第174話 迷子の迷子の鬼さん、拾いました

 あらすじ:おに(ひと族)を拾いました。お家は騎士寮で、名前は聞かなくてもベルンヴァルトって知っているけどね。



「取り敢えず、お客さんだね。フロヴィナちゃん、ベルンヴァルトを応接間に案内して、お茶をお出しして。俺はレスミアに事情を聞いてから行くよ」

「は~い、敗北者のベル君はこっちだよ~」

「……敗北者じゃねぇ」


 フロヴィナちゃんが先導して歩いて行くと、それを追うようにのそり、のそりとゾンビのような足取りでついて行った。


「敗北者? ベル君? なんか可愛らしい愛称だけど、知り合いなのか?」

「ええ、ヴィナは騎士寮を担当していた時期もあったそうです。その時の知り合いと聞いたので、声を掛けてきました。

 後、ヴィナは愛称を付けるのが趣味なので、気にしなくていいですよ。私も『ミーア』と、ちょっと子供っぽい愛称をつけられましたし」


 俺もミーアと呼ぼうかと尋ねてみたが、子供の頃の愛称なので、今のまま呼び捨ての方が良いそうだ。

 それは兎も角として、ベルンヴァルトを拾ってきた経緯を話してもらった。


「お昼をトリクシーおススメのお店で食べて、午後に仕立屋で服を注文してきた後ですね。通りの横道から、男女の痴話喧嘩が聞こえてきたんです。〈猫耳探査術〉のお陰で、ハッキリ内容まで聞こえちゃいまして……」


 この街の治安は、領都で騎士団の見回りもあるから良い筈だけど、女の子3人では心配だったので闇猫ジョブにしておいたのだ。フロヴィナちゃんには「心配し過ぎ~。明るい時間帯は大丈夫だよ~」と揶揄われた。

 戦闘力を期待して闇猫にしたのに、揉め事をサーチしてしまったのか。


「そこでヴィナが、野次馬しに行こうって見に行ってしまって……3人でこっそりと覗いた時には、女性が男性の顎を……アッパーカット?でノックアウトしているところでした」


 痴話喧嘩の筈が、いつの間にかボクシングになっていた?! いや、痴話喧嘩も喧嘩だけどさぁ。


「女性は通路の奥から去って行ってしまいましたが、残った男性が知り合いだと言ってヴィナが声を掛けました。ただ、かなり凹んだ様子でしたので、放置するのは可哀想だと連れ帰ってきました。

 あ、一応確認しておきたかったのですけど……あの鬼人族の見習い騎士さん、騎士のジョブを目指している、で合っていますよね?」


 村に行く際、ベルンヴァルトから聞いた話だ。それを出会ったばかりの頃、レスミアとの話題にしたような覚えがある。

 首肯して答えると、レスミアは人差し指をピンッと立てて、得意げに笑った。


「私達のパーティーメンバーの盾役として勧誘しましょう!

 痴話喧嘩の内容から、多分レベルを上げたがっていると思います。ザックス様の経験値が増えるスキルの事を教えれば、誘うのも簡単ですよ!」


 なるほど、それで拾ってきたのか!

 良くやったと褒めて、頭を撫でてあげた。髪がサラサラで撫で心地が良い……ではなく、本題を忘れないうちに、痴話喧嘩の内容も掻い摘んで聞いておいた。ただ、会話だけでは分からない事もあるので、本人からも事情を聞いた方が良さそうだ。『角合わせを前提に』ってなんじゃろ?




 応接間に入ると、テーブルにこうべを垂れたベルンヴァルトが座っているのが見えた。そして、その隣に仁王立ちして、説教しているフロヴィナちゃん……


「手順を守っても、 肝心の女の子の気持ちも確かめて無いって! お馬鹿さんにも程があるでしょ!!」


 俺よりもガタイが大きく、身長も2mを超えてそうなのに、女の子に叱られて小っちゃくなっている。怒られたせいか、こうべを垂れ過ぎて、テーブルに角が突き刺さって……いや、木製のソーサーで受けているのがシュールだ。

 俺達が入って来た事に気が付いたフロヴィナちゃんが振り向く。いつものニコニコした間延びした様子ではなく、ちょっと目尻が上がっている。


「あ! 2人とも遅いよ。また、イチャイチャしてたんでしょ!

 あんまり遅いから、事情を聞き出しておいたよ」


「イチャイチャはしていませんよ!」と、早口で言い返してから、レスミアはお茶の追加を始めた。

 3人分のお茶を追加して、ベルンヴァルトを囲んで事情を聞いた。主に話していたのはフロヴィナちゃんだけど。




 痴話喧嘩の相手も同じ鬼人族で、1歳年上の幼馴染らしい。

 子供の頃に結婚の約束をして、自分は騎士になると誓いを立てた。成人後は騎士団に入ったため少し疎遠になっていたが、レベルも順調に20を超えて騎士になる目処がついた。年齢的にも適齢期なので、先に婚約だけでもと父親を通じて、相手の父親に打診をしたそうだ。知った仲なので「娘と一緒に、一度家に来なさい」と快諾を得られた。

 ただし、連絡を取った幼馴染は「そんな大事な事は、先にアタシに言いなっ!」って怒り、口論になる。その結果、ぶん殴られたのが今日の出来事だそうだ。



「子供の頃の約束って……成人前くらいに確認なり、告白なりしていないのか?」

「……してねぇ。成人前は、戦士の訓練は一緒にしていたけど、そんな雰囲気にならなかった」


 年頃的に中学生くらいで、部活に夢中になっていた感じだろうか? まあ、うん。思春期だし、躊躇するのは分かる。俺も何度も二の脚を踏んだからなぁ。


「婚約を決めるのは親だから、間違ってはいないよ。婚約が決まってから、初めて顔を合わせるなんて話もあるからね。

 でも、幼馴染で顔も合わせていたのに、彼女の心内も確認しないのは、男の怠慢だよ!」


 フロヴィナちゃんの機嫌は下がる一方だ。ようやく顔を上げたベルンヴァルトは、睨まれて居心地悪そうにしている。

 そして、そんな空気を破るように、レスミアが挙手をして質問をした。


「私の猫耳で痴話喧嘩の途中から聞いていましたけど、最後に『アタシのレベルを超えてから、出直しな!』って、殴られていましたよね。アレって……」

「ん? その幼馴染ってベルンヴァルトより、レベルが高いのか?」


「ああ、シュミカの奴はフリーの探索者で、今は鬼徒士おにかちのレベル40だそうだ」


 あ! 成人前に訓練を一緒にしていて、大柄のベルンヴァルトを一撃でKO出来るくらいの女性なんだ、強い訳だ。なんか、幼い頃の結婚の約束と言う微笑ましいものから、女子プロレスラーが『結婚するなら、私より強い男』と言っているイメージになってしまった。

 俺が残念な思考をしていると、レスミアは被りを振ってから話を続けた。


「あ、いえ、そうではなくてですね。『出直しな』と言う事は、レベルを上げて、少なくとも騎士のジョブになっていれば、話くらいは聞いてもらえるのではないですか?」


 その言葉に、フロヴィナちゃんがパンッと手を打ち鳴らした。


「あ、それ良いかも! 幼い頃の約束通りに、騎士になれって意味でさ~。レベルを上げれば、求婚のやり直しが出来るんじゃないかな?」


 なんでも、女性の騎士団員も恋人や結婚相手は、自分より強い人が良いと言う人は多いらしい。メイドの間では恋バナは直ぐに広まるので、よく聞く話だそうだ。

 俺の話とか、今のベルンヴァルトの話も、面白おかしく広められそうで怖い。



「そうなると……いや、騎士になれと簡単に言うが、まだ2年は掛かりそうなんだ。配置換えがあったばかりで、少なくとも半年は街の警邏担当だから、レベル上げは出来ない。その間にシュミカとのレベル差が開いてしまうじゃないか……」


 ベルンヴァルトは悔しそうに歯をくいしばった。


 騎士のジョブになるには、貴族から騎士として任命される必要がある。その為、騎士団の見習いになるのが早道のはずが、裏目に出たようだ。騎士団員は訓練や治安維持の仕事もあるので、レベル上げだけをしている訳にはいかない。しかし、フリーの探索者であるシュミカさんは、ヤル気があれば幾らでもレベル上げが出来る。


 ……お相手が普通の娘さんなら、騎士になるまで待っていてくれるだろう。でも、話に聞く限り、シュミカさんは自力でダンジョン攻略でも目指している感じなんだよね。

 もし仮に、騎士団を辞めてフリーになったとしても、既にレベル20の差がある。やる気のある人の、1歳の年齢差は大きいようだ。これを覆してレベルを追い抜くのはの方法では駄目だ。つまり、俺の出番だ!


「ベルンヴァルト、俺のパーティーに入らないか? 一緒にダンジョン攻略を目指そうぜ!

 今なら、俺の特殊スキルのレベル上げサポートも付いてくるぞ!!」


 落ち込んでいるベルンヴァルトを励ます意味も含めて、明るく誘ったのだけど、怪訝な顔をされた。ここは、広告風に『今なら経験値3倍!!!』の方が良かっただろうか?

 仕方がないので、簡易ステータスを証拠として見せると、目を見開いて仰天した。


「ちょっと待て! ランドマイス村のダンジョンは20層までだろ?! なんでレベルが28もあるんだ?」


「あ、私も基礎レベル28ですよ。ジョブは闇猫とスカウトがレベル22で、料理人が20です」


 俺のレベルに驚き、レスミアの補足を聞くと目を白黒させた。


「本当にちょっと待て! お嬢ちゃんは、只のメイドじゃなかったのか?

 俺よりレベルが高い上に、ジョブ3つも……」


 歳下の女の子に抜かれたのがショックだったのか、口を開けたまま呆然としてしまった。しばし固まった後、残る1人のフロヴィナちゃんに恐る恐る目を向けると、


「あはは~、私はここのメイドだから普通だよ!普通! 只の職人レベル6だし~」


 苦笑して手を振りながら、普通アピールをするフロヴィナちゃんを見て、ベルンヴァルトは大きな溜息をついて安堵していた。




 村での出来事や、今後は別のダンジョンへ行く事を掻い摘んで説明した。俺の特殊アビリティについても、聖剣だけでない事を話して、レベル上げがしやすい事もアピールしておく。


「聖剣だけじゃなかったのか……まぁ、領主様から騎士見習いを引き抜いて良いって許可が出ているのは助かるぜ。騎士団は色々手厚いサポートがある分、抜けるのは難しいからな。

 問題は、そのサポートで借りていた装備品は、騎士団へ返却しなきゃならん事だ」


 騎士団が給料制なのは、ルイーサさんから聞いた通り。任務の成果やダンジョン内で手に入れた素材の納品等が騎士団への貢献となる。それにレベルも考慮された上で、装備品が貸与される。その為、ベルンヴァルトは私物としての武具が無いそうだ。


「盾役として期待されているのに、肝心の盾どころか武器もダガーくらいしかないからな。退団の手続きをしたら、最低限の武具を揃えなきゃならん。一式揃えられる程、金あったかなぁ……」


「ああ、それなら俺が出そうか? 雷玉鹿の革と、チタン鉱石の在庫はまだあるから、多少は安く済むよ」


「雷玉鹿って、隊服のか! いや、有難いが、俺の使っている装備より良いじゃねぇか……

 っと、そうだ、ザックスのパーティーの報酬分配はどうなるんだ? 武具は共同費から出すタイプか?」


 共同費とは、パーティーで得た総額の半分を、武具や消耗品の購入用に貯蓄しておく形態の事らしい。残りの半分を分配する為、個々のパーティーメンバーが手に入れる金額は少なくなるが、準備は整えやすい。


 村で組んだ調査パーティーの時の様に総額を全て分配する場合、手取りの金額は増えるが、各々で準備しなければならない。偶に遊びに浪費して装備更新を怠る者もいるそうだ。最悪の場合には、そういう人はパーティーから追い出される事もあるとか。


 その話を聞いて思い出した。レスミアの報酬も見直さないと。メイドの給料が出ているから、食材以外の素材は俺が全取りしていたのだ。もうメイドとしての給料がないのだから、報酬をどうするかレスミアにも相談してみた。


「私は食材が好きに出来るなら、お任せしますよ。現に装備の素材も加工費もザックス様が出してくれていますから、共同費で良いのでは?」


 食材は確保してと言うが、蜜リンゴのように資金源となる物もあるので、塩梅が難しい。更に「それなら、俺は水筒竹の酒とつまみが欲しいな」とベルンヴァルトも注文を付けてきた。


 3人で条件を煮詰めていると、横合いから別の案が放り込まれた。

 恋愛絡みの話が終わってから、クッキーをパクついていたフロヴィナちゃんだ。


「そこまで揉めるなら、騎士団の真似しちゃえば~。リーダーのザックス君が全部管理して、2人にはお給料払えばいーじゃん」


 それはそれで、俺が取りすぎな気もする。しかし、そう考えたのは俺だけだった。レスミアとベルンヴァルトは諸手を上げて賛成した。


「もう面倒だから、細かいことは任せるぜ! 騎士団と同じくらい、給料が出れば構わんぞ」

「私もそれで良いですよ。ザックス様がストレージに溜め込むのは、重々承知していますから、細々と精算するのも大変ですよね。あ! 宝箱が手に入った時のボーナスは欲しいです」


 ベルンヴァルトに給料の額を聞いてみると、15万円と意外と少なかった。いや、衣食住がプラスされるから、こんなものなのか?

 同じく、衣食住付きの職業であるメイドのフロヴィナちゃんは、自分よりも多かったらしく「いいな~」なんて言っていたので、相場くらいなのだろう。


 取り敢えず、それよりも多く20万を提案し、了承を得られた。もちろん衣食住付きで、攻略階層が進んで稼げるようになれば給料の見直し、宝箱を発見した場合は中身、もしくは相応の金額を分配する。



「それじゃ、今後とも頼むぜ、リーダー!」


 そう言って、俺が差し出した簡易ステータスのパーティー『追加』ボタンを押した。


 ……3人目ゲット!!



 仲間が増えたら最初にやる事、ステータスとジョブのチェックだ!


「それじゃあ、ベルンヴァルトのステータスとジョブを見せてもらうよ。いや~、鬼武者とか鬼徒士が気になっていたんだ」


「あーー、別に男同士だから構わんか。後、鬼徒士はセカンドクラスだから、持っていないぞ」




【鬼人族】【名称:ベルンヴァルト、18歳】【基礎Lv20、戦士Lv20】

 HP  C □□□□□

 MP  F □□□□□

 筋力値B

 耐久値D

 知力値F

 精神力F

 敏捷値D

 器用値E

 幸運値C


 ボス討伐証:AL077ダンジョン20層●

 所持スキル

 ・二段斬り

 ・二段突き

 ・受け流し

 ・挑発

 ・フルスイング



 筋力値特化なのは、まさに鬼って感じだ。次点でHPと耐久値と敏捷値。完全に前衛専門だな。精神力は最低のFなので、被魔法ダメージは大きくなるが、HPの高さで補えると思う。


 そしてジョブは戦士レベル20だけで、後はレベル1が見習い修行者、スカウト、商人、職人、採取師、鬼足軽。

 足軽って、戦国時代の雑兵だっけ? 三角の編み笠を被っているイメージは覚えている。



【ジョブ】【名称:鬼足軽】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、鬼人族専用

・前衛系の鬼人族限定ジョブ。金砕棒等の重量武器を使い、守りを捨てた攻撃一辺倒な物理攻撃役。専用スキル〈集魂玉〉で爆発的な攻撃力を得る事が出来る。戦士と同程度の防具は装備できるが、盾系スキルや挑発系スキルが無いため盾役にはなれず、耐久値も補正が無いのでダメージを受けやすい。回復手段を用意するか、攻撃を受ける前に圧倒的な物理攻撃力で殲滅しよう。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、敏捷値小↑、器用値小↑

・初期スキル:集魂玉


【スキル】【名称:集魂玉】【アクティブ/パッシブ】

・自身が魔物を倒す毎に、魔物の力を内包した『集魂玉』を手に入れる。そして、集魂玉を使うことで、筋力値を上昇させて強力な攻撃を行う(戦闘終了時まで)。ただし、集魂玉は最大1個までしか持てない。



 名前通り、鬼人属限定ジョブだった。集魂玉を使ってパワーアップとか、実質エンチャントストーン使い放題だ。これを使って魔物にとどめを刺せば、集魂玉が再度手に入る。1戦中に1体は倒せるように調整すれば、毎戦闘使えるな。

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