第231話 創造調合でアレコレ作成
今度は創造調合に取り掛かる。
昨日、蟻からカツアゲした鉄鉱石を調合し、鉄のインゴットを作成する。これは鉄鍋の頃から何度か作成しているので、慣れたもの。溶鉱炉をイメージして溶かし、鉄原子だけを取り出し、型に嵌めて固める。
錬金釜と黒魔鉄のお陰で、鉄鉱石が調合水に溶けやすいし、完成までの時間が短くて、イメージに集中する時間も減る。良い事尽くめだな。
手持ちの鉄鉱石を、全てインゴットに調合する頃には、新しい混ぜ棒の感覚にも馴れてきた。そして、インゴット1本分を〈メタモトーン〉で柔らかくしてカット、三角形にコネコネして
……これもレシピ登録すれば、楽になるな。
ただ、ソフィアリーセ様が教えてくれる約束があるので、勝手に登録するのは止めておこう。失敗してマナ紙(1万円)を無駄にしたくないし、何より、わざわざ休日に会いに来てくれるのだ。レスミアを妹扱いしていることからも、年上のお姉さんに甘えるように、教えを請う方が良いだろう……少し恥ずかしいが。
調合と〈メタモトーン〉で、大分MPを消費した。〈MP自然回復量 極大アップ〉で回復させつつ、新しく調合した白紙に、鏃の三面図を描く。練習と言うか、下書きなのでセーフ。あまりにも下手な絵は見せたくないと言う、見得も入っているけど……
定規で寸法を測り記載していく。
絵は得意ではないけれど、3Dでなく2Dで描く3面図なら、何とかなる。直線や図形は、定規やテンプレートを使えば良いからな。ただ、寸法を測るのに、定規ってのが不安だ。ノギスが欲しい。錬金術師協会には売っていなかったので、無いっぽいけれど。
鏃と矢の図面を下書きし、ついでに手持ちの鉄鍋の図面も描き起こす。錬金釜に入るサイズの物だ。実物を測っておいた方が、イメージが湧きやすい。
そのイメージを頭に刻んだところで、実際に創造調合をしてみる。材料は鉄のインゴット1本と、持ち手用の木材を少々。
後は調合液を掻き混ぜながら、イメージする。溶鉱炉で溶かして型に注いで固める。そして、サンプルを見ながら寸法まで思い浮かべる。これを完成するまでループ。
10分後、青い煙をモクモクと上げ、完成した。煙が多かったのは、入れた材料が余分だったからだ。
そう言えば、重量を測っておけば、必要な鉄の量も分かるな。鉄鍋調合では完全に目分量だったのが、仇となったか。
まぁ、小さい天秤はあるけど、鍋を乗せられる
取り敢えず、成功したので良し。気を良くして、追加で片手鍋や、揚げ物用の油切り網+トレイ、すくい網等も調合した。
偶に揚げ物を作ってくれるが、専用の道具が無いので、油切りにザルを使っていたからね。これで料理がしやすくなると良い。
錬金釜のお陰で色々と作ってみたが、連続で成功すると楽しい。空想を具現化する錬金調合は、構造が簡単な程イメージが強固になって成功しやすいせいだろう。
そして、次にチャレンジしてみたのは、有ると助かる入れ物、ガラス瓶だ。蜜りんごの蜜を入れるのを始めとして、粉末化したハーブ類、お菓子お裾分けするのにも重宝する。
素材の珪砂は沢山あるので、量産するもの良い……何て考えで調合をし始めたのだが、敢え無く失敗した。
赤い煙がモクモクと上がっているので、イメージ自体が間違っていたようだ。鉄鉱石と同じように、溶鉱炉で溶かし、型で固めるだけなのに……
それからイメージを変えつつ、何度も調合するが失敗した。なにか情報は無いかと、薬瓶のレシピを見直すと、気になる部分を見つける。
・超高温のマグマにて砂を溶かす。
・不純物を取り除いて、形作り固める。
ここら辺か?
超高温とやらは、溶鉱炉で十分かと思ったが、もしかしてマグマの方が、温度が高いのか?
半信半疑ながらも溶かす工程を、真っ赤に燃える火口のマグマに変えたところ、成功した。あっさり成功した事にレシピの偉大さ痛感する。
しかし、青い煙が消えて、錬金釜の底に残ったのは、薄い乳白色のガラス瓶だった。
……溶かすのも形作るのも成功したのに! 見た目が
原因は分かっている。レシピに書かれていた、もう一つの懸念事項、不純物に違いない。
ただ、不純物とやらが何か分からない。材料の珪砂は白い砂で、色違いが混ざっている様子はなかった。そうなると、砂自体が混合物の可能性が高い。
溶かした状態で不純物を取り除くのか……普通の水溶液なら、フィルタで濾過したり、蒸留したり、再結晶化したりと方法は思い付くが、ガラスの場合はどうすりゃいいんだ?
1時間後、苦心の末に錬金釜が青く光る。煙が収まってから取り出すと、透明なガラス瓶が出来ていた。照明に透かしてみても、見事な透明度……
「わぁ、綺麗なガラスを作れるなんて、凄いです!」
「うわっ!! ……っと、レスミアか。いつの間に来たんだ?」
後ろから急に声がして、ガラス瓶を取り落としそうになった。それを、お手玉してからギリギリキャッチすると、クスクスと笑われた。
「驚きすぎですよ。お昼ごはんを呼びに来たんです。錬金術に集中して聞こえていない様子だったので、終わるまで待っていたんですよ」
創造調合はイメージに集中しないといけないので、しょうがない。ガラス瓶をストレージに隠し、代わりに他の調合品や、鍋などを取り出して調合台に並べて見せる。
「取り敢えず、ポーションだけでなく、売れ筋商品となる香り付きシャンプーとか、石鹸とかも用意したよ。
そっちは揚げ物用の油切り網とトレイね。俺のいた世界で使われていたから、使いやすい筈だよ」
「へ~油切り用ですか。確かに切れが悪いとベチャってしちゃいますもんね。助かります。
折角作って下さいましたし、夕飯はトンカツにしましょうか!」
「こっちに来てからは、初めてじゃないか? 多目に作ってくれよ。揚げたてをストレージに確保して置きたいから」
「はーい、お任せあれ~」
調理器具一式は、レスミアのアイテムボックスにしまってもらい、錬金釜や素材等をぱぱっと回収した。そして、レスミアの背中を押して、アトリエを後にした。
……妥協の産物を見られるとか、油断した!
結局、何度やっても白く濁ったガラスしか出來なかった。そこで、最初から透明なガラス……薬瓶を材料として使い、創造調合したのが先程の透明なガラス瓶だ。
作れたのは良いけど、どう考えても2度手間!
レシピを買えば、誰でも
……受験のためにだけ、丸暗記した化学式とか、もっと勉強しておくべきだったよ。大学で別の知識を覚えたら、ところてんのように抜けていったからなぁ。
色々と作れるようになったが、知識の無さを痛感する半日となった。
昼食後、新作のお菓子を味見しながらお茶をしていると、チャイムが鳴った。まだ12時過ぎなので、女子会にはちょっと早い……と思ったが、来客対応に出たフロヴィナちゃんが連れてきたのは、プリメルちゃんとピリナさん、それに執事服をキッチリ着たヴォラートさんだった。
フリフリのワンピースのプリメルちゃんや、休日でも法衣なピリナさんは理解できるが、薄着が多いと聞く犬族が執事服とは予想外だ。取り敢えず、簡単な挨拶をしてから、応接間へ案内しようとしたところ、ヴォラートさんが待ったを掛けた。
「ザックスと言ったか……早くに来てすまん。プリメルが楽しみにし過ぎてな。
時に、この家の男はお主だけか?」
「他に2人居ますけど、今日は外に出ていますね。俺も午後からは出かける予定ですし」
そう答えると、何故かジッと見られた。女子会なので、素より混ざるつもりはない。それに、21層以降の情報も欲しい為、図書室に行く予定だ。ソフィアリーセ様からのお願いもあるからな。
「ふむ、ならば問題無いか。この家には嫌な気配も臭いもせんからな。
では、夕方頃に迎えに来る。プリメル、迷惑を掛けんようにな。ピリナ、任せるぞ」
「はーい」「はいはい、只のお茶会だってのに、心配しすぎだよ」
ヴォラートさんはアイテムボックスから、抱えるほどの木箱を取り出し「手土産だ」と、俺に押し付けて帰っていった。
あれは、孫を送り迎えするお爺さんだな。
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