第206話 針+松の木=

 採取と昼食を終えて、12層を進んだ。魔法で遠距離から先制し、残ったクイックワラビーには〈挑発〉と〈トリモチの罠〉で倒し、ロックアントはベルンヴァルトが叩き潰す。


 特に苦戦することも無く階段まで進んだ。新たな発見は、ロックアントが装備している金属装甲とドロップの関係性くらい。

 金属装甲と同じ素材がドロップし易く、更に金属装甲の面積が多い程、レアドロップし易い気がする。装甲無しのノーマルアントは、レアドロップを落とした事がない。

 n数が少ないので、まだまだ仮定ではあるけれど……




 13層に降りると、そこは草原だった。いや、残念ながらフィールド階層ではない。

 村ダンジョンの並木道と同じ、隅に草が生えているだけで、その奥は透明な壁に映された偽りの草原だ。部屋と通路の地面は剥き出しの土なので、行動範囲としては分かりやすい。

 透明な壁をノックしても、音すら鳴らないのも同じだ。


「ダンジョンだから、そんなもんだろ。それより、ランプしまっといてくれよ」


 ベルンヴァルトもレスミアと同じく、ダンジョン=不思議な所、で疑問にも思わないようだ。

 ここも明るい階層のようなので、デッドウェイトになるランプはストレージにしまった。


 地図を確認すると、宝箱部屋が2つある。ただ、異変調査の必要もないので、無視して先を急ぐことにした。採取地も微妙に階段から遠いのでスルーだな。



 階段への最短ルートを進んでいると、十字路の横道から破裂音が聞こえて来た。爆炎ボムの爆発音よりは低いが、瞬火玉よりは大きい微妙な音。レスミアの猫耳なら、もうちょっと聞き分けられるかも知れないが……


 ベルンヴァルトも知らないようで、首を降った。〈敵影感知〉も反応無し。念の為、角に隠れて手鏡だけ覗かせ、音のした通路を覗いて見る。


 すると、通路のかなり先に、数人の探索者が居た。魔物との戦闘後なのか、ドロップ品か何かを拾って、背負籠に入れている。話をしているが、流石に距離があって聞こえない。


 ……う~む、まるで情報が得られない。爆弾系の魔道具でも使ったのだろうか?


 結局、最短ルートからは外れるので、無視して先を急いだ。挨拶するにしても、少し距離があったからな。




 その音の正体を知ったのは、この直後だった。


 直進方向に〈敵影感知〉の反応があった。ただ、2匹とも動いていない。

 近付いてみると、地面に松の盆栽が2本生えていた。1m程の高さしかないので、松の木と言うよりは、盆栽だな……くの字に曲がっているのと、大の字に枝を伸ばしている松だ。どちらも、一番上に大きな松ぼっくりが生えている。その為、大の字の方は人型に見えなくもない。



【魔物】【名称:ナデルキーファー】【Lv13】

・小型の植物魔物。自身で歩き回る事は出来ないが、針のような松の葉を伸ばして攻撃してくる。ただし、同時に伸ばせるのは自身のレベルと同じ本数まで。頭頂部に大きな松ぼっくりを一つ持っており、倒されると落とす。そして、時間経過か、加熱すると爆発するので注意が必要。水を掛けると鎮静化する。

 他の魔物の背中にくっ付いていることもあるが、これは寄生ではなく共生。移動するための足役と、松の葉による中距離攻撃を分担する。

・属性:風

・耐属性:土

・弱点属性:火

【ドロップ:松膨栗】【レアドロップ:松脂】



 やっぱり新種の魔物か!

 植物型は、歩くリーリゲンを見ているので、然程驚きはない。むしろ、動かない魔物がいる方が驚きだ。鑑定文には合体するような事が書かれているが、同種の2体……2本のペアなので、地面に生えたまま。


 ベルンヴァルトにも鑑定文を教えてから、弱点である〈ファイアボール〉をくの字のナデルキーファーへ打ち込んでみた。

 幹に着弾して小爆発が起こり、そこから炎が燃え広がる。細い枝や、その先に生い茂る松の葉も盛大に燃えた。その中で、注目して見ていた松ぼっくりに変化が見え始めた。下からの炎にあぶられ、笠が開き始める。それは、まるでカウントダウンのように、下から順に開いた笠が赤くなり…………先端まで赤く変色し、笠が開いた時、小爆発して炎を周囲に巻き散らした。


 その炎は、もう一本の大の字ナデルキーファーに飛び火した。

 松の葉から燃え上がり、2本目も松ぼっくりまで引火、自爆して終わった。魔法一発で終わるとは……もしかして弱い?

 爆発は〈ファイアボール〉程度には強そうだけど、遠距離から燃やせば、それも届かない。


 ドロップ品は大きな松ぼっくりだった。ただし、俺の記憶にある手のひらサイズではなく、その数倍は大きい。



【素材】【名称:松膨栗まつぼうくり】【レア度:E】

・ナデルキーファーの松ぼっくりだが、爆発しないので安心。乾燥させると笠が開き、中の松の実が取れる。更に、笠を毟れば中心にある栗も取れる。

 ただし、早く乾燥させようとして火にくべると、中の栗が破裂して松の実を巻き散らすので注意。



 松の実と栗が取れる???

 松と、栗の木は別だよな? トゲトゲのイガに包まれた毬栗いがぐりは、流石に俺でも知っている。


 まぁ、ファンタジー食材と受け入れるしかない。松の実の使い道は知らないけれど、栗が手に入るのは嬉しい。モンブランに栗きんとん、マロングラッセなんて、秋の味覚が楽しめる。栗ご飯……栗押麦が美味しいかは分からないけど、レスミアにお願いしよう。

 松の実は使い道すら知らないので、お任せだな。




 楽な相手なので、栗集めが捗る……そんな考えは、2戦目で覆された。


「お前の枝ぶりじゃ、盆栽コンテスト落選だな!」


 開幕で〈挑発〉を近い方のナデルキーファーに掛けた。植物を罵っても、動かないので効いているのか分からないけれど。


 魔法を使わない場合の情報が欲しいので、接近戦を仕掛ける。盾を構えて踏み込んだのだが、剣が届く間合いよりも外から、攻撃が飛んできた。


 ナデルキーファーは全く動いていない。しかし、その針のような松の葉が、予備動作もなく突然伸びた。鑑定文で伸びるとは知っていたが、も伸びるとは予想外過ぎる。


 顔を狙って伸びてきた松の葉を、盾でガードした。軽い感触が腕に伝わる……それと同時に太腿や、腕に鈍い痛みを受けた。


 堪らず後ろに下がると、その正体も見える。

 同時に伸ばせる松の葉は、レベルと同じだけ。つまり13本もの槍が伸ばされたのだった。いや、槍ってほど太くはないので、長さ3m程に伸びる松針といったところか。

 間合い的に剣は勿論、槍でも届かない。


 伸ばされていた松の葉は、同じスピードで短くなっていき、普通の盆栽に戻った。質量とかどうなってんだ??


「おい、大丈夫か?」

「ん? あぁ、大丈夫みたいだ。防具は貫通していないよ」


 刺された太腿や腕を確認したが、穴は空いていない。HPバーも1%も減っていない。

 それに、胴体にも松針を受けたけど、痛みは無かった。硬革処理された部分なら、完全防御出来たのだろう。


「それなら、俺の方が適任じゃねぇか。硬革部分は俺のジャケットの方が多いからな」

「それほど痛くないとはいえ、顔は絶対に避けろよ。目に刺さったら失明じゃすまないかも、しれないぞ」


 ベルンヴァルトは、俺の注意に手を振ると、金砕棒を構えて踏み込んだ。

 3mの間合いに入ると同時に、フルスイングした。鬼足軽には無いスキルなので、只の薙ぎ払いだ。それも、顔に伸びてきた松針を避けながらなので、体勢が金砕棒に流されている。


 それでも、松針をまとめて、へし折った。折れた松針は、短くならず、そのまま根本から地面に落ちた。使えなくなった部位は、自身で切り離すようだ。


 その隙に、ベルンヴァルトが更に踏み込む。しかし、次に伸ばされた松針は、全身を狙っていた。上半身に伸ばされた松針を薙ぎ払うも、足の至るところに突き刺さる。

 次の瞬間、ベルンヴァルトが転んだ。


「がぁぁ、、、いっっっつぅ!!」

「〈ファイアボール〉! ヴァルト! そのまま転がって離れろ!」


 念の為に充填していた魔法を撃ち、攻撃&自爆範囲から逃げるように指示を出した。

 ゴロゴロと転がる合間に、1本目は燃えて自爆する。今回の2本目は少し離れているので誘爆はしなかった。


 まぁ、自力では動けない魔物なので、少し放置しておこう。検証がまだ足りないから、もう一度魔法抜きで戦ってみたい。


 戻ってきたベルンヴァルトは、両足を投げ出し、刺された場所を擦っていた。


「リーダー我慢強いな。足に刺さったかと思うくらいには痛かったぞ」

「ん? 大袈裟な……細い串で突かれた程度だろ?」


 お互いの意見が擦れ違う。少し話していると、視界の隅に映るHPバーの減り方が違うことに気が付いた。俺が1%未満に対して、ベルンヴァルトは5%も減っている。


 その差を調べてみたところ、鬼足軽に耐久値のステータス補正が無い事が原因と判断した。元々、戦士の耐久値中アップで『D』だったのが、最低値の『F』まで下がっているのだからな。

 ズボンを捲くって、実際に被弾した膝の辺りを見てみると、青痣が出来ていた。硬革処理されていない普通の革部分では、貫通はされなくとも打撃までは防げなかったようだ。


「〈ヒール〉! ……よし、痣も消えたな。」

「ありがとよ。しっかし、そうすると今までみたいに突っ込めねぇな。盾持つか?」


 現状だと、金砕棒が重いので両手持ち。ツヴァイハンダーはもっと重いので、筋力値補正が中になるまで保留している。そんな状況では、大盾は勿論のこと、俺のカイトシールドも厳しいだろう。


「いや、今の編成は、俺が盾役だ。俺が〈挑発〉して引き付けた後、別方向から攻撃してくれ」

「俺はずっと盾役をしてたからなぁ。なかなか、切り替えられんぜ」


「ああ、鬼足軽ジョブの鑑定文は『やられる前に殺れ』だったからな。攻撃に専念した方が良いと思う。

 えーっと、幼馴染のシュミカさんは鬼徒士なんだっけ? 彼女はどう戦っていたんだ?」


 切り口を変えて質問してみると、ベルンヴァルトは合点がいったかのように、膝を叩いた。


「ああ、そうか。シュミカを真似ればいいのか。確かにアイツの武器は大物だけど、防具は軽装だったなぁ」


 所謂、アタッカーだな。レスミアの闇猫と同じだ。

 ベルンヴァルトは盾役の戦士と、アタッカーの鬼足軽。レスミアは弓矢で遠距離援護のスカウトと、アタッカーの闇猫。


 俺のパーティーは、特殊スキルで好きにジョブを変えられるのが強みだからな。

 魔物の種類によって、編成を変えるためにも、2つのジョブを使いこなして欲しい。そんなお願いをしておいた。


 ……裏向きには、ジョブのデータが欲しいってのもあるけど。





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タイトルは名付け方法ですね。針(独:ナーデル)+松の木(独:キーファー)

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