第194話 緑の階段と豌豆姫

【魔物】【名称:グリーンステアーズ】【Lv5】

・背中が階段状になっている大型の芋虫。その体重を生かした体当たり攻撃を得意としており、攻撃を受けると体液で反撃する。

 野菜が好物で、採取地を荒らし回る。ただし、採取地で食事をしている間は温厚で襲ってこない。背中に乗っても平気!

・属性:土

・耐属性: 水

・弱点属性:風

【ドロップ:グリーンピース、パンペルコール】【レアドロップ:ヌメヌメ芋虫肉】



 見た目は、丸い頭にギザギザの背中を持った芋虫だ……ただし、全長が2mくらいあって、高さも1m程もある。キモい。何かに似ている気がするけれど、鑑定文にあるように横向きになった階段か?

 ただ、大きいだけあって鈍重で動きは鈍い。攻撃も、横方向への転がり体当たりと、長い身体を持ち上げてのボディプレスしかない。避けるのは容易のだけど……


 問題は2つ。

 斬撃武器で芋虫を切ると、臭い体液が噴き出すのだ。

 初見の時、藁人形と同じように辻斬りしたら、カウンターで浴びてしまった。幸いにも、皮膚を溶かすようなものではなく、ヌメヌメして臭いだけなので、後で〈ライトクリーニング〉をすれば問題無い。まぁ、槍とか魔法など、体液が飛んでこない距離から攻撃すれば良いだけの話だ。


 そして、最大の問題がレアドロップの『ヌメヌメ芋虫肉』である。

 体液の臭さからどう考えても、ネズミ肉より不味いに違いない。いや、美味しくても生理的に食べたくない。フロヴィナちゃん辺りなら、女子的に嫌がりそうだけど、問題は料理人の方だ。

 レスミアとベアトリスちゃんに知られると、ダンジョン食材って事で使いたがる可能性があるからなぁ。


 さて、どうしたものか……


 取り敢えず、発見したグリーンステアーズは〈エアカッター〉で真っ二つにしておく。すると、通路に体液が撒き散らされるので、非常に危険。

 それらが霧散して消えていくと、緑色の丸いボール?が残された。〈詳細鑑定〉してみると、



【素材】【名称:グリーンピース】【レア度:F】

・エンドウ豆がある程度成長し、中が柔らかい状態で収穫した種子。



 鑑定文は普通だけれど、野球の硬球よりも大きい。グレープフルーツくらいの大きさだとグリーンピースに見えないよ!


 それにグリーンピースって、使い道がいまいち思い浮かばない。丼物やサラダに数個乗せる彩り役とか、シュウマイの頭とか、ミックスベジタブルに入っていたくらいか? こんなに大きいのを丼に乗せたら、彩りどころか主役になってしまう。

 そして、グリーンピースを手に考えを巡らせていると、手触りが良い事に気が付いた。揉んでみると、もにゅ、もにゅっと柔らかい。低反発クッションのような揉み心地……食べ物に対する感想じゃないな。




 地図を見直し、採取地を目指す。近くなので、途中の藁人形を1匹〈エアカッター〉でバラしただけで到着した。ただし、部屋の中から〈敵影感知〉の反応がする。その原因は直ぐにピンときた。グリーンステアーズが野菜を食い荒らしているに違いない!


 採取物の品質を上げるために、〈採取の心得〉を持つ植物採取師のジョブをセット。魔方陣を充填しながら突入したのだが、中の光景に驚き、思わず充填を止めてしまった。


 ……キャベツが木に生っている!? しかも、1本の枝に、10個以上鈴生りに生っている。遠目から見ると、マスカットに見えなくない。

 いやいやいや、畑じゃなく木に生っているだけでも可笑しいのに、数がまた可笑しいわ!



【素材】【名称:パンペルコール】【レア度:F】

・1本の枝に群れるように実るため、通称:群れキャベツとも呼ばれる。煮て良し、焼いて良し、生のままでも美味しい万能野菜。



 あぁ、コールスローの『コール』だから、キャベツか。まぁ、ファンタジー食材として、受け入れるしかない。それに道中、すれ違った他の探索者達がキャベツ満載の籠を背負っている理由も合点がいった。これだけ大量に実るから、未成年がお小遣い稼ぎに回収しているのだろう。〈相場チェック〉をすると、一玉200円。嵩張るけれど、火種の実よりは高いな。


 それに採集用だろうか、緑色の脚立が木に立て掛けて……いや、よく見ると丸い頭が付いている。木に寄り掛かってキャベツを食べているグリーンステアーズだ!

 背中を向けているため、こちらに気付いた様子はない。それよりも食事に夢中と言った感じだ。気が付いた時には、咄嗟にワンドを向けていたが、充填を止めていたので〈エアカッター〉はまだ打てない。


 ふむ、鑑定文の内容を試してみる良い機会かもしれない。いざと言う時の〈フィリングシールド〉用に、魔方陣の充填を再開し、近寄ってみる。恐る恐る、階段のような背中に足を乗せた。

 揺れる事もなく、意外としっかりした足場で、2段、3段と登っても倒れる事はない。俺も体格は良い方だし、装備品込みで結構重い筈なのに凄いな。


 一番上まで登ると、キャベツの木の上の方まで手が届く。グリーンステアーズは相変わらず、モシャモシャとキャベツを食べているので問題は無い。採取するのに、木に登るより楽だ。そう考えると、一応役に立つ魔物なのかも知れない。踊りエノキを食い荒らす、害獣のワイルドボアとは比べられないな。


 一旦魔方陣をキャンセルし、ワンドをしまってから、枝に生っているキャベツを収穫してみる事にした。採取ハサミは、キャベツが密集していて使い難いので、採取用のナイフをキャベツの根本に突き刺す。そのまま切り離すと……普通のキャベツだな。葉っぱが何枚も折り重なった葉物野菜。

 ん? 葉物と言う事は〈自動収穫〉の〈葉物収穫の手腕〉の対象じゃないか?


 階段を降りてから、大きな麻袋を取り出し〈自動収穫〉を使用する。すると、キャベツが勝手に枝から離れて浮かび、こちらに飛んできた。次々に袋へ飛び込み、あっという間に大袋がいっぱいになる。


 こうなると、グリーンステアーズは不要だな。次からは即殺しよう。



 キャベツの木は2本あるので、ギルドの半分ルールに従い、1本分だけ回収した。幸いだったのは、グリーンステアーズが噛り付いたキャベツは飛んでこなかった事だ。恐らく、〈自動収穫〉の効果で、除外されたお陰だろう。



【スキル】【名称:自動収穫】【アクティブ】

・手に持った袋が同一素材で一杯になるまで、ひとりでに収穫される。ただし、収穫できるのは【手腕】と名の付くスキルの対象品目だけ。ダンジョン外で使用する場合は、収穫時期でない物やは除外して収穫する。



 改めて魔方陣に充填しながら、周囲を見渡す。火種の実や煙キノコは生えているので、後で回収するとして、気になるのは壁際の緑のカーテンだ。そこに、鞘がパンパンに膨れたエンドウ豆が一面に実っている。

 採取地に入ってきた時にも目には入っていたけれど、キャベツの木のインパクトに取られていた。ただ、よくよく見ると、サイズ感がおかしい。


 そこに、キャベツを食べ終わったグリーンステアーズが、のそのそと壁際へ歩いていくのが見えた。少し興味が湧き、魔法を撃つのを中断、待機状態にして観察する。

 壁際まで這っていくと、芋虫の上体を持ち上げて、壁に体当たり……いや、斜めにもたれ掛かり、エンドウ豆を噛り始めた。

 下の方に生っている実もあるのに、わざわざ少し上の実を狙っている。よく分からないが、どうやら、斜めになるのが食事スタイルのようだ。


 そして、何かデジャブを感じていると思ったが、アレだ。体育館のステージに引っ掻ける移動式の階段に、似ているんだ!

 這いつくばった横向きだと分かり難かったが、壁に寄り掛かって階段状態になると良く似ている。スッキリした。ついでにエンドウ豆のサイズが変なのも、対比となるグリーンステアーズが食べ始めた事で分かった。

 このエンドウ豆、1m弱くらいのデカさだ!


 取り敢えず、充填待機させていた〈エアカッター〉で両断した。撒き散らされた体液付近を避けて、壁に実るエンドウ豆を〈詳細鑑定〉する。



【素材】【名称:プリンセス・エンドウ】【レア度:F】

・童話の結末に反逆するべく、改良された巨大エンドウ豆。中のグリーンピースはモチモチで弾力があり、枕の代わりになる程。並べればマットレスの代わりになる。ただし、所詮は植物なので、長持ちはしない。早めに食べよう。味は普通のグリーンピース。

 普通のエンドウ豆は完熟すると固くなり、皺が出来るが、プリンセス・エンドウはこれ以上熟す事は無い。プリンセスなので、(収穫されるまで)永遠にモチモチです。



 なんじゃこりゃ……童話は知らないけれど、プリンセスは言い過ぎじゃないか。味は普通というのが泣ける。もちもちした触覚は柔らかいけれど……サイズといい豌豆えんどう姫、太りすぎじゃね?

 おっと、この感想はメモから消しておこう。敵が増える気がしたので……


 そして、グリーンステアーズのノーマルドロップは、食事する野菜だったようだ。ノーマルとレア(ヌメヌメ芋虫肉)はどちらも食材(多分、肉って付いている)なので、料理人の〈食材調達〉スキルで確率操作も出来ない。さて、どうしたものか。


 プリンセス・エンドウは豆類だったせいか、〈自動収穫〉は反応しなかった。手作業で収穫しつつ、頭を悩ませた。






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元ネタはアンデルセン童話の『エンドウ豆の上に寝たお姫さま』です。

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