第155話 急募、雪女役とプレゼント(意味深)

 レア種を討伐した翌日は休日になった。当初の目的である『階層がどこまで増えたのか』について調査は終わっていないが、魔物の侵略の脅威を退けた事を大々的に知らしめる必要があるそうだ。その為、今日は夕方から宴会だ。


「そうそう、ザックスもカボチャで、あのレア種を彫っておいてくれ。宴会で皆に語って聞かせるには、小道具もあった方が分かりやすいからな」


 フノー司祭が指差すダンジョンギルドの片隅には、抱える程大きなカボチャが2つ、1m近いサイズのお化けカボチャが1つ置かれていた。夏に収穫されたカボチャは倉庫で追熟され、秋から冬が食べ頃になる。その中でも一際大きい物に顔を彫り込むそうだ。あの本体、鑑定文には球根とあったけど、見た目はデカいカボチャだったからな。パーティー内でもカボチャ扱いで定着してしまっていた。


「ジャック・オー・ランタンは散々戦闘中に見ましたから、よく覚えていますよ。

 彫り込むのは手伝いますけど、くり抜いた中身はどうします? レスミアに頼んでカボチャ料理にしてもらいましょうか?」


「ジャック・オー・ランタンと言う名前だったのか。

 ああ、宴会料理は農家の奥さん方が作ってくれる事になっているが、品数が増えるなら是非頼みたいな」


 他にも宴会で使う、珍しい食材が欲しいそうなので雷玉鹿の肉を3つ、エール筒竹を全部、サイダー筒竹を自分用に2本だけ残して残りを買い取ってもらった。

 21層の素材のアピールだな。エールは自警団向けで、サイダーは子供向け。

 子供達には出発前に応援してもらったから、お返しくらいはしておいた方が良いよな。将来への布石になるかもしれないし。数は足りないけど、分ければ乾杯分くらいはあるだろう。



 それから、語り聞かせの内容について、昨日の戦闘の流れを再確認したいと相談された。特に後半のジャック・オー・ランタン戦は作戦も無しに各自アドリブで動いていたからなぁ。俺も忘れないうちに報告書にまとめておいたので、それを参考に見せると、


「…………結構細かく書いてあるんだな。切り札の槍を使うときの判断とかまで。あの威力の魔法なら、蔦の壁もぶち抜けたんじゃないか?」

「そりゃ蔦を破壊するだけなら行けたでしょうけど、確実に本体の雪女へのダメージが減っていましたよ。直撃させても倒しきれませんでしたから、あの時の直感は間違っていなかったと思います」


「うむ、終わってから話してもしょうがないな。

 この報告書を借りても良いか? 語り口調に直せば、台本として使えそうだ」

「ええ、構いませんけど、写しを作りましょうか?」


 カウンターを借りて、紙とインクを用意し〈マニュリプト〉のスキルを使用した。目視しているだけで、自動写本してくれるので、実質コピーみたいなものだ。余所見をしなければ、別の事を考えたり、会話したり出来るので結構便利に使える。


「しかし、よく見ているな。あの花の上の女が、再生する度に小さくなっていたとか気付かなかったぞ。俺は蔦のイメージばかり持っていたが、女の方も重要だったか……

 お、そうだ! そこのカボチャの上にレスミアちゃんを座らせるのはどうだ? 髪の色とか胸の大きさが近いだろ」


 目が離せないが、1mサイズのお化けカボチャの事だろう。レスミアを乗っけたイメージを思い浮かべるが、雪女には近いかもしれないが、下のカボチャが相対的に小さく感じるな。


「上に乗せるのがレスミアだと大きすぎですよ。そこは子供の方が、サイズ感があるんじゃないですか? 下のカボチャが大きく見えた方が脅威に思えますから。

 後は、アルラウネですから、足は花で隠したいですね。……花を模したスカートとか?」


 そんな雑談なのか演劇の打ち合わせなのか分からない話をしていると、雑貨屋との扉からフルナさんが顔を覗かせた。


「ザックス君、帰る前にウチの店にも寄ってね。注文の品が出来ているわよ」

「おお! フルナのとこの娘っ子なら、丁度良いサイズじゃないか?」


 注文の品? 何か頼んでいたっけ?

 シュピンラーケンは調合を頼んだ分は全て受け取ったし、雷玉鹿の皮のなめしはこれから頼もうとしていたところだ。


 コピーも書き終わり、提案をすげなく却下されたフノー司祭に渡してから、雑貨屋に向かった。

 そこで渡されたのは小さめの木箱。片手で持てるサイズで、中身が入っているとは思えない程に軽く、何故かリボンでラッピングされている。


「何ですか、これ?」

「あら? 忘れてしまったの? シュピンラーケンでレスミアちゃんの衣装を作るって話があったでしょう。貴方からのプレゼントって事で、レスミアちゃんに渡しておいてね」


「ああ、そんな話もありましたね。それにしても、服にしては小さいと言うか、軽すぎませんか?」

 小さな箱を振ってみるが、服が入っているとは思えない。しかし、フルナさんは出来の悪い生徒でも見るような目で溜息を吐く。


「ハァ……これを渡す時、レスミアちゃんに伝言して。『今日はお祭りなのだから、これで着飾りなさい』ってね。

 はい! 覚えたら、さっさと帰りなさい」


 そう言われて、店から追い出されてしまった。まだ、俺の方には用事があったのに……急ぎでもないから、次の機会でいいか。ここで雑貨屋に入り直しても、薮蛇になる気がする。


 仕方なく、のんびり歩いて帰路についた。今朝起きた時には、足の痛みは既に無くなっていたが、レスミアが心配するので癒しの盾は背負ったまま。明日には走り回れるだろう。



 帰宅して、レスミアに大きなカボチャを2つ渡し、趣旨を説明する。すると、急に張り切って料理の支度を始めた。特に他の奥さん方が、料理を持ち寄ると言う点が重要らしい。


「料理が得意な奥さんは、ここぞとばかりにアピールして来ますからね。こちらも負けてられません!

 蜘蛛の脚のスープは、作り置きがありましたよね。全部出して下さい。それをベースにして、カボチャの蜘蛛クリームシチューを作ります!」


 レスミアの指示でカボチャをくり抜き、中身はお任せだ。俺はナイフを使って、ジャック・オー・ランタンの口と目を開けてやる。多少失敗しても〈メタモトーン〉でやり直せるから、大胆に彫り込んでやった。そして、中にローソクを仕込んで、頭の蓋を閉めれば完成だ。

 くり抜いた口と目から漏れる、赤い光がいい感じ。宴会が夕方からだから、雰囲気的にも良いだろう。



 昼食の後も、レスミアは料理を作るそうなので、20層以降の食材も使うようにお願いしておいた。レスミアが言うように、絶好のアピールチャンスだからな。奥様方が20層……いや、蟹を含めるなら13層以降の食材に目を付ければ、自警団に発破を掛けるに違いない。


 おっと、忘れるところだった。フルナさんから預かった小箱をレスミアに渡しておく。


「シュピンラーケンで、仕立てた物が出来たそうだ。俺からのプレゼントな」

「えっ?! ええ!!もっと時間が掛かるって」


 渡された小箱を持ったまま、頬を染めて取り乱し始めた。そして、ひとしきりオロオロした後、小箱で顔を隠しながら、か細い声で鳴いた。


「すみません。まだ、心の準備が……」

「ん? そう言えば、フルナさんから伝言もあったな『今日はお祭りなんだから、これで着飾りなさい』だそうだ」


 伝言を聞かせると、一瞬固まった後に、安堵の息を吐いた。何度か深呼吸してから、いつものように笑いかけてくる。まだ、耳が赤いままだけど。


「すみません、もう大丈夫です。

 その、こう言うのは、親の許可が出てから進めましょう」


 何のこっちゃ? いや、後半の意味から何となくは察するけど……

 俺が聞き返す前に、レスミアはキッチンに駆け込んで行った。



 午後は蜘蛛の巣解体と錬金調合をして、のんびり過ごした。レア種との戦いで盛大に使ったからな。暇を見つけては、作り直しておかないと。



 そして夕方、家の前から村の方を眺めていた。宴会場の広場には人が続々と増え、準備が進められている。もう少し暗くなれば、篝火が彼方此方あちらこちらに灯されるのだろう。


 女性の支度は時間が掛かるのは分かるけど、まだかなぁ。


 レア種討伐のパーティーは主賓扱いらしいので、手持ちのザクスノート君の服の中から、普段よりも良さげな物を着ている。流石に、刺繍が沢山施されヒラヒラしたのは避けたけどな。俺の感覚からすると、どこぞのアイドルが着てそうな服はちょっとね……

 そう言えば、今日は占いをしていなかった。待っている間に使っておくか。


「〈ダイスに祈りを〉!」


 手の中に大きな10面サイコロが現れる。玄関前に放り投げると、何度か跳ねて転がっていく。何が出るかな、と見ていたら玄関のドアが開いてレスミアが出て来た。薄く化粧をしており、着ている服も初めて見るロングワンピース。露出は少ないけど、可愛らしく見えた。耳には青いターコイズのイヤリングが揺れている……以前話した母親から譲り受けた物だろう。

 サイコロは、その足元に当たり、止まった。


「お待たせしました~

 あれ?これは『7』ですね……きゃあっ!!」


 サイコロが霧散すると共に、風が舞い上がった。それはワンピースを舞い上げ、内側のインナーまで捲り上げる。真っ白な下着が目に映った。


「もう! 何ですかこの風は!!」


 レスミアは必死に服を押さえて隠そうとしているが、風は吹き上がり続け、白いのがチラチラと見え隠れする。まさにラッキー7な光景を目に焼き付けつつ、取り敢えず拝んでおいた。


「もう!全然ラッキーじゃないですよ!

 まだ、駄目って言ったばかりなのに、もう!」


 風が収まってから、顔を赤くしたレスミアにポカポカと叩かれた。照れ隠しと分かる威力だったので甘んじて受けたけど、これはこれで可愛い。





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フルナ「気の弱い私の娘に敵役を演じさせようとか、良い度胸ね! 出演料をふんだくるわよ!!」

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