第189話 精霊(仮)からの助言とヴィントシャフトの街

 あらすじ、転送事故ったと思いきや、見覚えのある光の玉が現れた。



 既に3回目だ。銀色が何属性か知らないが、アレに違いない。


「(精霊さんですよね! ここはどこですか?)」


 しかし、声は出ない。それでも、何度か呼び掛け続けてみると、光の玉が一回瞬いた。


「(ふ~む。何かを話しているようじゃが……位階が低すぎて、聞こえんのう)」


 向こうの声は聞こえるのに、俺の声だけ届いていない。それに、位階とは何の事だ?


「(これじゃな!)」


 そんな声と共に、今までよりも強く光る。すると、光の球の前に聖剣クラウソラスが出現した。銀の光に呼応するかのように、鍔に付いている7色の宝石の内、2つが点灯している。

 光っているのは緑色と白色。精霊の祝福(推定)でパワーアップした属性だ。


「(ほぉ…………なんとまぁ、懐かしい物が出てきたな。しかし、天上へ奉還された筈の聖剣が、地上に戻されているとは……しかも、こんな低い位階の者にさずけるとは、それ程の事態なのかのう。まぁ、ようやく御帰還されたのは、僥倖じゃわい)」


 こちらは状況が飲み込めないのに、精霊さん(仮定)は1人で勝手に納得している。こちらにも説明して欲しいのだけど!

 声をあげても反応が無いのは、位階とやらが低いせい? 

 位階が低い……この世界で低くて困るといえば……レベルの事か?!


「(聞こえておるな、人間よ。聖剣は本来の力を半分も出せておらん。先ずは位階を上げよ。そして、7つの色を取り戻せ。それで、ようやく鍵となる。

 早く力を付け、『始まりの地』を目指せ。そこに世界の歪みを正す力がある。

 よいな、忘れるでないぞ!)」


 銀色の光の玉が、強く輝き始める。その光に包まれた瞬間、目の前に馬車が現れた。更に、頭では立ち止まっていた筈なのに、身体は歩いている。そのチグハグ差でバランスを崩したが、慌てて手を伸ばし馬車後部の縁を掴む事で、何とか持ち直した。

 その手に、暖かい手が重ねられた。レスミアだ。


「大丈夫ですか? 何かに躓いたんです?」


 こちらを気遣ってくれているが、普段と変わらない様子だ。先程の暗闇の空間には、俺と精霊以外居なかったな。混乱する頭では、うまく説明も出来そうにない。取り敢えず、大丈夫と返してから振り向く。

 後ろにはメタリックレッドの鳥居と、その内側の銀色の渦が見えた。しかし、その渦は中心に呑み込まれるように消えていく。

 銀色の渦の中にいた、銀色の精霊。やっぱり関係しているよなぁ。白昼夢や幻覚とするには、記憶が鮮明に残っているし……レベルを上げろ、精霊の祝福をコンプリートしろ、始まりの地をめざせ。


 今のところ、レベル上げしか分からん。今までの経験から察するに、精霊を助ければ祝福を貰えるけど、精霊の居場所が分からない。それに『始まりの地』って、何の始まりなんだ? それが何かによって、場所が変わるような?


 鳥居を見上げながら、考察をしていたところで、御者席からフォルコ君の声が聞こえてきた。


「ザックス様、許可証の提示をお願いします!」

「……了解、今行く!」


 危ない、忘れるところだった。レスミアの猫耳を軽く撫でてから、前に向かう。そこにも受付があり、緑色を基調とした隊服を着た騎士がいた。そして、もう一人、緑色の金属鎧の騎士が、馬車の中をチェックしている。


 色もデザインも違うので、アドラシャフトの騎士ではない事は一目瞭然だ。ヴィントシャフトは、風車と鍛冶の街らしいので、騎士も金属装備が多いと聞く。


「はい、許可証も問題ありません。ヴィントシャフトへ、ようこそ!

 それと、ザックス殿には案内役がお待ちですよ」


 受付さんが出口の方に向かって手を振る。それに釣られて目を向けると、見覚えのあるメイドと、女性騎士がこちらへ歩き始めた。ソフィアリーセ様の側使えと、最初のお茶会で扉の外で護衛していた女性騎士だな。


 近くまで来た側使えの女性が、スカートを掴み、優雅に一礼した。長い茶髪がそれに合わせて揺れる。


「ようこそいらっしゃいました、ザックス様。わたくしはソフィアリーセ様の側使え、マルガネーテと申します。本日は、案内役を勤めさせて頂きます。お見知りおき下さいませ」


 あぁ、身分が下の者を出迎える場合、側使えに任せても良いって、フォルコ君から教えて貰ったな。

 俺とレスミアで挨拶を返すと、早速移動するよう促された。


「お昼時ですからね。本日の宿に移動して、昼食といたしましょう。

 直ぐ近くですので、わたくしに付いてきて下さいませ」


 近くというので馬車には戻らず、俺も歩いていく事にした。レスミアと手を繋げば、観光旅行気分だな。後ろに馬車が付いてきている事を確認し、マルガネーテさんの後に付いて出口へ向かった。


 部屋の中はアドラシャフト側と同じく石壁だ。こちらも防壁の中に作られているようで、少し長い通路を歩く。少し気温が暖かい気がするのは、ここが南の領地だからだろうか?


 途中でバリケードや、騎士団詰め所らしき所を抜け、外に出ると、そこは大通りだった。 

 両側に商店らしき建物が並んでいるので、商店街なのかもしれない。ただ、真ん中の石畳の道路が幅広く作られており、道行く人々が、思い思いに行き来している。ビルが無い以外は、日本で言うところの駅前くらいには発展しているようだ。


 結構賑わっていると感じると同時に、馬車ものんびり徐行しているのが見えた。その馬車の合間を縫うように、道路を横切る人もいて結構ヒヤヒヤする。


 ……交通ルールとかどうなっているんだ?

 それとなく、レスミアに聞いてみると、


「え?! 馬車が優先ですよ?」


 以上だった。


 よく考えれば信号も無い、車線も引かれていない中で、交通ルールなんて細かく決まっている訳がないか。道幅が広く、馬車が徐行している事が、事故防止なのだろう。


 道沿いの店を見ながら歩いていく。こちらの建物も3階建てが多く、透明度の悪い窓ガラスでお店の中を窺い知る事も出来る。ポーション瓶がチラリと見えたから、錬金術師の店か?

 その向こうには、八百屋のように野菜や穀物を並べている店もある。レスミアが興味深そうに見ていた。


「はい、到着です。ここが、今日の宿の『幸運の尻尾亭』です。

 裏手に厩舎があるので、馬車はそこの側道に入って下さい」


 3件分歩いただけで、もう着いてしまった。本当に近い。大通りに面しているだけあって繁盛店なのか、相応に大きな宿だ。馬車を案内する為、女騎士さんが先導しに行く。マルガネーテさんも宿の方にチェックインしに行った。俺とレスミアは宿の前で待ちながら、街を見させてもらう事にした。お店も気になるが、道行く人も気になる。


 パッと見だけど、アドラシャフトよりも、獣人率が多い。それも、ケモ耳尻尾だけでなく、ケモ度の高い2足歩行の虎?みたいな人?もいる。体格というか骨格は人間っぽいので、毛深い獣人と言った方が良いのか? ワンピースを着ているので女性のようだ。以外と可愛い……かも? 


「あんまりジロジロ見ちゃダメですよ。あの人は、虎族ですね。猫人族よりも獣に近い分だけ、身体能力が高い種族です」


 この世界でも、獣としての猪がいたように、猫や犬等もいる。獣と獣人の違いは何かと言うと、言葉を話し、二足歩行し、社会を形成できるか否かだ。種族名に『○○族』と付けば人間で、『○人族』のように『人』が付けば人族に近くなる。

 つまり、リアルな着ぐるみのような虎族のお姉さんも、同じ人なのだ。見た目で惑わされてはいけない。

 因みに人族以外の種族には、固有ジョブがあるらしい。

 人族の特色? 人数が多いことらしいので、固有ジョブがちょっと羨ましい。


 これらの事は、エヴァルトさんに雑談で教えてもらったが、幼年学校で習う常識レベルの話だそうだ。

 このラントフォルガー王国や、周辺国に住む種族に付いては大体習う。ただし、魔物の領域の向こう側に消えた種族に関しては、不明らしい。



 レスミアと周囲の店に付いて話していると、不意に影が差し掛かる。一瞬の事だったので、鳥かと思い空を見上げてみると、白い翼を広げた少女が降りてくるところだった。一瞬、グライダーかと思ったが、地面の近くで滞空した後、翼を畳んで軽やかに着地する少女を見る限り、本物っぽい。

 その少女は隣の店に「郵便ですよ~」と入って行く。そして、直ぐに出てきたと思ったら、地面を踏み締めて大ジャンプし、そのまま翼を広げて飛んでいった。

 つい目が行ってしまうが、背中は殆ど丸出しでも、下は膝丈のハーフパンツなので見えることはなかった。何がとは言わない……隣のレスミアの握る手が、ちょっとだけ強くなっているので、素知らぬ振りをして話を続ける。


「今のは鳥人族? 郵便屋さんみたいだけど」

「いえ、天狗族です。……確か専用ジョブのスキルで飛び回れるとか、魔法使いじゃなくても風属性の魔法が使えると聞きますね。天狗族がいると、手紙が早く届くので助かりますよ。後は……お酒が好きなので、お酒が取れるダンジョンのある街にしか住み着かないとか」


 ……天狗?! 翼が生えている以外、普通の女の子だったので……鼻が高いとか、顔が赤いとか天狗要素なくね? 

 いや、角が生えているだけの鬼人族がいる時点で、妖怪的な種族が居てもおかしくはないか。



 その後は、宿の1階で昼食を取った。マルガネーテさん達は、既に済ませてきたそうなので、俺達6人でテーブルを囲んだ。今日は全員お客様なので、一緒に食べられるのは良いな。仕事とは言え、メイドコンビとフォルコ君は、食事は別だったからな。


 食事内容も、アドラシャフトとは違う食材があり、満足いくものだった。特にバカリャウと言う変わった魚料理が良い。鱈の塩漬けとジャガイモの卵とじした物で、魚の旨味と塩加減が良かった。それと言うのも、この世界に来てから初めての海産物だからだ。

 マルガネーテさん曰く、ヴィントシャフト領の西の方に、海と接している場所があるそうだ。その為、街ではそこそこ安価で海産物が手に入る。ただし、転移ゲートの無い漁村で、輸送に時間が掛かる為、塩漬けや酢漬け、オイル漬け、燻製に加工されて運ばれるらしい。


 アドラシャフトでは川魚はあったけれど、海鮮系は無かったからな。ベアトリスちゃんが言うには、宴とかでしか使えない高級品だったとか。レスミアと2人で、作れそうなレシピを話し合っていた。


 新鮮な魚介類を求めて、買い付けに行くのも良いかもなぁ。ストレージに溜め込んで置けば良いからな。

 しばらくは、ダンジョン攻略を進めて、稼げる手立てを作る方が先だけど。



 昼食後、2階に取った男子用の3人部屋に集まった。高めの部屋なのか、村の宿よりも調度品が豪華だ。リビングルームも8人、入っても問題ない位には広い。


 取り敢えず、今後の予定は、俺はヴィントシャフト伯爵家に訪問して、婚約の承認を申し出る。残りのメンバーは観光……の筈だったが、マルガネーテさんの言葉で予定変更となった。


「申し訳ありません。本日の午前中、シュヴァルドゥム公爵ご本人が、婚約の打診を断った事に苦情を入れにこられまして……えぇ、事前連絡もなく。

 ザックス様の午後の訪問は、後日に延期させて頂きたく存じます」


 シュヴァルドゥム公爵? そう言えば、公爵としか聞いていなかったが、厄介な貴族の名前なのだろう。厄介事を断ち切るための婚約だったのに、先手を打たれてしまったか。

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