第180話 連携魔法とパーティー編成の相談

 トゥティラちゃん達の方は、手を入れる程度で和気あいあいとしていたようだ。アルトノート君がベルンヴァルトの真似をして、ジャンプで突っ込んでいたようだけど、楽しそうな笑い声を上げていたのでセーフ。


 呪文をキャンセルすれば、ヌルヌルも只の水に戻るが、服まで濡れていると不味い。目のやり場に困る人もいたので、まとめて〈ライトクリーニング〉で水分を浄化した。


「クロタール副団長、一通りランク5まで解説が終わりましたけど、ランク6はどうしますか?」


 俺はまだ覚えていないので、バトンタッチしようと声を掛けた。しかし、懐中時計を確認したクロタール先生は首を振る。


「いや、時間的に、ここまでとしよう。最後に51層以降で役に立つ情報を教えて、終わりにする」


 クロタール先生は、トゥティラちゃんに向き直ると、


「トゥティラ様、学園の卒業資格の一つはセカンドクラスに至る事です。そして、魔法使いレベル25まで覚える魔法は、今日解説したのが全てです。これらの魔法を使いこなす事が、自ずと攻略する事に繋がる事でしょう。

 その為にも、普段の訓練で魔力の扱いを練習して下さい。魔力の扱いに慣れていなければ、魔方陣への充填が遅くなります。それと、入学までに、右手でも左手でも魔方陣への充填が出来るようになると、他の生徒よりも一歩先んじられるでしょう」


「はい、お父様より聞き及んでいます。宝石で強化されたワンドや杖を使い分ける為ですよね」


 宝石の話はエヴァルトさんから聞いた覚えがある。レア度の高い宝石は、魔道具の充電式バッテリーになるだけでなく、ワンドに取り付けるとの魔法威力が少し上がるそうだ。ただし、複数の宝石を付けても1つ分しか効果を発揮しない。その為、財力がある貴族は、属性違いで複数のワンドを用意して使い分け、時には両手に1本ずつ持って戦闘する。

 その為にも、魔力操作の技術は覚えた方が良い。


 ……俺も覚えるのには苦労したし、アドバイスくらいはしてもいいよな? そう思い、俺も口出しをする。


「魔力の扱いは、錬金術師の創造調合にも影響しますから、今のうちから練習すると良いですよ。最初のうちは腕に集めている魔力を、手のひらに集めるようにイメージすると良いと思います。その次は指先に。

 魔力操作に慣れてくると、体の中の魔力を好きなところに動かせるようになりますよ。右手と左手だけでなく、足先で魔法やスキルを使う事も出来ます」


 便利だよ、とお勧めしたのだけど、何故か怪訝な目を向けられた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                


「助言はありがたいのですけれど……足先?」

「足で魔法を使うなど聞いたことが……ああ、スキルなら、罠を仕掛けるのに足で行ったと報告書にあったな。アレは罠術師の話ではなかったのか?」


 あまり一般的な事ではなかったのか……実演するにも罠術スキルはダンジョン外では使えない。デモンストレーションに良さそうな物はないか? 周囲を見渡すと〈アクアウォール〉をキャンセルして出来た水溜まりがあった。追加スキルを入れ替え〈フォースドライング〉を足で発動させる。


 1m四方の範囲があっという間に乾燥した。

 周囲の驚きの声が上がり、満足感を得ることが出来たけど……注目を集めたついでに、足元でランク0の便利魔法〈ディグ〉を使って、乾いた地面に穴を掘った。


「この通り、雨上がりの泥濘ぬかるんだ道でも、乾燥させながら歩く事が出来ます。貴族の、特に女性なら嬉しいのではないですか?

 まぁ、魔法の方は、いまいち使い道が無いのですけど。近接戦闘時の小細工くらいですね」


 魔法の狙いを付ける時は、魔方陣を目標に向けるので、足元に魔方陣を出すと狙い難い。精々、便利魔法で落とし穴(小)や、水浸しにする程度である。まだ、色々と検証中なので出せる情報は少ないのだ。ダメージを軽減する〈フィリングシールド〉用の魔法陣を、足元にこっそり張るアイディアはあるが、まだ試せていない。


 ……訓練中に試せって? ボコられている最中に、そんな余裕ないよ!


「ふむ、面白い使い方ではあるが、貴族街は石畳で舗装されている所しかないため、淑女は泥濘んだ道には行かないであろう。まぁ、水溜まりを乾かせるならば、側使えに必要な技術かも知れないな」


「……わたくしも泥濘ぬかるみに踏み入れたのは、子供の頃に雨上がりの中庭に、立ち入った時だけかしら? 体力作りは晴れた日にしか行いませんし……あ、騎士団志望の子は、泥だらけの地面でも訓練すると、聞いた覚えがあります。そういう方が使うなら有用ではありませんか?」


 トゥティラちゃんが、途中からフォローしてくれたのが分かった。

 でも、戦闘職は〈フォースドライング〉は使えないと思う……




「では、最後の指導を始める。ザックス、〈フレイムスロワー〉の魔法を充填しなさい」


 クロタール先生の指示で、ワンドの先に魔法陣を出して充填を開始すると、先生の方も魔方陣を出して充填し始めた。魔方陣の線が緑色なので風属性、大きさも俺が出している物と同じなので〈ストームカッター〉に違いない。


「充填が終わっても、そのまま待機。私の合図が有るまで発動しないように。

 一番遠くの石壁が見えるな。アレを目標にしなさい」


 充填が終わるとワンドを向けて、指示された遠くの石壁をロックオンする。範囲魔法の的よりも更に遠くに立てられた石壁だ。あまり遠いと、見え難いだろうと思っていたが、理由があったもよう。


「私も石壁を目標に据えた。魔方陣の色が変わったのが分かるか?」

「はい、赤一色だったのが、半分緑色に変わりました」


 視界に映る点滅魔方陣、効果範囲を示すものだが、その色が変わっていた。予想外の光景に驚いていると、クロタール先生は満足したように頷き、目を目標に向ける。


「3、2、1、0とカウントダウンする。0のタイミングで発動させるので、合わせなさい。

 良いか? 行くぞ。

 3……2……1……〈ストームカッター〉!」

「……………………〈フレイムスロワー〉!」


 赤と緑の二色の魔方陣が発動した。

 吹き上がる炎が、渦を巻くように回転し、火災旋風のように……いや、回転の勢いが上がり、炎が渦巻く様子は、火炎竜巻と呼ぶのがふさわしい。


 50mは離れているのに、熱気が熱風となって、ここまで吹いてくる。効果範囲も単発の〈フレイムスロワー〉の倍以上有るように見えた。

 そして、魔法の効果が終わったのか、火炎竜巻が消え失せると、空から黒っぽい物が落下してくる。切り刻まれ、焼け焦げた石壁の破片だった。竜巻の中では、風の刃によるミキサーも健在なのか……


 単純に二つの魔法を発動しただけではなく、相乗効果でパワーアップしているに違いない。


「これがサードクラス、魔導士のスキル〈魔法連携〉だ。複数の魔法を合わせる事により、その威力を飛躍的に強くする。51層以降で魔物を一掃するのに役に立つのだ。特に61層以降では必須とも言える」


 魔物パーティーの数は10層置きに、1匹ずつ増える。51層では6匹なので、探査者側がフルパーティーであっても同数になる。それまでの階層とは違い、数の優位性が失われてしまう。更に、51層からは中位属性の魔物も出始めるので、複数の弱点が入り乱れて、範囲魔法一発では倒しきれない事が多いそうだ。


「格好いいですし、威力も強そうなのですけど、範囲も広くなっていますよね? 下手すると味方を巻き込みませんか?」


「当然巻き込む危険性はある。ただ、51層以降は通路も部屋もかなり大きい。先に魔物を見つけて先制出来れば、そうそう巻き込む事は無いだろう。それに、範囲が広がったのは、火と風属性を連携したせいでもある」


 なんと、他の属性でも連携する事は出来るそうだ。連携する属性によって効果が上がったり、下がったりする。ただし、対象や場所を指定する魔法に限り、〈アクアジャベリン〉のような投射するタイプは駄目らしい。


「あれ? てっきり〈アクアジャベリン〉が中級属性を強化するのも、連携の一種かと思ったのですが、違うのですか?」


「そこら辺は魔法の研究者でも割れているな。強化されているから、連携している。魔方陣の色が変わる事こそが、連携魔法の証なので違う。等と言う意見がある。

 まぁ、私としては、効果が上がるならどちらでも良い。どのみち、サードクラスにならなければ、中級属性は使えないのだからな」


 それもそうか、立証出来ない水掛け論をしてもしょうがない。効果が上がる組み合わせを覚える方が大事に思えた。

 そこで、ふと気付く。


 ……これ、サードクラスの魔道師に到達するだけでなく、魔法使い系が2人いるよな? それとも、1人で使う方法があるのだろうか? そこら辺を聞いてみると、


「私が先に教えたかったのは、魔法使い系が2人必要だと言うことだ。貴重な魔法使い系をレベル50越えてから見つけるのは難しい。今のうちから、探しておくと良い」


 フリーの魔法使いなんて、どこのパーティーでも欲しがるので勧誘合戦になるそうだ。かなり低レベルでも、高レベルパーティーが勧誘する程には。

 教科書にパーティー編成の基準が載っていたのを思い出す。


 ・魔法使い系(攻撃の要)

 ・スカウト系(罠看破と索敵)

 ・僧侶系(回復と補助役)

 ・重戦士か騎士(後衛を守る盾役)


 この4つは必須と言われている。残りの2枠になんのジョブを入れるか?

 そこでオススメされていたのは、魔法使い系2人目、もしくは錬金術師だ。錬金術師はレベルを上げればランク3の範囲魔法を覚えるので、劣化魔法使いとして運用でき、調合とアイテムボックスがあるので利便性が上がるからだそうだ。


 枠が余った場合は、軽戦士や重戦士などの前衛職を入れる。物理攻撃役を増やすか、盾役を2枚にするかは好みの問題だろう。

 因みに、採取師系は2軍で、お金稼ぎをする時にだけ入れ替える。魔物との戦いには役立たないので、新たな階層を攻略するには不向きだそうだ。そして、商人や職人系は、そもそもダンジョン攻略を目指さないので論外。


 丁度良い機会なので、クロタール先生にパーティー編成も相談してみた。


「鬼人族の盾役に、猫人族のスカウト、魔法使いのザックスだな。基本で考えるならば、僧侶と2人目の魔法使いではないか?」

「俺は僧侶のジョブも持っているので、やはり魔法使いですね」


 ベルンヴァルトにダンジョンギルドへ行ってもらい、勧誘してもらうか? 等と考えていたら、クロタール先生に助言頂いた。


「いや、私は僧侶も必要だと考える。戦闘終了後ならばザックスが兼任しても構わない。

 しかし、戦闘中は攻撃魔法に専念した方が良いだろう。攻撃魔法、回復の奇跡、補助の奇跡、全てを1人で行うには手が足りなくなる」


 指摘を受けて、雪女アルラウネの範囲魔法を喰らった時の事を思い出した。確かに、俺が戦線を支えている間に、フノ―司祭が回復に回ってくれたのは非常に助かったよな。

 専任の僧侶を入れるのも手か……


「他のジョブ……罠術師とか、付与術師はどうですか?」

「罠術師は君の報告書でしか知らないので、何とも言えないな。自分で検証してから、専任を作るか考えるといい。

 そして、付与術師は止めておいた方がいいだろう。錬金術師の様に調合で魔道具を作ったり、初級魔法が使えたりする訳でもない。装備品にスキルを付与するのにも、専用の『付与の輝石』がいるので、気軽に施せる訳でもない。

 そうなると、やれる事はステータスを上げる付与術と小さいアイテムボックスしかない。僧侶の補助の奇跡で十分ではないか?」


 結構お気に入りのジョブだっただけに、付与術師の評価がここまで低いとは思わなかった。まぁ、確かに、俺は戦闘前に掛けておき、魔法なり直接戦闘なりしているので、気が付かなかったけど、複数ジョブありきの使い方だったな。

 単一ジョブの場合、職人と同じく非戦闘系だから、付与し終わると他にする事がないのか……

 付与術だけでも貢献しているといえるけど、効果が単体のみで、効果時間も短いため、微妙と言われると、確かに微妙だ。



 残りの追加メンバーに関しては、この後の昼食時にレスミアとベルンヴァルトと相談する事にして、今日の講義は終了した。

 自分で魔法の実演と解説をする羽目になるとは思わなかったけれど、魔法の再確認をするだけでなく、連携魔法も知れたので、実りの多い日になったと思う。先日得た精霊の祝福の検証も出来たしね。風魔法だけは充填が1割ほど早く終わるのは確かなようだ。威力については比較しようがないので、いまいち分からなかったけど。


 他の観客の皆さん、特に普段ダンジョンに入らないメイドさん達は、めったに見られない魔法が見られて、好評だったようだ。口々にお礼を言われたり、アルトノート君が何で何でと聞いてきたりしながら、帰宅した。

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