第207話 針+松の木+岩+蟻=蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻鉄銀鈦

「待たせたな! 松の木だけに!」


 〈挑発〉を掛けてから、放置していたナデルキーファーの間合いに踏み込んだ。ベルンヴァルトは反対側に回り込んでおり、少しタイミングをずらして踏み込む手筈になっていた。


 松の葉が伸び、槍のごとく突き出されてくる。

 本数が多く、全身を狙ってくるので、完全に回避するのは難しい。なので、避けきれない物は、甘んじて受けた。


 顔以外なら、大した痛みじゃない!


 足や体に数本直撃しながらも、右手のテイルサーベルで切り払う。更に、切り返して伸び切った松の葉を伐採した。


 斬られた松の葉は、本体のナデルキーファーから切り離され、別の葉が伸びてくる。逆に、斬らなかった松の葉は短くなって戻っていく。

 こちらに向いている松の葉を全て伐採すれば、本体に攻撃出来るけれど、葉の本数が多いので持久戦になってしまう。


 2度目も切り払い、3度目が伸びるタイミングで、反対側からベルンヴァルトが踏み込んだ。


 しかし、〈挑発〉を掛けたのにも関わらず、3本の松の葉がベルンヴァルトを狙って伸びた。

 それを、身を屈めるように躱し、更に踏み込む。


 その間、俺は援護のために、伸びてきていた松の葉を掴んで押し留めていた。伸ばせる本数には限りがある。それに、伸びきった松の葉は縮めないと、攻撃には使えないみたいだからな!


 俺がナデルキーファーと綱引きをしている間に、ベルンヴァルトが接近し、「〈集魂玉〉!」の掛け声で、大上段に掲げた金砕棒が振り下ろされた。轟音が響くのと同時に、綱引きの綱(松の葉)が千切れた。



「よっしゃー! 叩き潰したぜ!」


 追加の松の葉も伸びてこない。倒したと見ていいだろう。俺も近寄ると、ベルンヴァルトが晴々とした笑顔を見せ、顔の横辺りに握りこぶしを掲げた。

 それに倣って、握りこぶしを掲げると、拳同士を軽く打ち合わせられた。


 後で聞いた話だけど、騎士団で行うハイタッチみたいなものらしい。上手い連携が取れた時にやるそうだ。


 金砕棒を退けると、幹がへし折れたナデルキーファーと赤い松ぼっくりが姿を表した。松ぼっくりは既に、下半分の笠が開き赤くなっている。


「あっ! ヤバイ、爆発する!」


 金砕棒の影に隠れていたせいで、気付くのが遅れた。『加熱か時間経過で爆発する』と、鑑定文に記載されていた事を思い出す。そして、その続きは『水を掛ける事で鎮火』


「〈ウォーター〉!」


 逃げるよりも、咄嗟に便利魔法で水を振りまいた。すると、水が掛かった松ぼっくりは、徐々に笠を閉じていき、色も茶色に戻っていく。念の為、水溜りになるくらいに水を撒くと、完全に笠が閉じた。


 その松ぼっくりと、ナデルキーファーが霧散していくと、茶色い石玉が残された。



【素材】【名称:松脂まつやに】【レア度:E】

・松の木から取れる樹脂。精製、加工することで、インク、接着剤、塗料などに利用されている。



 また、樹脂だ。使い道は全く知らないので、確保するべきか、売却するか迷う。〈相場チェック〉だと3千円、微妙だ。レアドロップなので、ドロップ率が低ければ確保かなぁ?


 ダンジョンギルドの図書室とかに行けば、情報が得られるだろうか? それとも、まだ行ったことの無い錬金術師協会か?




 14層に辿り着いた。

 結局、ナデルキーファーは近接では戦い難く、仮に倒せても松ぼっくり手榴弾から逃げる必要もあるため、〈ファイアボール〉で始末している。

 ナデルキーファー2本の距離が近ければ誘爆するので、魔法一発で済む。


 ただ、ここまでの魔物が、同種ペアでしか出てこないのは不思議だった。

 そんな疑問も、14層に入って1戦目で氷解した。ナデルキーファーとロックアントのペアは非常に相性が良かったのだ。

 邪推すると、登場開始の13層では手加減されていたのだろう。



 小部屋で遭遇したのは、鉄のヘルメットを被ったロックアントと、その背中に生えているナデルキーファーだった。そう、動けない弱点を克服しているのだ。


 情報収集の為に、魔法無しで戦ってみたところ、非常にやり難かった。

 ロックアントは硬いだけの雑魚であったが、背中のナデルキーファーが中距離から攻撃してくるので近寄り難い。松の葉が伸びている隙に接近すると、ロックアントが前脚で攻撃したり、綱引きしている松の葉を切ったりする。


 後、〈挑発〉するとロックアントが近寄ってきて、2匹から波状攻撃を受けてしまい、非常に危険。それでいて、ナデルキーファーには〈挑発〉の効きが悪い。松の葉の数割はベルンヴァルトの方を狙っていたからな。



 途中で面倒臭くなって燃やした。


「ハハハ、まるでカチカチ山だな!」

「……カチカチ? まぁ、魔法で倒すのが楽なのは分かるぜ」


 背中のナデルキーファーが燃え、慌てた様子のロックアントが右往左往していた。その背中から丸いものが零れ落ちる。脚元に転がった真っ赤な松ぼっくりが爆発すると、哀れなアリンコは巻き込まれ、爆煙に包まれた。


 ……ロックアントは火属性に耐性は無いが、アレでは一溜まりもないだろう。


「いや、そうでもねぇぞ」


 そう言い放ち、金砕棒を構える。

 煙が薄くなると、そこには片側の脚が全てもがれたロックアントが倒れていた。未だに燃えているナデルキーファーだった松の木が背中の土と共に滑り落ちる。


 ……なるほど、岩装甲ではなく、土装甲だったのか。そこにナデルキーファーが生えていたので、上で燃えていても大したダメージにはならなかったようだ。


 松ぼっくり手榴弾で、脚が吹き飛んでいるので、手詰まりだけど……いや、まだ試していない事を思い出した。


「ヴァルト、ちょっと待った!」

「おう? どうした?」


「ロックアントはピンチになると、仲間を呼ぶらしい。ちょっと様子を見よう」


 鑑定文に書いてあったことだな。〈敵影感知〉で探っても近くに他の魔物は居ないが、はてさて……



 取り敢えず、〈トリモチの罠〉で固着した。ついでに、危機感を煽るため、金砕棒を持って仁王立ちしているベルンヴァルトを配置する。


 その途端に、頭の触角が淡く光り始めた。更に、ロックアントが顎をカチカチと鳴らしているが、仲間呼びの行動なのか、恐怖に震えているのかは分からない。


 30秒程で、触角の光が粒子となって舞った。それは、少し離れた所に集まると、地面から煙が吹き出す。

 見覚えがある。魔物が出現ポップする前兆だ。

 近くの魔物を呼ぶのでは無く、召喚する方だったのか。少し予想外に感じながらも、煙が出ている下に〈トリモチの罠〉を設置しておく。

 目論見通り、煙の中から出現したロックアントは、そのままトリモチに引っ掛かった。


 ……ふむ、ナデルキーファーは背負っていない。流石に種族が違えば無理か。


「ヴァルト~、新しい奴も脚潰しといて。倒さないようにな」

「おうよ」


 2匹目も捕獲し、暫し放置。すると、2匹共、仲間呼びをするために触角を光らせた。


 出現した3、4体目も捕獲するが、面白い事に気が付いた。

 鉄のヘルメットや、体の装甲も1匹目と同じなのだ。まるでクローンか、ゲームデータのよう。


 ……面白い事を思い付いた!


「ヴァルト、2匹目と3匹目は潰しておいて。ちょっと、実験するから」


「おおう、何だ実験って?」


 論より証拠というからな、ベルンヴァルトの声には答えず、取り掛かる。比較的近くに居た2匹、それぞれの顔の近くに、鉄鉱石と魔水晶を数個置いた。


「食え、食え! どうせ仲間犠牲者を増やす事しか出来ないんだ。食って回復した方が良いんじゃないか?」


 その言葉が理解出来たのか分からないが、ロックアントは観念したかのように鉱石を食べ始めた。ガリガリ、バリバリと嫌な音を立てて平らげていく。それに鉱石を追加して食べさせていくと、身体の装甲が増え始めた。


 鉄鉱石を食べさせたのは、鉄の装甲。魔水晶の方は、クリスタルのような装甲を纒っていく。10個ほど食べさせると、フルアーマー化した。幸か不幸か、千切れた脚は生えなかったようだ。


 その状態で仲間呼びをするまで待つ。呼び出されたのは、フルメタルアーマーと、フルクリスタルアーマーの2匹だった。


「よっし、ビンゴ!! 

 ヴァルト、この4匹だけ残して、追加で出てきたのは皆殺しな!!」


「了解だけどよ、倒し難くなっただけじゃないか?」


「後で説明してやるから、今はモグラ叩きならぬ、蟻叩きの時間だ! トリモチも使わないから、出てきたら直ぐに倒せよ!」


 それから、仲間呼びで追加される度に倒し続けた。

 俺の手持ちの武器では鉄装甲は厳しいので、特殊武器のミスリルソードを取り出して斬りまくり、ベルンヴァルトは〈集魂玉〉を連打して、装甲ごと叩き潰した。




 30分程、経った頃、声を掛けられて我に返った。


「おおーい、リーダー! アリンコの死体で、踏み場がねぇぞ。これくらいに、しとこうぜ!」


 近くにいたロックアントの頭を、ヘルメットごと兜割りして倒す。これで近くにいた魔物は倒したので、一息付きながら周囲を見回すと、確かに死骸だらけだ。鉄とクリスタル装甲なので、見苦しくはない。ただ、曲面の装甲部分もあるので、危険と言えば危険。確かに、そろそろ切り時か。


「分かった。最初の4匹……そっちの方が近いな。潰してくれ!」

「了解!」


 既にトリモチは消えていたが、脚を潰されているため、最初の位置からは動いていない。それらを倒し、増援を絶ってから、残りのロックアントを殲滅した。


 最後の1匹を倒してから少しすると、ロックアントの死骸が一斉に霧散した。数が多すぎて、小部屋全体が霧に包まれる。霧が晴れると、小部屋の至る所に、鉱石玉がドロップした。

 その中には、銀色の筋が入った銀鉱石もあった。




「今まで戦ってきたロックアントは、金属装甲が多い奴ほど、レアドロップが出易い気がしてたんだ。更に、仲間を呼ぶと同じ装甲を纏った奴が召喚されてくる。

 それを組み合わせた結果が、この大量の銀鉱石とチタン鉱石だな!」


 鉱石玉を拾い集めながら、ベルンヴァルトに今回の趣旨を説明しておいた。所謂、ゲームでよくある仲間呼びを利用した経験値稼ぎと一緒だ。今回は素材目当てだけどね。

 ロックアントのレアドロップは『1ランク上の鉱石』なので、21層で取れる鉱石がレアドロップする。つまり、銀鉱石やチタン鉱石だ。


 全部拾い集めると、銀鉱石:36個、チタン鉱石:35個、鉄鉱石:28個、魔水晶:36個、燃石炭:8個、松膨栗:1個。

 計144個もの大成果となった。


 レアドロップの銀鉱石とチタン鉱石の割合は、約50%。これらは買い取り所で、1個2千円で売れるし、魔水晶も千円。準備を含めても40分程で済むのならば、お金稼ぎとしては十分だ。

 これ、鉱石系採取地回るよりも、効率が良くないだろうか?





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 タイトルの最後にある漢字はチタンです。


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