第228話 休憩所での再会

 ボス前の休憩小屋に辿り着いた。中は順番待ちしている探索者で混雑している。椅子が全部埋まり、壁際に立っている人達もいるので、3パーティーくらいか?

 俺達もいれると、かなり狭く感じる。外で待っていた方が良いかと考えた時、見覚えのあるウサミミを見つけた。プリメルちゃんと、その隣に黒い鎧の青年テオもいる。俺が話し掛ける前に、レスミアが近寄った。


「プリメルちゃん、こんにちは~」

「ん? おおう、レスミアだ! ねぇ、ピリナ、この前のお菓子作った友達」

「あ~、あの絶品の焼きリンゴ! 美味しかったよ。プロの料理人レベルだよね!」


 女子勢がキャッキャと話し始めたので、俺もテオに話し掛ける。


「テオ、こんなところで会うとは奇遇だね。もっと下の階層に居るかと思っていたのに……」

「おー、ザックスか。久しぶりだな。

 なに、俺達は26層まで行って、セカンドクラスになったからな。レベル上げに戻ってきただけだつーの」

「私、魔道士になった」


 俺達の声が聞こえていたのか、隣のプリメルちゃんが胸を張る。その流れで、パーティーメンバー同士で自己紹介することになった。


「アタシは司祭のピリナだ。この間のお菓子、美味かったよ。定期的に食べたいくらいにね」


 同じ年頃の黒目黒髪の女性だ。法衣を纏っているが、言葉使いや、ニカっと笑う表情に僧侶っぽい感じはしない。ラクロスのラケットのような形状の杖を、肩に立て掛けているせいもあって、スポーツ少女っぽい。そして、ピリナさんの向こうに座っていた人も、パーティーメンバーらしい。


「俺はヴォラート、神使狼しんしろうだ。見ての通り、儂だけジジイなのは、ガキ共のお守りだからだ」


 そう言われたが、犬族……革鎧を着たデカいワンコなので、年配かどうかは分からなかった。ただ、大型犬の黒いドーベルマンを彷彿とさせる精悍な顔立ちで、格好良い。それと、神使狼は犬族の固有サードジョブらしく、攻撃的なスカウトだそうだ。


「ああ、そうか。テオは貴族の生まれだったな。護衛が付くのは当然か」

「あーいや、ボラ爺は俺じゃなくて、プリメルの護衛な。俺はオマケ」


 テオは手をひらひらと振って否定した後、隣を親指で指す。ヘラヘラと笑うが、少し影が有るような……?

 これ以上聞くなという空気を読んで、指の先、プリメルちゃんに視線を移すと、こっちはこっちで、上目遣いで見てくる。その頭上では、期待するかのように、ウサミミが揺れていた。

 ……反則だ。


「レスミア、順番待ちする間、小休止にしてお菓子でも食べようか。何が良い?」

「それなら、プリメルちゃん達にも分けられる物が良いですね……アップルパンケーキにしましょう!」


 丁度、ボス部屋の扉が開き、順番待ちしていた人達が入って行く。空いた椅子に座らせてもらいながら、小さい木箱を取り出して、中身を一枚ずつ配った。

 今日のお菓子は、りんごを輪切りにして芯を取り、衣を付けて焼いたパンケーキだ。芯の部分が空いているので、ドーナッツに見えなくもないが、バターでカリカリに焼き上げてある。りんごサイズなので、手持ちでも食べやすい。ダンジョン内で食べるように作られたお菓子だ。

 紅茶にも良く合うお菓子なのだが、ここでティーセットは出せないので、普通の水筒竹にしておいた。


「美味しい……ボラ爺の分貰うね」

「あ~、サクサクしてて、程よい甘さが良いよね。いくらでも食べれそう。テオの分頂き!」

「あの、余分にありますから、大丈夫ですよ?」


 甘いものに飢えているのか、プリメルちゃんとピリナさんが、ナチュラルに男性陣の分を奪っていく。テオの方を見ると、呆れた顔をするが、


「ああ、いつもの事だから構わんぜ。甘いものは女ども、酒は俺達ってな。つーか、一昨日焼きりんご食べたばかりなのに、良く食うな」

「そう言えば、1つくらいは分けて貰えたのか?」

「あー、慈悲深いピリナから貰えたぜ……16分の一切れだけ」


 ……りんごを8等分して、更に半分。一口サイズと言わんかね?

 流石に可哀そうなので、最後に余った分を2人に分けてあげた。テオは女性陣から隠すように食べ始めたが、ヴォラートさんは「甘い物は苦手だ」と言って、プリメルちゃんに差し出す。その目は孫を見るように優しかった。


「それにしても、ザックス達は宿屋暮らしなんだろ? 手作りのお菓子は厨房でも借りて作ってんのか?」

「いや、一昨日から借家に引っ越したよ。それで、新しいキッチンに喜んだ、レスミアとサポートメンバーの料理人が、張り切って色々作ってくれたんだ。このお菓子もな」


「へぇ、サポートメンバーって普通、採取師とかだろ。専属の料理人とか貴族かよ?!

 かー、コレだからお坊ちゃんは……俺んとこにも欲しいぜー。ボラ爺、実家から引っ張れない?」

「宿屋暮らしのテオ坊には、料理人なぞ要らんだろ。それに、実家を出たのだから、自分で雇う必要がある。パーティー資金に余裕はあるのか?」


 テオはガックリと項垂れて、「無い」と呟いた。

 21層以上は儲かるとか自分で言っていたのに、金欠なのか?

 そこら辺を聞いてみると、2人分のジョブ変更代金や、噂の27層の準備に金が掛かるそうだ。


「2人分? 3人分じゃないのか?」

「プリメルとピリナの分だ。俺は騎士を目指しているから、戦士のままだな」

「ああ、ダンジョンギルドへのアピールだな」


 ベルンヴァルトが補足してくれた。騎士のジョブになるには、領主かギルドに任命される必要がある。そのための貢献を積む必要があるが、依頼とか以外にも頑張っている事をアピールするそうだ。


「別にセカンドクラスの重戦士か軽戦士で、30層を攻略した方が楽じゃないか? 後々戦士に戻して、30まで上げても同じだよな?」


 セカンドクラスになると、スキルやステータス補正が追加されるので、そちらの方が強いはず。そう主張したのだが、「他のジョブに浮気は駄目だぜー」と返されてしまった。


 ……その考えでいくと、俺は日替わりで浮気しまくりになるんだが、常識の差かな? 『浮気は文化』なんてフレーズも浮かんだが、記憶の端に放り投げた。



「…………ザックス様、良いですか?」

「いや、浮気なんてしてませんよ」


 レスミアに腕を引っ張られて、反射的に答えてしまった。先日、他の女と観劇デートしたような気もするが、あれは合法だ。


「いえ、ジョブの話ではなくて、プリメルちゃんとピリナさんを家に呼んでもいいですか?」


 女性陣の方でも新居の話で盛り上がる中、好きに使える厨房で量産出来るなら、またお菓子を売って欲しいとお願いされたそうだ。

 しかし、こんな人目のある所で売買は出来ないし、ギルドに指名依頼するのも、手間とお金が余計に掛かる。そこで、アメリーさんが言っていた『友達に材料費程度で譲る』事にしたいらしい。


「別に構わないよ。休みが合う日にでも招待すると良い」

「それなら明日! テオ、今日は後何周? 終われば良いよね?」

「あー、そうだなぁ。5週もすればレベル20になるか?」


 話に聞くと、今日は一日中ボス周回しており、それが終われば休みらしい。俺も錬金術をしたいので、明日が休みでも構わない。レスミアも異論はないようで、明日で良いと返事をしたのだが、提案した当の本人がウサミミを下げていた。


「むむむ、厳しいかぁ」

「ん? ショートカットを走れば、余裕じゃないか? ここの待ち時間はあるだろうけど」


 現在時刻は15時過ぎ。5の鐘まで2時間。ショートカットで直進を走れば、15分程度。移動だけなら8週は出来る。後はボスの順番待ちと、戦闘時間の問題だ。少し残業すれば、5周もイケるだろう。

 そんな解説と共に、ショートカットを説明すると、驚かれた。


「あーそれは盲点だったわ。横取りになるから、坂道のある方しか降りるなって習ったが、魔物を無視していく分には、関係無いのか……

 いや、ちょっと待て。面白そうだけどよ、プリメルはあの高さ、飛び降れるか?」

「えぇぇぇ、私の身長の倍はあるよね? む~り~」


 手とウサミミで、ダブルバッテンを作っている。地味に器用だ。つい最近、似たようなことがあったので、助け船を出す。


「それなら、テオに背負ってもらえば良いんだよ。戦士なら体力あるし、持久力の訓練にもなる」

「それなら、楽チン」

「俺、ボス戦でもメイン張るのに……飛び降りる時だけだぞ」


 テオは嫌そうな顔をする反面、プリメルちゃんは嬉しそうにウサミミを揺らす。

 一件落着と思いきや、プリメルちゃんの向こう側に座る、ピリナさんが口を尖らせた。


「あー、あー、コホンッ。アタシも、か弱いからムリ~。誰か背負ってくれないかな~」


 何やら芝居掛かった様子で、猫撫で声を上げると、チラリとテオの方を見る。ちょっとだけ、頬を染めた様子を見ると、何となく察しは付く。その様子を見たレスミアも、口元を緩ませ、耳打ちしてきた。


「(三角関係ですよ、三角関係! パーティー内で本当にあるんですねぇ)」


 ……女の子は本当にゴシップ好きだ。俺達も似たようなものだろうに。取り敢えず、部外者が干渉するべきではないので、様子を見る。しかし、肝心のテオがヘラヘラ笑っていた。


「二人は無理だろ。小っちゃいプリメルなら兎も角、ピリナは重そうだから無理だっつーの。それに明日、お菓子食べに行くなら、自分で走った方が良いんじゃねーか?」

「小っちゃい?!」「重い?!」


 女性2人の地雷を、同時に踏み抜くとは器用な。ウサミミで目潰しされ、ピリナさんの杖で折檻されるテオだった。


 そんなじゃれ合いを見ていると、ボス部屋への扉が開いた。テオ達の番だったようで、ヴォラートさんが先んじて立ち、周りを急かした。


「儂らの番じゃ、ガキ共行くぞ」

「はーい、レスミアー、明日の午後ねー」

「ほんとにもう、このバカは!」


 プリメルちゃんが手を振りながら続き、ピリナさんは少し頬を膨らませ、杖を肩に担いで追う。

 残ったテオも慌てて後を追う途中、こちらを振り返った。


「ザックス、先輩からの忠告だぜ! ボスと雑魚を離して戦え。そうすりゃ、どっちも雑魚だ!」


 言うだけ言うと、こちらの反応も見ずに、ボス部屋に入っていった。

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