第282話 砂漠に実る桃と、硬くて固いサソリ
周辺に魔物の気配が無いことを確認して、採取を開始した。サボテンの群生地のようで、頭に色とりどりの丸い緋牡丹サボテンを乗せている。
以前、テオのパーティーメンバーのヴォラートさんと雑談した際に教えてもらった。『万が一、水が足りなくなった時は、サボテンに生っている赤い実を食べると良い。緑の部分は駄目だぞ、青臭い上に腹を壊す』と。
【素材】【名称:玉
・サボテンの上に実る緋牡丹の様な果実。マナの溜まり具合で、緑色から黄色を経て赤色に変色し、食べ頃となる。食べると、身体を冷やす効果はあるが、気休めレベルである。砂漠での水分補給として、利用しよう。
赤色のまま長時間放置するとピンク色に変異し、別の根菜を実らせる。
蜜りんごの様に熟成するタイプのようだ。2人に鑑定結果を話し、赤色の玉仙人掌を探してみる。そして、見つけた赤くて真ん丸なサボテンは、当然のように針だらけ。先に表面の棘を、ナイフで
「……味の薄い、まくわ瓜か?」
「砂漠の水分補給にはいいじゃねぇか。冷やせば美味いかもしれんぞ」
「う~ん、薄っすらと桃の様な甘みと、青臭さが混同してますね。マリネにするにしても、少し水っぽいですし……何か他に使えるレシピはあったかしら?」
早速、使い道を考え始めるレスミアだった。もう少し甘かったら、ベルンヴァルトの言うように冷やして食べればいいのだが、ちょっと味が薄い。
この砂漠フィールドで水分補給するには、良い植物なんだけどね。
因みに、レスミアは他の色……オレンジや黄色も味見してみたらしいが、甘さが消えて、青臭さと苦味が増していったそうだ。赤色が一番マシらしい。
取り敢えず、赤色の玉仙人掌を採取して回る。使い道は料理人に任せればいいし、使い道が無ければ買い取り所で売ってもいい。採取依頼に仙人掌があったので、何かしらの需要はある筈なのだ。
採取を続けていると、ピンク色の玉仙人掌を発見した。鑑定文にあった、熟し過ぎて変異した個体である。これについても、ヴォラートさんから情報を仕入れている。
ピンク色の玉仙人掌の下、直立している緑のサボテンが干からびていた。針が抜け落ちているのが、収穫時期らしい。その干からびたサボテンを掴み、大根の如く上に引き抜く。すると、土の下の根っ子に実った桃が、ゴロゴロと姿を表した。
【素材】【名称:カルトネクタル】【レア度:D】
・玉仙人掌が過剰にマナを貯め込んだ結果、許容量を超えて変異した根菜。栄養を全て地下茎へと回し、芋に蓄えたのが、このカルトネクタルである。余談ではあるが、カルトネクタルを地面に植えてもサボテンは生えてこない。
桃の味がするため、根菜として料理に使われるだけでなく、甘味として人気がある。
見た目は桃なのに、土の中で育ち、ジャガイモの如く硬い。生では食べられないが、茹でるとホクホクした桃……いや、桃味のジャガイモになるらしい。
……なんで、サボテンから桃が取れるのか? とか考えるだけ、無駄だな。いつものダンジョンの不思議植物だ。
〈自動収穫〉試してみたところを、赤色の玉仙人掌にだけに効果があった。ただ、自動で収穫されて飛んで来るのが、針だらけの玉仙人掌なので、少し驚いてしまう。手に持った採取袋は安物な麻袋のため、玉仙人掌の針が袋を貫通してしまったのだ。
自分の雷玉鹿のグローブなら貫通してこないが、他の人や、買い取り所で出すときには気を付けないといけないな。
そして、見た目が桃のカルトネクタルには〈自動収穫〉は効かなかった。〈果物農家の手腕〉の対象外って事は、果物カテゴリーでなく根菜だという証左だろう。
手作業での収穫は面倒であるが、採取作業には慣れている。解毒大根の様に干乾びたサボテンを引き抜き、鉱石玉を選り分けるように、カルトネクタルをストレージに放り込んでいく。多少土付きでも問題はない。ジャガイモのように、後でじゃぶじゃぶ洗えばいいだけの事である。見た目が桃そっくりなので、取り違え注意だけど、桃の旬の時期ではないので、それもないだろう。
「27層に行くって話から、マルガネーテさんに教えて貰いましたけど、クリームシチューに入れても美味しいそうですよ。他には、桃の代わりとしてお菓子に使うとか……ペーストを生クリームと混ぜて、桃味のクリームにするのが定番だそうです」
レスミアも暗幕の中で選り分けてから、ぽいぽい放り投げてストレージへ入れてくれる。玉仙人掌よりも、カルトネクタルの方が、使い道が多くて沢山欲しいそうだ。
採取を終えて、ストレージから出した冷えたリンゴ水で喉を潤してから先へ進み始めた。
代わり映えの少ない荒野を、〈サーチ・ストックポット〉を使って採取しながら進む。地図で見る限り、目的の転移陣はまだまだ先なので、暇潰し……と言うより、暑さから気を紛らわせる為でもある。少なくとも、採取のために足を止めるので、 涼やかな北風の冷風で体温を冷やす休憩も兼ねていた。
「今度こそ、乱れ緋牡丹ですよね?」
「頭にダイスマジックの実も生えているし、〈敵影感知〉の反応もあるから間違いないよ。
ただ、そうなると残り2匹の反応が無い。サソリが擬態中は感知出来ないと、考えるべきかな」
少し先に〈サーチ・ストックポット〉で見つけた土山が2個並んでおり、その手前に赤いサボテンがポツンと生えている。乱れ緋牡丹は確定としても、サソリが擬態できそうな岩もいくつか転がっていた。
軽く相談してから、方針を固める。
「怪しいのは土山と、あっちの大き目の岩か?
俺とヴァルトで1匹ずつ相手にしよう。レスミアは乱れ緋牡丹をこっちに吹き飛ばしたら、サソリの尻尾を切り落としてくれ」
「俺は硬そうな岩の方にするぜ」
「蹴り飛ばしてきますから、止めはお願いしますね」
スルスルと滑るように移動した暗幕は、気付かれることなく背後を取った。そして、蹴り飛ばされた乱れ緋牡丹が宙を舞う。サッカーボールのように飛び上がり、地面に落ちてワンバウンドして俺の足元へ転がってきた。
取り敢えず、踏んづけて止める。
……ナイスパス!
狙って飛ばしたのなら、大したものだ。ただ、このサボテン型サッカーボールは逃げ回ると面倒なので、さっさと槍を突き刺して止めを刺した。
乱れ緋牡丹が動かなくなったのを確認して、目を前に戻すと、サソリが偽装を解いて這い出てきたところだった。
背中に土山を乗せた個体が、身震いしてデッドウェイトを下に落とす。もう一方の、岩に擬態していた個体は、ロックアントのように岩を身に纏っていた。
予定通り、ベルンヴァルトが岩サソリに向かって行ったので、俺は土山を乗せていた方に槍を向ける。
穂先に出してある充填済みの魔法陣を向けて、サソリの目に狙いを定めた。
「〈ウインドジャベリン〉!」
緑色のクリスタルのような投槍が、魔法陣の中心から射出される。風属性特有の弾速の早さで飛んだ投槍は、サソリに着弾する直前に、別の壁にぶち当たった。
サソリが掲げた大鋏である。
2本の大鋏を眼前で交差させ、魔法の槍を受けきったようだ。弱点である目には届いていない。ただ、その代償として、貫通された大鋏が破損して、片刃になっていた。
……ハサミからナタになって、危険度が増した気がする!
傷付けた事により、敵愾心を買えたようだ。ナタサソリが以外にも早い動きで前進してくる。〈不意打ち〉するには、俺が惹きつけた方が良い。ただ、肝心の暗幕さんはベルンヴァルトが相手をする岩サソリの背後に回っていた。
2匹居るので仕方がない、こちらは一人で片付けるつもりで、穂先に魔法陣を出して充填を始めた。
接近してきたサソリが、ナタを振り上げる。半円を描いた一撃をサイドステップで避け、その多脚に槍を突き入れた。
脚の1本に風穴を開けるダメージを与えたが、全部で8本も有るので有効打にはなっていない。ドリフトのような制動をかけてサソリが停止し、相対すると再度ナタを振り上げた。
ナタの振り回しを避け、踏み込む。今度は弱点の目を狙い、突きを放つ……前に、サソリの尻尾が突き出された。
それも、ほんの少しサイドステップして躱し、体勢を崩しながらも槍を突き入れる。
弱点の目からは大分外れた所に刺さるが、浅い。追撃を受ける前に、バックステップで距離を取った。そして、その時には充填が完了している。
「〈エアカッター〉!」
先程開けた穴と目を、纏めて切り裂くように、風の刃を撃ち放つ。しかし、それもギリギリのところで大ナタに阻まれた。目を守るように掲げられたせいで、ナタを破壊しただけに留まる。
……甲殻だけじゃなく、行動も防御が固い!
充填時間が短いからとランク1魔法にしたのも失敗だったな。ナタが守ったのは目だけなので、そこ以外の当たっていたのだが、甲殻が削れただけである。防御自慢に対し、弱点属性とはいえランク1魔法1発では威力が足りなかったようだ。
……いや、アイディアはある。硬い敵への定番とも言える手が。
背中の方からは、ガンガンと殴り合う音が聞こえる。ベルンヴァルトも、硬い甲殻に苦戦しているようだ。レスミアは音もしないので分からないが、向こうも苦戦しているなら手伝っているに違いない。
ほぼ初見の魔物なので、攻略法が見つかるまでは、こんなものだ。新たな攻撃方法を模索するべく、槍の穂先に魔法陣を灯した。
片手になったサソリは、攻撃範囲が大分狭まっている。しかし、それを補うかのように、尻尾の攻撃頻度が上がっており、少しでも間合いに踏み込むと攻撃が飛んできた。
その為、魔法陣が完成するまでは牽制するに止め、残ったナタの根本を攻撃して削り取る。
3度の攻防の末に、残ったナタを破壊した。魔法陣の充填も完了済み。守りの無くなったサソリの正面に踏み込んだ。
間合いに入った俺を突き殺そうと、尻尾が突き出される。それを、槍で掬い上げるように斬り上げた。切れはしなくとも、尻尾を弾き飛ばしたので、障害は全てクリア。そこに、魔法ではなくスキルを発動させる。
「〈稲妻突き〉!」
振り上げていた槍が、遠心力を活かすように突き出された。スキルで身体が自動で動き、最善手を打ってくれるのを活かした方法である。
そして、今度こそ深々と刺さった槍の穂先から、魔法を撃ち放つ。
「〈エアカッター〉!」
サソリの体内で風の刃が暴れ、内蔵をズタズタに引き裂いた……筈。見えないから分からないけど。
それでも、効果はあったようで、サソリは倒れて動かなくなった。
「ふぅ……外が硬いなら内側をってね」
強敵を倒した高揚感を一息吐いて抑えると、ベルンヴァルト達の方へと向かった。
然程離れていないので、戦況はよく見える。ベルンヴァルトがサソリと相対しながら、大鋏を殴り付けて破壊したところだった。尻尾もなく、8本ある脚も片側が全て切られ落ちている。こっちはレスミアの〈不意打ち〉だな。
「〈二連撃〉!」
飢餓の重棍がサソリの頭を捉えた。それと同時に、スキルで追撃する。俺も偶に使う〈二段斬り〉を使った三段斬りの、打撃バージョンだな。
3連続で殴られたサソリは、流石に耐えきれなかったのか、グシャリと頭が潰れて動かなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます