第157話 領主様からの沙汰

「〈自動収穫〉!」

 プラスベリーの赤紫色の実が宙に浮かび、俺の持つ袋に飛び込んでいく。何度か袋を変えて回収を終えてから、地図に採取物のマークを書き込んだ。


「〈サーチ・ストックポット〉!

 次はあっちに行きます!」


 後ろに声を掛けてから、21層の森を走り出す。スキルの感覚を頼りに、次の採取物の元へ向かった。

 俺の後ろには馬が追随して来ている。魔物ではなく普通の馬で、その背にはレスミアと女性騎士、ルイーサさんが乗っていた。緑髪をショートボブにした、つり目がキツイけど美人のお姉さんだ。

 馬に跨っている索敵&罠看破役のレスミアが声を上げた。


「ルイーサさん、前方に魔物の気配があります。間に罠はありません」

「貴方達はここで待機!」


 俺の目にもサーベルスタールトが1匹、リーリゲンが2匹見えた。ついでに宙返りしながら着地する女性騎士の姿も。馬から飛び降りたのだろう。

 そして、着地と同時に走り出す。瞬きをする間にサーベルスタールトに近寄り、切り伏せる。更に、地面を滑る様な高速移動……残像が見える程の速さはスキルか? 目が追い付く頃には、リーリゲンもまとめて伐採されていた。


 3匹を1人で倒す戦闘時間より、倒してからドロップ品に変わる時間の方が長いとか……これがサードクラス、レベル55の強さか。

 調査の待ち合わせに、馬を連れて来た事も驚いたけど、騎士団の青い隊服と黒いショートソード1本だけという軽装で来た事も驚いた。初日に見た時は、鎧を着ていたのに……21層くらいでは必要ないって事なんだな。


 戻って来たルイーサさんからドロップ品を受け取り、次の採取物の調査に走り出す。

 騎士団の討伐隊が来てから、既に4日が経過していた。






 討伐部隊が訪れた後、俺達は個別に事情聴取を受けた。俺はドロップ品の『巨大氷花の花弁』を見せ、経緯から戦闘の様子を纏めたノートヘルム伯爵宛の報告書を提出する事で、何とか信用して貰えた。


 そして次の日には、騎士5人をフノー司祭が21層へ案内し、女性騎士(ルイーサ)が1人街に連絡に戻る事になる。後続の討伐隊を止め、騎士団本部と領主様への報告のためだ。


 ルイーサさんのジョブは、馬に乗っているが騎士ではなく戦士系のサードクラス軽騎兵と言うらしい。軽騎兵と言うだけあって、馬での移動が早くなり、更に自身の体重が半分になるスキルで馬の負担を軽くして航続距離を延ばせる。

 片道2日掛かる距離を1日に縮めたのは、このスキルのお陰だそうだ。体重が半分になると聞いて、レスミアが羨ましそうに見ていたけど、君も十分細いだろうに。



 それはさておき、2日で往復して戻って来たルイーサさんは、ノートヘルム伯爵からの通知書を携えていた。

 その夜、宿屋の一番良い部屋に村の有力者が集められ、討伐隊の隊長が通知書を読み上げる。その内容は、村長を始めとした役職者への沙汰が記されていた。


『ダンジョンの管理を怠り、申告も無く階層が増えた事は、管理者たる資格無しと断ずる。

 しかし、侵略型レア種の討伐を指揮、村を上げて対応した功績を考慮し、処分保留とする。

 今後1年で、20層以降を管理出来る体制を作り、領内への流通に貢献出来た場合のみ、改めて管理者として任命するものである。


 ・尚、侵略型レア種が発生した際の補助金、報奨金は無し。

 半年間、管理教育用に騎士団の1パーティーを派遣する事で相殺するものとする。

 討伐パーティーメンバーのみ、銀盾従事章を授与する』



 最初の一文で厳しい処分かと思いきや、首の皮は繋がったようだ。村長やフノー司祭といった役職者達は皆安堵の表情を浮かべていた。裏事情を聞いている俺からすると、異変の影響で階層が増えた可能性もあるだろうに、上手い事まとめた気がする。村長たちに寛大な姿勢を見せつつ、11層の素材までしか流通していなかった村を、22層までの素材流通へ増やせるのだからなぁ。


 しかし、年配の隊長からは、お叱りの言葉を頂いた。


「本来、侵略型レア種はサードクラスでなければ太刀打ち出来ない魔物だ。今回は偶々イレギュラーが村に滞在して居たから、上手くいっただけに過ぎない!

 今後、同様な事があっても、決して無茶な行動は取らず、防衛に努めて騎士団の到着を待つように!」


 俺も当事者なので、部屋の端で拝聴していた。話の中でイレギュラーと言われた時に、何故か村の皆が一斉に目を向けてくる。その流れに沿って、、誰もいない明後日の方向を向いて、気付かない振りをしていたら「(貴方の事でしょ!)」と、2つ隣のフルナさんに小声で突っ込まれた。みんなで討伐すると決めて、パーティーで協力して倒したのに、俺だけイレギュラー扱いは解せぬ!


「コホンッ、では簡略式ではあるが、勲章を授与する。討伐パーティーは前に!」


 貰った勲章は、銀製のメダルに盾と翼の意匠が施されており、服にピン留め出来るようになっている。直接戦闘で侵略型レア種を討伐した者に与えられる勲章なので、所持者は多い。それでも、領地とギルドに貢献した証なので、身に付けていると多少の優遇を受けられるそうだ。

 ギルドから提携店の紹介して貰えたり、ギルドでの順番待ちをせずに対応して貰えたり、割りの良い依頼を優先的に回して貰えたりする。この村じゃ、意味無いよ……雑貨屋紹介されてもねぇ。


 その後は、ダンジョンの調査の続きと、自警団の訓練の打ち合わせになるので、関係者以外は解散となった。レスミアは帰したが、俺は一応関係者なので残る事になる。


 ノートヘルム伯爵から俺宛にも手紙が届いたからだ。無茶をするなとお叱りの後に、今後の予定が書かれていた。ダンジョンの調査がひと段落するまで協力する事、それと罠術師の解放条件を教える事ついては〈契約遵守〉を使う事で許可が降りた。


 打ち合わせの最初に、ルイーサさんが契約書類を取り出して、説明を始める。


「…………以上、機密に絡む話になりますので、ここに居る関係者は署名して下さい。期限は3年間、もし漏らした場合は、記載された罰金が科されます。」


 既に契約主としてノートヘルム伯爵の署名がされている。そこに村長とローガンさん、教育を手伝う討伐隊の隊長、商人のムッツさんが署名と血判を押す。そして、ムッツさんが書類に〈契約遵守〉のスキルを使うと、契約書がスキャナーにでも掛けられたように、光の線が上から走った。光の線に触れた文字が順に光っていき……全部の文字が点灯した後、一際強く光を放ってから、光が消えた。契約書は特に変わって……いや、血判が黒く変色している。


「はい、これで契約完了です。写しは店で保管しますので、契約書本体は領主様にお渡し下さい。

 それでは、僕は先に失礼します。解放条件を聞かなければ、契約を破る心配も無いですから」

「ああ、私も出よう」


 ムッツさんとルイーサさんが部屋から出ていくと、さっそく解放条件を教える事になった。とはいっても、既に書き写した罠術師のページを見せるだけだ。


「ほう……採取師のレベルだけでなく『魔物を罠に掛ける』と『動物の解体』か、確かに面倒だ。普通じゃ見つかる訳がないな。覚えるスキルもダンジョンにある罠なところも面白い」


「ええ、私も偶々受けた依頼で、猪を解体する機会があっただけです。罠に至っては偶然でしたから」


 隊長さんは腕を組みながら、興味深そうにしている。対してローガンさんは眉間に手を当てて困りきっていた。なんというか、経験の差が見えるようだ。


「この条件を教えずに、罠術師のジョブを取らせるなんて、無理じゃないかのう?」


「自警団の団長殿、難しく考える必要はない。仕事の一環にしてしまえば良いだけだ。例えば、山の猪狩に自警団も駆り出す。

 罠の方は、新人教育として最初から罠を利用する物だと教えれば良い。

 現に私も、ダンジョンで落とし穴の罠を見つければ利用する。罠の前に陣取って〈挑発〉するだけだからな」


「矢とか、丸太が飛んでくる罠もおススメですね。飛んでくる軌道は毎回同じなので、試し撃ちをしてから、その直線上に魔物を誘導するだけですよ」


 その後は、隊長さんの意見を元に自警団の再教育の話になった。俺の役目は終わりなので、お暇しようとしたら、隊長さんに待ったを掛けられた。


「領主様からザックス殿も調査に使って良いと言われているのでな。それに、便利な採取スキルを持っているとも聞いている。

 ウチの隊のルイーサを付けるので、21層からの採取物の場所を調査して、地図に記載するように。詳しくはルイーサから聞くと良い」


 22層以降は討伐隊の残りのメンバーで調査して、地図作成まで行くつもりだそうだ。その地図があるなら、少しはマシかな? 新しいスキルも覚えたからな。どの道、ノートヘルム伯爵からの指示だから受けるしかない。



 了解してから宿の1階に降りると、レスミアがルイーサさんと楽しそうにおしゃべりしていた。







 そして、今はルイーサさんを加えて調査2日目だ。

 森を走り回るのは、最初は大変だったが、今はそうでもない。ミスリルフルプレートのブーツの部分だけ履いて接地力を強化し、更に付与術も掛けている。


「〈付与術・敏捷〉!」


 自身を指定して敏捷値を強化する。これで身体が軽くなったかのように走り回れる。採取も〈自動収穫〉で収穫し、鉱石の土山は聖剣で切り出してまとめてストレージ行きだ。いつもの様に、バラすのは帰ってからでも出来る。


 ここまで急いで調査する必要は無いけど、馬の移動の速さと、ルイーサさんの殲滅速度に対抗心を燃やした感は否めない。後は、新しいスキルのお陰で、森に隠れている素材を探し回る必要が無くなった。そのため、素材回収に専念出来たのも、いけないな。



【スキル】【名称:サーチ・ストックポット】【アクティブ】

・同一階層の採取地の方向を探査する。フィールド階層の場合は、個々の採取物を探査し、使用者から近い物から感知する。基礎レベルが高いほど、探査距離と感知数が増える。



「〈サーチ・ストックポット〉!」

 指先から、波が広がっていく感じがする。サーチと言うだけあって電波みたいなものだろうか?

 そして、波が反射して返ってくる。右前の方から2箇所、少し離れた前方に1箇所から反応があった。この反応はしばらくで続くので、その間に近づけば落ち葉の下に隠れていても容易く発見出来る。


 ん?生身で電波を出して、受信出来るように進化した??

 いや、魔法っぽいスキルだから大丈夫だ。ファンタジー風に改造されているかもしれないが、直ちに悪影響は無い……と良いな。

 

 まぁ、このスキルと走り回ったお陰で、調査2日で21層の採取地の調査が終了した。採取物も、たんまり手に入って言うことないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る