第277話 レアショップでお買い物

 お金稼ぎに勤しんだ翌日、朝の営業を終えてから、ダンジョンメンバーだけでギルドのレアショップを訪れた。メインの目的は携帯クーラーこと魔道具『涼やかな北風』の購入である。

 ただ、俺は少し迷っていた。


 ……人数分3個買うべきか、節約して2個にするべきか。


 いや、昨日寝る前に気付いてしまったのだ。俺には熱を無効化する特殊武器、ブラストナックルが有った事を。

 アビリティポイントを15使い、50万円分節約するか……迷う。


「も~、悩むなら買ったほうが良いですよ」

「ここで武具を買うと、有料で付与術を掛けてもらえるんだ。掘り出し物があれば、そっちの方が良いかも知れないだろ?」

「俺は一昨日買って貰ったから、遠慮しとくぜ。それに、金なら又稼げばいいじゃねぇか? アリンコ共の3セット分くらいだろ」


 昔からフリーマーケットとか好きだったせいもあり、掘り出し物という言葉に弱い。ゲームでも、掘り出し物を売りに出す商店には、毎回立ち寄っていた。なので、掘り出し物を見てから決めたいと、2人にお願いすると、渋々了承してくれた。


「ま、財布を握っているのはリーダーなんだ。見るくらい良いんじゃねぇか?」

「仕方がありませんねぇ。先に砂漠用のマントと、その掘り出し物を見に行きましょう」


 レスミアに引っ張られて行く途中で、店員さんが接客に来てくれた。前回お世話になった巨乳の受付嬢だ。俺と目が合うと、ニコリと営業スマイルを浮かべ、隣のレスミアに目を移すと、更に口角を上げた。


「いらっしゃいませ。『白銀にゃんこ』のレスミア様。そして、ザックス工房のザックス様。今日はデートでいらっしゃいますか?

 女性向けのアクセサリーも、少量ながら御座いますよ」


「わわっ! ええーっと、今日は残念ながら違いますよ。砂漠フィールド用のお買い物です。

 それと、もしかしてウチのお客さんでした?」


 レスミアが店名に恥ずかしがりながら聞き返すと、店員さんは何かを思い出すように頬に手を当てた。


「ええ、一昨日の開店に行きましたよ。まさか、伯爵令嬢が挨拶に来るなんて、驚きました。

 あの美しい髪にドレス……女のわたしでも、見惚れてしまったもの」


 お嬢様のサプライズだったとは言えないので、黙っておいた。

 そして、店員さんは開店当日に、お菓子を箱買いしてくれたらしい。お菓子は職場で仲の良い同僚に分けて、挨拶の様子を広めたそうだ。


 ……成程、あの場にいたお客さんが、こんな風に口コミで広めてくれたのだろう。昨日も今朝も、売れ行きが落ちていないは、そのお陰に違いない。


「お菓子もお手頃な値段にも関わらず、美味しいですからね。直ぐに評判になると思いますわ。

 そうそう、納品依頼のような、ケーキは販売しないのですか? 生クリームをたっぷり使ったロールケーキが好みですの」

「日持ちしない生菓子については、検討中です。店が存続出来るほど、需要があるのか分かりませんから。

 多くのお客様に恵まれ、望まれるならば、扱う商品も増やしていきたいところです」


 それに、肝心の冷蔵庫が無い。俺のストレージなら兎も角、ベアトリスちゃんとフロヴィナちゃんのアイテムボックスでは、傷んでしまう可能性があるからだ。

 まぁ、設備不足は店員さんには、ナイショだけどな。


 今慌てて準備したところで、店に閑古鳥が鳴くようならば、無駄になってしまう。店で稼いだ利益だけで、冷蔵の魔道具を買おうとサポートメンバーには相談済みである。



 そんな雑談をした後に、砂漠用の外套売り場へ案内してもらった。俺は既に購入済みなので、ベルンヴァルトに外套選びのアドバイスをしたところ、特に迷う事もなく選んだ。真っ黒な袖付きのコートみたいなやつである。身長が2m以上なので、着られるサイズが少なかったせいだな。


 逆にレスミアは種類が多すぎて、アレコレと羽織ってみては迷っていた。貴族女性も探索者にいるせいか、黒以外のお洒落な外套も多いからだ。


「う~ん、悩みますねぇ。日差しを遮るのには、黒の方が良いと言っても、地味ですし」

「レスミアの場合、〈宵闇の帳〉を使うなら、何色でも構わないんじゃないか?」


 暗幕に包まれるならば、光も通らない。そう指摘すると、レスミアは破顔して他の色を試着し始めた。

 こうなると、女性の買い物は長くなる。まだ時間が掛かりそうなので、レスミアに一声掛けてから、武具コーナーの掘り出し物を見に行くことにした。


「前回お見えになられた際の目玉商品、『土のレイピア』は、既に売れてしまいました。

 しかし、ザックス工房長は運が良いですね。丁度、新商品が入荷しております」


 土のレイピアは、確かお値段200万円。どの道、手持ちじゃ買えないので惜しくはない。新しい目玉商品もあるというので、案内してもらった。それは、武具コーナーの一番奥、ガラスケースに飾られた大きな剣である。ツヴェルグ工房の様な華美な装飾は無く、無骨なまでに実用品といった感じで、目玉っぽくは無い。


「こちらが目玉のスキルが2つ付与されたツヴァイハンダーです。精神力アップで魔法に対して強くなり、敏捷値アップで動きが早くなると、有用なスキルばかり!

 お値段は、なんと! 600万円です!」


「600万……って、高っ! 錬金釜が買えるぞ?!」

「あー、俺の飢餓の重棍6本分か……まぁ、使えるスキルじゃなぁ」



【武具】【名称:シュネル・ツヴァイハンダー】【レア度:C】

・チタンだけでなく、芯材として黒魔鉄が使われた大剣。2mもの大きさを誇り、幅広な刃も相まって、かなりの重量物ではあるが、チタン製と付与スキルのお陰で素早く振るう事が出来る。特徴として、刀身の根本付近は刃が無く、ここを握る事でコンパクトに振る事も可能。黒魔鉄が使われているので、魔力の通りも良く、スキルも使いやすい逸品。

・付与スキル〈精神増加小〉〈敏捷増加小〉



 俺の驚きが受けたのか、店員のお姉さんがクスリと笑う。


「第2ダンジョンでスキル2つの武具は本当に貴重ですからね。スキル1つの武具よりも5倍以上は高い値が付けられます」


 5倍以上とか値の上り幅が酷い……と、恐れおののいたところで、ふと気が付いた。そういえば、特殊武器にも沢山スキルが付与されていたな。レスミアのペンダントにチャームを2個付けても効果が無かった事も。

 そして、このツヴァイハンダーは、レア度Cでスキル2つ。そうすると……これを買うのは勿体ない。(元々買えないけど)


「あの、スキルが1つ付与されたレア度C武具を買った場合、付与の輝石を使った特殊加工……スキル付与をお願いする事は可能ですか?」

「……あら、ご存知でしたか?

 はい、スキル2つ付けられるのはレア度C以上なので、ウーツ鋼や黒魔鉄製と同等クラスの武具ならば可能ですよ。

 ただ、30層までしかない第2ダンジョンでは、レア度Cは殆ど無いのが現状です。どうしても御入用であれば、第1支部のショップへ足を運んで頂いた方が宜しいかと存じます」


 黒魔鉄が産出するのが31層以上らしいので、このシュネル・ツヴァイハンダーはかなり珍しいそうだ。手に入れたパーティーは、これを売ったお金で装備を整え、第1ダンジョンへ移って行ったらしい。半額でも300万円。ウーツ鋼製の武具が4つは買えるからな。



 結局、買うのを諦めて外套売り場へ戻ると、レスミアの方も決まったようだ。試着した白いマントを摘み、広げて見せてくれる。裏地が黒になっているリバーシブル仕立てで、フードに袖付き、各部に簡単な刺繍も施されており、ゆったりした感じのシスターのよう。


「どうですか? 中々、可愛いですよね」


 内側でクーラーの風を通すため、少し大き目なのがまた可愛い。そんな感じに褒めると、照れくさそうに喜んでくれた。

 俺のと比べると値段が倍もするが、この笑顔が見られるなら安い安い。涼やかな北風3個も一緒に購入した。


 ……いや安くはないな、計153万円は。必要経費だけど。

 涼やかな北風は第1ダンジョンでも必要になると、店員さんに勧められた。うむ、俺が悩んだ意味はなかったな。


  取り敢えず、必須の買い物は済んだが、昨日稼いだお陰でまだちょっとは余裕がある。折角なので何か買っていこう。


「あぁ、そうだ。盲目や魔封といった状態異常を治せる薬品は売っていますか?」

「はい、勿論で御座います。赤いサボテンが使うマジックダイスの実は、厄介と聞きますから、一通り揃える事をお勧め致しますわ。

 それと、砂漠フィードでは麻痺毒を使う魔物が出ます。抗麻痺剤は多めに用意されたほうが良いですよ」


 そう言って、取り揃えてくれた。

 解毒薬、抗麻痺剤、饒舌飴、ヴァルムドリンク、千眼孔雀の目薬、解封の飴玉、解氷粉末。

 この内、ヴァルムドリンクは薬瓶に入った低用量タイプだ。その分、寒さや暑さを抑える効果時間は短くなるが、状態異常を治すには十分らしい。水筒竹サイズのヴァルムドリンクは1万5千円もするが、低用量タイプは5千円。ちょっとサイフに優しい。



【薬品】【名称:千眼孔雀の目薬】【レア度:C】

・状態異常の盲目を治す薬品。事前に飲んでも効果はないので、状態異常になった場合のみ服用しよう。

・錬金術で作成(レシピ:千眼孔雀の羽+ホズルブライト+ポーション+薬瓶)



「あの、コレ、目薬なのに飲むんですか?」


 鑑定文に信じ難い事が書かれていたので、店員さんに聞いてみると、頬に手を当て、首を傾げられた。


「目に効くお薬ですから、飲むのが普通ですよね?」


 まぁ確かに、盲目の状態異常は〈ライトボール〉を喰らった結果であり、目に何かが入った訳でも無い。目を洗う必要は無いのか。薬瓶に入っているので、点眼するのには適さないし。



【薬品】【名称:解封の飴玉】【レア度:B】

・魔封の状態異常を解除する。単体では消費MPが多く、扱い難いカーバンクルの飴玉を、誰でも使えるようにした。

・錬金術で作成(レシピ:カーバンクル飴+魔結晶+魔糖結晶)



 レア度Bなせいか、3粒入って3万円。かなりお高い飴玉である。抗麻痺剤や饒舌飴は一袋に10粒程入って1万円以下なのに……。そして、レシピに有名なモンスターの名前が入っていて気になる。


「材料が街の外からの輸入なので高いそうです。魔封じの状態異常を使う魔物は、第2ダンジョンにはいませんから、それほど数は要りませんよ」

「飴玉ですか……このお値段だと、どんな味なのか気になりますね。お菓子に使えると良いのですけど」


 レスミアが興味を示したが、流石に高級品なので遠慮してもらった。自分達で採取できる素材ならいざ知らず、輸入品(カーバンクル飴)では採算が取れない。



【薬品】【名称:解氷粉末】【レア度:C】

・ザゼンソウの粉末。粉末にすることで、凍結の状態異常に効果がある。振りかけると身体や服、装備品の凍結を解除する。ただし、重度の凍結、身体が冷えるのには効果が薄い



 所謂、融雪剤みたいなものか。状態異常の凍結には効かないものの、副次効果で凍り付いた物を溶かせるのは良い。凍り付くと予想以上に動けないからな。


 取り敢えず、手持ちにない物は1セットずつ購入した。

 すると、店員さんが別の魔道具を持って、売り込みを掛けてくる。沢山買い込むので、良客とみられたか、カモに思われたか、どっちだろう。


「27層の砂漠フィードであれば、こちらの魔道具は如何ですか? 魔法使い用にマナポーションもご入用ですよね?」



【魔道具】【名称:爆音玉】【レア度:D】

・魔力を注いでから数秒後に、大きな破裂音を鳴らす。音が苦手な魔物に使うと、一時的なスタンを取れる。また、注意を引きたい場合にも良い。

・錬金術で作成(レシピ:破裂の実+松脂+燃石炭)



 図書室の本に書いてあった魔道具だ。砂の中を泳ぐ魔物を地上に引きずり上げるらしい。ただ、魔道具な為、値段が1個8千円とそこそこ高い。『ボッタクリの錬金術師め!』と愚痴が書かれていた。

 まぁ、27層だけとはいえ、魔物とエンカウントする毎に使っていては、赤字は免れない。素材が手持ちにあるので、有用ならレシピを購入しても良いかもな。


 保険として、3個ずつ購入した。


 因みに、一昨日錬金術師協会へいった際に確認したのだが、マナポーションのレシピは高くて買えなかった。レシピ代なんと500万円。法外過ぎる。マナポーション1瓶で5万円もするのはレシピ代が高いせいか、それともマナポーションが高いのでレシピが高くなったのか。

 鶏と卵……どちらにせよ、気軽に買える物ではなかったよ。



 こうして170万円ほど散財して、レアショップを後にした。

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