第250話 勝率9割のロシアンルーレット

 悲鳴を上げたレスミアは、手にしていた剣を赤小サボテンに投擲して追い払うと、しゃがみ込んだ。上着のジャケットの裾が長いので、太腿までしか見えないが眼福である。

 そして、スカートを拾うが、何故か取り落としていた。2度、3度と落とすに連れ、尻尾が逆立ち上を向いていく。


 ……羞恥よりも怒りが強くなったのか? あ、白い下着のお尻が見えた!


 赤小サボテンの事はそっちのけで、つい目を奪われていたところ、急にレスミアが振り向いた。目を吊り上げてかなりお怒りのご様子。


「2人共! こっち見ない!! 壁の方向いてなさい!!!」

「「はいっ!!」」


 有無を言わせない迫力に、即座に回れ右をした。金縛りはいつの間にか消えていたようだ。



 それから暫くの間、後ろでドタバタと追い掛けっこが行われたもよう。石か瓦礫が飛ぶ音も聞こえて、少し心配になる。今更ながら、赤小サボテンは単体魔法を使うことを思い出した。レスミアなら避けられると思うが、壁に向いている俺達は避けようがない。まぁ、万が一狙われたら、レスミアが警告してくれる……よね?




 そして、静かになった後、スカートを履き直したレスミアの指示で正座させられた。こちらの世界にも正座文化が有ることを初めて知ったが、隣のベルンヴァルトがコソッと言うには「幼年学校以来だぜ」と、子供を叱り付ける時の定番スタイルだそうだ。

 そして、ガミガミと説教された。


「……分かりましたか! 女があられもない姿になったんです。隠すか、見ないように横向きなさい!」

「はい……」「いや、漢の本能だから、しゃーね……「口答えしない!」 痛っ!」


 余計な事を口走ったベルンヴァルトが、矢で叩かれた。矢羽の方だし、耐久値が高い戦士ジョブなので、大して痛くはないだろう。多分。

 ベルンヴァルトの言い分については全力で同意したいが、女性には通用しないだろうに。


「ザックス様もいいですね?」

「はい、他の女性がそうなったときは、目を逸らします」

「よろしい…………私の時もです!」


 一瞬だけ、誤魔化せそうだったが、駄目だったか。頭を矢で叩かれてしまった。

 ただ、それでも、それは偽らざる思いである。


「いや、レスミアの場合は全力で見るよ。好きな人のあられもない姿、見たいに決まっているじゃないか!」

「ふぇ!…………もーー、正直に言っても駄目です!

 それに、好きな人と言うなら、ソフィアリーセ様もですか?」


 不意に変な方へ、飛び火した。しかし、冷静に考えると、貴族女性の場合はもっと厳しそうだ。婚約前……いや、結婚前に見たら護衛騎士に、叩き切られそう。


「いや、ソフィアリーセ様とは、そこまで親しくないからな。目を逸らすよ。多分、結婚後じゃないかな?

 現状で見たいのは、レスミアだけだよ」

「ふ、ふ~ん。私だけですか……」


 一瞬、口角を上げたレスミアは、くるりと後ろを向いてしまった。しかし、尻尾が機嫌良さそうに揺れているのでセーフかな?


「あ! ダンジョン内は駄目ですよ! さっきだって魔物が居たじゃないですか! 魔物を倒して……家に帰ってからです!」

「え? 家に帰ったら見せてくれるの?」

「……………い……駄目です」


 尻尾が複雑に揺れる。どんな感情なのか、イマイチ分からない。照れているだけか?

 そんな感じで、レスミアの後ろ姿を眺めていると、横合いから溜息が漏れてきた。


「なぁ、痴話喧嘩こそ、家でやってくれや。

 あ~足が痺れたわ」



 お説教は有耶無耶なまま終了した。そして、その間に魔物の死体は消えてドロップ品が出現している。

 あの赤小サボテンを鑑定し損ねてしまった。あの訳の分からない魔物の情報が欲しかったのに


 分かっているのは、

・針を当てられると、動けなくなる(盾で受けても駄目)

・足が早い。赤いから?

・火属性の単体魔法を使う。(魔法陣は無かった)


「あ、待って下さい。私が戦っていた時は土属性でしたよ? 瓦礫を3つ飛ばす〈ストーンバレット〉です」

「複数属性を使うのか?!」


 確かに、石が落ちた音が聞こえていた。詳しく聞いてみると、


「あの小さいサボテンは、頭の上に丸い実が生えていて、それを投げてきたんです。私よりも大分手前に落ちて、そこから瓦礫が浮かんで飛んできました」


 やっぱり、魔法陣は見ていないと……


「そう言えば、スカートが脱げる前に『半』って言ってたけど、アレは何だったんだ?」

「あ、あれ? サイコロが2個、出てきましたよね?」

「……いや、見てないが。

 サイコロで『半』……えーっと『丁半博打』だったか?」

「ちょうはんばくち?」


 俺もやったことはないが、爺ちゃんが見ていた時代劇に出ていたな。サイコロ2つの合計が、奇数か偶数を当てる賭博だ。どっちが半で、どっちが丁かは覚えていないが……サラシを巻いた女賭博師がエロカッコ良かったのは覚えている。


 丁半博打について、簡単に教えると「多分、それです!」と、喰い付いた。


「小さいサボテンが踊った後、手をクイクイって挑発されたと思ったら、身体が動かなくなったんです。

 それで、視界に『丁と半どちらか選べ』って出て、なんか選ばないと行けない気持ちになって……」


 半を選んだと。

 視界の中でサイコロが2つ振られて、『外れ』と出たのと同時に、スカートが消えたらしい。しかも、拾おうとしても、スルスルと手をすり抜けて、拾えない。赤小サボテンを倒して、ようやく拾えたそうな。


「結局、スキルか何かの攻撃だったんだよな? 眼福ではあるけど……男の注意を逸らすとか?」

「それだと、女性が居ないパーティーでは意味が有りませんよ。単純に武具を剥ぎ取ったのでは、ないですか?」


 確かに武器でも落として、拾えない状態になったら、戦力が激減する。そう考えると、恐ろしい攻撃だ。


 ……ん? 丁半博打を当てた場合はどうなるんだろう?

 考えても分かりそうにない。実際に当てるしかないか。


「あ、もう一つあります。あの小さいサボテンの飛ばす針を避けたんですけど、その途端に向こうの動きがピタッと止まったんです。その隙に切り掛かって、倒しましたけど、不自然なほど、急停止してましたね」


 走り回っていたのに、慣性すら無視して止まったそうだ。怪しすぎる。


「まぁ、回避安定だな」

「面倒くさい魔物だ。大きいのは俺が殺るから、小さいのは任せていいか?」

「ま、出来る限りな。次合ったら、即座に鑑定してやる」



 情報の整理が終わり、ドロップ品の確認をする。ニードルフルーツに芍薬の根、それに赤小サボテンが落としたビニール袋だ。

 ビニール袋の中には丸いものが、10個入っている。


【素材】【名称:ダイスの実】【レア度:D】

・一粒毎に味がランダムに変わる不思議な実。味は全部で10種類!(ただし、ハズレが1種類入っています)

 家族や友達と一緒に食べて、盛り上がろう。ハズレを口にするのは誰だ?!

※ダイスの実を割って中身を確かめようとした場合、強制的にハズレになります。



 味がランダムとか、お菓子のアソートパックかな? しかも、ハズレ入りとか、ロシアンルーレットなチューインガムを思い出す。1個だけ超酸っぱい奴が混ざっている奴だ。


「へ~、食べるまで味が分からないなんて、面白いですね。味見してみませんか?」

「うん。何味があるのか気になる。分けて試そう」


 ビニール袋を破り3人で、3つずつ分ける。ダイスの実は一口サイズの10面ダイスの形をしており、食べられると知らなければ、サイコロとして使えそう。

 まぁ、実際に持つと弾力があるので、間違えないと思うが。


 パクっと一口で頂く。噛んだ感触はチョコ菓子のようで……


「ミルキーなカフェオレの味がする」

「甘い苺です~」

「シャクシャクするな、梨か?」


 味どころか、食感まで違うようだ。手に持った時は弾力があるのに、食べるとシャクシャクの林檎だったりする。脳が混乱しそう。各々が食べた味を上げていくと、全部で苺、葡萄、梨、桃、蜜柑、メロン、パイン、カフェオレの8種類の味がでた。そう、9個食べて8種類、葡萄がダブった。


「美味しかったぁ。中身が分からない以外は、普通以上に美味しい果物でしたね。

 それで、最後の1個がハズレでしょうか?」

「どうだろう? 重複している味もあったからな」

「食べてみりゃ、早いだろ。ここはリーダーに譲るぜ」

「いやいや、レディーファーストでレスミアがどうぞ」

「いいえ、ここは罰ゲームという事で、男が食べるべきですよね?」


 レスミアが有無を言わせない笑顔で微笑んだ。負い目のある俺達はジャンケンで勝負し、呆気なく負けた。

 まぁ、9割の確率で美味しい果物、ハズレでもネタになるので、問題無い。

 そして、気付いているか分からないが、半分に割って、強制的にハズレにしようとする意地の悪い仲間は居ないようだ。勿論、気付いている俺も何も言わない。わざわざ、罰ゲームを受けるMじゃないからな。


 意を決して、最後の一つを口にすると……濃厚なチョコ味が口いっぱいに広がった。


「当たりだ。只のチョコじゃない、お高いガトーショコラのような濃厚で深いチョコだよ」

「チョコ?! 食べたことのないです……トリクシーから、王都の美味しいお菓子って聞いたことがありますけど」


 詰め寄られて、口元をクンクンと匂いを嗅がれた。口と鼻が触れそうな距離にドギマギするが、ベルンヴァルトの咳払いで、我に返る。取り敢えず、肩を掴んで引き剥がした。


「十分の一なんだから、食べる回数を増やせば、そのうち当たるさ。

 そろそろ、先に進もうか」

「あの小さいサボテンも、簡単に倒す方法を見付けないとですね!」


 ……結局、ハズレがどんな味なのか、分からず仕舞いだ。チョコを始めとした9種類の味は、3人共満足した。それならば、ハズレはどんな味か俄然興味が湧く。美味しい分だけ、リスクも相応に違いない。不味い、酸っぱい、辛い、苦い等の定番は思い付くが……数を揃えて、皆で食べるとしよう。サポートメンバーも喜ぶだろうからな。





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 小ネタ

 味のラインナップからピンッときた人もいるでしょう。〇イスの実ですね。

 個人的に和系なら和梨、洋系なら白いカフェオレが好みです。

 ハズレに関してはサブメンバーも加えてからに続きます。

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