第219話 カブトムシの検証と利用許可
あらすじ:金砕棒が折れた。
「まぁ、柄は木製だからな。蟻退治で無理もさせていたし、なにより集魂玉のパワーアップに、耐えられなかったんじゃないかな」
そう、フォローしてから、カブトムシことライノメタルビートルを検死する。頭の甲殻には幾つか凹みがあるが、金砕棒のトゲが当たった箇所だろう。
「〈集魂玉〉を使って、叩き潰そうとしたんだけどよ、弾かれちまった。それでムキになって、叩き続けたら折れたって訳だ」
折れた金砕棒を借りて、軽く甲殻を叩いてみる。すると、表面では硬い触感があるが、その奥からは反発するような……ゴムか何かのようだ。
「なるほど、裏側は柔らかいと思ったけど、ここで衝撃を吸収しているのか」
村ダンジョンで散々収穫した豚肉……もとい、フェケテリッツァは斬撃耐性を持っていた。ライノメタルビートルは、その打撃耐性版に近いと思われる。
色々と考察していると、死体が霧散していき、ドロップ品が残された。2つとも、背中の甲殻の半分だ。丸みを帯びた長方形なので、そのまま盾に出来そうな形状である。今のところ必要ないけど。
【素材】【名称:鉄甲虫の甲殻】【レア度:E】
・黒光りするライノメタルビートルの甲殻。鉄に近い硬度を誇り、そこそこ軽いため、防具に使われる。
そして、〈相場チェック〉では、1500円と出た。これなら蟻退治の方がよっぽど稼げるな。さっさと駆け抜けても良いかも知れない。
「さて、そうすると、ヴァルトの武器をどうするか?」
「ん? 俺の武器は、残りのアイゼン・ツヴァイハンダーしかないぞ」
「今はレベル上げをしていない分だけ、アビリティポイントに余裕があるからな。俺の特殊武器なら貸せるぞ。ミスリルソードか、紅蓮剣かな?」
「午前中使っていたミスリルソードは知っているが、紅蓮剣ってのは初耳だな」
実際に出してみたところ、地響きを立てて地面に突き刺さった。そして、倒れそうな紅蓮剣をベルンヴァルトが支えるが、
「うおっ! 重っ……いや、これは重すぎんだろ!」
紅蓮剣の重量は、筋力値Bでも厳しかったようだ。持ち上げて、振る事は出来るが、長時間は無理。〈付与術・筋力〉を掛けて、ようやく普通に取り扱えるようになる。おそらく〈集魂玉〉でも同様だと思うが、効果時間的に移動中に持ち歩くのが厳しい。断念した。
「こっちはこっちで、軽すぎんだろ。目を瞑っていたら、木の枝と間違える軽さだぞ」
ミスリルソードの方は、軽すぎると不評であった。武器に付与されている〈軽量化〉と〈剛腕〉のせいだけど、鬼人族的には落ち着かないそうだ。
結局のところ、ツヴァイハンダーで進む事となった。金砕棒よりも長いので、壁や木にぶつけないように、立ち位置を再確認する。俺も、射程が長くなった〈旋風撃〉に巻き込まれないよう、戦闘陣形を再確認した。
そして、エンカウントした2戦目では、ライノメタルビートルの頭に、ナデルキーファーが乗っかっていた。ただ、頭に松の盆栽が生えた分だけ重いのか、最初から地面にいる。
……木の方をじっと見ているのは、登りたいのだろうか?
ちょっとだけ哀愁が漂っている気がして、和んでしまった。まぁ、充填が完了するまでだけど。
「〈ファイアボール〉!」
ロックアントと合体しているだけでも、面倒なのは経験済みだ。いの一番に、燃やした。
頭の上がカチカチ山になっているが、下のライノメタルビートルは微動だにしない。松ぼっくりが火に炙られ、笠が開いて真っ赤に染まる。そして、爆発した時、急にライノメタルビートルが後ろ脚で立ち上がり、そのままひっくり返った。
……びっくりして、ひっくり返った?
ジタバタと脚や羽を動かすのを見て、起き上がる前に駆け寄り、柔らかい腹を攻撃する。魔法一発で難なく倒せてしまった。正に一石二鳥とはこの事か。
その後も、攻略を進めながら、色々と検証してみた。
範囲魔法の〈ストームカッター〉は、吹き上げる突風に乗ると逃げられる。乗るのに失敗すると、墜落して風の刃に切り刻まれるけど……倒せる確率は7割くらいか? 2匹まとめて倒したいのに、両方ともに逃げられる事も有り、微妙。
ランク1の単体魔法は威力不足だったが、ランク4の貫通魔法〈ウィンドジャベリン〉は、一撃で貫通して倒せた。まぁ、木に刺さると、百舌鳥の早贄というか、昆虫標本みたいになるけど。折角の貫通魔法だけど、木にへばり付いているせいで、2匹を直線状に捉える事は難しかった。
罠術は、ほぼ効かない。鈍重で歩かないので、設置系は意味がないし、〈トリモチの罠〉なんて仕掛けようものなら、弱点の腹を攻撃し難くなる。
そして、以外にも役立ったのは、ベルンヴァルトのツヴァイハンダーだ。
弾力があるせいで、甲殻を叩き切るのは難しかったようだが、別の方法を思いついた。角の下に剣を差し入れ、上に薙ぎ払うように振るい、ひっくり返すのだ。
つまり、カブトムシ同士の喧嘩と同じだな。角で突き合って、ひっくり返したら勝ち……みたいな?
……そう言えば、鬼人族にも立派な一本角が生えているもんな。なんて、考えが過ぎったのは内緒だ。
17層に降りた所で、ダンジョンの外に脱出した。そして、買い取り所を素通りして、先に受付へ向かう。掲示板に掛かっている依頼のうち、銀鉱石、チタン鉱石、鉄鋼石の納品依頼の木札を取って、受付カウンターへ向かった。
「夜空に咲く極光の皆様、お帰りなさい。本日はどのようなご要件でしょう」
アメリーさんが、笑顔で応対してくれる。未だにパーティー名で呼ばれるのには慣れない。木札を渡して、手続きを依頼した。
「ええと、銀鉱石100個と、チタン鉱石100個の納品依頼をツヴェルグ工房宛ですね。
そして、鉄鉱石100個がフェッツラーミナ工房宛と」
「はい、鉱石はここで渡せば良いのですか?」
「いえ、ここには測量器がありません。受付処理をしましたので、買い取り所の鉱石系カウンターまでお越しください。そこの職員に、これを見せれば測量致します」
書類を3枚渡されて、買い取り所へ向かった。
鉱石系の買い取りカウンター横には、村で見た体重計に籠を付けたような測量器(内包された金属を自動計測して、金額まで出す魔道具)の、大型版が置いてあった。100個丸々入る程の大きさは、普段の流通量が垣間見える。流石は都会なだけある。
依頼の3種類に分けて計測してもらい、セカンド証で認証したら完了。通常の納品に比べて、依頼でまとめて出すと、報酬が1割、2割多くなるそうだ。今は銀鉱石が不足しているそうで、2割増しで買い取ってもらえた。
そのついでに、植物系も売り払い、計72万円の儲けとなった。これで、かなりの余裕ができた。明日の錬金術師協会が楽しみだな。
意気揚々と帰ろうとしたとき、受付でアメリーさんに呼ばれた。ニコニコと手招きする様子に、警戒しながら近付くと、
「おめでとうございます。夜空に咲く極光パーティーの貢献度が一定を越えたため、各種施設の利用許可が降りましたよ」
「あ、以前聞いた図書室でしたっけ。今日の納品依頼が効きましたか?」
「ええ、それ以外にも、騎士団の依頼分や、お菓子の納品も評判が良いのも一因ですよ。
それでは、簡単に説明致しますね」
受付の端にある階段には結界が張られているそうで、登録者しか登る事が出来ない。2階に上がった直ぐの部屋が図書室、3階にはレア物を扱う売店があるらしい。
そして、ダンジョン入口近くにある騎士団の詰所、そこの2階にあるシャワールームも使わせてもらえる。俺には〈ライトクリーニング〉があるので、使うことは無いだろうけど、女性探索者には必須なんだろうな。
「そして、最後に重要な忠告です。20層のボスは、事前情報が有ると無いとでは、難易度がかなり違います。図書室で情報を集める事をオススメ致します。
それともう一つ、27層は事前準備していないと、死にます。3階の売店を利用すると良いですよ」
……ゲームとかにある、新要素が登場した時のチュートリアルかな?
「……そこまで話すんなら、教えてくれても良いじゃねぇか?」
「いやいや、図書室も売店も楽しみなんで、見に行きますよ!」
迂闊なことを口走ったベルンヴァルトが、笑顔で睨まれたので、慌ててフォローした。アメリーさんは頭を振って、「良くあることよ」と呟き、溜息を付いた。
「先程みたいに誘導しないと、情報収集しない人が多いのよ。特に魔法使いが居ないパーティーだとね。囲んで叩く、ゴリ押し戦法で進んで、被害が出てから慌てだすとか……」
「でも、ここ、貴族用の受付ですよね? 魔法使いが居るパーティーの方が多いのでは?」
「魔法使いがいて、調べ物を全部一任するとかなら、マシな方ですよ。
貴族出身のお坊っちゃんだと、ダンジョンに入る準備は使用人に任せで、自身が把握していないとか……」
魔法使いなら、弱点属性を予め調べておきたいので、適任ではあるけど、任せっきりか。俺は〈詳細鑑定〉で、戦闘前に調べてしまうけど、その場で同行者にも横展しているのでセーフだと思う。
そして、貴族が使用人任せで把握していないのは、意外に感じた。王都の学園は厳しいと聞いている。ダンジョン講習なんて有るくらいだからな。そこら辺を聞いてみると、
「いえ、学園を卒業するエリートさん達は、優秀な人ばかりですよ。ただ、卒業生の皆さんは、第1ダンジョンに行かれるので……
第2ダンジョンに来るのは、学園に行かせてもらえなかった貴族の子弟ですね。騎士団に入ると、平民と一緒に扱かれるので、それを嫌って探索者になった人達です。無駄にプライドが高く、実家が後援に付いていて、対応が面倒……いえ、言い過ぎましたね」
そう言えば、テオも言っていたな「末息子とか、愛人の子供」とか。まぁ、アイツからは稼ぎ易い物の情報を貰っている。軽い感じはするけれど、プライドが高いって訳でもなかったので、アメリーさんのブラックリストには入っていないだろう。
色々と話を聞いていたが、アメリーさんの話が愚痴っぽくなってきたので、お暇することにした。
「では、アドバイスを頂いたことですし、早速図書室に行ってきます。ヴァルトも行くぞ」
「えー、俺もかよ」
「そうですか、頑張って下さいね。又のお越しをお待ちしております」
渋々といった様子のベルンヴァルトを連れて2階に上がる。すると、階段のすぐ近くに『図書室』とプレートが下げられたドアを見つけた。その中に入ると、壁際に本棚が並ぶ、小さな部屋だった。
勝手に学校の図書館をイメージしていたけれど、図書室だったわ。パッと見で、12畳くらいだろうか?
真ん中には、閲覧机と椅子が並べられている。
他に利用者も居ないのかと見回してみると、入口横のカウンターで、少女が読書をしていた。
黒に近い青髪を三編みにし、受付嬢と同じ制服を着ている。眼鏡でも掛けていれば、『委員長』とか『図書委員』が似合っていそうな、女の子だ。
恐らく、ここの司書なのだろうけど、俺達に気付いた様子はなく、一心不乱に読書をしていた。
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