生み出される。腕だけの幻影だったり、身体全体の幻影だったりするが、どちらも数秒で薄くなっていく。分身で撹乱という訳ではなく、本当に少しだけ惑わすフェイントだった。



【スキル】【名称:敵影表示】【パッシブ】

・〈敵影感知〉で把握した敵性体の位置を、〈オートマッピング〉に表示する。また、パーティーメンバーも同時に表示する事も可能。



 トレジャーハンターレベル25で覚えたスキルであり、視界内に表示されている地図に青点が表示される。覚えた時は急に青い点が増えたので驚いた。戦闘終了後だったので、周りにはパーティーメンバーしかいない。青が味方らしい。

 そして、魔物は赤点で表示されるのだが、〈敵影感知〉で感じられない擬態したサソリは表示されない。それでも、動き出すと直ぐに赤点が灯るので、位置が分かりやすくて良い。

 まぁ、戦闘中は地図を見るより〈敵影感知〉の感覚に従ったほうが早いと思うけどね。



【スキル】【名称:アンロック・アイアン】【アクティブ】

・ダンジョン内の鉄の宝箱にのみ使用可能。鍵を開錠する。



 何故か、アイアン……鉄の宝箱用の開錠スキルが手に入った。普通は木の宝箱用が先に来そうなものだけど、ステータス画面を見直しても持っていない。木の宝箱くらい自力で鍵を手に入れるか、箱を壊して開けろって事か?

  鉄の鍵はサンダーディアーを周回した時に手に入れた物が数本残っていたのに、無駄になってしまったな。買い取り所で売ってしまおう。





 辿り着いた転移魔法陣の候補地は、今までの茶色や赤茶けた岩ではなく、真っ白な壁が広がっていた。歩み進めると、太陽光が反射して、眩しいほどに光り輝くビルの壁面にも見えなくない。


「ザックス様、あそこに他のパーティーが居るみたいですよ。話し声が聞こえます……『離れろ』?」


 レスミアが指差したのは(暗幕の形からして多分)、角に近い白い壁の方である。目を凝らしてみると、黒い人影がいくつか見えた。〈敵影感知〉に反応が無いが、視界に表示される〈オートマッピング〉には緑色の点が6つ表示されている。まだ歩いていない為、地図が黒い部分を、緑色の点が移動し始めた。


 その少し後、大きな爆発音が響き、白い壁が崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る