第198話 売店と裏道進行
あらすじ:朗報、知らないうちに公爵撃退。
「あぁ、良かったです。公爵は諦めたんですね?」
「このような所で話せる話題ではありませんので、当日に旦那様……エディング伯爵にお聞き下さい。
明後日の2の鐘に合わせて、迎えの馬車を向かわせますので、準備してお待ち下さいませ。
それでは、まだ仕事の途中ですので、今日はこれで失礼致します」
マルガネーテさんは優雅に一礼すると、屋敷の中に戻っていった。その後ろ姿を見送り、俺達も歩き始める。話題は明後日以降の事だ。
直ぐに郊外に移動になるのか、宿屋暮らしも悪くないけど、新しい食材で料理がしたい等々……
「あ、ソフィアリーセ様で思い出しました! さっき借りた試作品のペン、確か1本余っていますよね、私も欲しいです!
インクをつけ直す必要もなくて、線が太くも細くもならず、同じ調子で字が書けるのは良いですよ」
面会予約の時には貸したボールペンの事だな。ただ、3本しかない。俺自身に1本、ソフィアリーセ様に1本、そして残りの1本は、
「あーごめん。もう、フォルコ君に貸してしまったよ。仕事的に事務仕事が多いのは彼だからなぁ。昼に貰った地図もボールペンで書かれていたろ?
レスミアの分は、レシピを買い取ったら、俺が作ってあげるよ」
「そ、それなら仕方がありませんね。可愛いのでお願いします」
レシピだと、同じ物しか作れないので、難しい注文だ。でも、上目遣いでお願いされると弱いんだよ。〈メタモトーン〉でデコるくらいは考えておこう。確か宝石で余っている物があるし、錬金釜があれば銀のインゴットも作れる。
ダンジョンギルドの一般受付は、貴族向けよりも数倍広いにも関わらず、混雑していた。上の案内板を見る限り、依頼を発行する窓口と、納品する所が混んでいる。
そこを避けて回り込むと、角に売店があった。陳列棚に様々な商品が並べられており、入口横にはレジ打ちの店員さんがいる。棚には採取道具や保存食等が陳列され、水筒竹がペットボトル飲料の如く並べられていた。
「あ、爆炎ボムも売っていますよ。ちょっと懐かしいですね。他の属性も……わっ! 1個2万円、結構高い……」
魔道具の類いはカウンター奥にあり、店員さんに注文しないといけないようだ。まぁ、爆弾にうっかり魔力を流したら、大惨事だからな。他にもマナポーションとかの、高額商品も同じだ。
万が一の時の為にマナポーションは欲しいが、5万円……低層なら、まだ大丈夫と、自分に言い聞かせて保留にした。異変があった村のダンジョンとは違う、街中の資源ダンジョンだからな。平気、平気。
「この飴、お菓子と思ったら、状態異常を治す薬なんですねぇ……ザックス様、一つ買ってみませんか?」
「一袋で2千円? 結構するな……」
【薬品】【名称:
・状態異常の
・錬金術で作成(レシピ:お喋りタイム+蒸留水+
緘黙? 聞き覚えのない言葉なので、レスミアに聞いてみたところ、喋れなくなる状態異常らしい。
「私も授業で聞いただけなので、詳しくは知りませんけどね。えーっと確か、掛かると声が出たり、出なくなったりして、スキルが発動出来ない事がある……だったかな?」
予想以上に危険な状態異常じゃないか! スキルも魔法も、大抵のものは名前を言わないと発動しないのに……
俺だけなら、特殊スキルの〈無充填無詠唱〉で念じるだけで使えるけれど、このスキル10pもするから普段は付けていないのだよなぁ。
それに、パーティーメンバーが掛かった場合は対処しようがない。念の為に一袋買っておくか。
お目当ての樽は、奥の方の大物が置かれた場所にあった。大中小と並んでいるので分かり易いが、これが樹液採取用か? 近くにいたエプロン姿のおばちゃん……もとい、お姉さん店員に聞いてみたところ、
「あら、新人さんかしらぁ? ええ、道具の使い方も、手取り足取り教えてあげるわよ」
やたら、ねっとりした目で見られたけれど、レスミアが腕を組んで微笑むと、普通に説明してくれた。
「……魔法使いがいるなら、断然この方法が良いわよ。
後、ここのダンジョンだと2種類の樹液が採取出来るけれど、一度使った樽を再利用する時は、同じ樹液だけにしてねぇ。別の樹液を入れてしまうと品質とレア度が落ちて、買い取り額が下がったり、買い取り拒否されたりしちゃうわ」
なかなか面白い話や、効率的に採取する裏技を聞かせて貰った。おばちゃんだけあって、話が上手い。そのお礼の意味も含めて、採取道具一式と、小樽と中樽を2つずつ購入する。他にも採取用の麻袋や、3m棒等も買い足して、売店を後にした。
「毎度ありがとうございました~」
「ギルド直営の売店は値切れないとは、思いませんでした~。フルナさんなら、色々買うと端数を負けてくれたり、オマケをくれたりしたんですけどねぇ」
「あの雑貨屋は、併設されただけの提携店らしいからな。蜜リンゴ買い占めとか、裏で色々やってたけど……
さて、次はレスミアの言っていた服屋に行こうか。場所は分かる?」
大通りに出て軽く歩きながら、確認を取る。平民街の店らしいけど……レスミアは頬に手を当てて、記憶を掘り出そうとしていたが、突然近くの路地を指差した。
「あれ?! ヴァルトじゃありませんか?」
「ん? 本当だ。ダンジョン帰りか」
昨日通ったギルドの横道、その道から出てきたのは、俺と同じ赤のジャケットを着た鬼人族。大楯を持ち、背負いかごからは金砕棒の柄が見えている。
「ヴァルト、お疲れ様」「お疲れ様です!」
「おお、リーダーとレスミアか、お疲れさん。俺の方は予定通り、10層のボスを倒して来たぜ。タイマンで戦うには、中々良いボスだったぞ」
「流石だな。助かるよ。これで明日は10層から行けるな」
「俺もレベルを上げたいのは同じだからな。低層なんてさっさと駆け抜けようぜ。」
ベルンヴァルトのサムズアップに、俺も親指を立てて拳を合わせた。
そう、面倒な芋虫、グリーンステッパーの区間を駆け抜けてもらっていたのだ。その間はデートと称して、レスミアをダンジョンから引き離しておけば良い。これでヌメヌメ芋虫肉の存在を知られる危険性はない。
ベルンヴァルトもヌメヌメ芋虫肉を食べる羽目になるのは嫌がったので、快く1人での探索を了解してくれた。10層以下なら罠も無いし、1匹ずつしか出ない魔物に、レベル20の戦士が負ける道理は無い。
今朝は2の鐘が鳴る前から、ベルンヴァルトをダンジョンの5層に送り届けて来たのだった。
ベルンヴァルトを労いつつ、大楯や金砕棒、背負い籠をストレージに回収した。
「ああ、そうだ。大楯と金砕棒は、井戸水で洗ったんだが臭いが残ってな。後で浄化しといてくれないか?」
「(グリーンステッパーの返り血ならぬ、返り体液か)了解。後で装備品一式を浄化するから、先に帰ってのんびりしなよ」
「おう、先に一杯やってるぜ!」
身軽になったベルンヴァルトは意気揚々と宿へ帰っていった。
ふと、服を引っ張られ、そちらを向くとレスミアが真面目な顔で口を開いた。
「ソフィアリーセ様の所へ行くのは明後日ですから、明日は空いていますよね? 明日は私もダンジョンに行きますよ!
新入りのヴァルトには、負けていられませんから!」
そう言うと、小さくガッツポーズをした。
因みに、戦闘中に長い名前を呼ぶのは冗長だと言うことで、ベルンヴァルトの渾名がヴァルトになった(ベル君は拒否されたので)。そして、戦闘メンバー間では、お互いを呼び捨てにすることにする。なぜか俺だけは別だけど……ちょっと疎外感。
「それじゃ、英気を養う為にも、服屋さんに行きましょう~」
女子的に、ウィンドウショッピングは心の栄養になるそうだ。レスミアに手を引かれて、服屋へ連れていかれたのだった。
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