第258話 ダウンバーストと20までのレベリング

 ドロップ品と宝箱を回収して、次は20層へと向かった。

 こちらでも土手道をのんびり歩くのは変わらない。フロヴィナちゃんが腰を抜かして、おんぶ状態のままだからだ。怪我?人に、無理はさせられない。

 ただ、〈ヒール〉で治らず、別に痛くもないそうなので、精神的な物かも知れない。


「ヴィナ、そろそろ歩けるでしょ? 土手道に魔物は来ないから、自分で歩きなよ~」

「え~、セカンドなミーアは筋力値あるから、へ~きでしょう? ここは、やわやわだけどさ~」

「キャッ! 変なとこ揉まないで! 

 もう! 足を絡ませられるなら、立てるでしょ!!」


 おんぶ状態からレスミアの腰に足を絡め、降ろされないように抵抗していたようだが、本人も言ったように筋力値の差もあり、無理矢理降ろされていた。


「む~、ミーアはケチだな~。

 あ、手の開いているフォルコ君なら良いよね?」

「…………僕ですか?! だだだ、駄目ですよ!」


 フロヴィナちゃんは、むくれながらも自分の足で歩き始めたが、近くを歩いていたフォルコ君をロックオンした。

 しかし、当のフォルコ君は、後退り俺の陰に隠れる。


「恋人でも、婚約者でも無いのに、みだりに接触するものではありません! 年頃の女性が、はしたないですよ!」


 ……真面目か!

 スキンシップくらいは役得で良いような気もするが、口には出さない。レスミアと目が合い、にっこりと笑い掛けられたからだ。


 俺達も今朝はスキンシップをしたわけだが、婚約者だから良いですよ、の笑みなのか? それとも、他の女はいけませんよ、の笑みなのか? 他の意味があるのか……女心は難しい。

 取り敢えず、笑い返しておいた。正解は二人っきりのときに聞いてみよう。いや、これはこれで、機嫌を損ねるかな?



「おおい、カブトムシの甲殻、しまっといてくれ」


 ベルンヴァルトが下の小部屋から戻ってきた。この階層で登場するのは、オリーヴァルソンと、カブトムシことライノメタルビートル。オリーブオイル目当てにオリーヴァルソンだけの場合は、先客に狩られてしまっているが、混合やライノメタルビートルだけの小部屋は残っている。

 俺とベルンヴァルトは暇潰しとレベル上げを兼ねて、余り者の相手をしていたのだった。


 とはいえ、俺は上からランク4のジャベリン魔法を打ち下ろすだけ。残った魔物とドロップ品の回収はベルンヴァルトに任せていた。


 次の部屋を上から覗くと、ライノメタルビートル2匹のみ。そう言えば、試してみたいことがあった事を思い出した。魔法陣を充填しつつ、相談する。


「ヴァルト、次の1匹は飛んだところを〈ダウンバースト〉で撃墜できるか試したい。協力を頼めるか?」

「ん? ああ、昨日の風魔法か。良いぜ〈挑発〉して距離を取りゃ、飛ぶだろ。

 ククッ、間違っても俺の上に落とすなよ」


「任せろって。行くぞ!〈ウィンドジャベリン〉!」


 土手道から放った風の投槍は、下の小部屋に打ち下ろされ、片方のライノメタルビートルを貫き、標本へと変える。少し遅れて、土手を駆け下りたベルンヴァルトが小部屋に降り立った。


 その間に〈ダウンバースト〉の魔法陣に充填をする。単発魔法並のサイズなので、それ程時間は掛からずに充填を完了した。点滅魔法陣を動かし、小部屋のライノメタルビートルをロックオンする。


 後は飛ぶのを待つだけ。

 ライノメタルビートルは動きが鈍いので、遠距離の獲物相手には、空からの突進を多用する。なので、ベルンヴァルトがまともに戦わず、距離を取るように立ち回っていると……背中の甲殻が開き、半透明な羽が広げられると、耳障りな羽音を立てて飛び上がった。


 即座に撃ちたくなる衝動を堪えて、上昇が止まるまで飛び上がらせ、突進に移行する直前に……


「〈ダウンバースト〉!」


 直上の魔法陣から、暴風が吹き降ろされる。その直後、ライノメタルビートルが突然、勢い良く落下し、地面に激突……いや、地面にめり込んだ。

 その様子は、風に煽られて自由落下、なんて生易しいものではない。まるで、見えないで殴られたかのよう。それを裏付けるかの如く、地面にめり込み、全ての脚がもげたライノメタルビートルは動いていない。見えてはいないが、弱点である柔らかい腹も潰れたのだろう。


 ……魔法陣の大きさに対して、威力が高い気がする。飛んでいる魔物にしか効かないせいか? 飛ぶ敵に特攻とか?



 そして、ついでに〈ベリィ・ピット〉試してみた。ライノセラスビートルは土属性であり、ダメージを半減されてしまうが、適当な相手が居ないのでしょうがない。ここの第2ダンジョンでは土属性が弱点の魔物が居ないのだ。

 充填が完了した時点で、点滅魔法陣を動かす。魔物の足元にも張れるので、罠とは言い難い気もするけれど……取り敢えず、発動させた。


「〈ベリィ・ピット〉!」


 点滅魔法陣が輝き、次の瞬間には大穴に変わった。足元が崩れるとかではなく、いきなり大穴になったのでは、羽をもつライノセラスビートルも避けられない。成す術も無く、落下していった。そして、その後を追うように、穴の上空にパッと土塊が現れ落下していく。土塊は寸分違わず大穴に嵌り、穴の底の獲物を圧し潰し……

 終わってみれば、ライノセラスビートルの分だけ土が盛り上がっている。見方によれば土葬でもしたかのようだ。


 ただ、もう一匹を倒したベルンヴァルトが壁際まで来て、怪訝そうに言う。


「なかなかドロップに変わらねぇな……もしかして、穴の底で生きてんのか?」

「ああ、〈敵影感知〉の反応があるから生きているな。同じ土属性だから倒し損ねたみたいだ……埋葬するには早すぎたってね。どうしよう?」


 土の下の反応は動かないので、ゾンビのように這い出てくる様子はない。カブトムシって地中でも生きられるのか? 幼虫は土の下で過ごすのは知っているが、成虫がどうかは知らない。そもそも魔物だしな。放置して良いが、窒息するとは限らないし、止めは刺しておきたい。


「上から俺の剣を突き立ててやろうか? 墓標みたいによ」

「あ~、いや、上から見た限りだと、穴が深くて届かないと思う……上から落ちてきた土塊も大きかったしなぁ」


 ベルンヴァルトとアレコレ相談したが、土の下まで届く攻撃なんて手札にあまりない。結局、〈ウインドジャベリン〉を真上から打ち下ろして、何とか反応が消えた。土山を貫通する程の威力があって、弱点の風属性……これしか思い浮かばなかったとも言う。

 面白かったのは、ドロップ品が墓標みたいな土山の上に出現した事だ。確かに、死体の有る穴の底にドロップ品が出ても回収できないので、上に出てくるのが道理だろう。ただ、出てくる位置的にお供えにしか見えなかった。



 そして、ボスであるソディウムゴーレムは、今まで通り刻んで倒した。弱点且つ、結界で守れる〈ツナーミ〉を使ってみたくもあったが、非戦闘員が居るときに行う事ではない。水に触れると爆発したり、毒性の有る液体を出したり、煙を撒き散らすらしいからな。


 20層を3週したところで、フォルコ君の商人がレベル20、フロヴィナちゃんの職人がレベル20になった。


「あれ~? 熟練職人ってレベル15で成れるんじゃなかった? なんで20?」

「フォルコのついでってものあるけど、職人をレベル20まで上げると、耐久値とアイテムボックスの容量が増えるよ。

 容量は多い方が良いだろう?」

「わぁ、本当だ~。お引越しの時は入りきらなくて、ザックス君に持ってもらったもんね~」


 因みに、商人レベル20では、アイテムボックス中と〈品質管理〉を覚える。俺も持っているが、意味のないスキルである。



【スキル】【名称:品質管理】【パッシブ】

・アイテムボックス内の時間経過が遅くなる。



 どの程度、遅くなるのか分からないのは、いつもの〈詳細鑑定〉さんの仕様である。時間の止まるストレージがあるので、使ってもいない。


「それなら、存じております。大体、半分になるそうですよ。〈品質管理〉を覚えてようやく、遠出の行商が出来るようになりますから。それでなくとも、悪くなるものは何でもかんでもアイテムボックスで保管する商人は多いそうです。

 ああ、勿論、冷蔵品は別ですけど」


 休憩所で昼食を取りながら、新しいスキルについて話題に出すと、フォルコ君が教えてくれた。それもそうか、商品を長持ちさせるスキルなら、商人が欲しがらない訳がない。当然、検証もされているらしい。


 その他として、ベルンヴァルトの重戦士と、俺とレスミアのトレジャーハンターもレベル20まで上がり、ステータス補正が増えた。



【ジョブ】【名称:重戦士】【ランク:2nd】解放条件:戦士Lv25以上、重量武器を使用し、レベルを3上げる。

・前衛系の中でも盾役と物理攻撃役を兼ね備えたパーティーの要。〈装備重量軽減〉スキルで重厚な装備し、挑発系スキルで敵の注意を一身に引き受け、攻撃を受け止める。そして、重量武器にて敵を叩き潰す。魔法に弱いのは相変わらずなので、回復手段を忘れずに。


・ステータスアップ:HP中↑【NEW】、筋力値大↑【NEW】、耐久値中↑、敏捷値小↑

・初期スキル:戦士スキル、装備重量軽減

・習得スキル

Lv 5:シールドガード

Lv 10:HP中↑【NEW】

Lv 15:ヘイトリアクション【NEW】、衝撃浸透【NEW】

Lv 20:耐久値大↑【NEW】



【スキル】【名称:ヘイトリアクション】【アクティブ】

・スキル〈挑発〉の範囲版。対象を決めずに発動した場合、自身の周囲の敵の注意を引く。対象を決めた場合は、単体の〈挑発〉となる為、使い分けが出来る。スキル発動時は挑発すると言う意思を持って罵倒することで、効果時間が伸びる。音の聞こえない相手には効果無し。



 〈ヘイトリアクション〉はオルテゴさんが使っていたので、覚える事は知っていたが、使い分けの件は初耳だった。何故かというと、ベルンヴァルトのステータス画面から〈挑発〉が消えて、〈ヘイトリアクション〉に置き換わっていたせいだろう。傍から見たら同じ罵倒でも〈ヘイトリアクション〉一つで、単体と範囲を使い分ける必要があるようだ。



【スキル】【名称:衝撃浸透】【パッシブ】

・敵を打撃した際、衝撃力を増加させ、内部ダメージを増やす。



 そして、こちらは打撃武器の攻撃力アップだろう。今のところ、打撃じゃないと駄目という魔物は登場していないが、ここで覚えたと言う事は、近いうちに必要になるに違いない。新しい金砕棒の必要性が増したな。




【ジョブ】【名称:トレジャーハンター】【ランク:2nd】解放条件:スカウトLv25以上、宝箱を開ける(ボス部屋以外)。

・スカウトをさらにダンジョン踏破用に強化したジョブ。罠の看破に解除、魔物の位置や地図を表示、宝箱の鍵開けなど、ダンジョン攻略には欠かせないジョブ。

 ただし、戦闘力は低め。弓系スキルも覚えるが、習得は遅い。〈帰還ゲート〉を覚える関係上、いつでもダンジョンから脱出出来るよう、後方支援に留めた方が良い。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑【NEW】、敏捷値中↑、器用値中↑

・初期スキル:スカウトスキル、オートマッピング、ドロップアップ

・習得スキル

Lv 5:罠解除初級【NEW】

Lv 10:耐久値小↑【NEW】

Lv 15:罠看破中級【NEW】、ツインアロー【NEW】

Lv 20:麻痺耐性小アップ【NEW】



【スキル】【名称:罠解除初級】【アクティブ】

・近距離にある罠を対象に使用すると、罠を消去する。ただし、対象に選べるのは〈罠看破初級〉の範囲まで。



【スキル】【名称:罠看破中級】【パッシブ】

・60層までに登場する罠を見破る。



 罠解除は地味に嬉しい。罠が見えないベルンヴァルトには、その都度注意喚起する必要があり、戦闘区域内に罠があると、更に面倒。罠のない所に釣り出すか、罠を避けながら戦う必要があるからだ。ただ、同時に覚えた〈罠看破中級〉の範囲の罠は解除できないのがネックか。



【スキル】【名称:ツインアロー】【アクティブ】

・無属性の魔力矢を生成し、矢と共に同時発射する。



 これはローガンさんに見せてもらったスキルだ。半透明な魔力矢で同時攻撃するので、攻撃力アップが期待される。

 ここまでレスミアは、弓矢の攻撃力不足に嘆いていたけれど、これで少しは改善されるだろう。〈潜伏迷彩〉で姿を消して、弓版不意打ちの〈スナイプアロー〉と〈ツインアロー〉で、大ダメージ×2とかね。

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