第241話 銀竜草か、ブルーアイにするか迷った

 足音を立てないよう、そろりそろりと歩く。

 あまり急ぐと〈潜伏迷彩〉が解けてしまうからな。くさむらを通ると、ガサガサと音を立てるので、これも迂回する。


 レスミアの案で、姿を消してこっそり接近中だ。結局、俺一人な気もするけど、データ取りも兼ねているので仕方がない。



 因みにベルンヴァルト案の〈ストームカッター〉で花畑ごと伐採するのは試し済みだ。ただ、花畑の芍薬を全て斬り刻んだ筈なのに、折り重なった花達の中から、ひょっこり隠れ灼躍が顔を出した。充填済みの〈ファイアボール〉付きで……

 結局、炎上しながらも、なんとか倒したが、謎が増えてしまった次第だ。


 それで、今回は近くで見て突き止めようって魂胆があった。



 花畑に到着。オリーヴァルソンは居ないので、隠れ灼躍が3匹居るはずなのだが、全く見分けが付かない。〈敵影感知〉の反応もないので、向こうからも気付かれていない筈……


 1本ずつ〈詳細鑑定〉したいところだが、スキルを使うと透明化が解けてしまう。仕方がないので、手で毟り取る事にした。流石に花を千切られそうになれば正体を表すだろう。

 普通の花が、少し可愛そうではあるけどな……


 雷玉鹿のグローブは、手の外側が硬革処理された革が使われている。手甲みたいなものだ。その部分を上手く使い、茎を切り取り、花を外側に捨てる。



 そんな調子で、草むしり感覚で処理していき、三分の一の花を切り取ったが、動く当たりは引いていない。

 ふと、動く気配を感じて後ろを見ると、離れた所で待っている2人がやきもきしているようだ。ベルンヴァルトが手持ち無沙汰なのか、左右にウロウロしているし、レスミアも尻尾を揺らしながら、こちらをじっと見ている。


 ベルンヴァルトには「まだるっこしいから、剣で伐採したらどうだ?」と言われていたが、剣を振るうと〈潜伏迷彩〉が切れてしまう。それに、俺のテイルサーベルの長さでは、花畑全体を切るまでに、10回は振らなければならないだろう。

 隠れている灼躍を見つけるまでは、こちらも隠れていたい。



 伐採を進め、三分の二の花を切り取った。まだ、当たりは引いていない。取り敢えず、剣を3回振れば伐採出来る範囲にまで絞り込んだ。後ろでは、レスミアまでもがウロウロし始めて、「まだ?」と催促されている気分。

 なので、最後は一気に伐採することにした。


 鞘に入ったままのテイルサーベルを見様見真似で、抜刀からの居合斬り。間合いの内側の茎を、まとめて切り裂き、花弁を落とす。そして、振り切った状態から、


「〈二段斬り〉!」


 身体が自動で踏み込み、2連撃で残りの花を切り落とす。これで、花畑の花は全て伐採した。

 スキル終了時の硬直が解けてから、バックステップで花畑の外に出るが、動くものは居ない。


 ……もしかして、魔物の居ない、只の花畑だった? そりゃ、オリーヴァルソンも居ないし、〈敵影感知〉も反応無いから、確認しようが無かったけどさ!

 流石にちょっと恥ずかしい。なんて、警戒を解いたときだった。


 茎と葉しかなくなった草畑の合間から、土が盛り上がる。地中から芽吹くように出て来たのは、赤い芍薬の花。そして、充填済みの魔法陣がこちらに向けられた。


「擬態じゃないのか! 地中に隠れるなよ!!」


 思わずツッコミを入れてしまったが、赤く光る魔法陣待ってくれない。切り込むには少し遠く、3本の射線からは逃れられないと、咄嗟に判斷して切り札を切った。


「〈緊急換装〉!」


 その瞬間、両手にブレイズナックルが装備された。そのせいで、剣を取り落としたが、構っていられない。両腕で顔をガードすると同時に、〈ファイアボール〉が撃ち出された。


 腕と腹、それと足元に爆発の衝撃が走る……が、熱さも痛みも感じない。〈熱無効〉の効果だ。流石は特殊防具!


 腕を解くと、灼躍が飛び跳ねて地面から出てくるのが見える。俺の目の前の草畑に、着弾して炎上しているからだろう。ぴょんぴょんと飛び跳ねて、こちらに向かってくる。


 一番近い奴が火に入るのを止めるべく、こちらから前に出た。花畑から草畑、火畑に移り変わった火事現場に踏み込み、飛び跳ねる灼躍の花を鷲掴みにする。


 そのまま握り潰そうとしたが、ゴムボールのような感触で、潰せない。葉や根っ子でジタバタと、もがくのを無視して走り、もう一匹を左手で捕獲した。


 往生際が悪く、手の中で魔法陣を出そうとするので、両手を握り締めキャンセルさせる。

 そして、最後の1匹が火に入る前に根っこを蹴り倒し、踏み潰すが、ゴムボールのような感触で倒すには至らない。


 ……ボールなら、後ろにパスすれば良いか。

 身を捩り、後ろに向かって蹴り上げた。


「止めは任せた!」


 軽い灼躍は思った以上に飛んでいき、後ろを走っていたベルンヴァルトの前に転がり落ちた。そして、大剣を突き立てられる。


「レスミアにも、パス!」

「え、え? えいっ!」


 敏捷値の高さ故に、既に近くに来ていたレスミアにも、握っていたボールを放り投げた。戸惑いながらも、抜刀斬りで両断する辺り頼もしい。

 最後の一匹も、放り投げようとしたが、ふと考えが浮かぶ。


 ……花の部分が弱点なのは分かったが、中身はどうなっているのか? 弾力があるので只の花ではないはず。


 花占いの如く、花弁を一枚ずつ剥がしていく。少し硬い根本を千切るようにして剥がし、火にべる。時折、魔法陣を出して抵抗するので、ギュッギュッと握り消す。更に、茎や根っこも振って抵抗するので、レスミアに切り落としてもらった。


 ここまでやれば、も(出)ない。

 八重咲きという程に、何重にも包まれた花弁を取り除いていくと、中心にあったのはだった。

 追い付いてきた2人にも見せると、ドン引きされる。


「なんだこりゃ、キメェ」

「私もちょっと……宿の女将さんに『港町だと、大きな魚の目玉なんて珍味がある』って聞きましたけど、食欲は湧きませんねぇ」


「食材じゃないって……それより、この目玉で魔法の狙いを付けていたんだろう。植物に目玉があるとは思わなかったけど」


 3cm程の小さな白い目玉は、黒目を中心として花弁で覆い隠されていた。恐らく、花弁の隙間から盗み見て、範囲魔法をロックオンしているのだろう。でなければ、茎を伸ばして視界を確保する理由がない。赤外線のような熱源探知とかであれば、射角を確保しなくてもいいからな。


 目玉にナイフを突き立てると、プツッと破れて白い液体が溢れ出した。弱点なのか、耐久力は皆無のようだ。


 今までの植物型の魔物は〈潜伏迷彩〉を見破るなど、どうやってこちらを知覚しているのが分からなかったが、目玉という人間との共通項が合って、初めて理解できるとか……やはり魔物を理解するのは難しい。

 そして、八重咲きの花も難しくて、俺の画力では描けなかった。



 新たに分かった事から作戦会議を行い、ベルンヴァルトを鬼足軽に、レスミアをスカウトに変更にした。


 そして、進んだ先の通路に花畑を発見した。何度か戦ったお陰で、何処まで近付けば向こうが反応するか、大体分かる。ストレージからある物を2個取り出し、ギリギリの所から投擲してから近付いた。


 こちらの接近に感付いた灼躍が、土の中から魔法陣付きで出てくる。そこに、投擲した2個のが着弾、破裂して煙幕に包み込む。


 目視で見ているなら、煙幕で塞げば良い。魔法の狙いは付けられなくなる。その一方で、充填済みの赤く光る魔法陣は、煙幕越しでも目立つ。そこを、


「魔法陣の中心を……射抜きます!」


 レスミアが、引き絞った矢を放った。〈弓術の心得〉の補正も有り、煙の向こうの魔法陣へ吸い込まれるように、飛んでいき、赤い光が消えた。


 負けてはいられない。俺も、後手で背中に隠して充填していた、ワンドを向け、〈アクアニードル〉を撃ち放った。威力はランク4のジャベリン系の方が良いけれど、目玉の耐久力の低さからして、5発の水の針の方が良い。どれかが目玉に当たればいいからな。


 赤い光付近に飛んでいった水の針は、煙に穴を開け、灼躍にも穴を開けた。


 残るは1匹。しかし、赤い光が横向きなせいか、矢は外れたようだ。そうこうしている間に、〈ファイアボール〉が花畑に撃ち込まれた。生き残りの灼躍が、俺達を見つけられずに、火を放ったのだ。確かに炎上する花畑に入れば、茎を伸ばして、煙幕から逃れられる。

 判断が遅いけどな……


 俺達の射線から外れるように、迂回していたベルンヴァルトが花畑に到着していたからだ。戦士より鬼足軽の方が、敏捷値が高い。そして、炎上する花畑の中にいても、長いツヴァイハンダーならば、その刃が届く。


「うおらぁ!!」


 火を押しのけるように、振り降ろされた一撃で、最後の灼躍も両断された。

 終わってみれば圧勝だった。煙キノコは採取地で、そこそこ手に入るし、花火に使えるので売らずに確保している。費用対効果を考えれば、かなり安上がりだ。

 この結果もメモっていると、ベルンヴァルトが面白い物を拾ってきた。


「おーい、レアドロップのアクセサリーが落ちてたぜ」

「あ! これ私のペンダントに付いている、チャームと同じですよね?」


 レスミアが胸元から引っ張り出したのは、俺があげたペンダント。リーリゲンのレアドロップの百合花チャームだ。〈HP自然回復量 微小アップ〉が付いているので、いつも身に着けてくれている。

 今回ドロップしたのは、百合でなく芍薬の花を象った物のようだ。



【アクセサリー】【名称:灼躍花チャーム】【レア度:D】

・灼躍の耐火能力を宿したアクセサリー。身に付ければ、少しだけ火に強くなる。ペンダントトップのみなので、他のアクセサリーと組み合わせよう。

・付与スキル〈火属性耐性 微小〉



 おお、念願の火属性耐性! 微小アップだけど、無いよりマシだ。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 小ネタ

 タイトルは灼躍の元ネタですね。

 ・銀竜草ぎんりゅうそう:名前がカッコいい、全身真っ白な花。俯きかげんな佇まいからユウレイタケとも呼ばれる。正面から見ると、目玉っぽい。花が咲く時以外は地中に潜んで、菌類から栄養を得ている。

 ・ブルーアイ:白に青目の球状の花を咲かせる、『目玉のお〇じ』にそっくりw、半耐寒性があり寒さに強い。


 芍薬ベースなのは諺から決まっていたので、見た目は芍薬+真っ赤+地中+耐火+目玉等を混ぜ混ぜした結果が灼躍です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る