第247話 村からの出稼ぎパーティー

 ドロップ品はレスミアが回収してくれているが、これは倒した分ずつで良いだろう。問題は宝箱だ。本来なら先に戦っていた、あちらのパーティーの物だが、俺達が介入しなければ、全滅していた可能性は高い。

 かと言って、俺達が貰うってのもな……恩着せがましいと言うか、禍根にならないか?

 ベルンヴァルトにこっそりと相談してみると、


「あー、面倒だよなぁ。騎士団だと、助け賃として接収する事もあるけどよ。中身が魔道具や、スキル付きの武具だと金で買い取るとも聞いたな。先ずは中身次第じゃないか?」


 成る程、木の宝箱なら大した物は入っていないだろう。村の時は、沢山の蜂蜜が入っていたこともある。

 取り敢えず、向こうのパーティーにも声を掛け、合同で開けることにした。



「ボス部屋以外の宝箱は久々ですから、ワクワクしますよね」

「わ、わたしは初めてです!」


 向こうから選ばれたのは、ポーション少女ことクンナちゃん。採取師でアイテムボックスと鑑定担当らしい。レスミアに笑い掛けられて、緊張気味に答えた。

 まぁ、動く元気のある奴は、取り巻きのように囲っている。俺も含めてだけど。


 皆に囲まれた二人が、「せーのっ!」と宝箱の蓋を開ける。中を覗いたレスミアが華やいだ声をあげた。


「わぁ、チャームが3つも!」

「チャーム? 〈初級鑑定〉! えっと、灼躍花のチャームって名前ですけど、良い物なのですか?」

「ええ、火属性に耐性が付くアクセサリーですよ。ペンダントトップとして……ホラッ、こんな風にプレゼントしてもらうと良いですよ~」


 首元からペンダントを引っ張り出し、クンナちゃんへ見せ付けた。すると、後ろにいた女戦士さんまで、一緒にキャアキャアと、騒ぎ出す。顔を赤らめているのは、プレゼントの意味を分かっているからか。

 婚約指輪を見せびらかすようなものだ。俺としては少し恥ずかしいのだが、レスミアは喜んでいるので、我慢するしかなかった。



 部屋の中央に戻り、向こうのパーティーと報酬の話し合いとなった。火傷戦士こと、シルトがリーダーらしい。ようやく、起き上がれる程に回復したのか、改めてお礼を言われた。他のメンバーからも言われているので軽く流し、本題に入る。


「助けてもらっといて、悪いんだけどよ。火に強くなるアクセサリー、1つで良いから譲ってくれねぇか?」


 理由を聞くと、今後もパーティーの盾として矢面に立つ為らしい。

 彼らはヴィントシャフト領の北にある『ルイヒ村』から、やって来た幼馴染パーティー『ルイヒの黒槍』。戦士3人、僧侶、スカウト、採取師で、村ダンジョンを制覇してきたそうだ。

 ただ、ここの第2ダンジョンに来てからは、魔法を使う敵が多くて苦戦中。早くセカンドクラスに成るため、無理を押して進んで来て、休憩しようとしたところにモンスターハウスに引っ掛かったようだ。



 戦士が盾になるのは間違っていない。僧侶がいるなら、こまめに回復出来る。

 ただ、精神力のステータス補正が低いので、ダメージが大きくなる。前提として灼躍の単体魔法は避ける、範囲魔法は撃たせない、妨害する方が良いのだと思う。


 ……さて、どうしたものか?

 少し悩んだがお節介を焼くことにした。先に見付けたのに、3つ共寄越せでは無く、1つで良いと謙虚さを見せたのだ。日本人的に謙虚な人には、こちらも謙虚に対応してやりたい。


 レスミアとベルンヴァルトに目配せすると、相談する前に頷かれた。2人共、任せるって顔だな。それならばと、シルトに要求を告げた。


「こちらは、灼躍花のチャームは1個で良い。それに、倒した分の芍薬の根は貰おうか。

 後、使った分のポーション代は請求しないけど、瓶だけ返してくれ」

「……すげぇ助かるが、いいのか?」

「ああ、ウチのパーティーは、1つで十分だ。

 それに火属性耐性と言っても、効果は微小アップだからな。過信をしない方が良いぞ」


 被弾前提の戦術は辞めるように提案すると、向こうのパーティーからはどよめきが走った。


「俺達が助けに入った時の事を、思い出してほしい。煙幕の煙で覆っただろ? アレで隠れ灼躍の視線を遮ったんだ」


 隠れ灼躍の倒し方について、簡単にレクチャーした。本来は逃走用として知られる、煙キノコの使い方に驚かれる。戦士が〈挑発〉して引き付け、囲んで叩く戦法がメインらしい。オリーヴァルソンに松明を投げるくらいはするらしいが……


「ジェイク、煙に隠れた向こう側、当てれそうか?」

「そんな状況で撃った事ねぇよ。ただ、折角教えて貰ったんだ、やってみるしかねぇかぁ」

「でも、流石はお貴族様よね~。魔物にも詳しいなんて!」


「煙キノコの戦法は自分で考えたけど、ある程度の情報は図書室で手に入るだろ? 読みに行っていないのか?」


 こちらを茶化してきた女戦士さんに、聞き返してみたところ、目を泳がして明後日の方へ向いてしまった。

 周りに目を向けると、誰も彼も目を逸らす。いや、ベルンヴァルトもかよ!


 20層ボスを倒したあとに、受付嬢から案内は受けたそうだが、行ってもいないらしい。「勉強なんて幼年学校で十分だぜ」なんて呟くベルンヴァルトの声に、同意して頷く人が多数。

 これが平民と貴族の違いなのかも知れない。なんだかんだ言ってもテオは情報通だったし、ソフィアリーセ様も第1ダンジョンの魔物を勉強していた。


「私はレシピを読んだり、実家で帳簿を付けたりしてましたよ。一緒にマナー本も読みましたよね?」

「これだけ人数居て、レスミアだけか~。原価計算とか値段設定とかも、手伝ってくれてありがとうな」


 隣のレスミアの手を取り、笑い掛ける。

 実家が商店なレスミアは、地味に計算が強い。普段は料理や家事に興味が向いているので、本を読んでいるところは見た事が無いけどね。図書室にレシピ本でもあれば、誘うのも良いかもしれない。



「それはさておき、次の25層から新しい魔物が2種類も出てくる。どんな魔物か、事前に調べたほうが良いんじゃないか?

 それに、27層はフィールド階層だ。事前準備をしていなければ、命の危険がある。その分稼げるけど準備にもお金が掛かる。無理そうなら、セカンドクラスになったところで、第1ダンジョンに行くのも手だ」


「おいおい、そこまで詳しいなら、教えてくれてもいいじゃねぇか? 勿体ぶるなよ」

「ちょっと! ジェイク、止めなさいよ。相手はお貴族様よ」


 お貴族様ではないが、そうなる予定だし、特に訂正はしない。その方が好都合だ。身分社会である以上、少し上からの意見だと受け入れやすいだろう。


「教えても構わないが、その場合は情報料を頂こうか。灼躍花のチャームを全部でどうだ?」

「なっ!?」「えっ!?」


「命懸けでダンジョンに入っているんだ。情報は大事だぞ。

 今回の一件もそうだ。

 『隠れ灼躍は接敵するまで〈敵影感知〉に掛からない』

 『宝箱部屋はモンスターハウスにもなる』

 『モンスターハウスは魔物が3パーティー以上出る』

 これらの情報を合わせれば、待ち伏せにも警戒出来ただろう。低層のように力押しが通じる段階じゃないんだぞ。

 どうする? 25層以降の情報は図書室で調べられるが、チャームを手放すか?」


 勉強が嫌だとしても、もうちょっと情報を集めて、考えて動こうぜ。そんな提案を、上から目線でしてみた。貴族っぽく言えただろうか?

 内心、言い過ぎたかとビビリながらも、笑顔を崩さないように、向こうのパーティーメンバーを見ていく。

 すると、シルトは苦笑いをして、後頭を掻いた。


「いや、観念して本読みに行くわ」

「私も手伝います!」


 リーダーであるシルトが決め、クンナちゃんが賛成の声を上げると、他のメンバーも仕方がないと了承した……のだが、



「まぁ、酒場で同業者に教えてもらうってのも手だけどな。一杯奢れば結構喋るぜ」

「ヴァルト、ここで言うのは止めて欲しかったなぁ」


 呑兵衛の一言は、向こうの男性陣によく聞こえたようで、渋々といった顔が、「それなら出来そうだ」と明るい表情に変わっていった。



 ……ヴァルトから騎士団の話は聞いても、ダンジョンの話は偶にしか聞かないのに。

 後で聞いてみたところ、(酔っ払いの)主観混じりの話ばかりで、俺の〈詳細鑑定〉以上の情報は得られなかったそうだ。武勇伝が増えるのは、自伝の本でも酔っ払いでも、同じらしい。

 取り敢えず、酒場では噂話とか、俺がまだ調べていない第1ダンジョンの情報を集めるようお願いしておいた。



 話し合いが終わり、そのまま食事休憩を取ることにした。ベルンヴァルトの背負籠から取り出す振りをして、ストレージからバスケットを取り出す。こういう時の為に用意してある、サンドイッチセットだ。人目があるところで熱々のスープ鍋や、ジュウジュウ音がするトンテキやトンカツを取り出す訳にはいかない。飲み物は冷たいミルクティー。紅茶売りのお姉さんという前例がいるので、ある程度は自由に出せる。


 テーブルも椅子も出せないので地べたに座り、3人でバスケットを囲む。各々が好きにサンドイッチへと手を伸ばし、頂く。俺が口にしたのは、燻製魚を解してマヨネーズに和えた物だった。ツナマヨっぽく、燻製の香りがして美味い。


 夕飯の余りをサンドしただけだが、その分だけ色々な種類があって食べ飽きない。勝手口の門番に出している昼食も、これと同じ物と聞いているが、十分だな。

 2つ目に手を伸ばしたとき、レスミアがこそっと話しかけてきた。


「あの、ザックス様、あっちのパーティーにも少し分けた方が良いでしょうか?」


 車座に座っていたので、何のことか分からなかったが、後ろを振り返ると合点がいった。向こうのパーティーの昼食は、茶色いパンと、赤黒い塊……干し肉をナイフで切って食べていたからだ。サンドイッチですらない。


 流石に質素過ぎて見ていられない。レスミアの意見に従い、サンドイッチを一つずつ配ることにした。


「うおぉ、うっめぇ! 魚っぽい何か分からんが美味い」「こっちもサクサクして、肉汁が堪らないぜ!」

「お貴族様のシュニッツェルは分厚いのねぇ。3倍か4倍はあるわよ……」


 叩いて薄く伸ばすシュニッツェルと比べたら、トンカツは分厚い。どっちも美味しいけど、食べ応えはカツサンドの方があるだろう。運良く手に取れた女戦士さんは、味わうようにゆっくり食べていた。周りの男性陣はがっついて、あっという間に食べてしまったが、好評だったと思おう。


「確かに美味いな。俺達も稼げるようになれば……」


 なんて、シルトの呟きが聞こえたので、2個目を差し出す代わりに事情を聞いてみた。

 出稼ぎの為、6人分の宿屋暮らしで結構掛かる。それに6人分ともなると生活費、装備費用などでカツカツだそうだ。


「クンナが植物採取師になってりゃ、もう少しマシだったかも知れないけどよ。いや、アイテムボックスの荷物持ちでは助かってるって」


 村を出る際、サポートメンバーとして僧侶エスタの妹であるクンナちゃんを加えたらしい。ただ、レベル15を超えてもジョブが増えなかったせいで、肩身を狭い思いをしているようだ。ただの荷物持ちか……


「いや、植物採取師でなくとも、魔絶木の樹液が高値で売れるじゃないか。あれこそアイテムボックスがないと、持ち運びはキツイだろ?」

「樹液? そんなのあったか?」

「ザフランケの木とか黒い魔絶木に、樽を設置して採取するんだぞ。採取地に行ってないのか?」

「ああ、あれか……でも、植物採取師でパパッと回収出来ないなら、手作業で取れるのなんて、大した稼ぎにはならんだろ。魔物を倒したほうが良いぜ」


 21層でも、沢山の樽が設置されていた。ここの第2ダンジョンの定番と思っていたが、彼らにとっては違うらしい。そして、言葉の端々から、採取を下に見ているような感じがする。

 稼ぎが少ないと嘆いているのに、情報も得ず、愚直に魔物のドロップに頼るとか……そんなに高く売れる物が有ったか? 20層のボスゴーレムのナトロンが2万、カブトムシの甲殻が1個1500円とそこそこ高く売れる。

 ただ俺としては、アリンコ鉱山が無ければ、魔絶木の樹液採取の方が儲かると思う。もしくは、採取品から調合したり、料理をしたりして、付加価値を付けて売るとかな。


 ……良かれと思って話していたが、スタンスが違うっぽい。他パーティーに口を挟むのは、ここまでにしよう。

  樹液の買い取り値段と、樽が売店で買えること、それに樽を買えば採取方法も教えて貰える事を伝えて、食事に戻った。



 その後、お菓子も少し配り、店の宣伝をしてから、出発する事にした。向こうのパーティーは、このまま帰るそうだ。21層まで登るのは大変だけど、怪我は回復させたので大丈夫だろう。宝箱部屋の前で別れたが、最後尾にいるクンナちゃんに声を掛けた。


「25層には甘いベリーが生えているから、樹液採取の合間に摘むと良いよ。甘い物を食べれば、疲労回復にもなるからね」

「はい、色々教えてくれて、ありがとう!」


 手を振り合って別れた。


 村で優秀なパーティーは村を出ていってしまうと聞くが、あれで優秀なのか……アメリーさんを始めとしたギルド職員が、啓蒙活動をする訳だな。

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