第195話 買い取り所と他パーティーとの交流(餌付け)
〈ゲート〉でエントランスに戻った。そして、ダンジョンの外出ると……と言っても防壁の中のだけど……結構な人で込み合っている。何故かダンジョンの周囲でたむろしているパーティーが多い。背負い籠を持ち少し汚れた感じの人や、タオルを首に掛け、汗を拭いている人がいるのでダンジョン帰りのようだ。車座に座り込み、何かを話し合っているパーティーもいる。
懐中時計を見ると、既に17時過ぎ。仕事終わりの時間なので、混むわけだな。
俺も、さっさと宿に戻ろう。来た道を見れば、案内板が下がっているので、それに従って歩き始めた。通路の途中で一般用と貴族用に別れるが、そこで人数がガクッと減った。一般用の通路の先を覗いてみると、奥の方で渋滞している。この先は買い取り所なので、順番待ちだろうか?
それに比べ、貴族向けの通路はかなり空いている。優先権が使える勲章があって良かった。
通路の先、受付へのT 字路を真っ直ぐ進むと、また自動改札機(結界の魔道具)があった。セカンド証のメダルを押し付けて、結界を解除して部屋に入る。そこは、ガヤガヤと騒がしい大きな部屋だった。
衝立のあるカウンターで、探索者とギルド職員が大きな籠を挟んで話しており、部屋の奥からは、がらがらと石でも転がす音が聞こえる。カウンターの奥では何人もの職員が、採取物をチェックしていた。
……貴族用の買い取り所なので、空いているかと思いきや、予想以上に活気があるな。
物珍しく、周囲を見回していると、カウンターの内側から声を掛けられた。
「ザックス様! お帰りなさい! 私の列に並んで下さい!」
一番近くのカウンターで接客していたアメリーさんだ。身振り手振りで、列の後ろに行くよう指示された。食材ばかりで特に売るものも無いのだけれど、ここの説明くらいは教えてもらえるだろうと考え、列に並んだ。前には10人程が並んでいるが、数人ずつ固まっているので3パーティーくらいか?
上の案内板を見る限り、ここでも植物・食材系と、鉱物系に別れて買い取りしている模様。村の方でも倉庫とカウンターで分かれていたが、利用者が少ないから、まとめて清算してもらっていた。ここだと、2回並ぶか手分けする必要がありそうだ。
ふと、視線を感じて目を前に向けると、前に並ぶ茶髪の青年が、こちらを見ている事に気が付いた。黒光りする胸当てと、黒い盾を身に付けているから、戦士系だろう。金属でも、革系でもなさそうな変わった防具だ。
「なあ、あんた、ちょっといいか?」
「テオ……言葉使いがまずい。相手はお貴族様かも知れない?」
青年のぶっきらぼうな言葉に反応して、その隣に並ぶ背の低いウサミミ少女が、長い耳でポフポフとツッコミする。ウサミミと言ってもバニーガールではなく、耳が生えているだけ。兎人族とか、そんなのだろう。毛皮のポンチョに長い杖を持っている辺り、魔法使いか僧侶だろうか?
「大丈夫だって、プリメル。身なりは良さそうだけど、従者も護衛も連れていないからな。俺達と同じで、末息子とか愛人の子供とかだって。
おっと、すまねぇ。俺はテオ……テオバルト。ヴァロール男爵家の5男だ。学園に行かせてもらえず、放り出された口だな。ハハハ、よくある話だ! あんたもその口だろ?」
「もう……あ、私はプリメル」
プリメルちゃんが軽く頭を下げると、ウサミミが大きく揺れる。レスミア程ではないが、可愛い。特にウサミミが。
「ご丁寧にどうも。俺はアドラシャフト領から来た、ザックスです。出自は似たようなものかな」
流石に初対面の人に、ややこしい事情を話す必要は無い。
軽く流そうとしたところ、テオバルトと名乗った青年が、俺の腰辺りを指差した。
「ザックスが腰に差しているのワンドだろ。つまり、魔法使いだ。でも、剣と盾まで身に付けているってことは、接近戦もこなすつもりとみた!
でもな、いくら体に自信があっても、魔法使いが剣で戦えるのは20層までが良いところだ。戦士や騎士に守ってもらって、魔法に集中した方が良いぜ。
そこでだ、俺のパーティー入らないか?
俺のパーティーは騎士になる俺と、魔法使いのプリメル、他に僧侶とスカウトのメンバーもいる。そこに、魔法使いが追加されれば、ダンジョン攻略がグッと近付くぜ!」
「あのあの、他の2人は鉱石を売りに行っています」
鉱石系の買い取りカウンターの方を、ウサミミでみょんみょんと指しながら、補足してくれた。
……まさか、自分が勧誘されるとは思わなかった。ダンジョンから出た後は、人が多かったので、装備品を外す事なく歩いて来てしまったからな。ワンドに目を付けるとはやりおる。
魔法使いの取り合いになると聞いていたが、初日に声を掛けられるとはね。まぁ、受ける訳にはいかないけど。
「お誘いは有難いけど、俺もパーティーのリーダーをしているから、お断りします。
既に3人パーティーで、後々5人になる予定があるので……
それに、今日はヴィントシャフト領に来た初日で、他のメンバーとは別行動していただけだよ」
「あ~、やっぱり駄目か! フリーの魔法使いがこんなに見つからないとはなぁ」
「私が居るから大丈夫……」
俺の言葉に、テオは露骨にガッカリした様子で肩を落とす。それを慰めるように、ウサミミがぺちぺち肩を叩いた。身長差があるコンビだけど、ウサミミが補っているのか。なかなか面白いカップル?だ。
「それにしても、お隣の領地から来て、直ぐにダンジョン入りとは気合いが入ってんな」
「ここだと、1層から潜り直しだからね。早めに稼げる階層に行かないと……ああ、そうだ。ここのダンジョンでは、蜜リンゴは採取出来ないのかい? 前の所では稼ぎ頭だったんだけど、ここの低層の採取地では見当たらなくてね。キャベツとエンドウ豆ばかりだったんだ」
木に生っているのが、リンゴじゃなくてキャベツだからなぁ。キャベツは単価も安いので、稼ぎに大いに影響が出る。取れる階層があればと、期待して聞いてみたのだが、
「知らねーな。普通のリンゴじゃないのか? 街の外の果樹園なら、ボチボチ収穫時期だと思うが……」
「私、知ってる。蜂蜜よりも高い蜜だよ。貴族街の方のスイーツ店で、高いお菓子に使われていたはず」
お、情報ゲット!
流通はしているって事は、この街で取れなくても、周囲の衛星村や町で取れるのだろう。在庫はまだまだあるけれど、足りなくなったら、取りに行く事も検討しないとな。
海鮮といい、蜜リンゴといい、食材確保が優先になってしまっているのは、間違いなくレスミアの影響だな。元々の日本人マインドの可能性もあるけれど……
「ここのダンジョンにはなさそうか。しょうがない、他の稼げる物を調べるか……
えっと、プリメルちゃんだっけ? 情報ありがとう。お礼にお菓子でもどうぞ。蜜リンゴを使ったアップルパイです」
ジャケットのポケットから取り出すフリをして、ストレージから作り置きのお菓子を取り出した。棒状の物が6本入りなので、パーティーで分けられるようになっている。
手渡した途端に、お菓子袋を開けて、クンクンと嗅ぎ始めた。ついでにウサミミも、みょいんみょいん動き出す。
「ほおぉぉ、めっちゃ良い匂い! 絶対美味しいやつだよ、ありがとう!」
「おい、プリメル、後で俺にも分けてくれよ。
まぁ、ありがとよ。ただ、無いって情報に対しては貰いすぎだな……よし、稼げる素材を、簡単に教えてやろう」
「……テオバルトさん、それは助かるけれど、良いのですか? 採取地の取り合いをするライバルが、増えるかもしれませんよ?」
「年も近いみたいだし、テオでいいぜ!
なぁに、俺達はもう24層に居るからな。お前さんが来る頃には、30層を攻略して第1ダンジョンに行っているさ。」
見た目はチャラ系なのに、義理堅いな。断る理由もないので、レクチャーしてもらった。
10層以下は、エンドウ豆が生命線。でも、3層以下は子供も多いので、取り合いになる。
20層以下は、魔水晶がメイン。後半で昆虫素材をドロップする魔物もいるので、防具を新調するのも良い。テオが着ている黒光りする胸当てと盾が、その素材製らしい。
「20層のボスも、高く売れる素材を落とすんだが、重くてな。アイテムボックス持ちがいないと、持ち帰るのもキツイぜ。居ないなら、21層以降で鉱石掘った方がよっぽど良い。
後は……30層のボス素材が良いらしいと、受付嬢が言っていたな」
ああ、そのセールストークは俺も聞いたな。直ぐそこにいるアメリーさんからだけど。カウンターの方を見ると、列が進んでいた。次がテオ達の番なので、ここで話を切り上げる事にした。
「ありがとう、参考になったよ。今度は俺の方が、教えて貰い過ぎた気がするから、もう一袋どうぞ。キャラメルナッツを乗せたクッキーです」
「はわわわわ、これも良い匂いが…………美味しい!」
「あ、ずりぃぞ! つーか、ここで食うな」
先程と同じく、袋を開けて匂いを嗅いでいたプリメルちゃんだったが、我慢しきれなかったようだ。クッキーを一つ頬張り、蕩けるような笑みを見せる。最初は無表情で、ウサミミで感情表現する娘かと思っていたけれど、普通に笑うじゃないか。
テオ達がお菓子の袋の取り合いをし始めた時、声が掛かった。
「はーい、次の方!」
テオ達の番だ。
取り合いを止め、プリメルちゃんが足元の背負い籠をカウンターに出す。テオの方は背負子に乗せていた小樽を、重そうに持ち上げている。それをカウンターに乗せる前に、アメリーさんがアイテムボックスのウィンドウを押し当て回収した。
そのどちらも、カウンター奥のブースに持ち運ばれ、他の職員がチェックし始めた。
稼ぎ方法のレクチャーに、小樽を使うような話は無かったので、何が入っているか気になる。教えてくれなかったと言うことは、稼ぎ頭に違いないからな。
まぁ、流石に厚かましいので、直接は聞かないけど。
しばらくして、清算が終わったテオ達は、
「お先に! お前も頑張れよな」「お菓子、ありがとう」
と、ウサミミを揺らしながら帰っていった。
それに軽く手を振り返してから、カウンターのアメリーさんに話しかける。
「お疲れ様です。受付だけでなく、買い取り所も担当されるとか、大変ですね」
「ええ、5の鐘の後は受付業務が減りますので、代わりに混む買い取り所の応援に回るのですよ。皆さん、もう少し時間をずらして下さると助かるのですけど……」
朝の2の鐘は受付が込み、夕方の5の鐘は買い取り所が混むそうだ。
日本でも学校ではチャイムに合わせて生活していたからな。そのせいか、こちらの世界でも鐘の音に合わせて生活するのに慣れるのは早かった。俺でさえ夕方に鐘の音を聴くと帰りたくなるのに、産まれてから生活している人は言うまでもないだろう。
「ザックス様は、装備品が殆ど汚れていませんね。4層にはアレが出ますから、やはり3層までの様子見でしたか?」
4層と言うと、アレしかない。ちょっと思い出すのも、げんなりするのだけど……
「あぁ、芋虫……グリーンステアーズですか。魔法で倒したので大丈夫ですよ」
「然様ですか……初めて4層に行く人は、大抵酷い有様になるのですよ。
万が一汚れが酷い場合は、ダンジョン裏手の井戸で汚れを落として下さいね」
そう笑顔で返してくれたのだけど、どうも残念がっている雰囲気を感じた。それというのも、3層までしか入れなかった子供が成人し、最初に受けるダンジョンの洗礼らしい。藁人形の一つ先程度と侮っている人ほど、不用意に斬り掛かってドロドロになる。
……身につまされる話だけど、〈ライトクリーニング〉で浄化しているからセーフ。見掛け上は汚れていないからな。
「買い取り所の説明も簡単にしておきますね。大きく分けて2つ、鉱石類の買い取りと、それ以外の買い取りカウンターに分かれています。清算はそれぞれ別でお願い致します。上の看板には植物・食材系とありますが、計量が必要な鉱石以外であれば、こちらで構いません。
そして、提出された素材は後ろの職員が確認し、清算されます。この時、量が多いとお時間を頂く事があります。その際は、番号札を渡しますので、壁沿いの椅子にてお待ちください。余りに多い場合は、時間をずらして頂けると幸いです」
手で指し示す方を見ると、壁際に長椅子が設置されている。番号札といい、役所とか銀行っぽい。
その後、折角なので、テオお勧めのプリンセス・エンドウを5本買い取って貰った。
「あら、ご存知でしたか。エンドウ豆は鞘に入ったままだと長持ちするので、採取する際は鞘ごとの方が良いです。グリーンピース単品より少し高く買い取り致しますよ。
ザックス様、こちらにセカンド証を当てて下さい。本人確認と共に売買分の貢献が加算されます」
自動改札機の魔道具よりも小さな物がカウンターの上にある。それにセカンド証のメダルを押し当てると、一瞬青く光る。それにしても、このギルドだと、この認証の魔道具が多く使われている。村とは大違いだ。
清算金の大銅貨5枚(5千円)が差し出され、有難く頂いた。ついでに、気になったことも聞いてみる。
「そういえば、グリーンステアーズのレアドロップ……ヌメヌメ芋虫肉って幾らで買い取りして貰えるのですか?」
「あー、アレですかぁ。あまり高くないですよ。依頼が出ていなければ500円ってところです。美味しくありませんから」
「依頼?」
「ええ、アレが好きな種族もいるのですが、あまり人数はいませんので、足りない時にだけ依頼が入ると言う事です」
やはり、女性受けはしないのか、露骨に嫌な顔をしながら教えてくれた。無視して先に行くのが正解っぽい。
「ついでに教えてください。俺の前に清算していたテオが、小樽を出していましたけど、あれも採取物なんですか?」
「……ああ、あれは樹液の採取です。結構時間が掛かるので、ザックス様も採取してきて頂けると嬉しいですね。
その分、貢献も増えますから是非、よろしくお願いします!」
軽い気持ちで聞いてみたら、手を握られ、物凄い笑顔で取って来いと要求されてしまった。可愛い受付嬢にお願いされたら、二つ返事で聞いてしまう男も多いのだろうな。手慣れた感じがした。
まぁ、俺にはレスミアがいるので聞かないけどな! でも、素材は気になるので採取方法とかを聞いてみると、
「それでしたら、売店の方で聞いてみると良いですよ。樽とか専用の道具を買うと教えて貰えますから。
あ、今の時間は一般の方が混雑していますので、後日の方が良いと思いますよ」
貴族用の売店は3階にあるけれど、ある程度の貢献が必要との事。それまでは、一般用の売店に行くそうだ。勲章による優先権も通じないらしい。
混んでいると言う事もあり、今日のところは帰る事にした。
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