第249話 赤くて素早くて良く分からないサボテン
「ハッハッハッ! 殴り甲斐のある魔物だったぜ! 漢たるもの、力を示さんとなぁ!」
「まぁ、分からんでもないか?」
「只のストレス発散じゃないですかねぇ?」
合流したベルンヴァルトは上機嫌に、ポージングして見せてきた。腕の筋肉が盛り上がり、ジャケットがはち切れそう。まぁ、多少は伸縮性があるから、まだ大丈夫だろうけどな。
そして、思い返すと、このダンジョン力技の魔物が少ない。20層のソディウムゴーレムくらいか?
しかし、ソイツも拘束して倒す方が楽なので、まともに殴り合いはしていない。フルアーマーロックアントは硬いだけで、無双ゲームの雑魚だ。
鬼人族なのだから、力任せに戦いたい欲求とかあるのかも知れない。レスミアの首狩り欲求みたいに「そんなのありませんよ! もうっ!」
油断して、ポロッと呟いたのを聞かれ、頬を抓られてしまった。
ドロップしたのは、拳2つ分くらいの大きさの赤い実だ。サボテンっぽく針が沢山生えているが、形状が変わっている。放射状でなく、上に向かって生えているのだ。もしかして、爆発したときに指向性を持たせているのだろうか?
【素材】【名称:ニードルフルーツ】【レア度:D】
・暴れ緋牡丹が投擲する実で、魔力で変質したドラゴンフルーツ。爆発はしないので、安心して食べよう。中の果肉と種が詰まっており、どちらも生食可能。鉄分と食物繊維が豊富で女性に人気。
ドラゴンフルーツ?! 名前は知っているが食べたことのない果物だ。アレは、針なんて無かったように記憶しているが、魔力で変質した結果なのだろう。
女性に人気というので、レスミアも喜ぶかと思いきや、鑑定文を聞かせると嬉しいような、困ったような微妙な反応を見せた。
「あ~コレ、街の八百屋で見かけましたよ。その、便秘に効く……お通じが良くなるって、奥様方に人気らしい、です。私は違いますよ!」
「あぁ、いや……話し難い事を教えてくれて、ありがとうな。使い道はレスミアとベアトリスに任せるからさ」
ノンデリカシーな事を聞いてしまった。そっぽを向かれてしまったが、尻尾はフリフリと揺れているので、食材としては嬉しいはず。生食可能といっても、ダンジョン内でのトイレは面倒なため、試食はせずに先に進んだ。
そして、2戦目。弱点がどちらも水属性なら、まとめて倒す絶好の機会だ。暴れ緋牡丹が2匹通路を塞ぐように立ち並び、隠れ灼躍1匹が顔を出したところに〈ウォーターフォール〉を叩き込んだ。
点滅魔法陣から滝が流れ落ち、3匹を水流で隠した。特に暴れ緋牡丹は上の方に弱点があるので、効くはずだ。花畑で光っていた赤い光は、水に飲まれて消えている。
しかし、水流が終わると、暴れ緋牡丹のサボテンはたったままだった。
「おいおい、弱点じゃなかったのか? まだ立ってるじゃねぇか。俺は前に出るぞ!」
「右を頼む!
レスミアは左の頭を狙ってくれ。俺も単体魔法を使う」
「了解です!」
ワンドに魔法陣を出して充填を始め、レスミアが弓を番えた時、2匹の暴れ緋牡丹が腕を上げるのが見えた。「針爆弾が来るぞ!」と注意喚起すると、レスミアは弓矢の構えを解き、一目散に逃げ出した。
後に聞いた話だけど、破裂音は平気でも、猫耳や尻尾が剥き出しなので、ガードするより範囲外へ逃げたいそうだ。
俺の方は充填しながら、盾を上に掲げるだけで良い。1戦目の後に、念の為と装備しておいたのが功を奏した。
頭上で破裂音が連続で響き、針が降り注ぐ。しかし、掲げた盾には大した衝撃もない。傘に大粒の雨が当たる程度で、カカカカッと跳ねる音が鳴るだけ。
盾の下から前方を見ると、ベルンヴァルトが接敵していた。右の暴れ緋牡丹が、緩慢な動作で腕サボテンを叩きつける。それをベルンヴァルトが大盾で受けたとき、驚きの光景を目の当たりにした。
腕サボテンが肩口からポッキリ折れて、下に落ちたのだ。「おお! 何だ?何が起こった?!」根本近くにいるベルンヴァルトには、訳が分からないだろう。
……もしかして〈ウォーターフォール〉の水流を肩に受けて、弱っていた?
それ以外に変化点がない。
「ヴァルト! 左上から来るぞ、ガードしろ!
〈アクアニードル〉!」
注意指示をしながら、充填完了した魔法を、もう一匹の暴れ緋牡丹へ撃ち放った。5本の水の針が飛んでいく。距離があるので少しバラけてしまい、喉元を中心に突き刺さるが、弱点の頭サボテンに命中したのは1発のみ。
止めには弱い。レスミアに追撃を頼もうかと考えたが、その頭サボテンが転がり落ちた。そしてそのまま、地面に落ちて、グシャリと潰れた。
予想外の出来事が続き唖然とするが、ベルンヴァルトの方からも、何かが倒れる音がした。今度は残った方の腕サボテンも、もげたようだ。
両腕を失い、直立する胴体は只のサボテンでしかない。ベルンヴァルトがツヴァイハンダーを振ると、あっさり切り倒され、地面に頭サボテンを叩きつけて終わった。
「最初の範囲魔法で、かなり弱っていたみたいだな」
「あぁ、手応えが無い訳だ……」
簡単に勝てたものの、1戦目との落差に肩を落とすベルンヴァルトだった。普通にやり合うのは良いけど、弱った相手では燃えないらしい。スポーツの試合で、体調不良の相手が出てきた感じかな?
「あれだけ大きな魔物だからな、HPも多いんだろう。アレやってみるか」
そして、小部屋で三度目のエンカウントをした。暴れ緋牡丹は1匹のみ。つまり花畑に隠れている灼躍は2匹の筈。魔法陣の充填が完了して、放つ前に別のスキルを追加した。
「〈魔攻の増印〉!」
魔法陣の外縁に光の輪が追加された。魔法の威力アップのスキルだ。弱点属性の魔法1発で倒せなくなったら出番と思っていたが、存外早く使うことになったな。
……いや、覚えるタイミング的に、セカンドクラスの領域は、これが必要になるレベルなのだろう。
小部屋に踏み入り、隠れ灼躍が這い出てきたところに〈ウォーターフォール〉を撃ち放った。
5mの大滝に変わりはないが、落ちる勢いが心なしか強い。その勢いに押され、暴れ緋牡丹の腕サボテンがもげ落ち、胴体サボテンも途中で折れて、水面に倒れた。頭のサボテンも潰れて半分になっている。MP消費は増えたが、範囲魔法一発で全滅……ん? 〈敵影感知〉の気配が残っている?
「ザックス様、さっき灼躍の花の魔法陣、1つしか見えませんでしたよね? まだ、隠れているんじゃ……」
〈ウォーターフォール〉の大滝が終了し、小部屋が浅い池となった。通路のある2方向から、水は抜けているが、動きにくい事に変わりはない。
気配のする胴体サボテンを注視していると、その裏から何かが飛んできた。ニードルフルーツにしては小さいが、警戒してレスミアの前に出て盾を構えた。
しかし、それは爆発することもなく、ぽちゃんと水に落ちた。不発弾?
拍子抜けして警戒を解き掛けた時、落ちた水の中からいきなり火の玉が現れ飛んできた。咄嗟に避ける事も考えたが、後ろにはレスミアがいる。盾を構えてガードした。
爆音と衝撃が盾越しに伝わるが、この爆発には覚えがあった。〈ファイアボール〉だ。範囲魔法とは違い、単体魔法は直撃しなければ、属性ダメージは無い。(ランクが上がるほど属性ダメージが増えるらしい)
それはさておき、隠れ灼躍が居たか? いや、そもそも魔法陣を見ていない。爆風が収まってから盾を下ろすと、後ろからレスミアの声が上がった。
「サボテンの影になにかいます! 水を掻き分ける音が……」
サボテンの残骸は沢山ある。どれだ?と見回すと、腕サボテンの影から赤いものが躍り出てきた。
水が減り、水溜りとなった地面を赤い人型サボテンが疾走する。かなり小さく、人形サイズにしか見えないが、アスリートの如く走る速度は早い。事前情報にあった小さくて赤いサボテンか!
小部屋を大回りして、ベルンヴァルトの近くまで来ている。
赤いサボテンが腕を向けて、小さな針を発射した。ベルンヴァルトは盾を構え、同時にツヴァイハンダーも持ち上げ構えた。間合いに入ったら、叩き潰す積りなのだろう。
「針なんぞ、効く……」
声が途切れた。
その間にも、赤くて小さいサボテンは脇を抜けて、こちらへ向かってくる。俺にも針が飛ばされる。
それを盾でガードしながら、抜刀……しようとして、身体が硬直した。見る事、考える事は出来るが、金縛りにあったように動けず、声も出せない。
近くまで来た赤いサボテンが停止し、挑発するようにクルクルと踊り始めた。
……なんだ?コイツ? 意味が分からん?!
混乱するなか、レスミアが前に躍り出た。腰のテイルサーベルを抜き放ち、斬り掛かる。
しかし、刃が届く前にレスミアも硬直した。
「え?え? ええと『半』!」
よく分からない事を口走った瞬間、レスミアのキュロットスカートが消え去り、直ぐ隣にパサリと落ちた。
その白くて眩しいほどの太腿に、目が吸い寄せられると、悲鳴が上がった。
「えぇ?! キャーーーーーーー!!!」
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