第254話 ランク6魔法の試し打ち

【スキル】【名称:初級属性ランク6、特殊魔法】【アクティブ】

・属性毎に異なった指向性の魔法で、敵を翻弄する。

火:ファイアマイン(指定位置に火属性の地雷を設置する。パーティーメンバー以外が踏むと大爆発し、爆炎と共に吹き飛ばす)

水:ツナーミ(大質量の奔流で押し流し、圧し潰す。術者の方には水が来ない親切設計)

風:ダウンバースト(強い下降気流で飛んでいる敵を叩き落す。地面にいる敵も、風で圧し潰す。術者の方には風が来ない親切設計)

土:ベリィ・ピット (指定位置に落とし穴を作る。パーティーメンバー以外が踏むと落とし穴に落とし、同時に頭上から穴の分の土岩を落として生き埋めにする)



 新しいジョブを手に入れたのだが、レベル1のままだと、この階層ではレベル差があって効率が悪い。レベル上げは明日に回すことにして、他のジョブへ変更した。

 レスミアは闇猫に、ベルンヴァルトは鬼足軽にする。闇猫だと〈弓術の心得〉が無いのが心配だが「何匹も倒したのですから、大丈夫ですよ~」と自信有りげだったので、任せた。まぁ、煙幕で撹乱するから多少外しても平気だろう。



 次の採取地を目指す前に、近くの大部屋で新魔法の試し打ちをすることにした。説明文を読むだけでも、効果範囲が広そうな魔法もあったからだ。それに、新しい魔法は先に試しておかないと、作戦にも組み込めないからな。


 オートマッピングで地図が表示されても、踏破していない部分は黒塗りのまま。結局地図を見て先に進み大部屋に辿り着くと、そこに居たのは暴れ緋牡丹3匹。腕を含めると9本の巨大サボテンが乱立しており、大部屋なのに狭く感じるほどだ。〈ウォーターフォール〉の効果範囲では、2匹が精一杯か? それなら、


「すまん。前言撤回して実践になるけど、水属性の新魔法を試してみる。部屋の中には入らないでくれよ。

 あ、念の為にレスミア、他に探索者は居ないよな? 右の通路とかさ?」

「足音も聞こえませんから、大丈夫ですよ」


 魔法陣を出して充填を始めたが、大きい。ランク3の範囲魔法よりも大きく、MPと充填時間もそれなりに掛かりそうだ。〈プラズマブラスト〉よりは小さいけどな。あっちはランク7なので、大きくて当然だ。


 そして、魔法陣が完成する。範囲指定では無さそうなので、ワンドを暴れ緋牡丹へ向け、発動した。


「〈ツナーミ〉!」


 ちょっと気が抜ける名前の発動キーワードを唱えた途端、魔法陣が分裂した。左右に2つずつ、計5個並んだ魔法陣から、一斉に水が吹き上がる。水が海鳴うみなりを上げて、巨大な水壁となった。空高くに持ち上がり、そのまま暴れ緋牡丹の方へと押し寄せるように、津波となった。


 暴れ緋牡丹は大質量の波に飲まれて、へし折れ、流されていった。濁流に飲まれた丸太にしか見えない。津波は大部屋の反対側の透明な壁にぶち当たると、左右に流れて新たな流れとなる。

 魔法陣から留めなく水が溢れているので、大部屋全体が濁流に飲まれるのに、さほど時間は掛からなかった。


「うぁ……部屋の中が、大雨の後の川みたいですよ」

「おいおい、これ魔法陣が消えたら、こっちに溢れて来ないか?」

「……念の為、少し離れるか」


 部屋の中の濁流は、既に俺の胸ぐらいの高さになっている。今は魔法陣に守られ、こちら側へは水が来ていないが、これが消えたらとぞっとした。


 大部屋の入口から離れて、様子を見る。足場として〈ストーンウォール〉を作ろうかとも考えたが、それよりも早く水が出るのが終わった。そして、魔法陣が消えると共に、大量の水も霧散して消えていく。部屋の奥で何かが崩れ落ちる音がした。


 ……流石は親切設計! 術者が巻き込まれないようになっているのか。〈ウォーターフォール〉も同じ仕様にして欲しかったなぁ。


 大部屋に戻ると、打ち流された丸太の如く、サボテンが散乱していた。折れて、割れて、潰れて、生きている様子はない。その様子は、


「あ、なんかキュウリの叩きが、食べたくなる光景ですよね。今晩の副菜に作りましょうか?

 ザックス様、キュウリの在庫、まだありますよね?」

「サボテンとキュウリは別物な気がするけど……まぁ、村で貰ったのがあるよ」


 ぼちぼち夕方が近付いて来ているので、夕飯の献立を考えていたもよう。

 それはさておき、〈ツナーミ〉は直線方向への範囲魔法と言ったところか……それも、範囲が広いから、使い所が使う場所を選ぶな。通路で使ったら、突き当りまで押し流しそうだ。


 それに、気になる点もある。部屋の真ん中で打った場合、魔法陣を回り込んで、水が逆流してこないか?


 ネタになりそうなので大部屋の中心で、再度〈ツナーミ〉を試し打ちしてみたのだが、俺は『安心設計』を甘く見ていたようだった。


 津波が壁にぶつかり、濁流となって逆流してくる。横に並ぶ魔法陣の横から水が回り込んで……来なかった。まるで、見えない壁か、結界でもあるかのように、水が入ってこない。

 並んだ魔法陣を1辺とした正方形の範囲が安全地帯となっていた。


「うわぁ! まるで川の中みたいですね!」

「ああ、水族館みたいだな。魚が居ないけど」

「水族館ってなんです?」


 水族館は通じなかった。どうやら、こちらの世界では一般的ではないようだ。日本の話題は女性陣が好きで、偶にお茶の時に話題になっている。魔法の効果が終わるまで、水族館について語ってみた。ここは娯楽施設が少ないので思いの外、食付きが良い。


「娯楽といえば、観劇の予約が出来たよ。来週だから、楽しみにな」

「ありがとうございます~」


 予約はフォルコ君に頼んだ。丁度、お菓子屋を開いて数日後なので、良きにせよ悪しきにせよ、気分転換になるはずだ。


 水が霧散してから、次は〈ファイアマイン〉を試してみる。ただ、ワンドの先に出した魔法陣は小さかった。範囲魔法よりも小さく、ランク4の貫通魔法くらいか?

 今までは、ランクが同じなら、魔法陣は同じ大きさだっただけに驚きだ。


 充填が完了すると、2m程の小さい点滅魔法陣が視界に現れた。地面から離れないそれをスライドさせ、少し離れた場所に設置する。


「〈ファイアマイン〉!」


 点滅魔法陣が一瞬光り、動かせなくなった。恐らく地雷が設置された筈。そこに向かって、端材の木の棒を投げ込んでみる。


 ……何も起きない。


 3m棒マーク2で突いてみるが、反応無し。パーティーメンバーが踏んでも起爆しないと分かってはいるが、念のため、自分の足で踏み入れてみても反応無し。


 その次の〈ペリィ・ピット〉でも同じく反応が無かった。


「リーダー、本当に落とし穴があるのか?」


 ベルンヴァルトにも試してもらったが、鬼人族の巨体が乗ってもビクともしない。物理的に穴が空いたわけではなく、魔法なので、条件を満たすまでは起動すらしないのか?


「パーティーメンバーが掛からないなら、魔物で試すしかないけど……もっと上の楽な相手で試すか。

 今日のところは……って、もう一つあったな。試し打ちは、これで最後にするよ。

 ん? ちっさ!」


 最後に出した〈ダウンバースト〉の魔法陣は、単体魔法並みに小さかった。ランク6は属性毎に違いすぎだ!

 然程時間も掛からず完成すると、空に点滅魔法陣が現れる。適当な位置で「〈ダウンバースト〉!」と使ってみたのだが、良く分からなかった。


 点滅魔法陣から風が吹き降ろされたらしく、盛大に地面の土埃を舞い上げたが、それだけだ。鑑定文にあった通り、術者の俺の周囲には結界が貼られているようで、風が届かなかった。〈ツナーミ〉と同じ安心設計だな。


 これも空を飛んでいる魔物に使わないと、真価は見られないようだ。ここのダンジョンって、空飛ぶ魔物っていたか?




 その後、もう一つの採取地で鉱石類を採取して、今日の探索&レベル上げは終了とした。

 因みに、通路で〈ツナーミ〉を使ってみたところ、一切合切を流してしまい。ドロップ品を回収しに行くのに手間が掛かった事を記しておく。長い通路で使っちゃいかんな。




 買い取り所で色々と売り捌いだが、魔絶木の樹液の半分は、在庫にしておいた。アドラシャフトのランハートに送る分だ。

 それでも、樹液の大樽はいい値段で売れ、90万円弱の儲けとなった。今日はアリンコ鉱山を行っていないのに、良い稼ぎだ。『涼やかな北風』分は既に稼いだので、中級レシピを買いに行くのも良いな。




 夕食後のデザートには、今日手に入れた風のプラスベリー、環金柑、ニードルの実、ダイスの実が並んだ。


 これはベアトリスちゃんから要望である。

 今日は帰りが少し遅くなったので、成果物の食材を渡す前に夕食となった。そのため、デザートついでに味見がしたいらしい。


「へ~、変わった果物ばっかりだね。味は普通の金柑かな~?」

「環金柑は輪から千切って、一晩くらい時間が経つと、酸っぱくなるから、その前に食べれば普通よ」


「私はニードルフルーツが気になっていたんです」

「あ、俺も。見た目が凄いからな」


 針だらけな真っ赤な実を切ると、中も真っ赤だからな。スイカのような粒粒な種も相まって、未知の果物(ドラゴンフルーツもどき)である。それがくし切りにされ、皮と果肉の間に包丁を入れ、一口大に切られていた。


 メロンのような切り方で、スイカよりも赤黒い。気にならない訳が無い。早速一口頂くと、サクサクとした食感に驚いた。例えるなら、歯応えの良いキウィフルーツか?

 甘さはそれ程でもないが、種がプチプチと潰れるのもアクセントになっている。


「ニードルフルーツは、女性に嬉しい栄養が詰まっていますけど、1日で食べる量は半個分が良いらしいですよ。あまり食べるとお腹を壊してしまいますから」

「それそれ! その分量を使ったお菓子にしたら、売れそうだよね? チーズケーキに混ぜればピンク色になって、可愛いかも?」

「赤の彩りとしてケーキやタルトにも使えるけど、食感を活かすために、生の角切りを乗せるのも良さそうよ!」


 レスミアがダンジョンの休憩中に考えていたというレシピ案を出すと、ベアトリスちゃんも乗っかって案を出し始めた。

 料理の話になると、本当に楽しそうだ。


 特にベアトリスちゃんの方は、大通りの食料品店に行っては、新しい食材に挑戦したり、アドラシャフトのメイド料理人から出された課題に挑戦したりしている。

 それに今朝なんて、ギルドへのお菓子納品依頼に着いてきたくらいだ。審査する受付嬢の反応を見て、お菓子屋で売るかどうか考えているらしい。

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