第275話 罠は忘れた頃にやってくる

「〈稲妻突き〉!」


 稲妻の如き速度で突き出したホーンソードは、地面に生えた乱れ緋牡丹を命中し、吹き飛ばす。初撃は〈リアクション芸人〉でダメージを無効化されるのは織り込み済みだ。スキル後の硬直で動けないまま、乱れ緋牡丹を観察すると、派手に吹き飛んではいるが、倒れたままピクピクしているだけで起き上がる様子はない。

 念のため、〈詳細鑑定〉を掛けてみると、乱れ緋牡丹の名前の横に雷マークが付いていた。


 ……よし! ダメージは無効化されても、状態異常には掛かる!

 思惑通りに麻痺が効いたようだ。軽戦士レベル15で覚えたスキルの効果だった。



【スキル】【名称:稲妻突き】【アクティブ】

・稲妻の如き速さで突き攻撃を行い、貫いた敵を低確率で麻痺の状態異常にする。

 攻撃の際、雷属性を持つ武器、もしくは〈付与術・雷属性〉が掛けられている場合のみ、中確率で麻痺にする。



 俺の愛用しているホーンソードには〈雷〉があるので、麻痺にする確率が上がっている。それを見込んで、乱れ緋牡丹が地面に生えたまま残していたという訳だ。残念ながら、スキル自体には雷属性は無いようだけど、ホーンソードを使っている分には問題ないだろう。

 スキル後の硬直も解け、乱れ緋牡丹に止めを刺そうとした時、後ろからベルンヴァルトの声が聞こえた。


「リーダー、振り回しが行くぞ! 前に避けろ!」


 俺だけが先行していたせいで、まだベルンヴァルトは暴れ緋牡丹の相手を出来ていない。チラリと後ろを見ると、太い腕サボテンが大きく振られているのが見えた。しかし、それも当たらなければ、どうと言う事もない。ましてやサボテンは動けないので、腕の射程から逃れるだけで充分である。新スキルの〈フェザーステップ〉があれば、楽に回避出来るからな。



【スキル】【名称:フェザーステップ】【パッシブ】

・羽の様な軽やかな足取りで、足運び全般に補正が付く。体幹が強化され、バランスを崩し難くなり、思い通りに身体を動かす事が出来るようになる。



 恐らく、レスミアの狩猫系の持っている〈猫体術〉に近いスキルだと思う。飛んだり跳ねたりすると、補正が効いているのが良く分かるのだ。更に、今は重戦士もセットしているため〈装備重量軽減〉で筋力値が上がり、装備が軽く感じる。この二つのスキルの相乗効果により、自分でも驚くほどに身体が軽い。

 軽い足取りでステップを踏み、ギリギリを見極めて回避する。すると、右腕が勝手に動いて、近くを通過する腕サボテンを横一文字に切りつけた。勝手にカウンターをしてしまったが、これもパッシブスキルである。



【スキル】【名称:カウンター】【パッシブ】

・敵の攻撃を躱す、もしくは受け止めた際に中確率で自動発動し、反撃する。

 ただし、反撃する隙を術者が認識している必要がある。



 要は、カウンター出来そうだなと考えると、身体が勝手に動いてくれるのである。自力でもカウンターは出来るけれど、このスキルはその時に最善の身体運びで動いでくれるため、非常に参考になると思う。しかも、パッシブスキルなので、カウンター後に硬直もない。それに、他人からしたら、スキルとか関係無しに格好良くカウンターを決めたように見える(重要)。


 カウンターの一閃は、腕を切りつけただけであったが、暴れ緋牡丹の注意を引くのには十分だったようだ。身体のサボテンを捩り、腕を振り上げる。腕サボテンの射程ギリギリに居るので、カウンターの練習にはなるが……反対側からベルンヴァルトが走って来ているのが見えた。

 新しく買った飢餓の重棍を構えているので、任せるか。元より暴れ緋牡丹はベルンヴァルトの担当なので、横取りは良くない。


 バックステップでその場を離れると、ベルンヴァルトの声が響いた。


「〈疾風突き〉!」


 巨体が急加速し、間合いを一気に詰める。そして、そのままの勢いで、飢餓の重棍が胴体サボテンの根本まで突き刺さった。重棍の先端も尖っているので、サボテン程度は易々と喰い破ったようだ。

 そして、重棍を喰い込ませたまま、右手が光る。


「〈旋風撃〉!」


 横に薙ぎ払う一撃で、胴体サボテンがへし折れて倒れ込み、追撃の叩き下ろしが、弱点の頭部を叩き潰した。



【スキル】【名称:疾風突き】【アクティブ】

・風の如く、素早い踏み込みで突き攻撃を行う。スキル後の隙が少なく、移動にも使える。



 つい先ほど似たようなスキルを使ったデジャヴ感があるが、微妙に違う。〈稲妻突き〉と違って状態異常は発生しない代わりに、スキル後の硬直が殆ど無いらしい。

 取り敢えず、足元に転がったままの、麻痺した乱れ緋牡丹に止めを刺し、戦闘を終了させた。




 ドロップ品はダイスの実1袋に、ダイスマジックの実1袋、破裂の実と、レアが2つも手に入った。レアドロップの確率が増えるという、トレジャーハンターの〈ドロップアップ〉の効果かも知れない。本来なら、喜ばしい事なのだけど、ウチのレスミアさんは眉をひそめていた。


「う~ん、ダイスの実は1袋だけですかぁ……そのまま食べても、カレー粉にしても美味しいから、もっと欲しいのに」

「それなら、〈ドロップアップ〉を無効化しておくか?」

「ええと、無効化なんてありましたっけ?」


 首を傾げるレスミアにOFFの仕方を教えてあげた。とは言っても、ステータス画面の装備中スキル一覧に、ON/OFFボタンが増えているので、切り替えるだけだ。

 そのついでに、俺のジョブも増やして料理人をセットする。〈食材調達〉の効果で、食材のドロップ率が倍になるので、更に手に入りやすくなるだろう。流石にレスミアのジョブを料理人にすると、戦力がガタ落ちしてしまうので、俺がセットするしかない。まぁ、経験値増の倍率は減るけど、レスミアが喜ぶ方が重要だ。


「しっかし、さっきのリーダーの動き、凄かったな。レスミアみたいに跳ね回ってたぜ!」

「伊達に軽戦士って名前じゃないよな。自分でも〈フェザーステップ〉の効果には驚いたよ」



【ジョブ】【名称:軽戦士】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv25以上、軽量武器を使用し、レベルを3上げる。

・前衛系の中でも機動力を重視した遊撃担当。遠中距離では弓、近距離では刺突剣のスキルを覚え、敵を翻弄する。ただし、耐久値は変わらず、重厚な装備は動きを妨げてしまい向かない。敏捷値を生かすため軽装を心がけて、遠距離攻撃か一撃離脱に徹しよう。


 ・ステータスアップ:HP中↑【NEW】、筋力値中↑、耐久値中↑、敏捷値中↑【NEW】

・初期スキル:戦士スキル、弓術の心得、フェイントの妙技

・習得スキル

 Lv 5:カウンター【NEW】

 Lv 10:敏捷値中↑【NEW】

 Lv 15:稲妻突き【NEW】、フェザーステップ【NEW】

 Lv 20:HP中↑【NEW】、ツインアロー【NEW】



 ステータス補正の敏捷値も中に上がり、名前に相応しい軽快な戦士となった。トレジャーハンターと同じく弓技の〈ツインアロー〉も覚えたが、俺としては使う気になれないので、放置だな。


「ヴァルトの〈疾風突き〉だったか? あれも良さそうな技だよな。

 連打したら、走るのより早く移動できないか?」

「あのスキル、早いんだが、急に加速するだろ? それが慣れなくて、頭が混乱するぜ。もう少し使い込んで慣れねぇとな。

 それに、魔力を貯める必要があるから、連続は使えんだろ」


 武器を使うアクティブスキルの場合、手に魔力を集めて発動すると、必要分の魔力が消費される。余剰分は手に集まったままなのだが、ベルンヴァルトはその集め方が足りないようだ。

 普段からスキルを使う手とか足に集めておく癖を付けておくと、無駄なく連打出来るのにな。特に両手に集めておくと、左右で使い分けが出来るので勧めたら、何故か怪訝な顔をされてしまった。


【ジョブ】【名称:鬼徒士かち】【ランク:2nd】解放条件:鬼足軽Lv25以上、集魂玉を50回以上使用する。

・前衛系の鬼族限定ジョブ。専用スキル〈集魂玉〉が強化され、強力な魂玉スキルを多数習得する。その分〈集魂玉〉の消費も増えるため、優先して魔物の止めを刺すようにしなければ、攻め手が止まってしまう。

 耐久値が低いのは相変わらず。攻撃は最大の防御、ダメージが増える前に敵を粉砕しよう。


・ステータスアップ:HP中↑【NEW】、筋力値中↑、敏捷値中↑、器用値中↑【NEW】

・初期スキル:鬼足軽スキル、集魂玉強化、集魂玉解放

・習得スキル

 Lv 5:受け流し

 Lv 10:器用値中↑【NEW】

 Lv 15:疾風突き【NEW】、魂ノ戒メ【NEW】

 Lv 20:HP中↑【NEW】



 〈受け流し〉は戦士ジョブで覚えたものと同じだ。重量武器を扱う鬼徒士は、武器で受け流すのではなく、グローブや手甲で受け流す事が多いのだとか。一昨日、クイックボクサーを片手であしらっていたのが思い出される。



【スキル】【名称:魂ノ戒メ】【パッシブ】

・集魂玉を所持している場合、対峙した魔物を畏怖させる。ただし、基礎レベルが相手以上であり、且つ集魂玉は元となった魔物と同種でなければならない



 効果がいまいち分からないスキルだ。いや、相手がサボテンだからね。畏怖させたところで、乱れ緋牡丹は普段から逃げ回るし、暴れ緋牡丹はその場から動かない。

 それに、発動条件からして格下用と思われる。レベルといい、同じ魔物から手に入れた集魂玉が必要とか、初見の相手には使えないし、ボス敵にも使えないだろう。





 その後も探索を続け、採取地を2箇所巡ってから、階段へ辿り着いた。

 いつもなら、階段部屋で小休止と行くのだが、この部屋で休む気にもなれない。何故なら、階段周辺の気温が上がっているのだ。


「うわぁ、下から熱気が登ってきますよ。暑そう……」

「27層は砂漠フィールドだからな。その熱気だろう」

「おいおい、ホントに行くのかよ? 何とかって魔道具を買ってからの方が、いいんじゃねぇか?」


 珍しくベルンヴァルトが弱気である。

 しかし、百聞は一見に如かずとも言う。50万円もする魔道具が本当に必要になるのか、実際に体験したほうが良いだろう。


 ……その方が、有り難みがあるからね。


「下の様子を見たら〈ゲート〉で脱出するよ。長居する気も無いし、魔物と接敵したら鑑定だけして逃げよう」


 そう言い含めておいて、階段を降り始めた。ベルンヴァルトを先頭にレスミアが続き、最後尾に俺だ。

 普段の階段と違い、少し狭い。2人並んで歩くとギリギリなので、一列に並んで降りていた。しかも、階段が急勾配で、長い。フィード階層なので、高い天井から地表まで何十m分の階段が続いているのだろう。


「暑いですねぇ。汗が溢れてきます~」

「湿度が無いだけ、サウナよりマシだけどな。後で〈ライトクリーニング〉するから、汗で濡れるのは我慢してくれ」


 レスミアはポーチから手拭いを取り出すと、顔の汗を拭き始めた。そして、俺の顔にも手を伸ばし、汗を拭いてくれる。狭い階段なので、折り重なるように歩くと、お互いの体温で暑い。ただ、手拭いからするレスミアの甘い香りに誘われて、離れる気は起きなかった。


「おおい! 遅いぞ! さっさと降りようぜ!」


 レスミアとイチャイチャしている間に、ベルンヴァルトに離されてしまったようだ。レスミアと顔を見合わせて苦笑する。そして、先を急ごうと……した矢先に、先を行くベルンヴァルトの足元に、赤いポップアップ【ステップスライダー】が出ていることに気が付いた。


「ヴァルト、ストップ! 足元に罠が!」


 静止の声は、ほんの少し間に合わなかった。ベルンヴァルトが振り返りながら足を降ろした所が、ポップアップの指す段だったのだ。

 次の瞬間、階段自体がガタンッと崩れ落ちる。レスミアが転びそうになるのを受け止め……きれずに俺も背中から倒れてしまった。

 そして、階段から滑り台に変形した坂道を、滑り落ちる。


「きゃああーーーー!!!」

「コントじゃねーんだぞ! 何だこの罠は!」


 滑り落ちる途中でポップアップが目に映る。



【罠】【名称:ステップスライダー】【アクティブ】

・スイッチを踏むと階段が変形し、滑り台となってパーティーを強制的に下の階へと落とす。罠が作動後に、盤面が滑りやすい素材に変わるため、留まる事は困難。


 手を突いても止まれないと思ったら、石段がフローリングのようなツルツルの素材に変わっている。繋ぎ目すら分からない程で、抗う術もなく、一直線に滑り落ちてしまった。

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