第276話 砂漠フィールド

 長い長い滑り台を滑り落ちると、終点はジャンプ台のように途切れていた。そこから射出されるように飛び出すと、一面の青空とエジプトのような砂原が広がっている。

 ただ、景色を楽しめた時間は少ない。浮遊感を感じたのも束の間、砂場に落下し始めた。


 一緒に放り出されたレスミアが、宙返りして態勢を整えたのが見える。俺も〈フェザーステップ〉のお陰で、何とか態勢を整え、着地と同時に受け身で転がった。


 ……下が砂でセーフ。砂場に転がり落ちて、砂が盛大に舞い上がっているけど。


「ゴホッ、ゴホッ! みんな無事か!」

「砂だらけですけど、平気です~」

「こっちも怪我はねぇけどよ。階段に罠とか、卑怯じゃねぇか?」


 少し前に、ベルンヴァルトが砂まみれで転がっていた。汗だらけのところに砂を浴びたので、張り付いて気持ち悪い。特殊アビリティを入れ替えて〈ライトクリーニング〉を掛けた。



 砂場だったのは、スライダーの出口周りのみで、更に周辺は荒野となっている。それもその筈、遠くに砂丘らしき丘が見えるが、それはフィード階層の中心のみ。

 地図によると、砂漠なのは全体の半分ほど。真ん中が砂漠で、外周部は石や瓦礫があるだけの荒野なのだとか。

 そして、青空の向こうには、燦々と輝く太陽が、大地を照り付けていた。いや、ダンジョンなので、太陽みたいな光の玉だろうけど。


 因みに、ステップスライダーは元の石階段に戻っていた。一度作動したので、あの罠は消えているはずだが、罠はリポップする。登っている途中で、あの罠に掛かったら、それこそコントでは済まなくなりそうだ。この階層で死者が出ると聞いているが、案外この罠に掛かって、逃げられなくなったパーティーだったりして……



「あっつい~。日焼けどころか、火傷しそうです~」


 周囲には日陰になりそうな物も無いので、俺の背中に隠れるレスミアだが、焼け石に水だろう。ダンジョンにしては珍しく風も吹いているが、熱風でしかない。

 遠くに大きなサボテンが見えるけど、暴れ緋牡丹だよなぁ。倒したら消えるので、日陰にもならない。


「〈ストーンウォール〉!」


 石壁を作ってみたが、太陽が高いので影が少なかった。壁際に寄れば影に入れるけど、壁自体が熱くなってきて、長時間隠れるのは無理そうだ。


「そうだ! ザックス様、闇猫に変えて下さい!」


 いい加減、我慢の限界に達しそうな時、レスミアが何かを閃いたようだ。要望通りにジョブを、入れ替えると、


「〈宵闇の帳〉!

 ふぅ……日差しが無くなっただけでも、マシになりました~」


 黒い靄に包まれて、太陽光を遮断したらしい。上手い使い方だ。闇に紛れるといった、本来の用途とは真逆だけどな。炎天下の中、ポツンと暗幕があるのはかえって目立つ。


 それを見て砂漠用の黒い外套を買っていた事を思い出した。ストレージから取り出し、羽織ってみると、確かに日差しが無いだけマシになった。

 ただ、時間が立つと熱気が籠もってヤバイ。身体を冷やすフリッシュドリンクが飲みたくなるけれど、今日は様子見なので、我慢我慢。


「あ~、でも空気が暑いから汗は止まりませんねぇ。結局、暑いです!」


 黒い靄がふらふらと揺れる。そろそろ限界のようだ。石壁の日陰に隠れようとしているが、身体のデカさではみ出ているベルンヴァルトも、暑そうに項垂れている。

 そんなベルンヴァルトが顔を上げると、左胸のブローチを指差し、怨めしそうに言った。


「お前等だけ、狡くないか? 俺はこの灼躍のブローチしかねぇのに……しかもこれ、着けてても、外しても、あんま変わんねぇ……もう無理だ。早く出ようぜ」


 灼躍のレアドロップから作った『灼躍花のピンブローチ』には〈火属性耐性 微小〉が付いているが、微小アップでは、焼石に水のよう。確か、レスミアも装備している筈だけど、普通に暑そうである。

 俺も我慢の限界だ。確かに死者が出るフィード階層というのは本当のよう。〈ゲート〉のスキルを使用して、脱出した。



 結局、砂漠のフィード階層に居たのは15分程であったが、過酷な環境だと十分に理解できた。露出していた顔が日焼けしたのかヒリヒリするし、グローブやブーツにも汗が溜まるほど。

 全員に〈ライトクリーニング〉だけでなく〈ヒール〉も掛けて日焼けを治す。そして、水分補給をするついでに、早めの昼食にした。




 午後からは、15層のアリンコ鉱山から鉱石を乱獲した。新調した飢餓の重棍の威力は凄まじく、ホームランを連発するので、ちょっと蟻さんが可哀想に見えたほど。そして、単純作業に飽きたら25層にも採取へ出かける。

 そんな調子で、夕方までお金稼ぎに勤しんだ。


 帰宅したあとで報告された話だが、今日も店は繁盛したらしい。売上も初日と同じくらいであり、午後のお客も増えて来たそうだ。バフお菓子を箱買いする人も出てきたようで、なによりである。




 今日1日のレベル変動は以下の通り。

 ・基礎レベル28

 ・重戦士レベル20→24    ・軽戦士レベル20→24

 ・司祭レベル20→23     ・トレジャーハンターレベル20→24

 ・付与術師レベル23→25   ・採掘師レベル23→25

 ・植物採取師レベル23→25  ・料理人レベル22→24 



 採取をメインにしていた為、あまりレベルアップはしていない。ロックアントは数を倒しても、レベルが低すぎて経験値になっていないからな。

 ともあれ、付与術師レベル25で2つ新スキルを覚えた。



【スキル】【名称:付与術・精神力】【アクティブ】

・短時間の間、対象の精神力を一段階上げる。



 これで、ステータスを強化する付与術をコンプリートした……らしい。錬金術師協会の売店で売っているエンチャントストーンの種類だと、筋力値、耐久値、敏捷値、器用値、知力値、精神力の6種類しかないからだ。幸運値とHP、MPを強化する付与術は無いっぽい。

 足りないステータスを補強するには付与術は欠かせないが、単体にしか掛けられないので手間が掛かる。ボチボチ、範囲化しないものだろうか。



【スキル】【名称:クリエイト・エンチャントストーン】【アクティブ】

・魔水晶に自身の付与術を込める。ただし、込めた付与術は少し劣化してしまう。

 使用する際は、〈クリエイト・エンチャントストーン〉に続いて、作成したい付与術を連続使用すること。



 エンチャントストーンが自作出来るようになった。付与術が使えるので、あまり意味がないような……店で売れるか?

 でも、錬金術師協会でも売れてなかったよな……


「〈クリエイト・エンチャントストーン〉〈付与術・敏捷〉!」


 実際に使ってみると、魔水晶が緑の光を放った。次の瞬間には、半透明な六角柱だった魔水晶が、緑色の四角柱に変化している。



【魔道具】【名称:エンチャントストーン(敏捷値)】【レア度:C】

・魔力を込めると、内包された付与魔法が発動し、敏捷値が一時的に上昇する。使い捨て。



 赤い四角柱がエンチャントストーン(筋力値)だったので、敏捷値は緑色=風属性と言う事だろう。この辺は学園の教科書に『属性とステータスと色の関係性』として載っていた。魔法陣の色も同じなので、勉強する前になんとなく知っていた事柄である。

 取り敢えず、各種5個ずつ作成しておいた。店頭に並べてみて、売れなければ自分達で使えばいいや。



 そして、採掘師も2つスキルを覚えていた。一つは〈潜伏迷彩〉なので、割愛。



【スキル】【名称:サーチ・ボナンザ】【アクティブ】

・術者周辺の地面に埋まっている鉱石を探査する。

 マナが濃い場所、及び深く埋まっている程に良い鉱石が眠っている。



 採取師の最後に覚えた〈サーチ・ストックポット〉とはちょっと違う。ストックポットは採取地やフィールド階層の採取物をサーチするスキルであるが、新しく覚えたボナンザは文面通りに埋まっている物を感知出来る。完全に隠れた物を探し当てる専用スキルのようだ。


 実際に、鉱物系の採取地で使ってみたところ、土山の無い地面から反応があった。そこを30㎝程掘り進めると、銀鉱石が1個埋まっているのを発見。確かに、土山から採取したも銀鉱石と比べると、表面に浮き出ている銀の量が明らかに多い。鑑定文にあった『良い鉱石』とは、埋蔵量の事を指すようだ。


 お宝探し的なスキルで、使うと楽しい。ツルハシで掘り出すのは面倒だけどな。結局、聖剣クラウソラスで切り出すのが早い。偶に鉱石ごと切ってしまうが……まぁ、自分で使う分には問題ない。


 覚えてから、ちょくちょく使ってみたところ、帰るまでに見つかったのは3個のみ。基本的に見つからない方が多い。ゲームならマップの端から端まで掛けて回るけれど、リアルでやるには手間が掛かり過ぎる。大部屋だとか、何か目星を見つけた時とかにしておかないと、切りがないな。



 植物採取師レベル25でも〈潜伏迷彩〉を覚えた。これで採取師から発生したセカンドクラスは全部習得したことになる。戦闘力の無い採取師系では、必須なのだろう。パーティーを組んでいても、魔物の標的にならないようにするとか、ソロでこっそり採取地を巡るとか。



【スキル】【名称:野菜農家の手腕】【パッシブ】

・蔓草に実る野菜全般を〈自動収穫〉スキルの対象に加える。



 〈自動収穫〉の収穫対象がまた増えた。とは言え、現状の対象は、壁に沢山実っているプリンセス・エンドウくらいだ。あれ、大きいので〈自動収穫〉出来るのは助かる。条件が蔓草である為か、大根……もとい、解毒草の根はまたしても対象外。大根を引き抜いて収穫するのにも、慣れてきたから良いけど。

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