第234話 身体を冷やす魔道具

 あらすじ、オプションは高くて付けられなかった。


「それにしても、錬金術師協会で『付与の輝石は貴重』と聞きましたけど、ギルドにはオプションとして勧められる程あるんですね」


 売れなかったとみるや、するりと離れた店員のお姉さんは営業スマイルに戻る。


「いえ、宝箱から出て、売却された物だけですよ。それ程数があるとは言い難いです。そのため、ギルドへの貢献があるパーティーや、高額商品を購入していただけた方には、こちらからお声掛けさせて頂いております」


 先程のオプション営業も、俺のパーティーが依頼で稼いでいたお陰らしい。お菓子と鉱石を頻繁に納品したからな。

 ただし、それでも今回は付与の輝石1個分のみ、パーティーメンバー分は無いらしい。


「ウチのパーティーは3人なんで、俺だけってのも気不味いですよ。他に暑さ対策は有りませんか?」

「少々お待ち下さいませ。

 ……こちらの魔道具は如何ですか? 『涼やかな北風』です」


 カウンター裏の棚から持ってこられたのは、手持ちサイズの金属棒。柄の先には、紐が付いており、反対側の横には丸い穴が空いている。筒型の携帯灰皿に見えなくもないが、穴が貫通しているので違うか。


「紐の付いている方を押してみて下さい。ホラ、ここですわ」


 いきなり手を重ねられてドキッとしたが、スイッチを押すとするりと逃げていく。柄頭からカチッと音がして、穴から冷風が吹き始めた。



【魔道具】【名称:涼やかな北風】【レア度:D】

・風晶石で風を起こし、氷晶石で風を冷やす魔道具。魔水晶を動力源にしており、魔水晶が無くなっても、風晶石と氷晶石を消費しないような作りになっている。

 筒自体も冷たくなるので、直接肌に触れないようにしよう。



 ……おお! 小型のクーラーじゃないか!! 凄い!!

 紐で首から下げて、先程の黒い外套を羽織れば、冷たい冷風が内側を循環する。かなり涼しい。


「魔水晶1本で1時間、冷たい風を出し続けます。柄の部分に入っている魔水晶を追加すれば、何回でも使える魔道具ですわ。砂漠フィールドの探索はもちろん、夏場でも普段遣い出来るオススメ商品です」


 魔水晶電池を追加すれば、何回でも使えるというのが気に入った。人数分を買うのも良いと判断して、お値段を聞いたところ、50万円。

 1本すら買えない……お昼頃にフォルコ君に20万円渡してなければ……いや、あれは必要経費だからしょうがない。


「流石に3本分の150万円は、今は手持ちがないです。次、パーティーメンバーと一緒に買いに来る時までには用意して来ますよ。

 在庫が無くなるとかはないですよね? 少ないなら取り置きとか、お願い出来ますか?」


「在庫は十分に御座いますから、大丈夫です。それに数が必要ですと、値が張りますから、仕方がありませんわね。

 少々お待ち下さいませ」


 涼やかな北風の魔道具を回収した店員のお姉さんは、カウンターの奥へ戻っていく。

 ……客観的に見て、太客でないのは明らか。もうちょい稼いでから来るべきだったなぁ。

 アリンコから鉱石を巻き上げれば、150万円くらいは稼ぐのは容易い。連戦で戦い続けるのは疲れるので、数日に分けたいところではあるが。27層までにちょこちょこ稼ぐしかない。


 そんな、捕らぬ狸の皮算用をしていると、店員のお姉さんが竹筒を2つ持って戻ってきた。白い水筒竹と、蓋付きの竹筒。白い方を見せながら、解説してくれる。


「こちらはフリッシュドリンクといって、飲むと3時間の間、身体の体温を下げる効果があります。副次効果として、火傷や日焼けを防いでくれるので、夏場は女性にも人気なのですよ。

 それに、貴方のように体格の良い殿方や、自前の毛皮がある方は、先程の涼やかな北風と併用すると、砂漠でも快適に過ごせますわ」



【薬品】【名称:フリッシュドリンク】【レア度:C】

・氷属性で強化されたハスカップが主成分の飲み物。長時間の間、体を冷やし、火傷を防ぐ。飲んだ量によって効果時間が長くなるが、飲み過ぎても冷やす効果は一定。

・錬金術で作成(レシピ:氷結樹の実+水筒竹+踊りなめこ)



 何か見覚えのある効果と思ったが、これ村の決戦の時に飲んだヴァルムドリンクの逆だ。あっちは身体を温める効果で、こっちは冷やす。状態異常ではないけれど、火傷や日焼けを防ぐ効果も良い。


「一つ注意点があります。線の細い方、特に女性が併用された場合、身体が冷え過ぎる事があります。その場合は、どちらか片方にするか、適宜、北風の魔道具を切る必要があります。

 確か彼女さん、胸は大きいけれど、全体的にはほっそりしていますよね? 御注意下さい」


 ……そう言えば、レスミアは寒がりだったような……決戦前の調査で着膨れしていたのを思い出す。


 因みに、外套とフリッシュドリンクだけでも、ギリギリ砂漠を歩ける程度にはなるらしい。ただし、それでも夏場の炎天下より暑いので、かなりの我慢を強いられる。お金の無いパーティーは、これで無理をするそうだ。



「そんな時は、水分補給が大事ですので、こちらをどうぞ。湧き水竹と言う、水筒竹の約20倍の水が飲める魔道具です」



【魔道具】【名称:湧き水竹】【レア度:D】

・容器の内側に付けられた水晶石から、水を補充できる不思議な水筒。蓋を閉めると、自動的に内容量いっぱいにまで水が貯まる。水晶石が無くなるまで、利用可能。

・錬金術で作成(レシピ:水晶石+水筒竹+マナインク)



 フォルコ君がリサーチしてきた、売れ筋商品にもあった魔道具だ。中級レシピで買えなかった奴。

 見た目は水筒竹に、大きめの竹を被せたような水筒だ。安くて冷たい水が飲める水筒竹は、(魔法が使えない)探索者にとって必需品である。

 しかし、数を持っていこうとすると、嵩張るし重くなる。そこで、湧き水竹の出番という訳らしい。

 1個1万円と少しお高いが、富裕層は携帯する水筒として、普段遣いする人もいる。因みに貴族も使うけど、大抵はメイドが作業するので、あまり目にしないらしい。


 まぁ、魔法使いが居れば便利魔法の〈ウォーター〉で事足りる話だけどね。それに加えて、俺にはストレージもある。冷たい水と、冷たいりんご水、蜂蜜レモン水、冷たい紅茶、更に淹れたての紅茶を茶葉毎に格納済み。

 湧き水竹はレシピを買う予定なので、ここで買う必要もないな。




 色々と見せてもらったが、購入したのは自分用の外套と、フリッシュドリンクを6本のみ。黒い外套が一番安く1万円。フリッシュドリンクは1本1万5千円もするので、計10万円。

 他のお高い魔道具は、パーティーメンバーと相談してからにしよう。



 27層用の買い物を終えたが、そのまま他の商品も見せてもらった。特に掘り出し物のスキル付きの武具コーナーは、面白い。大半はステータスアップの小が付与されており、各種属性耐性の小や、状態異常耐性の小も少しあるといったところ。どれも効果が小なのは、第2ダンジョンの最下層が30層と浅めのせいらしい。第1ギルドのレアショップでは、効果が高い物もあるそうだ。


 変わった物だと〈抗菌〉スキル付きのマント、〈発光〉の兜、〈号令〉の大盾等が有る。有用なスキル付きは、お値段が100万以上なので、気軽に買い替える気にはならない。手が出ないこともないが……どうせ買うなら、弱点を付ける属性武器が良い。そう注文を付けて、見せてもらったのはこれだ。



【武具】【名称:土のレイピア】【レア度:D】

・チタン製の刺突剣。刀身が細長い三角錐であり、突くだけでなく斬る事も可能。ただし、斬撃する場合や、攻撃を受け止める場合は根本の太い方を使わなければ、折れる事も……基本は相手を突く事である。

・付与スキル〈土〉



「こちらは、最近入荷したばかりのレイピアでございます。軽いので女性にもお勧めですね。彼女さんへのプレゼントとして如何ですか?」


 確かに、レスミアに合いそうな武器だ。チタン製で軽いのも良い。お値段も200万円と手が届く……、いや、金銭感覚がマヒしてきただけだ。


「これも良いのですが、普通の剣や重量武器は有りませんか?」

「ええと、属性が付与されたのは、この剣と、隣の銀製のダガー、その向こうのガントレットだけです。

 良い物は早く売れてしまいますから、定期的に覗きに来て下さいね」


 宝箱産なので何が手に入るか分からない。そして、手に入れたパーティーが手放すかも……良い武器でもパーティーメンバーに使い手が居なければ売却され、ここに並ぶそうだ。その為、店頭に並ぶ商品はどれも一品物、次来る時までに残っている保証はないと、セールストークを受けた。

 金砕棒の代わりが欲しかったが、あっても買えそうにないか。もっとお金を貯めてこないと……錬金釜を購入したばかりだというのに、貯金地獄から抜け出せないな。




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 小ネタ

『涼やかな北風』は魔道具の部品を調合して、職人が組み立てているので、調合レシピは表示されませんでした。

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