第173話 義弟からのお願いと、義妹へのプレゼント選び

「今日はお兄さんに相談があって来ました!

 明日はお姉様の誕生日なので、僕もプレゼントをしたいのです。色々変わった事をしているお兄さんなら、面白い物を持っているかなって」


「お姉様?……あぁ、トゥティラ様の事か。子供なら、お祝いの言葉で十分ではないですか?

 それに明日では、何か手作りする時間もありません。簡単なメッセージカード……手紙とか?」


「お手紙は去年やりました! 今年はお姉様の13歳のお誕生日なので、特別な事がしたいのです!」

「明日はジョブ選定の儀がありますので……」


 執事さんの補足も交えて事情を聞いてみたところ、13歳の誕生日はジョブが得られる大切な節目らしい。

 貴族街にある教会で『ジョブ選定の儀』が執り行われて、神に認められてジョブが与えられる。その際、幼年学校で頑張ってきた証として、得られたジョブを参列者(家族、親類)に公表し、祝福されるそうだ。


 そして、夜は誕生日も兼ねたお祝いパーティーを開くので、そこでプレゼントをしたいとの事。


 ……頼りになるお兄さん(願望)としては、力になってあげたい。ただ、13歳のお嬢様へのプレゼントって、何が喜ばれるのだろうか?


 レスミアは食材なら何でも喜んでくれたし、料理やお菓子になって返ってくる……女の子ならお菓子と言いたいけど、本館の料理人には敵わない(ベアトリスちゃん談)。誕生日パーティーにケーキやお菓子が出ないわけ無いよなぁ。


 アクセサリー系はちょっと重いか? それ以前に宝石も無い。カーネリアンは1つあるけれど、庶民の宝石なんて言われているのでNG。エメラルドの封結界石は、国王様に説明する為の証拠品として押収されてしまった。銀鉱石はあれど、鉄鍋調合ではインゴットにするのに失敗している。


 後は……トゥータミンネ様は美容関係にご執心だったから、化粧品はどうだろうか? レスミアがフルナさん謹製の化粧品を買い込んでいた。直ぐに使わない分は劣化しないようにストレージで預かっているが……いや、多分トゥータミンネ様も貴族用の高品質レシピがある筈だ。精力剤ですら、貴族レシピがあると言っていたから。そうなると、母親が使って(作って)いる物の方が良いよな。



 結局、直ぐには答える事が出来ず、執事さんも含めて3人で考える事になった。庭先で立ち話にしては長引きそうなので、応接間へ案内した。



 女の子の事は女の子に聞けば良いのだが、本日メイドトリオは不在にしている。俺は知らなかったが、世間一般では休日らしく、3人で遊びに出かけていった。俺は街に行くのを禁止されているので、留守番なのは仕方がない。ただ、給仕担当が居ない時に、お客さんが来るとは予想外である。


 お茶の準備って、既に淹れてあるのをポンッと出すのは不味いよね? 子供とはいえ、お貴族様なのだから。フロヴィナちゃんの給仕姿を思い出しながらもたついていると、執事さんが給仕をすると、申し出てくれた事で、なんとか事なきを得た。



「お兄さんは変わった武器を持っていますし、お姉様が気に入りそうな物もあるよね!」


「あー、私の聖剣や、先程見せたブレイズナックルは、設定を変えると消えてしまうので、プレゼントする事は無理です。

 後は、ランドマイス村のダンジョンで手に入れた物くらいしかないですよ」


「見たいです!」


 ストレージの在庫から、ウケの良さそうなのを見せていく。アルトノート君は何を見せても喜んでくれるが、執事さんは難色を示すばかり。カーネリアンは勿論、皮素材や毛皮も駄目。絹の糸束は時間があれば服や小物に出来たかもしれない、という程度。


 そんな中、アルトノート君が絶賛する物が見つかった。


「これっ! これにしよう! このカッコ良さなら、お姉様も喜んでくれるよ! それに、僕なら中に入れますよ、ホラ!」


 木の宝箱に大興奮し、箱の周りをペタペタと触り、蓋の開け閉めを繰り返して、終いには中に入ってしまった。可愛いミミックだ。


「うーん、インテリアとして販売されているので、おかしくはないですね。トゥティラ様が気にいるかは、分かりませんが……」


 なんと、木の宝箱そっくりのインテリアを製造・販売している工房もあるそうだ。ダンジョンによく入る人ほど欲しがるので、割高なお値段でも売れているらしい。

 それならばと、鉄の宝箱を取り出して見せた。鉄製の箱に銀の縁取りと装飾がされているので、かなり豪華に見える一品だ。侵略型レア種が落とした宝箱なだけはある。


「わぁあ! 綺麗な宝箱ですね!

 んんん~、フタが重い!!僕では開けられません。お兄さん、開けて!」

「これは……私も鉄の宝箱は始めて拝見しましたが、確かに見事な装飾です。贈答用のインテリアとしては、十分でしょう。

 ただ、ザックス様、これは貴重な物なのではありませんか?」


 鉄の宝箱の蓋を開けてから、値段について考えていなかった事に気付いた。こっそりと〈相場チェック〉を掛けてみると……『取引情報無し』と値段が表示されなかった。ふむ、〈相場チェック〉は現在地の街の平均価格が表示される筈だ。つまり、この街では流通していない……あれ?領都なのに?


「アルトノート様、プレゼントにするなら、中に入ってはいけません。汚れてしまいますよ」

「え~、少しくらい、いいではないですか」


 先程と同じように、箱に潜り込んだアルトノート君が、執事さんに持ち上げられていた。ちょっと和む光景だ。

 そう言えば、レスミアも引っ越しの荷造りする時に、宝箱に入っていたな。「おっ、捨て猫かな? 拾って行こう」「にゃあ、大事にして下さい、にゃあ」何て小芝居をして笑いあったな。


 おっと、思い出して、にやけてしまうところだった。気を引き締め直して、話を続ける。


「貴重かどうかは分かりませんが、またダンジョンで手に入るので大丈夫ですよ」

「ちょっと失礼します。〈相場チェック〉!

 取引情報無し?!……〈中級鑑定〉!……レア度Cなら、希少性に目を瞑れば……」


 〈相場チェック〉が使えるという事は、執事さんのジョブは商人系か。彼が微笑を崩してまで、真剣に検討してくれた。ノートヘルム伯爵に献上する分にはいいけれど、未成年の女の子が貰っても困惑するか、高価過ぎると引いてしまう可能性があるとの事。


「もう! 文句ばっかり! シャルクレートも考えてよ!」

「そう言われましても……今まで上がった物以外ですと……私の妻なら観劇や、歌、踊りが好きで、一緒に見に行きますね。後は……記念日には花束をあげるのも定番です」


「え~僕は、劇も歌も好きじゃないよ。眠くなっちゃうもん」


 執事……シャルクレートさんが補足してくれたが、劇場でやっている大人向けの講演を家族で見に行った時の話だそうだ。そりゃ子供には難しいのだろう。


「あ! お花なら、中庭に咲いているよ!あれで花束を……」

「中庭の花は駄目です。あれは庭師だけでなく、トゥティラ様も水をあげて、お世話をしているのです」


 自分の世話した花壇から、花束を作ってプレゼントされても、喜ぶどころか怒られるな。

 ただ、花と聞いてピンッと来た。珍しい花なら作った物がある。


「それなら、良い花を持っていますよ。夜空に咲く花火はどうですか?」

「空に咲く???」


 案の定、花火と言っても通じなかったので、簡単に説明した。ただ、アルトノート君には想像が付かないようなので、普通の瞬火玉でデモンストレーションをする事にした。窓を開けて、建物の影になっている部分に瞬火玉を放り投げる。

 小さな破裂音と共に、小さな火花が広がり、一瞬で消えていった。


「わっ!……あれ?もう消えちゃった」

「ええ、名前の通り一瞬光が散るだけです。今のを数倍に大きくして、長く光るようにしたのが花火ですね」


「そっちも見たい!」

「庭先で使うには危険です。落ち葉に引火して火事になるかもしれませんから」


 花火の危険性も話してみたが、アルトノート君は不服そうだ。「なら、空に投げようよ!」って、諦めきれない様子。どうしたものかと、シャルクレートさんに目を向けると、頷き返してくれた。


「アルトノート様、ここは明日の楽しみにしましょう。それに、今使っては他の使用人に見られ、トゥティラ様の耳に入るでしょう。出来るならば、内緒にして驚き、喜ばせたくはありませんか?」

「……うん、お姉様が喜んでくれるのが一番だよね。我慢するよ」


 シャルクレートさんの説得もあり、渋々といった様子だけど、納得してくれた。子供の世話って大変だなぁ。


 その後は時間や場所を話し合い、両親の許可だけでなく、騎士団にも事前連絡をしてもらうように頼んだ。花火を敵襲か何かと思われても不味いので、魔道具の実験という事にする。


 それらの交渉はアルトノート君に頼んだ。建前上はアルトノート君からのプレゼントなので、自分も仕事をしたと言う実感が必要なのだそうだ。シャルクレートさんがこっそりと教えてくれた。


 ただし、宝箱にご執心なアルトノート君の強い押しもあって、花火と鉄の宝箱の両方をプレゼントする事になったけど……まぁ、記憶に残る花火と、物理的に残る宝箱で方向性は違うし、どちらか片方でも喜んでもらえるならいいか。


 更に、木の宝箱もアルトノート君にプレゼントしておいた。後々になってから鉄の宝箱を羨ましがるような、面倒そうな気配がしたからだ。弟妹お揃いで持っておけばいいよ。

 案の定、テンションが爆上がりして「自分で持って帰るよ!!」と言う程に喜んでくれた。まぁ、1mサイズの木の宝箱を持てる筈もなく、シャルクレートさんがアイテムボックスに回収する。


「ありがとう、お兄さん! さっそく、お父様に話に行ってくる!」

「あ、旦那様は外出中ですよ、アルトノート様!」「じゃあ、お母様に~」


 挨拶もそこそこに、本館へ駆け出して行ってしまった。それを追うシャルクレートさんも大変だ。ま、子供はあれくらい天真爛漫の方が可愛いよな。



 さて、弟分も期待してくれた事だし、妹ちゃんを祝う為だ、俺も頑張るか!

 花火大会が、たった30発では寂しいもんな。手持ちの材料で、出来るだけ増産しておこう。


 丁度、休日なお陰で訓練も無い。午後も鉄鍋調合する事にして、庭先に出た。






 夕方頃、瞬火玉改を調合していると、玄関の方から華やいだ声が聞こえてきた。メイドトリオが帰ってきたようで、声がだんだんと近付いてくる。丁度、完成したところだったので、成功時の青い煙が見えたのだろう。


「ほら、やっぱり庭でした! ただいまです」

「ただいま戻りました。直ぐに夕飯の仕度に入りますね」

「楽しかったよ~。後、ザックス君にお土産~」


 そう言いながら、フロヴィナちゃんは後ろを指差した。

 それに釣られて目を向けると、3人の後方に男性がいるのに気がつく。なんだか肩を落とし、俯き加減のため顔が見えない。赤黒い短髪に、額に一本角……ん? あの特徴的な角は見習い騎士のベルンヴァルトか?


「えっとですね、ザックス様のお友達が、街中で死にそうな顔で落ち込んでいるところを見かけて、拾って来ちゃいました」


 捨て猫か!?……お約束的に、拾ってきた所に戻して来なさい! と言いたくなったが、自重した。

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