第201話 10層の魔物と〈挑発〉の再認識

 ベルンヴァルトをリーダーにして、10層へ降りて来た。ダンジョンが違えども、10層毎のボス階層は同じようで、高い天井に馬鹿デカイ扉、九十九折の土手道、どれもデジャブを感じるほどだ。ここまで同じだと、地図を買う必要は……セット買いしたのだった。


 今日のジョブは、戦士レベル22、魔道師レベル22、罠術師レベル22、それに経験値増の5倍をセットした。それと言うのも、ベルンヴァルトのジョブを鬼足軽レベル1に変更した為だ。レベル上げと、俺が盾役をする編成だな。なので、盾も大きい方のカイトシールドを装備している。



【ジョブ】【名称:鬼足軽】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、鬼人族専用

・前衛系の鬼人族限定ジョブ。金砕棒等の重量武器を使い、守りを捨てた攻撃一辺倒な物理攻撃役。専用スキル〈集魂玉〉で爆発的な攻撃力を得る事が出来る。戦士と同程度の防具は装備できるが、盾系スキルや挑発系スキルが無いため盾役にはなれず、耐久値も補正が無いのでダメージを受けやすい。回復手段を用意するか、攻撃を受ける前に圧倒的な物理攻撃力で殲滅しよう。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、敏捷値小↑、器用値小↑

・初期スキル:集魂玉


【スキル】【名称:集魂玉】【アクティブ/パッシブ】

・自身が魔物を倒す毎に、魔物の力を内包した『集魂玉』を手に入れる。そして、集魂玉を使うことで、筋力値を上昇させて強力な攻撃を行う(戦闘終了時まで)。ただし、集魂玉は最大1個までしか持てない。



 集魂玉がちょっと楽しみ。種族専用ジョブは、自分では試せないからな。使用感とかも聞きたいところだ。



 いつもならショートカットを走るところだが、普通に土手道を歩く事にした。ここで登場する魔物は初見であるし、土手道の上から鑑定したり、観察したり、メモり易いからな。


「ま、2種類とも、そんな大した敵じゃないぜ。俺の金砕棒なら、一撃で叩き潰せるからな!」


 そう、得意気に肩に担いだ武器をアピールしてきた。

 金砕棒とは、大ぶりのバットにトゲ付き金属板を取り付け、打撃力を上げた武器だ。こんな物を喰らえば、大抵の魔物は一撃なような? 今まで戦った事のある魔物を思い返してみたが、ボス以外は一撃で撲殺されそうだ。


 他のパーティーもいるようで、九十九折の土手道の先のほうに数人見える。ただ、肉狩りのように沢山居るわけでもなく、下の部屋には魔物が残されていた。1つ目の部屋には、猫かウサギ位の小動物がいた。


「わっ! あの魔物、可愛くないですか?! 耳が短いけどウサギっぽい!」



【魔物】【名称:クイックワラビー】【Lv10】

・小型のカンガルー型魔物。名前の通り、素早い動きで跳ね回り、強靭な脚力と硬い脚爪による攻撃を得意とする。

 また、有袋類ではあるが、魔物であるため袋で子育てをする習性は無い。その代わりに、袋に何らかのアイテムを貯め込む事もある。魔物のレベルが低い程、役に立たない物で、高レベルになると魔道具や宝石などを貯め込む。ただし、ドロップ率はかなり低め。

・属性:風

・耐属性: 土

・弱点属性:火

【ドロップ:ワラビーの毛皮】【レアドロップ:ワラビー肉、袋の中身】



「いや、ウサギじゃなくて、ワラビーらしいぞ」

「ワラビー?」


 ワラビーを知らなかったのか、小首を傾げるレスミアも可愛い。まぁ、そう言う俺も、カンガルーなら動物園で見た覚えはあるが、ワラビーは初めて見る。鑑定結果をメモしながら、2人に語って聞かせた。


「お肉を落とすのか~、食べたこと無いお肉なので気になります。可愛いけどお肉の為には仕方がありませんね、倒しましょう!」


 どの道、魔物なので倒すしかないのだけど、速攻の手のひら返しには笑ってしまった。

 ベルンヴァルトも苦笑しながら、昨日、先に戦った感想を教えてくれる。


「ああ、跳ね回る動きは素早いから、レスミア向きかもな。俺は〈挑発〉で向かってきたところを盾で殴り飛ばして、金砕棒で止めを刺したな。鬼足軽は〈挑発〉が無いから、面倒そうだ」


「成る程、それなら俺とレスミアで倒そうか」

「了解です! 行ってきますね!」


 久々のダンジョンで高揚しているのか、一人で土手を駆け降りて行ってしまった。

 部屋の壁の上を走り、クイックワラビーの背中側へ回ると、そこから大ジャンプ。そして、〈猫着地術〉で着地の衝撃すら感じさせずに、軽やかに舞い降り、そのまま距離を詰めた。普通ならば、着地の音で気付かれそうなものだけど、〈無音妖術〉で音は一切出ない。


 そして、テイルサーベルが抜刀音も鳴らずに引き抜かれ、そのままクイックワラビーの後ろ首に振るわれた。〈不意打ち〉で攻撃力アップした一撃は、容易く首を跳ね飛ばした。


 あっという間に倒してしまった。ここまでで聞こえたのは、クイックワラビーの胴体が倒れる音と、クルクルと飛んでいった首が壁に当たる音のみ。


 ……パッシブスキルだけで、噛み合い過ぎじゃね? 種族専用ジョブは、その種族の特徴を生かしたスキルを覚えるそうだけど、ちょっと羨ましい。


 ドロップ品を回収したレスミアが壁を駆け上がってくる。壁に足を掛けるとグリップが利く〈猫体機動〉の力だろう。以前は小部屋から坂道で戻ってきていたのに、高低差を無視して直線で帰って来るとは。


「残念! お肉じゃありませんでした~。でも、この毛皮も手触りが良いですよ。」


 口では残念そうに言いながらも、ちょっと得意気なのは、楽に倒せたせいか。毛皮をもふもふしているせいか。

 取り敢えず、猫耳を撫でてから毛皮を受け取る。うん、確かにレスミアの髪の毛程ではないが、ワラビーの毛皮も良い手触りだ。



【素材】【名称:クイックワラビーの毛皮】【レア度:E】

・毛が非常に柔らかく軽いため、コートの裏地などに使われる。耐久性は高くないため、防具には不向き。



 これから冬なので、コートを作るには良いかもしれない。ただ、1枚が小さいので、10枚以上は要りそうだ。お肉のついでに集めたら、服作りが出来るフロヴィナちゃんに頼んでみるか。



 次に見つけたクイックワラビーは俺一人で相手をした。


 レスミアを真似て、背後側から小部屋に飛び降りる。しかし、着地音で直ぐに気付かれたのか、耳を小刻みに動かしたクイックワラビーはこちらに向き直った。


 カイトシールドを構えつつ、相手の出方を見ていると、静止状態から急に飛び跳ね始めた。

 右に、左に跳ね回り、こちらを翻弄しながら近づいてくる。アクアディアーの動きに似ているが、体が小さい分だけ小刻みだ。そして、ベルンヴァルトの言う通り、その動きは早い……ただ、ウインドビー程でもない。


 この程度の動きなら、避けたところをカウンターでいけそうだ。テイルサーベルを握り直し、タイミングを測る。

 しかし、その思惑を知ってか知らずか、クイックワラビーは飛び跳ね左側に回り込んだ。その姿が盾の影に入り、一瞬姿を見失う。


 地面を蹴る音が聞こえた。


 ……不味い、何処を狙われているのか分からない! 

 その時、ウベルト教官に教わった盾術の訓練を思い出した。盾の影に隠れるような狡い輩は……ぶん殴れ!


 盾を思い切り突き出した。すると、盾に重い衝撃が加わり、ドサッと何かが落ちる音が。盾を退けてみると、そこには目を回したクイックワラビーが倒れていた。


 ……セーフ! やはり、訓練を真面目にやっておいて、良かった。〈ヒール〉を使う回数が、やたら多かったのは忘れたい記憶だけど。

 自分で戦うときは〈トリモチの罠〉で拘束した方が良いかもしれない。


 クイックワラビーの首に剣を突き刺し、倒した。ドロップしたのは、固まり肉。ただ、豚肉と比べると小さく、半分程しかない。500gくらいか?



【素材】【名称:クイックワラビーのフィレ肉】【レア度:E】

・ワラビーの部位の中でも、一番柔らかいフィレ肉。若干の臭みがあるものの、栄養価が高く、低脂肪なため、体力資本な探索者には最適なお肉。



 ビニール袋に包まれたお肉は、鑑定文の通り、サシ(脂身)が殆ど入っていない。ここまで赤身一色だと、俺にはどんな料理が良いのか分からないから、料理人に任せた方が良いな。



 坂道を登って土手道に戻ると、レスミアは小躍りしそうなくらいに喜んでくれた。


「良いですね~、これは幸運のぬいぐるみの効果があったんじゃないですか!?

 牛肉みたいな赤身ですから、やっぱりローストするかシチューかなぁ。う~ん、ミートパイにするのも捨てがたいです」


 お肉を片手にレシピを考え始めてしまった。その背中を押して先に進んでいると、ベルンヴァルトから「何故〈挑発〉を使わなかったのか?」と、問われる。

 相手の行動を見たかった事と、あれくらいの動きならば捉えられると、答えると、


「ま、それなら良いんだけどよ。動き回る魔物には〈挑発〉した方が楽だぜ」

「ん?……もうちょい、詳しく教えてくれないか?」


「あー、説明は面倒だから、実際に見せてやるぜ。ジョブを戦士に戻してくれ」


 ベルンヴァルトのジョブを変更し、俺のカイトシールドを貸すと、次の部屋に走って行ってしまった。

 折角、手本を見せてくれるというのだから、その言葉に甘えて土手の上から見学する。



「ウロチョロすんじゃねぇ!!」


 〈挑発〉の声が響く。左右のステップを踏んでいたクイックワラビーが、驚いたように体を震わせた。直ぐに動き出したが、左右のステップが減り、明らかに直線的な行動が増える。最後に飛び掛かるが、その繰り出された蹴りごと、カイトシールドで潰された。盾で殴り、落ちたところをカイトシールドの下側、尖った部分で圧し潰されたのだ。

 盾術の一つで、相手の足の甲を強打して怯ませる技と習った。近接距離でしか使えないが、体格が小さい敵なら、十分な攻撃技だな。

 下の小部屋から戻ってきたベルンヴァルトは、サムズアップして笑った。


「どうよ! 動きが変わったろ!」

「ん~、〈挑発〉は魔物を引き付けるだけでなく、攻撃性と言うか攻撃頻度も上げる効果があるのか?

 そうなると、逃げ回る魔物や、動きが早い魔物に掛けて、戦闘時間の短縮が出来そうだ」


「そうそう、そんな感じだ! 幼年学校で聞いた覚えがある」

「あぁ、戦士志望の男の子って、座学よりも訓練をやりたがりますからね。私の同級生もそうでしたよ」


 男の子が体育ではしゃぎ過ぎて、次の授業で寝てしまうようなものか。こういうのは世界が違っても同じなようだ。俺も、プールの授業の後は眠気が凄かった思えがある。



 その後、俺も何匹か試させてもらったが、攻撃頻度が上がるのは確かなようだ。そこで、ふと気付いた。


 ……これ、シルクスパイダーやウインドビーを〈挑発〉していれば、もうちょっと早く倒せた場合もあったかも?

 ウインドビーとか背中を見せてから、寄って来るまで時間が掛かったからなぁ。〈挑発〉してから背中を見せて誘うのが、正解だったか。ただ今更、確認に行ける筈もない。類似の魔物が出た時にでも、再検証しよう。






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 第94話に「ソロでも楽に狩れる方法がある」と後書きに書きました。その答えが〈挑発〉を使うでした。ええ、只の〈挑発〉です。あの頃は、魔物が2匹しか出ないうえ、魔法で1匹減らすことが出来ていたので、〈挑発〉する意味が見いだせていなかったのです。〈挑発〉さんが見直されたのは、21層以降でしたし。

 まぁ、こんな感じに主人公でも気付かない事は色々あり……婚約で嵌められていたから、今更ですね。

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