第181話 新装備のお披露目

 朝、リビングに行くと、レスミアが鼻歌を歌いながらテーブルを拭いていた。


「おはよう、ご機嫌だな。やっぱり待ち遠しいか」

「おはようございます! もちろん楽しみですよ~。早く来ませんかねぇ」


 まだ、これから朝食だというのに、気が早い。

 次いでやって来たベルンヴァルトも、少しそわそわしていた。


「一式、買い換えるなんて、入団した時以来だからな、仕方ないだろ」


 まぁ、平静を装っているけれど、楽しみなのは俺も同じ。今日は、新装備の納品があるからだ。



 9時過ぎに騎士団専属の革工房の人が納品に来たので、男女に別れた。俺とベルンヴァルトはリビングで、説明と日々の手入れの仕方を教わってから着替える。

 雷玉鹿の革を使ったジャケットのデザインは、騎士団の隊服の類似品だけど、基調となる色が青ではなく赤に変更されている。同じ青だと騎士団に間違えられるので、色を変えるよう勧められたからだ。俺的には黒とか茶色でよかったのだけれど、女性陣の強い押しで、少し暗めの赤となっている。俺の赤髪に合う色らしいけど、未だに赤髪というのが、しっくりこないのは日本の常識で考えてしまうせいだろう。


 ただ、実際に完成品をみて思ったけど、赤いジャケットは目立つよな。ズボンやグローブ等は黒にしてもらえて良かった。

 肩や肘、膝の部分は硬化処理された硬革が貼り付けられている。硬革部分はちょっと暗めの赤色騎士団の隊服にも付いているので、防御用と言うだけでなく鷲翼流で肘打ち膝蹴りをする為でもあるのだろう。


 そして、間接部が異様に柔らかい。腕を曲げても、まるでジャージのように曲がるのだ。革製とは思えない事に驚き、職人さんに聞いてみたところ、シュピンラーケンと雷玉鹿の革を秘伝のレシピで調合した素材らしい。若干、強度が落ちる代わりに柔軟性が格段に上がる為、間接部にのみ使用されている。落ちた強度は、外側に硬革を付けて補っているそうだ。



【武具】【名称:耐雷のジャケットアーマー】【レア度:C】

・雷玉鹿は、自身の角に雷を溜め込むため、その毛皮には強い耐電性能を持っている。その革を加工したジャケットはその特性を引き継いるが、元が弱い個体だったため、効果は低い。

 革のジャケットとしては軽さと強度を備えており、硬化処理された部分は金属鎧よりも硬く、人気が高い。

・付与スキル〈雷属性耐性 小〉



 一式装備なので頭用のキャップや、グローブ、ブーツ、受け流し用のバックラーも身に付け、軽く柔軟体操をする。前の装備との違いは、追加のプロテクターが無くなり、ウェストアーマーがズボンになったくらい。その為、更にダンジョン用の装備には見えなくなった。ほぼ、普段着に見えなくもない。

 これで、鉄製の鎧よりも強度があるとか、ファンタジー過ぎる。


 一通り柔軟して満足いく出来だったので、職人さんへお礼を言う。お返しではないけど、解体しておいたクモの糸束を買い取ってもらった。シュピンラーケンで、これだけ柔らかくなるなら、そりゃ需要も多そうだ。


「お、リーダーも着替え終わったか。どうよ、このジャケット! やっぱり皆が憧れるだけあって良いな!」


 ベルンヴァルトの方は盾役用だけあって、硬革部分が多めに作られている。身体のデカさと、積層された硬革部分で素材は多く必要だったけど、グッと、親指を立てて喜んでくれたので、俺もサムズアップして返した。サムズアップした手の甲には丸い穴が開いている。これを見せたかったのだろう。

 鬼人族用として、グローブの甲の部分に集魂玉を保持出来る穴、スロットを作る必要があるそうで、これも特注したのだ。先にスロットを作っておくと、スキルで生み出された集魂玉が自動で嵌るらしい。



「まっ、自力で取っていないのは、少しだけ後ろめたいけどな」

「それは今後の活躍で返してくれれば良いって契約だろ」


 採寸と発注をした際、結構な量の素材を提供した。それを見たベルンヴァルトが遠慮したのだけど、必要経費って事でゴリ押ししたのだ。

 手持ちで用意出来る最高の装備を準備する代わりに、鬼足軽のデータも取らせてもらう条件を付け、何とか納得してもらった。


 まぁ、「幼馴染のシュミカさんのジョブも知っておいた方が良いよな。共通の話題とか、共感を得られるぞ!」と、説得したら二つ返事でOKしたような気もするけど……



 2人でお互いの装備を見せあっていると、扉が開きレスミアがやって来た。向こうの新装備も満足いく出来だったのか、腕を広げて見せつけてくる。


「お待たせしました! どうです? なかなか良い感じですよね?」

「ああ、ピンク色も似合っているな。それにキュロットだから、女騎士って感じで、凛々しく見えるよ」


 女性騎士の隊服をベースに、弓用のブレストプロテクターが追加された装備だ。上半身は白っぽい薄ピンクで、キュロットと硬革部分はピンクと赤の中間位の色合になっており、良いアクセントになっている。

 相変わらず露出度は無いけれど、スカートに見えるキュロットが女性らしさを演出していた。弓用の胸のプロテクター付けているから、はかまにも見えなくはない? 赤ピンク色の袴が有るか知らないが。


 これとは別にズボンも別途仕立てて有る。闇猫で木に登る場合は、枝に引っ掻けないようにズボンの方が良いからだ。ま、ズボンの分を追加しても、必要な素材はベルンヴァルトの方が多いくらいなので問題ない。


 そして、レスミア用には矢筒も新たに作った。雷玉鹿の革製で、毒矢等の特殊鏃を別に分けられるように細工も施された逸品。色もレスミア装備に合わせて、ブラウンピンク。ピンク系でも少しずつ、変えているのがおしゃれなポイントなのだとか……

 細かい違いは良く分からないが、まぁ、似合っている、と誉めておいた。



 因みに、侵略型レア種から手に入れた『巨大氷花の花弁』は一旦保留中である。女性向けの防具に良いと聞いていたので、ノートヘルム伯爵に相談したところ、専属の工房よりも植物系素材専門の工房を紹介して貰える事になった。ただし、向こうの都合とも合わせて交渉中との事で、その連絡待ちなのだ。

 まぁ、雷玉鹿の装備が出来たので、急ぐ必要はないだろう。




「はい、は~い。皆さん嬉しいのは分かりますけど、今度は鍛冶職人が来ましたよ~」


 お互いの装備を自慢していると、フロヴィナちゃんが呼びに来てくれた。金属製品が多いので応接間は使わない。お高そうなテーブルを傷付けたくないので、庭先で納品を受ける手筈となっていた。ついでに試し切りも出来る。


 庭先には、高さの同じ丸太の輪切りをテーブル代わりに設置済み。そこに鍛冶職人のおじさんが武器を並べていた。


「おう、注文の品、出来上がったぞ。初めて加工するレア素材で苦労したが、何とか特性を残す事が出来た。追加素材を購入してくれたお陰だ」


 そう言うと、一本の黒い槍を俺に差し出してくる。それは、黒毛豚の槍をバラして作り直した、新しい槍だ。


 元々俺が〈メタモトーン〉で穴を開けて、木製の柄を取り付けた物だ。ただ、発注の際に相談してみたところ、鍛冶職人にとっては雑な扱いが許せなかったらしく、拳骨付きで怒られた。「素人は手を出すな! レアアイテムの取り扱いは専門に任せろ!」と言うので、お願いした次第である。鍛冶師のジョブには、黒毛豚の角のような非金属を金属のように加工出来るスキルがるらしい。



【武具】【名称:貫通のフェケテシュペーア】【レア度:C】

・黒毛豚の角を穂先にして作られた槍。魔力を込める事で、生前と同じく貫通効果を発揮する。また、魔力を込めた状態だと、非実体の魔物に対しても有効。柄の銀装飾で魔力伝導率が強化されている。

・付与スキル〈防御貫通 中〉



 その形状は、以前のタケノコ槍とはまったく違い、ダガーサイズの刃に加工されている。角のままでは、突きにしか使えないため、金属のように加工出来るスキルで形状変更もお願いしたからだ。体積的に、角そのものよりも小さくなっているが、その代わり圧縮して強度アップしている。


 鍛冶職人が言っていた追加素材とは、柄の黒い金属の事だ。当初は軽くするためにチタン製の柄で発注したのだけど、魔力の通りは鉄とあまり変わらない。その為、黒毛豚の角の貫通効果が劣化してしまったそうだ。つまり、素人の俺が作ったのと同じ(形状は段違いだけど)。


 俺を怒った手前、そのまま引き下がれないと、鍛冶職人が提案してきたのが、魔力の通りが良い金属とチタンの合金だった。使われたのは俺の持っていない素材『黒魔鉄』。もうちょい先で掘れる素材なので、ちょっとお高く10万程の追加予算が必要になった。

 名前の通り真っ黒な鉄で、チタンとの合金になった柄は、メタリックブラックになっていた。


 黒魔鉄の分だけ重くなったフェケテシュペーアに、少しだけ魔力を流してみると、ワンドよりも流れやすい気がした。


「ああ、黒魔鉄は魔力が流れやすいのに加え、柄には銀で装飾がしてあるだろう。それで、少し流れやすくなっている。

 後、貫通特性は先端で突いた時にしか、効果が発揮されないから、注意してくれ」


 斬撃で効果が出ないのは残念だけど、元々が角なのでしょうがないか。



 2つ目も、改良品だ。一見すると只のショートソードであるが、こっちも柄と鍔に銀細工が施されている。



【武具】【名称:雷のホーンソード】【レア度:D】

・サンダーディアーの角から作られたショートソード。魔力を流すことで雷属性を帯びるが、追加ダメージを与える程度。相手を麻痺させるには威力が足りない。柄の銀装飾で魔力伝導率が強化されている。

・付与スキル〈雷〉



 俺が角を切り出して作ったホーンソードをバラし、雷玉鹿の角(半分)を鍛冶スキルで再加工してショートソードにしてもらった。柄はチタン製だが、銀の意匠で魔力の流れるラインが確保されており、効果を発揮する事は出来たそうだ。ただし、元の角を半分にしているため、これ以上は雷の威力は上がらない。丸々一本使えていたら、効果が上がって、麻痺の追加効果が出たかもしれない点は、少し残念。


 先の2本が俺の新しい武器で、次の3本……いや、3種類目は予備を含めて5本作成してもらった。メインはレスミア用かな。既にレスミアが鞘から引き抜いて、軽く素振りをしている。


「これ、いいですよ! 軽くて振りやすいです」



【武具】【名称:テイルサーベル】【レア度:D】

・剣尾狼の刃尾をチタンで強化したサーベル。常に硬質化した状態のため、魔力が不要になる。

 ただし、元々の剣尾狼の尻尾の強度が低いため、折れやすい。



 剣尾狼の尻尾を、鍛冶スキルでチタンと合金化した物だ。いや、チタン化と言うか、金属に置き換えられた剣尾狼の尻尾だな。魔力を通さなくても硬質化したままなのが良い。使ったチタンの量も少ないので、軽いのもそのまま。スカウトジョブのレスミアでも取り扱い可能だ。

 また、強度に不安があるのも、魔力硬化素材ではよくある事らしい。その代わり、材料の魔物素材が有れば、軽くて、そこそこの強さの武器が安く手に入るのが売りなんだとか。そのため、予備分として5本も作ってもらったわけだ。まぁ、折れても〈メタモトーン〉でくっ付けられないかと考えているが、その時に試すしかない。


「俺が力任せに使ったら、折れそうで怖いな。軽すぎるのも、しっくりこんからなぁ」


 ベルンヴァルトはそう言って辞退したので、俺とレスミアで使う事になった。ホーンソードと、どちらを使うかはケースバイケースで。素早い相手や、手数が欲しい時はテイルサーベルにするつもりだ。



 レスミアの弓も新調したが、素材をプラスベリーの木に変更しただけで、ショートボウなのは変わらない。魔力が通しやすくなって、レベル25以上で覚える弓系のスキルが使いやすくなる筈だ。



【武具】【名称:プラスショートボウ】【レア度:D】

・プラスベリーの木から作られたショートボウ。小さめなので、女子供でも扱いやすい。持ち手にアクアディアーの革が使われており、扱いやすさが向上している。

 素材のお陰で、魔力が若干流しやすくなっている。



 職人の人からは、複数の素材を張り合わせた複合弓コンポジットボウも勧められた。弓の張りを強くすれば、威力も上がるのだけれど……闇猫は筋力値が中補正になったが、スカウトは小のまま。

 弓主体のスカウトで扱えない弓を作ってもしょうがないので見送った次第だ。



 少し離れた所で、ベルンヴァルトが長大な剣を振り下ろし薪割りをしている。いや、小さい丸太で試し斬りをしているだけだった。ベルンヴァルト用には、鬼足軽用の重量武器を発注した。普通の戦士なら両手持ちする大剣と、棍棒を金属板(トゲ付き)で補強した金砕棒である。



【武具】【名称:アイゼン・ツヴァイハンダー】【レア度:D】

・鉄製の大剣。1.8mもの大きさを誇り、幅広な刃も相まって、かなりの重量物。探索者であっても、取り扱うにはセカンドクラスでなければ難しい。特徴として、刀身の根本付近は刃が無く、ここを握る事でコンパクトに振る事も可能。

 重量に任せて押し切るタイプの武器ではあるが、刃は付いているので、普通に切り裂く使い方も出来る。勢い余って地面に叩き付けるような使い方をすると、刃が欠けるので、注意されたし。特にフィジカル系に強く、大雑把な種族の人達。


【武具】【名称:金砕棒】【レア度:D】

・樫の棍棒の先に、鉄板を張り付けた重量武器。その重量で敵を叩き潰す。叩き付ける事で、敵の内部にも衝撃を与えるため、表面が硬い敵にも通用する事もある。特に人間の場合、金属鎧を着ていても、中の骨を折り、内臓を損傷させる事も可能。



 ……大雑把な種族って、多分、鬼人族もだよなぁ。

 それは兎も角、どちらの武器も、チタンを使って軽く出来るのだけど、重量武器は叩き潰すために重くある必要がある。鉄のみで作ってもらった。重さ的にはツヴァイハンダーの方が重い。特殊武器の紅蓮剣はもっと重いけど、振り回すのもキツイのはどちらも同じだ。それを扱えるのは、流石鬼人族と言うべきか、筋力値Bは伊達ではない。


 そして、金砕棒に至っては、金属板を取り付けただけなので、俺でも作れそう。新しい鉱石が手に入れば、強化するのも良いかもしれない。

 因みに、童話に出て来るような鬼が持っている金棒程、大きくはない。元の棍棒が長めのバットくらいなので、常識的なサイズ……の筈。



 盾役なので肝心の盾も用意してある。高さ1.5mもある大型の盾、タワーシールドだ。レスミアが殆ど隠れてしまうほどの大きさは、威圧感がある。



【武具】【名称:チタニウム・タワーシールド】【レア度:D】

・チタン製のタワーシールド。大きな長方形の盾ではあるが、チタンの軽さのお陰で、防御力と多少の扱いやすさを両立している。主に敵の攻撃を受け止めるための盾であり、受け流すのには不向き。また、その重量と大きさから、打撃武器としても使える。



 総チタン製で、大きさの割に、俺でも片手でギリギリ持てる程度の重量ではある。ただし、チタン鉱石の手持ちが足りずに、鍛冶職人から材料を買う羽目になったけどね。鉄鉱石はあるけれど、重量を考えたらチタン製にする他無かった。


 それに合わせて、俺用のカイトシールドも一緒に発注した。



【武具】【名称:チタニウム・カイトシールド】【レア度:D】

・チタン製のカイトシールド。凧のような逆三角形の形をしており、取り回しやすい。盾の裏側には革帯が取り付けられており、腕に固定する事も可能。



 こちらも受け流すバックラーとは違い、オルテゴさんのように正面から受け止める為の盾だ。ウベルト教官に盾術を教わっているので、多少は扱えるようになった。

 ベルンヴァルトを鬼足軽にする場合、俺が盾役をする必要があるので、必要な装備だ。




 その後は、庭で丸太の試し切りをしたり、午後の訓練では新装備の習熟に勤しんだりした。

 そして、夕飯前。フォルコ君が本館から伝言を持ってきた。


「急ぎで申し訳ないのですが、ザックス様とレスミア様の両名は、明日の午後、お茶会に参加するように、との事です。ヴィントシャフト領のソフィアリーセ様がお見えになるそうです」


 あの、サファイアのような宝石髪のソフィアリーセ様か。確か……ノートヘルム伯爵からの申し出を持ち帰っていたのだったか。内容は知らされていないけれど……

 女子会ではなく、俺まで呼ばれているのは何だろうな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る