第246話 救援
翌日、朝から23層へ降りていた。
売店で買い足した煙キノコで、隠れ灼躍を撹乱して倒し、同じく買い足した大樽で、魔絶木の樹液を採取した。
今まで使っていた中樽の3倍は入るという大樽は、かなり大きい。空の状態でも持つのが厳しい重さで、中身が入るとベルンヴァルトでも持てない。アイテムボックスやストレージで持ち運ぶ分に問題はないけどな。
ザフランケの樹液を撒き、無理矢理回復させて魔絶木の樹液を絞り取ったが、大樽満タンには少し足りなかった。どうやら無限に取れる訳では無いようだ。
24層に降り、地図を確認していると、次の階段へのルート近くに宝箱部屋のマークを見つけた。その代わりに採取地は、階層の端のほう。時間的にお昼なので、休憩を取るため、宝箱部屋を覗く事にした。
「魔物が居るっぽいな」「ですねぇ」
「なんだ、魔物部屋か?」
宝箱部屋の扉近くまで来たのだが、〈敵影感知〉に反応があった。それも、3匹以上の圧力が感じられるので、モンスターハウスなのは間違いないようだ。
モンスターハウスでは、魔物も3パーティー以上出現する。つまり9体以上は確定だ。流石に多勢に無勢、どう戦おうかと迷った時、レスミアに肩を掴まれた。
「ザックス様! 中から声がします! なんか緊迫した様子で……闇猫に替えて下さい!」
請われて、直ぐ様ジョブを変更した。〈猫耳探知術〉で扉の向こうの様子が分かるはず。
レスミアが猫耳立てて探る間に、ベルンヴァルトが扉を開けてようとノブに手を伸ばすが、開かないようで首を振る。
「爆発音に交じって、倒れる人の音と悲鳴が……」
それだけ、聞けば十分だった。操作していた特殊アビリティ設定を閉じ、聖剣クラウソラスを取り出す。抜刀しながら2人に向き合った。
「助けられるなら、助けたい。手伝ってくれ」「はい!」
「構わんけどよ……一応、中の奴らに助けがいるか、聞いてからにしろよ?」
レスミアもスカウトに戻し、ベルンヴァルトにアイテムが入った背負籠を渡す。手早く方針を話してから、聖剣で扉を斬り裂いた。
「いやぁぁぁーーー!!」
悲鳴と共に、火柱が上がっていた。部屋の中央で火を噴き出す〈フレイムスロワー〉の中に人影が見える。
そして、その手前に数人倒れているのが見て取れた。
「そこのパーティー! 助けはいるか!!」
俺が声を張り上げると、悲鳴を上げていた少女と、それを守るように抱きしめていた僧侶……法衣を着た男性が振り向いた。男僧侶は目を丸くして呆気に取られていたが、腕の中の少女が「助けて! シルトが死んじゃう!!」と火柱を指差して、叫んだ。
「全員! 伏せてろ!!」
俺達3人、それぞれ別方向に、煙玉を投擲した。宝箱部屋は大部屋であるが、煙キノコの数倍の効果がある煙玉により煙が充満する。
煙の向こうでは、隠れ灼躍が赤い魔法陣を光らせながら、キョロキョロしていた。部屋の中央を囲むように、点在している。
……左に3つ、奥に6つ、右に3つ。4パーティー分と、数が予想以上だ!
加えて、炎上した叢に入っている奴は、高い所で大きな魔法陣を展開していた。〈フレイムスロワー〉を適当に撃たれる前に潰さないと!
「〈プリズムソード〉!」
青、緑、白、黄色の光剣を召喚する。高い位置の魔法陣を優先して、ロックオン。射出した。
煙を切り裂いて飛んでいくと、光っているので目立つ! まぁ、人命優先だから仕方がない。腹を括って、青と黄色のカーソル操作に集中した。
精霊の祝福を受けてパワーアップした白色(氷属性)と、緑色(風属性)の2本については、オートに任せても良い。それというのも、光剣の長さがショートソードサイズに大きくなっただけでなく、自律行動も良くなっているからだ。
従来は、直線的で機械的な動きだったが、パワーアップ後は人が剣舞でも踊っているかの如く、滑らかに動く。その為、祝福を得た2属性は、魔物の居る辺りに射出して放置でも良い。
煙の向こうに見える赤い魔法陣に向かって、青と黄色の光剣を撃ち放った。
「左2匹、倒しました! 後は右奥に1匹が最後です」
「任せろ!」
魔法陣の光は見えないが〈敵影感知〉の反応がする方に光剣を射出する。しかし、気配は消えない。外したようだが、煙が流れて少し薄くなった。その向こうに、飛び跳ねる影を見付け、カーソルで斬撃指示を出す。青い剣閃が横一文字に煌めき、終わりを告げた。
〈敵影感知〉の気配は消えたが、隠れ灼躍が地面の下にいるときは感知出来ない。霧散化するまでは、気を抜けない。周囲を見ると、煙は拡散して薄くなってきているが、人影くらいしか分からない。指示の声を上げた。
「レスミア! 霧散化するまで、周囲を警戒してくれ!」「了解です!」
「ヴァルト! 救助はどうなった?」「おおい、真ん中だ真ん中」
声の帰ってきた方を見ると、大きな人影と魔法陣の光が見えた。光は赤でなく黄色っぽい白、僧侶の回復の奇跡の色なので、魔物ではないだろう。
部屋の中央へ行くと、倒れている男戦士に、青年僧侶が〈ヒール〉を掛けていた。〈フレイムスロワー〉で焼かれた人だ。顔に火傷を負い、服や部分鎧が黒く焦げている。そして、一緒に居た少女も泣きながらポーション瓶を持って、顔の火傷に振り掛けていた。
「他の奴らは、ポーションで回復する程度だったから、配って休ませてる。ただ、火柱の魔法を2回も引き付けた戦士が、重症でな。僧侶が居て良かったぜ」
ベルンヴァルトには救助をお願いしていた。真っ先に燃えている戦士にポーションを振りかけて助けたそうだ。ただ、ポーションの回復には時間が掛かる。他の人達にポーションを配り、動揺していた僧侶を抱えてきて、治療に当たらせたそうだ。
〈ヒール〉を掛ければ、大丈夫そうだ。顔の火傷も見ている内に治っていく。ポーションを掛けている少女に、追加で3本ほど渡した。
「ポーションは好きなだけ使って良い。〈フレイムスロワー〉は下から噴き上げる炎だから、足元とか腕の下側も、火傷しているかも知れないぞ」
「……ぐすっ、ありがとう、ございましゅぅ」
真っ黒になっているブーツや袖を指摘してやると、少女は涙ぐみながらも治療を続けた。青年僧侶や、火傷戦士に比べると2つ、3つ若そうなのに、24層まで来るとは大したものだ。
「ザックス様~、こっちも手伝ってくださーい!」
レスミアが手を振る方へ呼ばれて行くと、そこには大穴が空いていた。視界には【落とし穴】のポップアップが表示され、その底には嵌まった女戦士が足を投げ出すように座っている。戦闘中に遊撃として走っていたら、罠に気付かず嵌まり、足を挫いてしまったらしい。
穴が深いので、流石のレスミアも、おんぶして駆け上がるのは無理そうだ。奇を衒わず、ロープで引き上げる事にした。
レスミアにポーションとロープの端を持たせて下に送り、準備が出来次第、引っ張り上げる。上がってきた黒い部分鎧の女戦士は、仲間を心配していたので、全員無事で治療中と説明すると安堵の息を吐いた。
ロープを解きながら、軽く経緯を聞くと、モンスターハウスと気付かずに入ったらしい。
「ジェイク……スカウト担当が、オリーブの魔物1匹だけって言うから、入ったの。ここまで戦ってきた相手だから大丈夫だろうって」
「ああ、隠れ灼躍は、地中に隠れている間は気配が感じられないからな」
部屋の中央にいたのはオリーブァルソンと隠れ灼躍2匹だけだった。しかし、倒して安堵したところに、大量の隠れ灼躍に囲まれたそうだ。そして、〈ファイアボール〉の集中砲火を喰らう。まだ動けた彼女は、少しでも魔物の気を引くために前に出たが、落とし穴に嵌まったらしい。
恐らく、その後に火傷戦士君が、同じように注意を引き付け、〈フレイムスロワー〉を受けたのだろう。
……これ、俺達が介入しなかったら、全滅していたな。モンスターハウス、殺意高過ぎだ!
状況を一通り聞いた後、肩を貸して中央に戻る。黒い鎧はカブトムシ製らしく、そこまで重くない。同年代っぽい女のコに、重いとか言わないが、何故かじっと顔を見られた。
肩を貸すのに鎧を掴んでいるが、セクハラはしてないよな?
「その赤い装備と、赤髪何処かで……あっ! もしかして、勲章持ちのお貴族様!?」
「ん? 確かに勲章は持っているけど?」
俺の返答を聞くやいなや目を丸くして、担がれている腕を外そうとする。
「し、失礼しました!」
「いや、怪我人は大人しくしてろって」
鎧を掴み直して、恐縮する彼女をそのまま連れて行った。
それにしても、勲章なんて初日とヴィントシャフト家に挨拶に行った時にしか付けていないのに、覚えている人がいるとは……
中央に戻ると、火傷戦士の治療も終わったようで、寝転んだままだが、意識を取り戻していた。代わりにMPを使いすぎた青年僧侶が、座り込んでグッタリとしている。
その近くまで女戦士を運ぶと、手を取り合って、互いの無事を喜んだ。
「シルト! エスタ! 良かった、みんな無事ね!」
「いっつつ、揺するな……カーリンも、急に姿が消えて心配したぞ」
「まだ、傷を癒やしたばかりだ、そっとしておけ」
「お兄ちゃんも、回復の奇跡の使い過ぎで疲れたでしょ。マント引くから、横になって」
他のメンバーも集まり計6人(パーティーの上限人数)で、喜び合って居るのを見るに、仲の良いパーティーだ。いや、ウチのパーティーも負けてはいないけどね。
これで一件落着ところではあるが、問題は一つ残っていた。それは近くに現れた木の宝箱だ。モンスターハウスの魔物は全滅したようで死体はドロップ品に変わり、御褒美の宝箱が出現している。
……さて、他パーティーとの報酬をどう分配するべきか?
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