第257話 都市防衛の義務と地雷

 2階の会議室に案内された。

 本来は通行証であるセカンド証を発行し、説明もまとめて受けるらしい。因みに、サポートメンバーの二人も一緒だ。話を聞くだけなら良いらしい。

 紙が2枚配られて、アメリーさんが説明を始めた。


「細々とした事も書いてありますが、主に指名依頼についてと、都市防衛についてが主題です」


 セカンドクラスともなると、一端の探索者の仲間入りである。依頼を達成すると、依頼主にもパーティー名が伝えられ、名声が上がるのは、以前聞いた通り。

 ギルドが発行している指名依頼は、内容を精査して条件や報酬、期限等が釣り合っているかを保証して、指名先へ届けられる。

 問題は、ギルドを通さない指名依頼だ。


「名が通ると、ギルドを通さずに、直接依頼される事があります。親族や友人なら問題無いと思いますが、それ以外の場合は内容を吟味してください。騙されて相場より安い報酬で働かされる事や、犯罪に加担させられる事もあります。

 少しでも怪しいと思ったら断り、ギルドや騎士団に通報する事をお勧め致します」


 案内の紙に幾つか事例が書いてあったが、『極端に短い納期で失敗させ、違約金を取られる』なんてのもあった。

 聞き覚えがあると思ったら、村で落とし穴依頼を受けるときに、少し聞いたような?


「そして、重要なのは都市防衛についてです。ダンジョンから魔物が溢れた場合や、魔物の領域から進行された場合、騎士団で対処仕切れないと緊急避難の鐘が鳴らされるのは、ご存知だと思います」


 ここら辺は、この国の常識として、エヴァルトさんに習った。貴族や冒険者に魔道具の懐中時計等が普及しているのにも拘らず、鐘の音に合わせて生活しているのは、緊急避難警報も兼ねているからだ。

 緊急時には、長い間鐘が打ち鳴らされるので、それを聞いたらダンジョンギルド、もしくは魔物が溢れていないダンジョンの1層に避難する。


「戦闘系のジョブで、セカンドクラスの者には、強制で防衛に参加して頂きます。緊急避難の鐘がなった際には、最寄りのダンジョンギルドに集まってください。騎士団の指揮下で動く事になります。

 それと、怪我や病気で戦えない人や、高齢者の場合は免除されますが、逃亡された場合は、それなりの罰則がありますので、御注意願います」


 侵略型レア種が現れた時は、サードクラスが強制参加と聞いた事はあるが、街の防衛はセカンドクラスも駆り出されるのか。総力戦といった感じだ。


「けれど、安心して下さい。直接の戦闘は、騎士団とサードクラスが行います。セカンドクラスは、住民の避難誘導や後方支援が主な任務となりますよ。

 御納得頂けましたら、2枚目の契約書に署名をお願い致します」


 ……強制なので、署名するしかないけどな! 

 まぁ、魔物の氾濫なんて、早々起こるまい。天変地異みたいな事を心配してもしょうがない。

 サッサと署名した……が、村の一件もあるので、気になり質問してみた。


「この都市防衛とか緊急避難って、どれくらいの頻度で起こるものなんです?

 この街って、魔物の領域に面していますよね?」


「うふふ、心配する程ではありませんよ。町中のダンジョンは常に人が出入りしていますので、魔物が溢れた記録はありません。魔物の領域にしても、ジゲングラーブ砦が抑えていますから……10年に1回程度ですよ」


 多いのか少ないのか、いまいちピンとこない。大地震のスパンかな?


 ただ、ジゲングラーブ砦があると言っても、押し止められるのは地上の魔物のみ。空を飛ぶタイプである鳥型や、昆虫型の魔物が時折、領空侵犯してくるらしい。それも、街に届く前に騎士団やギルドマスターのような空を飛べる天狗族の部隊で、対処出来ている。

 その為、緊急避難の鐘が鳴らされるのは極々稀です、とアメリーさんは胸を張った。


「直近でも10年前ですからね。それも、外壁の上で撃ち落とされて、街に被害は出ませんでした。ジゲングラーブ砦がある限り、魔物の大侵攻なんてあり得ませんよ」


 魔物の領域から守る盾であり、そこに集うサードクラスの猛者という矛も居るジゲングラーブ砦は、ヴィントシャフトの街にとって誇りなのだそうだ。




 10層に降りてきた。

 ダンジョンを必要以上に怖がるフロヴィナちゃんを慣らすため、1層の藁人形ことストロードールから見せる案もあったが、ダンジョンのエントランスが混み合っていたので取り止めた。特に未成年の子供が多かったので、3層以下は獲物の取り合いになっていそうだからだ。


 まぁ、ボス階層なら、土手の下に降りなければ危険はない。九十九折の土手道をのんびりと歩いた。


「大きなアリがいる! キモっ! ミーア~」

「はいはい、大丈夫よ。下の小部屋から出てこれないって、説明したでしょ?」


 フロヴィナちゃんがレスミアの腰に抱き着いている。頭を撫でてあやしながら歩く姿は、母か姉のよう。今朝の一件を思い出して、ちょっと羨ましく感じる。


「リーダー、のんびり歩くのも暇だからな、下行ってきてもいいか? レベル上げの足しになるだろ?」

「別にゆっくりしてても良いのに。まぁ、クイックワラビーの方なら良いよ。毛皮も肉も使い道があるからね」


 ベルンヴァルトに許可を出すと、手短な小部屋を覗き込み、先客が居ないことを確認してから降りていった。

 重戦士レベル1とはいえ、ステータスが下った訳でもない。ツヴァイハンダーを軽々と振り回し、クイックワラビーを一刀のもとに斬り伏せていた。どんなに動きが早くても、大剣のリーチで薙ぎ払われたら、避けるのも難しい。

 その様子を見たフォルコ君が感心していた。


「鬼人族は怪力の種族とは聞いていましたが、凄いですね。あれ程の大剣を片手で振り回すなんて……」

「あれは重戦士のスキル〈重量装備軽減〉のお陰だよ。しものベルンヴァルトだって、昨日までは両手持ちで扱っていたからね。一時的に付与術で強化すれば、使えなくもないって感じだよ」


 下級貴族の出身で、執事見習いのフォルコ君もダンジョンは初めてらしい。下の部屋で行われる戦闘を興味深そうに見ているので、俺も色々と解説する。情報収集が趣味なフォルコ君は聞き上手で、ついつい語ってしまった。



 そして、順番待ちを経て、ボス部屋に入る。ボスのクイックボクサーの弱点は火属性。それなら、新しく覚えた魔法を試さないとな。

 皆に断ってから、一人前に出る。


「あれ? ミーアが倒すのじゃないの? 首を飛ばすとか聞いた覚えが……」

「ヴィナがくっ付いたままじゃ、無理でしょ……

 それに、今日はトレジャーハンターのレベル上げだからねー。〈不意打ち〉は使えないよ」


 後ろが姦しいが、多少は慣れてきたのだろうか?

 それはさておき、クイックボクサーが登場の魔法陣から現れる。それに合わせて2mサイズの小型点滅魔法陣を動かし、敵の足元に地雷を設置する……はずだったが、登場の魔法陣と干渉したのか、点滅魔法陣が近付けない。

 登場演出の最中、邪魔出来ないのは魔法でも一緒のようだ。

 仕方が無いので手前に〈ファイアマイン〉を設置した。


 登場の魔法陣から光が消え、クイックボクサーがお腹の袋から手を出し、ファイティングポーズを取る。

 それに対し、俺は挑発するように一歩前に出て、ワンドの先に魔法陣を灯す。


 ……魔法使いが目の前で、魔法陣の充填を始めたんだ。当然、前衛のボクサーなら、前に出て潰しに来るはず。


 思惑通りに、クイックボクサーが前に跳ねた。クイックなカンガルーの名前の通りの速さで、地雷原ならぬ地雷に飛び込んだ。


 次の瞬間、爆音が轟き、火柱の如く爆炎が燃え上がった。俺でも耳を塞ぎたく成る程の音で、後から「キャァァァ!!」と悲鳴が聞こえた。

 不思議なことに、俺には爆音は聞こえても、爆風は感じない。煙も俺を避けていく様に割れていったからだ。



 爆炎は数秒で経ち消え、残ったのは大きく抉れた地面のみ。


 否、上空から大きな塊が落下して、グチャリと嫌な音を立てる。それは、下半身が消し飛んだクイックボクサーだった。落ちた衝撃で内臓が飛び出て、R-18Gな光景が広がる。


「ひぅ……」

「あ! ヴィナ! しっかりして!!」


 レスミアの声に振り返ると、フロヴィナちゃんが抱き抱えられぐったりしている。頬を叩かれても動かない辺り、失神してしまったようだ。

 無理もない。この世界に来て、切った、張ったが日常な俺でも、が撒き散らされるのは気分が良くない。いわんや、怖がりなフロヴィナちゃんでは、気を失っても仕方がない。

 俺も、最近は植物型の魔物ばかり相手にしているからな。動物型が苦手なのは変わらない。


「すげぇ威力だな。俺も巻き込まれたら、足くらい吹き飛びそうだ」


 巻き込まんでくれよ、と茶化して来たのはベルンヴァルトだ。クイックボクサーの体格は、俺より少し大きい程度で、ベルンヴァルトに近い。そのクイックボクサーが、この有様なので、自分が巻き込まれた時の想像をしてしまったのだろう。


「さっきの爆発だけど、爆音以外は感じ取れた? 爆風とか、爆炎の熱気とか?」

「ん? そりゃあ……無かったな。どういうこった?」


 爆心地である点滅魔法陣を仕掛けた所は、直径1mの浅いクレーターが出来ていた。そんな威力の地雷なのに、こちらに影響が無い。つまり、


「多分、〈ツナーミ〉と同じように、術者とパーティーを守る仕様なのだろうね。

 ただ、実際に巻き込まれて無事かどうかなんて、危なくて試したくはないよ。範囲魔法と同じく、乱戦になったら使用禁止にしたほうがいいな」

「そうしてくれや。味方の魔法で、空に吹き飛びたくはないぜ」



 気絶したフロヴィナちゃんは、レスミアが背負って移動することにして、移動した。休憩所の転移ゲートでエントランスに戻り、再度10層へ。


 2周目は、ベルンヴァルトが新しいスキルを試したいと言うので任せた。戦闘開始直後から、〈挑発〉を掛けて、クイックボクサーのラッシュを盾で防御している。

 俺も真面目に戦った事はあるが、ボクサーグローブのような手から繰り出されるパンチが重かったのは覚えている。キックや尻尾の薙ぎ払いは、更に重いらしい。


「ハハッ! 軽い軽い!!」


 ベルンヴァルトは、それら全ての攻撃を、殆ど微動だにせず受けきっていた。大盾というのもあるが、重戦士レベル5で覚えたスキルの恩恵が一番の理由だろう。



【スキル】【名称:シールドガード】【パッシブ】

・攻撃を盾で受けた場合、その威力、衝撃を半減する。



 盾で防御すれば、敵の攻撃力が半減するようなもの。正にパーティーの盾と言ったところだ。〈挑発〉や、オルテゴさんが使っていた範囲版の〈ヘイトリアクション〉を使う戦術が、更に盤石になる。


 暫く防御に徹していたベルンヴァルトだが、ある程度の感触を得たのか、途中で攻勢に出た。尻尾薙ぎ払いを盾で受け、そのまま押し返したのだ。


「〈一刀唐竹割り〉ぃぃ!!」



 大盾を手放し、軽く跳躍する。両手で振り上げられた大剣は、大上段から振り下ろされた。体勢を崩されていたクイックボクサーは避けることも出来ず、脳天から真っ二つになった。


 両断されたカンガルーが左右に分かれて、内臓を撒き散らす。またもやR18Gな光景が広がるが、俺は他の事が気になっていた。


 隣から「ミーア、終わった~?」「まだですよー。ドロップ品に変わるまで、顔上げないでね」なんて、ほのぼのした会話が聞こえたが、そちらではなく、



 ……先日、ベルンヴァルトがいった通り、鬼足軽の〈旋風撃〉の追撃と一緒。ただ、それだけでなく、ツヴァイハンダーの刀身が薄っすらと光っていたのだ。〈ブレイブスラッシュ〉と比べると貧弱な光であるが、魔力が籠もっているように感じた。


 後々聞いてみた所、MPの消費が結構多かったらしい。戦士はMP補正がないせいか、連発は出来ない。此処ぞというときの切り札として温存するスキルになるだろう。

 〈集魂玉〉がコストとして必要だけど、〈旋風撃〉の方が使い勝手が良さそうではある。

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