第229話 激闘? 20層ボスゴーレム

 テオのパーティーがボス部屋に入って行くと、自動でドアが閉まる。俺達の番は次の次。

 待つ間に情報のおさらいをする。

・ボスはゴーレム型

・魔法を使うと毒で反撃

・斬り刻めば良い

・お供の雑魚と離して戦え


「お供はライノメタルビートルか、オリーヴァルソンのどちらか一匹。魔法無しだとオリーヴァルソンが面倒だな」

「それなら俺がぶん殴って、吹き飛ばしてしてやろう」

「私の弓は効きそうに無いですから〈不意打ち〉の方が良いかなぁ。(ジョブを闇猫に替えてください)」


 周りに他のパーティーが居るため、レスミアに耳打ちされる。お願い通りにジョブを変更し、そのついでに弓矢を回収して、代わりに俺の雷のホーンソードを渡しておいた。

 ゴーレム相手に薄刃のテイルサーベルは、折れそうな気がしたからだ。それに、闇猫は筋力値補正もあるので、ショートソードサイズのホーンソードも扱える。


 そして、俺は盾をしまい、黒豚槍を改良した『貫通のフェケテシュペーア』を装備する。穂先が剣状の形をしているので、斬る事も出来る武器だ。突きでないと、付与された貫通効果は発揮しないけどな。

 どの道、ゴーレムの攻撃を盾で受ける気はない。村のゴリラゴーレムを思い返しても、質量を活かした攻撃をしてくるに違いないからな。回避したほうが良い。




 俺達の番となり、ボス部屋に入った。

 部屋の中央で、ボス召喚の光り始めると同時に配置に付いた。正面の俺に、対角線上で後を取るレスミア。そして、ベルンヴァルトはお供の姿を見てから近い方へ回った。


 魔法陣から現れたのは、白銀に輝くゴーレム。3mを超えた巨躯の相撲取りといった風体だ。円柱のような頭に、目のような窪みがあるので、人に見えなくもない。



【魔物】【名称:ソディウムゴーレム】【Lv20】

・銀白色に輝くゴーレム。しかし、登場後すぐに酸化して白く錆びる。見掛けとは裏腹に柔らかく、容易く切ることが出来る。弱点は水属性だが、水に触れた部分から発火爆発し、毒性の有る液体や煙を撒き散らす。それに触れると熱傷を引き起こすため、非常に危険。また、素手で触った場合でも汗と反応し、軽度の熱傷になる。火属性で熱した場合でも、同様に発火爆発する。

 体のどこかにあるゴーレムコアを破壊するまで動き続ける(位置は個体毎に違う)。

・属性:火

・耐属性:風

・弱点属性:水

【ドロップ:ナトロンの塊】【レアドロップ:低級ゴーレムコア】


 鑑定結果をレスミアに聞かせるために、声を張り上げる。


「金属の身体自体が毒だ! 火や水で毒煙を出す! 汗も駄目だから、絶対に肌で触れるな!

 弱点は身体の何処かにあるゴーレムコア!」


 魔法陣の光が消えると共に、白銀に輝いていたゴーレムが光沢を失い、鈍色に変わる。それと同時に〈挑発〉を仕掛けた。


「この木偶の坊! 俺が相手だ!」

「うおぉぉぉ!〈旋風撃〉ぃぃ!」


 〈挑発〉の声に、ベルンヴァルトの声が重なった。勢いよく振られたツヴァイハンダーのが、オリーヴァルソンの幹を捉えて、盛大に吹き飛ばした。

 ノックバックの効果が無い〈旋風撃〉では、分断が出来ない。大剣の刃で斬っては、その場でオリーブオイルを撒き散らすだけだ。そこで、剣の腹で叩くことで、擬似的にノックバックしたのだ。

 更に、スキルの追撃効果で、壁際まで飛ばされたオリーヴァルソンを追って、大跳躍していった。



 分断は成功。ソディウムゴーレムが地響きを立てて、一歩踏み出す。その動きは、ゴリラゴーレム以上に緩慢に見える。

 先ずは威嚇の一撃、(人間なら)心臓辺りを狙って、槍を突き入れた。


「せいっ!!」


 貫通効果が効いたのか、穂先の根本まで易々と貫いた。しかし、手応えは無い。ゴーレムコアとやらは、多分硬い筈……試作バイクのときに見たコアは岩っぽかったから。


 俺の攻撃が癇に障ったのか、ソディウムゴーレムが右腕を振りかぶった。大振りの拳が斜めに振り下ろされる。それを、相手の左側に回り込んで避けた。動作自体緩慢だけど、振り下ろしだけは速い。重量を活かしているせいか?

 石畳を強打し、ヒビが入っている事から威力は十分。


「でも、そんなに遅いなら、狙い放題だ!」


 槍を斬り上げ、振り下ろされている右腕、その肘あたりを斬り裂いた。切った感触に驚きつつも、その白銀色の断面を見て、ちょっと後悔。


 ……ちょっと浅かった!


 久し振りの槍だったせいで、目測を誤った。そこから一本踏み込み、振り上げた槍を振り下ろすことで、なんとか右腕を肘から切断した。


 重い音を立てて転がる右腕。そして、バランスを崩してたたら踏むソディウムゴーレム、その右脇を潜り抜ける白銀の影があった。

 すれ違いざまにホーンソードが一閃し、右膝を両断する。そのまま走り抜けたレスミアは、華麗にターンを決めて止まった。袴姿なので、剣が妙に様になっている気がする。


 右腕右足を失ったソディウムゴーレムが、右倒しに転がった。それに巻き込まれないように離れて、レスミアと合流する。


「ナイス、〈不意打ち〉だったな!」

「エヘヘ、ザックス様が隙を作ってくれたお陰ですよ。イエーイ!」


 ハイタッチして、お互いを健闘し合う。後は立てないソディウムゴーレムをバラすだけ。サンダーディアーと同格の、20層ボスとは思えないほどに楽勝だった。

 ふと、ベルンヴァルトの様子を見ると、向こうも終わったようで、こちらへ向かっている。


「あ、そうだ、レスミア。このゴーレム、柔らかいから、〈不意打ち〉しなくても、多分切れるぞ。

 ホラ、この通り」


 斬り落とした腕に槍を突き立てると、粘土のような感触が返ってくる。俺を真似て、レスミアも剣で斬ってみると、


「本当ですね……人参よりちょっと硬いかな? かぼちゃよりは柔らかい? う~ん、いい例えが出ませんねぇ」

「何で食材で例えるんだか……粘土でいいじゃん。

 まぁ、止めを刺すとする……」


 視界の隅で、ソディウムゴーレムが立ち上がった。慌てて槍を構えて警戒すると、何故か斬り落とした筈の右腕、右足が健在だった。


「ザックス様、あのゴーレム、少し小さくなっていませんか?」


 言われて気付く。見上げる程の高さだったのが、首を上げなくても見える程度になっている。2,5m程か?

 その足元には、斬り落とされた足が転がっているので、くっ付いた訳ではなさそうだ。レスミアには散開を命じて、〈挑発〉を掛け直す。


「木偶の坊から身長を縮めても、グズな鈍間になっただけだな!」


 〈挑発〉が効いたのか、再度俺に向かって来た。右腕を振り上げ、パンチを繰り出す。行動自体は最初と同じ、しかし、そのスピードが早い! 最初と比べると2割増になっていた。想定外の速さに避けきれないと判断し、槍の柄で相手の腕を内側へ受け流す。そして、その反動も使って外側に逃げながら、槍の石突で膝裏を痛打した。所謂、膝カックンである。


 ゴーレムに効くかは賭けであったが、幸いにも膝を曲げてバランスを崩した。その隙に背後に回り、槍を振りかぶる。


「〈フルスイング〉!」


 長い槍のぶん回しが、ソディウムゴーレムの両膝を纏めて両断した。更に、俺の後ろから飛び出したレスミアが、追撃を仕掛ける。

〈フルスイング〉の効果でノックバックし、胴体が前に吹き飛ばされていた。しかし、闇猫の敏捷性で、その背中に追い付き、斬首した。


 円柱の首はコロコロと転がって行き、胴体は倒れ伏す。


「レスミア、警戒したまま待機! 足が再生するか見たい」

「了解です!」


 すると、首と足の断面から、白銀色の岩が盛り上がり始めた。かなりの速度で再生していき、その代償に身体が少し小さくなる。再生中に、もう一度足を切り離してみたが、直ぐに再生し始める。


「やっぱり、再生する分に身体の質量を使っているのか。つまり、コアが残っている限り幾らでも再生し、小さくなる毎に軽くなって素早くなる。ただ、その分だけ弱点のコアに当たる確率が上がる。今のところは胴体のどっかだけど……

 ヴァルト、もういいぞ」


「おう、任せろ!」


 立ち上がりかけたソディウムゴーレムを、合流したベルンヴァルトが袈裟斬りに両断した。左肩から右腰まで斬り裂かれ、再度倒れるソディウムゴーレム。すると、今度は下半身の方の断面からニョキニョキと再生し始める。上半身の方は再生しないので、コア無しの外れだろう。


「……そうか、『斬り刻め』ってのは、再生中も切れって事か。そうすれば、反撃の心配も無い」

「あ、もういいですか? また、検証中だと思いましたので、手は出しませんでしたけど」

「あ、はい。付き合ってくれて、ありがと」

「初めて合う魔物は、よく検証しているので、いつものことですよ~」


「お前ら、イチャついてないで、手を動かせ」


 ベルンヴァルトからの苦情も有り、ソディウムゴーレムを少しずつバラしていく。大分小さくなり、子供サイズになってきたので絵面は酷い。いや、人形をバラしているだけなので、セーフ。斬殺現場ではない。


 最後に当たりを引いたのはレスミア。ちょっと顔を赤らめて憤慨していた。


「なんて所にコアを仕込むんですか! いや、大事なところですけど!」

「レスミア、ゴーレムに性別は無いって。それに、個体ごとに違うらしいから、次戦う時は別の場所だよ」


 弱点のコア、それはソディウムゴーレムの股間に入っていた。3cm程の小さな金属玉で、幾何学的な模様が入っている。それをレスミアが剣で叩き斬ったのだった。


 ……いや、体内だし、玉も一つだからセーフだよね?



 斬殺現場の死体が霧散していくと、ドロップ品と木の宝箱が現れる。ドロップ品はピュアオイルと、ビニールに包まれた石塊……いや、ソディウムゴーレムの二の腕か?



【素材】【名称:ナトロンの塊】【レア度:D】

・膨らし粉の原料であり、重曹と呼ばれる事もある。多岐にわたる利用方法がある。

 料理に使う場合、パンケーキやマフィン、スコーンなどを膨らませる。他にも野菜の灰汁抜きや、魚のヌメリと臭みを取る作用がある。

 また、掃除に使う場合、油汚れや焦げ付き、カビ取りなどの汚れ落としや、消臭剤、洗剤としても使える。



 重曹か……日本でも台所用品のスプレーにロゴが入っていたから、掃除に使うのは知っている。それに料理にも使えるなら、レスミアが欲しがるかなと思い聞いてみたところ、


「そうですねぇ。お料理にも使いますよ。お菓子だけでなく、ランドマイス村で食べていたコーンブレッドにも使っていました。ただ、お掃除はザックス様が浄化してくれるので、要りません。そうなると、こんなに沢山は要らないかな?」


 〈ライトクリーニング〉の影響が、こんなところにもあるとは!

 アドラシャフトを出る前に準備した物資の中にも重曹は当然準備されているが、料理に使う分には十分な量が用意されている。その為、ドロップ品は今のところ必要ないそうだ。


「それと、袋を破くと、買い取って貰えませんからね。こんなにも大きな塊を使う宛は有りませんから、売却で良いんじゃないですか?」


 ストレージに回収して、フォルダの情報を見てみると、100kgもあった。確かに、個人が使うには量が多すぎる。

 そういえば、テオから聞いた情報に『高く売れるが、重すぎる』とあったな。そりゃ、アイテムボックスがないと、売りに行くだけでも大変だ。錬金術でも使うけれど、直近の分は売店で購入済み。今回は売ってしまってもいいかな。


 宝箱からピュアオイルを手に入れ、宝箱自体も頂いて、休憩所へ移動した。

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