第156話 宴会と駆けつけた人達

 村の広場に宴会の主賓席が作られており、その後ろには一際大きなカボチャが置かれている。ジャック・オー・ランタンの顔が彫られており、その脳天には紅蓮剣が突き立っていた。雪女役は見つからなかったらしい。その代わりと言っては何だが、クライマックスを説明するのに紅蓮剣を刺してみた。レア種と比べると圧倒的にサイズが足りないけど。

 一見すると、カボチャの台座に封印された伝説の剣に見えなくもない? 引き抜けた者にカボチャの加護を……って流石に苦しいか。


 そんな現実逃避をしていると、フノー司祭の語りが終わったようだ。吟遊詩人のように音楽は無いが、一連の流れを村の皆に語って聞かせていた。他のメンバーも補足したりしていたが、子供達だけでなく大人までも聞き入っていた。


 語りの後では、パーティーの全員が尊敬の目で見られている。俺はあまり口を出さずに、合間、合間に特殊武器を取り出して見せただけ。それでも、その場のノリで紅蓮剣をカボチャに刺したのはやり過ぎたか?いや、炎を出して焼きカボチャにしないくらいの分別はあったぞ。


 乾杯の後に注がれたお酒のせいだな。レスミアが飲まないようにガードしていたから、その分飲まされたし。

 酔い覚ましも兼ねて、席を離れてカボチャ料理を食べに行った。カボチャのシチューは何種類もあったので食べ比べてみたが、一つだけ抜きん出て美味い。

 蟹コンソメのコクと深みが他の追随を許さない。いや、他のも家庭的な味、クリーミーでカボチャの甘みが美味しいけどね。ハレの日にどっちを食べたいかと言うと、蟹コンソメ一択だな。

 そんな風に褒めちぎり、お代わりを貰おうとしたら両手で×を作られた。


「大きな鍋2つ作りましたけど、村の人全員分には足りないのですよ。1人1杯で早いもの勝ちです。

 また、今度のお夕飯で作りますから、今日は我慢して下さいね」


「仕方がないかぁ。時間を見つけて蟹脚を取りに行こう」

「蟹じゃなくて、蜘蛛ですよ?」


 そんな会話が周囲の奥様方に聞こえたのか、徐々に人が集まってくる。


「これ、レスミアちゃんが作ったのかい! 一体何を使ったら、こんなに美味しくなるの? 」「ウチでも作ってみたいわぁ」

「13層で取れる蜘蛛の脚をじっくり煮込んでスープベースに使いました。材料と煮込む時間があれば、結構簡単に作れますよ~」


「ウチの息子は10層で止まっているからねぇ。豚肉は助かるけど、13層ならケツ叩いて取りに行かせようかしら?」

「11層から罠が出て来ますから、スカウト無しでは危ないですよ!自警団の方でもスカウトを増やすらしいので、便乗してはどうですか?」


 奥様方に囲まれながら、レスミアが奮闘している。話の主旨は教えてあるから大丈夫だろう。後は、自警団の団長、ローガンさんの仕事だ。


 主賓席の方へ目を向けると、そっちも大丈夫そう。若手から軽んじられていたローガンさんも、先程の語りの後には英雄視されていたからな。今も囲まれて、酒を飲み交わしながら、質問責めにあっている。

 イレギュラーなレア種討伐だったけど、結果的に良い方向へ変わっていきそうだ。



 奥様方の話題が移り変わり、レスミアとの仲を冷やかされ始めた。俺に聞かせられない内容なのか、女性同士で耳打ちしてはキャアキャア騒がれると居た堪れない。レスミアの手を引いて、逃げるように別のブースに移動した。


 それからは、広場を回って楽しんだ。

 バーベキューを振る舞っている所で、鹿肉の串焼きに舌鼓を打ち、変わった味付けの料理では、作った奥さんと話が弾んだ。

 子供達に囲まれて、「あんなおっきな剣振れるの?!」と期待した目で見られて、裏技(特殊アビリティ)を使ってまで振るって見せ。語りには出ていたけどチラ見せしただけのプラズマランスも見せたりした。

 一方で、俺が掘ったジャック・オー・ランタンも話題になっている。職人らしきおじさん達と語っているのはフルナさんだった。


「村の特産品として、インテリアにするのはどうかしら? 剣が刺さっているのはインパクトがあるわよ。見た目も、可愛く見えない事もないし」

「可愛いかどうかは知らんが、ランプの形としては面白いな」「あの赤い剣はデカ過ぎてバランスが悪いぞ。話にあったように柄だけにした方が良いんじゃないか?」「それなら、小さめのダガーでも刺すのはどうだ? 口の中のロウソクの光が反射して、面白いかも知れん」


 何故か、エールの入った竹コップを片手に商品開発していた。宴会の席でのネタなのか、本気なのか分からないけど。俺も冗談混じりで燃料を投下してみる。


「可愛い奴なら、ジーリッツァのぬいぐるみとかどうですか? モコモコして子供には人気が出るかと」

「あ~、豚肉ねぇ。アレが毛皮をドロップすれば、良かったのにね。羊毛で作れなくもないけど、羊のぬいぐるみの方が定番だから、売れるかしら?」


「ふむ、差別化となると……実物みたいに油塗れにしてみるか!」「そんなもん、売れる訳があるか!!」「ハッハッハッ!そこの篝火に入れたら、よく燃えそうだな!」「初めから燃やす用……着火用として売り出すなら商品名は『焼豚君』だな!」「待て待て、焼豚君と言うなら、実際に豚肉を仕込んでおけば焼き上がるとか、良くないか!」「ガッハッハ、取り出すのを忘れて消し炭になるのがオチだな」


 ぬいぐるみを提案したら、消し炭にまでなるジーリッツァ……哀れな。



 一通り楽しんで、最初の主賓席に戻る。すると酔っ払い共が、頭が痛くなるような話で盛り上がっていた。村を救った英雄として、俺の石像か木像を広場に設置しようとか……戦いで死んだとかなら兎も角、生きているのに像を建てるとか、罰ゲームだろ。

 即座に却下したけれど、酔っ払い達は「照れんでもいいだろ」「今回の事を後世に伝えなきゃなぁ」なんて言って、押し通そうとしてくる。


「後世に伝えるなら、パーテイーメンバー6人分必要ですね。俺1人では勝てませんでしたから、皆一緒でないと」


 死なば諸共。酔っ払い達の大半は、ノリで賛同してくれたが、当事者は酔いが醒めた様に真顔になっていた。隣のレスミアに至っては、全力で首を振っている。

 皆、自己顕示欲が低いなぁ。俺も御免なので、本命の代案を出す。


「パーテイーメンバーが嫌がっている様なので、別の方法で後世に残しましょう。丁度、カボチャが食べ頃の時期なんですから、今日みたいなお祭りを毎年開催するのは如何ですか?」


 主賓席の後ろにある、紅蓮剣が刺さったカボチャを指差しながら提案する。

 語り継いだり、本にしたりしても伝わるだろうけど、ジャック・オー・ランタンを使って楽しくお祭りしている方が良い。話や本に興味の無い人でも、お祭りにすれば自然と参加するものだからな。


「おお、それは良いかもしれんなぁ」「そろそろ収穫祭の時期だからな、混ぜちまえばいいんじゃないかな?」「収穫祭つっても、ただ飲み食いしとるだけだ。あのカボチャのランタンを、篝火の代わりに沢山作るのも面白そうだぞ」


 思いの外、賛同者が多いのは良いけど、肝心の村長が酔い潰れて寝ているんだが、誰が収拾つけるんだ?

 まぁ、酔っ払いの戯言で終わるなら、それで良いか。石像の事とかは忘却していて欲しい。


 楽しく騒いだ宴会の夜は、篝火の火が消えるまで続いていった。




 翌日、午前中は宴会の片付けを手伝い、午後からは22層の調査へ向かった。元々の依頼は、新しく増えた階層の調査と、その護衛だからな。レア種を倒したからと言って、終わった訳では無い。

 22層は森林フィールドに再生しており、調査は滞りなく進んだ。そして夕方、ダンジョンギルドで素材の売却をした後、フルナさんと買い戻し交渉をしていた。


「さっきは銀鉱石で多めに譲ったじゃないですか! チタン鉱石は頂きますよ!」

「それは、銀のインゴットを優先的に売ってあげる事で終わった話よ!レア度Dの調合なんて錬金釜が手に入ってからにしなさい!」


 少しくらい、素材を確保しておきたいのに……粘り強く交渉をしていたが、乱暴に開かれたドアの音で中断された。


 青いジャケットを着た6人の男女が入って来た。見覚えのある青い服は、騎士団の隊服だ。先頭の隊長らしき年配の男性が口を開く。


「第1騎士団所属115騎兵隊、侵略型レア種討伐の先行部隊だ。急ぎ駆けつけて来てみれば、門の所で討伐済みと聞いたぞ。ギルド長か、状況を把握している者はいるか! 」


 あれ? そう言えば早馬が救援に向かって、まだ3日目だぞ。どんなに早くても、到着は明日と話していたのに、やけに早いな?

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