第191話 パーティー名

 ギルマスはひとしきり笑った後、紅茶を一気飲みすると、急に真面目な顔に戻った。


「ふむ、特に危険思想も無さそうであるし、問題ないか。

 よし、フンドミル第2支部長、通行証を発行してやれ」


「既に準備させていますよ。アメリーさん、宜しく」


 のんびりとお茶を飲んでいた支部長であったが、手を挙げるだけで指示を出した。先程の若い受付嬢が一抱えもある箱をテーブルに持って来る。その箱の中には、碁盤サイズの魔道具らしき物が入っていた。反射光が緑っぽいので、ミスリルっぽい……いや、装飾も沢山入っているのは錬金釜を彷彿とさせる。


「はい、皆さんをパーティーとして登録しますので、ここに手を乗せて簡易ステータスを出してください。終わった人は、こちらの契約書を読んでから、サインをお願い致します」


 アメリーさんが、魔道具の蓋を持ち上げて説明するのだが、碁盤から板が持ち上がった事で、分厚いノートパソコンみたいになった。キーボードは無く、ツルツルの表面には手のひらマークが描かれている。そこに手を乗せて「簡易ステータス」と表示させてみると、手の上には出ず、ディスプレイの方に表示された。


 俺の5次職は驚かれたものの、皆順番に登録していく。そして、契約書に目を通したが、通行証に関する事であった。

 貸与するけれど、通し番号で管理されているので、使えるのはサインした本人のみ。失くした場合の再発行手数料など。特に問題ないので署名した。


 そうして渡されたのは、銀製のメダル型キーホルダーだった。片面には風車が彫り込まれ、その裏には通し番号が彫り込まれている。


「はい、このセカンドクラス向けの通行証、通称セカンド証があれば、貴族街に入る事が出来ます。貴族街にある第1支部が管理している資源ダンジョンにも入れますね。この街での身分証代わりにもなりますから、失くさないようにお願いします」


「あの~、私、まだファーストジョブなのに、これ貰ってもいいの~」


 おずおずと手を挙げたのはフロヴィナちゃんだ。セカンドクラス向けと言われて、心配になったのだろう。受付嬢のアメリーは、愛想良く笑うと、解説してくれた。


「ええ、パーティーで申請すればリーダーのランクが適応されます。貴女はサポートメンバーでしょう? 戦闘力の無い人達まで同じ条件にしては、依頼も受けられませんからね。

 ダンジョンで手に入れた素材をギルドに売ったり、売店で買ったり、依頼を達成したりすると、ギルドへの貢献が貯まります。そして、パーティー登録した場合では、全員分の貢献を合算して扱います。職人や錬金術師作った物が欲しい、と言う依頼を達成すれば、サポートメンバーでもお金と貢献は稼げますよ。

 ザックス様が勲章持ちなので、貴族用の受付も使えます。依頼を受ける場合は、先ほどの1階のカウンターまでお越しください」


 ギルドの貢献が高いほど、割りの良い依頼を回してくれる。それ以外にも仲間の斡旋とか、一定以上の貢献がないと利用出来ない3階のレア物のショップとか、図書室、シャワー室等もあるそうだ。


 ……図書室は超気になる。


 そこで、ふと思い出した。フノー司祭から、村で稼いだ貢献分の引き継ぎ書類がある。それに、クロタール副団長から受けた依頼分も、別途貰っていた。


「あの、他の村で稼いだ貢献を引き継げると、書類を預かっています。これも加えて頂けますか?」

「……ちゃんと、ギルドの封蝋はされていますね。分かりました、これは当ギルドで精査して、加算しておきます」


 書類は中身が改竄されないよう、封蝋されている。万が一、封蝋が割れていたりすると、御破算となるため、フノー司祭から取り扱いに注意するよう言われていた。ストレージに入れておくだけなので、心配し過ぎな気もしたけれどね。



 俺の話が一段落したところで、そわそわした様子のベルンヴァルトが手を挙げた。


「騎士のジョブへの任命も、貢献を稼げば良いんだな? 具体的にどれくらい必要なんだ?」


「あ~~、すみません。貢献がどれだけとか、具体的な数字は言えません。ギルド職員以外には機密となっています。それに、騎士への任命は、支部長以上の承認も入りますので……」


 アメリーさんが目を支部長達に向けると、頷き返した。


「ええ、具体的な数字は揉め事を起こすだけなので、非公開です。それに、どれだけパーティーで貢献を積んでも、騎士の任命だけは、本人の人格や仕事振り等もチェックします。騎士に相応しい人物で在るよう心掛けて下さい」


「うむ。こればかりは、貴族の紹介や命令があっても、ギルドのルールが絶対だ。

 豚公爵に言ったギルドの教示を、君達にも送ろう。

『ギルドはダンジョンに挑む者ならば、全てを等しく受け入れよう。邪神が作りしダンジョンの中では、身分の差など役に立たない。神の教えに従い、自らの位階を高め、ダンジョンを討伐せよ!』」


 支部長とギルマスの言葉に、ベルンヴァルトを始め、皆が重々しく頷く。俺も頷いておいたけど、予想外に出てきたが気になった。


「あの、位階とはレベルの事でしょうか?」

「ん? いや、レベルも含めてだな。戦闘技術や物作りの技術、知識など、総合的に自身の価値を高めることと、伝わっている。サポートメンバーの諸君も、ダンジョンに潜らないからと、関係無いと考えてはいかんぞ。戦闘メンバーを支えているという、自負を持つようにな。

 その逆も然り、戦闘メンバーは支えて貰っている事に感謝を忘れてはいかん」




 パーティーの登録と説明が一通り終わったのだが、アメリーさんが楽しそうに、最後の話と銘打って話し始める。


「それでは最後に重要な事があります。それはパーティー名を決めることです!

 ギルドからの呼び出しや、依頼人への報告等々、様々な場面で使われますので、変なパーティー名だと大変な事になりますよ。ただ、インパクトのある名前の方が覚えてもらい易いので、敢えて狙うのも良いです!

 個人的には笑えたパーティー名No1は、『闇の十字架を背負いしスターパラディン』ですね」


「「ぶっ!」」


 俺を含めて、吹き出した音がいくつも聞こえた。アメリーさんが、ノリノリでポーズ(横ピース)決めて言うのもいけない。


「すみません、参考までに聞いておきたいのですけど、どう言うパーティー名が一般的なのですか?」


 中二心が擽られるような、拒否したいような……微妙迷うので、先ずは常識から聞いてみた。すると、支部長が真面目に答えてくれた。


「多いのは、属性や色にプラスして、動物やリーダーの特徴とか、故郷を混ぜるパターンですね。君の場合なら……髪の色と、アドラシャフト領から、『紅蓮のわし』とか、いかがでしょう?」


「おいおい、普通すぎだろう。俺のパーティー名みたいに格好良いのを考えてやれよ。

 因みに、鞍馬天狗のスキルで翼を刃に変えて、魔物を切り刻む事から『漆黒の斬羽』だ!」


 そう、得意気に翼を広げるギルマスだった。いや、スキルを使わなくても、そのデカイ翼だと鈍器になりそう。まぁ、紅蓮の鷲よりも漆黒の斬羽の方が、ちょっと格好いいと感じてしまったけど。


「取り敢えず、候補を二つ三つ考えて下さい。

 そうそう、既存のパーティー名と同じ場合や、似すぎていたりする場合は却下されます。他にも、神様の名前が入っていると不敬で駄目ですね。何とか騎士団も、紛らわしいので駄目。やたら長かったりするのも駄目ですね」


 アメリーさんが注意事項を教えてくれたので、少し考えてみることになった。

 ウチのパーティーメンバーに目を向けると、考えてはいるけれど、良いアイディアは無いと言った感じだ。


「う~ん、トリクシーだったら『ダンジョン食堂』とか?」

「ダンジョン食材は使いたいけど、ダンジョン内に開かないわよ!」


「え~、それじゃあ、ベル君も混ぜて『ダンジョン居酒屋、本日開店!』なんてどう? 丁度、酒樽もいっぱいあるし~」

「いやいや、俺を巻き込むな。あれは、全部自分で飲む用だからな。

 フォルコ、お前は何か無いのか?」

「ザックス様のイメージで考えていますが……聖剣と花火を盛り込みたいですね」


 フォルコ君の意見に、レスミアがグッと右手を掲げて、便乗した。


「私もザックス様と言えば、初めに見たのが聖剣を掲げた姿でしたから……『聖剣の担い手』なんてどうですか?」

「いや、聖剣を身分証明みたいに便利に使っているけどさ、あまり一般人に広げたくないなぁ。貴重な武器を持っていると宣伝するみたいだしな。もうちょっと簿かして」


 こちらも領都なので治安は良いとは思うけれど、次の拠点は街から離れているからな。変に噂になって、また山賊にでも目を付けられる可能性だってある。メイドコンビみたいにレベル一桁を、留守番させるのも心配になるじゃないか。


 レスミアは、聖剣から別の単語に置き換えようと、頭を悩ませているようだ。顎に手を当てて、猫耳が横にピンッと立っているので、考えるのに集中しているのが見てとれる。


 ……色や動物を混ぜるか。猫……にゃんこ…………銀色の……いや、この前、例えたのは……


「『白銀のにゃんこ』なんてどうだ?」


「ふぇっ?!」


 不意を打たれたように、猫耳を立てながら顔を上げた。もう一度「白銀のにゃんこ」と言ってみると、顔を赤くして手を振った。


「私はリーダーじゃないので、却下です! 却下! にゃんこって響きは可愛いけど、パーティー名には向かないでしょう!」

「え~、私は良いと思うよ~ いっその事、振り切って『白銀のにゃんにゃん』とかさ~」

「それはそれで別の意味に聞こえない? まぁホラ、お店の名前に奥さんとか子供の名前を使う旦那さんもいるって聞くし、気にすることは無いよ」

「ヴィナと、トリクシーも、揶揄からかわないで!」


 メイドトリオできゃいきゃい騒ぎ始めてしまった。一応、他の人もいるに騒ぎすぎかと思ったが、ギルマスとアメリーさんは笑っているし、支部長は微笑ましいものを見る様子で、お茶を飲んでいるから大丈夫そうだ。


 他の案も考えるか。複数ジョブだから、『マルチジョブズ』……5ジョブだから『クィンティブルジョブズ』……分かり難いな。

 頭を悩ませていると、ススッと寄ってきたマルガネーテさんが、耳打ちしてくる。


「ザックス様、お嬢様の事も気に掛けて下さいね。 放っておくと拗ねてしまわれます」


 そう言えば、学園が冬期休暇に入ったら、パーティーインするのだった。ただ、ここで宝石髪とか使うと面倒そうなのは、学習した。そう、只の宝石というフレーズなら大丈夫だろう。


「『宝石の守護者』なら、どうでしょう?」

「……それは、只の警備員では?」


 速攻で切り返されて、一刀両断されてしまった。




「はーい、それではパーティー名の候補として、

『精霊のつるぎ

『夜空に咲く極光』

『白銀のにゃんこ』

 以上の3つで、登録出来るか精査しておきますね。あ、優先順位は上からですよ。結果は明日以降、窓口に来て頂ければ、ご報告致します」


 『精霊の剣』はレスミアの案で、聖剣をもじっただけ。精霊が作ったからという事から、取られている。

 そして、『夜空に咲く極光』はフォルコ君の案。はじめは『夜空に咲く虹光にじびかり』だったけれど、語呂が悪いので、極光に変えている。極光ってオーロラの事だけど、花火や聖剣の光がモチーフって事にしたらしい。


「なんだ、思ったより普通だな。にゃんこが少し面白いだけか。2番目はもうちょっと、手を加えれば良くなるぞ」


 そんな事を、言い始めたのはギルマスだ。ニヤニヤと笑いながら、顎を撫で、考え込んだ後、


「『夜空に咲く極光・オーロラ騎士ナイト』なら、どうだ!

 極光とオーロラ、夜空とナイトを掛けていて、洒落ているだろ?」


「「「却下です!」」」


 初めてパーティーの心が一つになった。

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