第263話、新興商人と司祭の新スキル

 20層を3周し、目標の新興商人レベル20を達成する事が出来た。その時間の殆どが、ショートカットを走っているか、ボス部屋前での順番待ち。休憩時間が短いせいで、フォルコ君が疲労困憊となっていたけれど、バフお菓子のお陰で何とか走り切った。戦闘時間が極端に短かったのも原因だろう。

 因みに、途中から静かになっていた籠入り娘の方は、クッションに埋もれて爆睡していた。繊細で怖がりなのか、図太いのか良く分からない娘だ。



【ジョブ】【名称:新興商人】【ランク:2nd】解放条件:商人Lv25以上、金貨を使った商いをする

・非戦闘職。売買をするたびに経験値が貰えるため、精力的に大きな商売をしよう。初期スキルである〈契約遵守〉は、大口契約の保障となるだけでなく、あらゆる契約に有効である為、為政者からも重宝される。目指せ、御用商人!


・ステータスアップ:MP小↑【NEW】、耐久値小↑、知力値小↑、敏捷値小↑、器用値小↑

・初期スキル:商人スキル、契約遵守

・習得スキル

 Lv 5:交渉術【NEW】、中級鑑定

 Lv 10:MP小↑【NEW】、大口取引の経験【NEW】

 Lv 15:礼儀作法の心得【NEW】

 Lv 20:鑑定図鑑閲覧【NEW】



【スキル】【名称:交渉術】【パッシブ】

・交渉相手に良い印象を与え、友好的に交渉を行い易くなる。ただし、一方的に利益を得るような交渉の場合、効果を失う。



 商人は口が上手い印象があったが、こんなスキルを持っていたのか。確かに、ムッツさんやフルナさんと交渉する時に険悪になったり、暴利を貪られたりした覚えはない……いや、フルナさんは錬金術師だった。銀鉱石とかの素材を買い取る交渉は、大抵俺が負けていたが、あれは年季が違うせいか。



【スキル】【名称:中級鑑定】【アクティブ】

・レア度Bまでを鑑定する



 村の英雄ジョブでも覚えているが、使った覚えはない。因みに、中級だと解説文が少し増えるが、こんな感じである。

【スキル】【名称:交渉術】【パッシブ】

・交渉相手に良い印象を与え、友好的に交渉を行い易くなる。


 〈詳細鑑定〉に比べると、但し書きが見えないが、名前しか見えない〈初級鑑定〉よりはマシだろう。



【スキル】【名称:大口取引の経験】【パッシブ】

・金貨をやり取りする商売をすると、獲得経験値が増加する。



 う~ん、ダンジョンに潜らない商人なら重要なのだろうけど、俺には必要なさそうだ。

 同時にステータスのMP補正が増加している。〈トランスポートゲート〉で、より遠くに、より沢山運べるようになるのだろう。



【スキル】【名称:礼儀作法の心得】【パッシブ】

・その場に適した礼儀作法に則り、行動する際に補正が掛かる。また、その場にそぐわない失言を、発言出来なくする。

 ただし、礼儀作法の知識が無ければ、効果は発動しない。



 フォルコ君から聞いていた事前情報の中で、欲しかったスキルその1だ。

 但し書きについて、「知識があれば、このスキル無しでもいいじゃん」と思うかもしれないが、それは間違いである。何故なら、知識があっても緊張で動けなくなったり、頭が真っ白になったりする事が多々あるからだ。ノートヘルム伯爵は礼儀作法に煩い人ではなかったが、ソフィアリーセ様と最初に会った時は緊張した。姫騎士には殴られたしな。

 貴族を目指すのに、付け焼刃の礼儀作法しか出来ていない俺にとって、良い補助輪になってくれるスキルだと思う。



【スキル】【名称:鑑定図鑑閲覧】【アクティブ】

・自身が鑑定、及び相場チェック、帳簿チェックした結果を、図鑑として見直すことが出来る。



 欲しかったスキルその2だ。

 今までは〈詳細鑑定〉しても、鑑定結果を消すと読み返す事は出来なかった。再度〈詳細鑑定〉するか、紙に写しておくしかない。そのため、魔物の鑑定文を写す時は、わざわざ画板を持ち込んで、その場でメモしていたのである。その手間が解消された。

 実際に使ってみたところ、視界に図鑑が表示され、読むことが出来た。PDFみたいな感じと言えば分かりやすいか?

 物理的な本の方が読みやすいのだが、贅沢は言わない。PDF図鑑が視界の大部分を塞ぐので、動きながら見るのは厳しい。拡大、縮小は出来るが、普通に本を読むように、座って読める場所で使えってことか。

 まぁ、この図鑑も映るので〈マニュリプト〉で、自動書き写し出来るのは良い。過去の鑑定結果も読み返せるので、会話をしながらカンペみたいに使えるかな? 

 ただし、PDFのようだと言っても、文字検索の機能は無い。ソート機能と、目次から大雑把な分類ごとに飛ぶことは出来るけど。




【ジョブ】【名称:司祭】【ランク:2nd】解放条件:僧侶Lv25以上、他者を20回以上治療する。

・位階が上がり、創造神の信仰を広げる僧侶。神へ魔力を捧げる事で回復の奇跡を授かる。各種状態異常を治し、他者を補助するスキルを習得する。打たれ弱いのは相変わらずなので、パーティーの後方で仲間を回復することに専念しよう。


・ステータスアップ:HP中↑【NEW】、MP中↑、知力値中↑【NEW】、精神力中↑

・初期スキル:僧侶スキル、ヒールサークル、充填速度小アップ

・習得スキル

 Lv 5:魔封耐性小↑【NEW】、ホーリーボール【NEW】

 Lv 10:HP中↑【NEW】

 Lv 15:ムスクルス【NEW】、マナドネ【NEW】

 Lv 20:知力値中↑【NEW】



 俺の司祭ジョブもレベル20になった。ステータス補正が『中』揃いであり、魔道士と似通った後衛ステであるが、HPだけ高いのは、回復役は倒れるなって事だろうか?

 どうせなら耐久値も上げてくれないと、耐えるのも厳しいだろうに。筋力値も耐久値も補正がない中で、前線に立っていたフノ―司祭はある意味凄い……確かレベルは32、そこら辺が壁なのだろう。


 魔道士と同じく〈魔封耐性小↑〉を覚えた。マジックユーザーが魔法(奇跡)を封じられたら、只のお荷物でしかないからな。保険だとしても、有るに越した事はない。



【スキル】【名称:ホーリーボール】【アクティブ】

・魔力の塊を打ち出し、誅罰を与える。全ての属性に等しく効果がある。



 ……要は無属性って事だろう。小難しく言い回しているが。

 実際に壁に向かって試し打ちしてみると、〈ツインアロー〉と同じく半透明のボールが射出された。弱点の突けないランク1単体魔法と同じだな。使い道はあるのだろうか? 

 なんて考えたが、複数ジョブを使える俺のおごりだと気付いた。僧侶、司祭は他に攻撃スキルが無いので、この〈ホーリーボール〉が唯一の攻撃手段である。フノ―司祭のように前に出て殴り掛かるような人でもなければ、後衛からこれを撃つのが援護なのだろう。



【スキル】【名称:ムスクルス】【アクティブ】

・対象に闇の神の祝福を授け、一定時間攻撃力を上げる。



 これもフノ―司祭が使っていた。プラズマランスを振り回す為に、強化してもらったのを覚えている。そのフノ―司祭は呪文の詠唱みたいな神様への祈り文句を唱えていたが、実際に使ってみると魔法陣に充填して「〈ムスクルス〉」と言うだけで発動した。あれは教会のルールなのか、自作のポエムみたいなものか?



【スキル】【名称:マナドネ】【アクティブ】

・慈愛に満ちた光の女神の祝福により、自身の魔力を対象に分け与える。

 充填した魔法陣を対象に接触させることで、譲渡可能。出来るだけ心臓に近い方がよい。



 ……慈愛があるのは、この奇跡を使う術者の方ではないだろうか? 女神様関係なくない? 分け与える魔力は自前だぞ?

 なんて、教会関係者に言ったら殴られそう。

 ただの感想ですよ! 胸の内に留めて、メモにも残さないのでセーフ!


 ともあれ、帰宅後の話ではあるが、レスミアを対象に使ってみた。


「んんっ! あぁ、何か温かいのが流れ込んできますぅ。ちょっと気持ちいいかも……」

「うわ~、エッチィ~」「コホンッ! ザックス様、ここはリビングですので、お部屋に帰ってから……」

「肩だよ、肩! 〈マナドネ〉で魔力を譲渡しただけだって!」


 何故かメイドコンビが、テーブルの陰に隠れて覗き風に言うので、慌てて訂正した。一部始終を見ていたので、「「「アハハ! 冗談です」」だよ~」だそうだ、心臓に悪い。

 因みに、レスミアの反応も冗談だったらしい。実際は温かくはなるが、特に気持ちいい訳でもないそうだ。


「肩こりに〈ファーストエイド〉してもらった方が、よっぽど気持ち良いですよ」


 重いものをぶら下げているからな。偶に肩もみしながら〈ファーストエイド〉してあげる事がある。じんわりと気持ち良いそうだ。〈ヒール〉だと肩が軽くなるけど、気持ち良さは無いとか。

 〈マナドネ〉は自分に対しては使用できないので、メイドコンビにも順番に体験してもらったが、「あ~、ちょっとぬくい?」程度の反応だった。

 まぁ、気持ち良くなる魔法だったら、もっと悪用されているよな……




 帰宅すると、スパイシーな香りが出迎えてくれた。ダイスの実のハズレを使ったカレーに違いない。今日は果実酒を漬けると言っていたのに、もう終わらせて料理研究をしているのだろうか?

 一緒にクンクンと鼻を鳴らしていたレスミアも、気になって仕方がないという様子だ。


「昨日のスープの香りですよね? 私は着替えてからキッチン見に行きます!」

「俺も気になるな。着替えてから行くよ」

「ミーア~、疲れたから、甘いお菓子もよろしく~」

「はいはい、ヴィナも先に着替えよ。いくら浄化魔法で綺麗になったと言っても、その格好革のドレスじゃ寛げないでしょ」


 ふらつくフロヴィナちゃんの背中を押して、3階へと上がって行った。

 最後のボス周回で爆睡していたのは、疲れのせいもあったらしい。午前中は歩き通しで、図書室では野生の書痴の子守りをしてくれたからな。


 俺は自室で普段着に着替えた後、1階のリビングテーブルに軽めのお茶菓子を出しておいた。お茶は冷めてしまうので、湯沸かしの魔道具にポットをセットするだけにしておく。準備だけしておけば、降りてきた人が勝手に淹れるだろう。


 それに、女の子の着替えに時間が掛かるのは経験上知っている。先にキッチンを覗くとしよう。決して、お腹が空く香りに誘われた訳では無い。


 変に自己弁護しながらキッチンへ向かう。扉はキッチリと閉められているのに、香りが漏れていた。それはつまり……扉を開けて中に入ると、カレーの香りが充満していた。

 それもそのはず、幾つもあるコンロの魔道具全てに鍋が乗っていたのだ。小さい鍋が多いのは、それだけ色々試したのだろう。

 その一つの鍋を掻き回し、真剣な表情で味見をしているベアトリスちゃんがいた。

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