第153話 戦利品と宝箱
あぁ、倒せたようだ。ステータス欄には色々【NEW】マークが付いているが、後回しにして〈敵影感知〉と〈MP自然回復量極大アップ〉を装備しておく。
「ザックス様! 無事ですか?!って、熱い! ここの上熱いですよ!」
レスミアが上に登って来た。結構、高さがあるのに木登りで鍛えた登攀力のおかげか?
床と言うかジャック・オー・ランタンの上部は、あちらこちら黒く炭化しており、煙を上げていた。今まで紅蓮剣から吹き出る炎の余波を浴びていたけれど、紅蓮剣の付与スキル〈冷熱耐性〉のお陰か、あまり熱いとは感じなかったな。
「ぁぁ、ゴホッ、ゴホッ! あ~、なんとか終わったな。腰のポーチからマナポーションを取ってくれないか?」
「全然大丈夫じゃないですよ!マナポーションだけでなく、ポーションも飲んで下さい!」
頭痛のせいで腕を動かす気力も湧かない。剣の柄にもたれ掛かったまま、レスミアに飲ませてもらっていると、不意に光が目に入った。下のジャック・オー・ランタンからすり抜けるように黄緑色の光の玉が現れた。更に横合いから白い光の玉も飛んで来て、俺達の頭上をくるくる回り始める。
〈敵影感知〉にも反応は無いし、敵では無いな。何か温かみを感じる光だ。
「(ありがとう)」「(ありがと~)」
子供のような、少女のような声が頭に響き、2色の光の粒子が降り注ぐ。あぁ、助けを求めて来たのはコレか。
「え?!なんですかこれ?」
レスミアが背中にくっ付いてくるので、手を握って安全だと教える。光の粒子が降り注ぐ中、今度は聖剣クラウソラスが浮かび上がった。あれ?ポイントを振った覚えはないのに……首を傾げていると、白い光の粒子が聖剣の白い宝珠に吸い込まれていく。
白い宝珠が一瞬光を放つと、聖剣は消えていった。それを見届けたのか、2色の光の玉も空へと登って行き、消えていった。
「本当に何だったんです? ザックス様と居ると不思議な事ばかり起きますよねぇ。
あっ、そんな事より、早く降りましょう。このカボチャが消えると、下に落っこちてしまいます!」
しかし、両足が痛くて歩けそうにない。仕方なく膝をついて、カボチャの端まで行く。そこからは飛び降りて、フノー司祭とオルテゴさんに受け止めてもらった。
「ふむ、ここは痛むか?」
「そこは大丈夫だけど、痛っ!そっちは痛い!」
下に降りてから、フノー司祭に痛む足を見てもらっていた。〈ヒール〉で左足は良くなったが、右足がまだ痛む。
「〈ヒール〉を掛けても、痛むとなると骨折しとるな。触った感じでは折れていない、ヒビくらいだろ。
もっと上位の回復の奇跡〈キュア〉なら治せるが、俺は使えんぞ。まぁ、薬草でも食って大人しくするしかないな」
〈ヒール〉では骨折が治り難い。鑑定文にも書いてあったな。薬草をそのまま食べるのは自然回復量を上げる為らしい。
それなら、良い物がある。特殊アビリティ設定を変更して、癒しの盾を取り出した。コイツには〈HP自然回復 大〉が付いているからな。駄目押しで、癒しの盾の〈ヒール〉を自分に掛けると楽になった気がする。しばらく装備しておくか。
「よし!全員生存で、侵略型レア種を討伐完了だ! 俺達の勝ちだ!!!」
「「「おおーー!」」」
勝鬨をあげたのは良いけれど、みんな直ぐに座り込んでしまった。
俺以外のメンバーも疲れ果てていた。特に吹雪の魔法を受けては〈ヒール〉で回復して、盾役を続けていたオルテゴさんは、大の字に寝転んでいる。
ローガンさんは投げ飛ばされた後、森に突っ込んだが、運良く幹には当たらずに落下したらしい。細めの枝で減速して、雪と枯れ葉の積もったクッションに落ち、そのお陰で、打撲程度で済んだ。既にポーションと〈ヒール〉で回復しているが、硬革装備がボロボロになっている。
レスミアとフノー司祭は毛皮のマントを粉々にした魔法を食らったうえ、最後まで戦い続けてくれた。流石に疲れたのか座り込んでいる。
元気なのは、後方にいたフルナさんだけだ。いや、物資の管理とか、簀巻きローガンさんを救出とか、最後の最後でジャック・オー・ランタンの口に爆弾や可燃物を投げ込んでくれたらしい。今も皆に冷たいリンゴ水とお菓子を配ってくれている。俺には失敗作の薬草ドリンクだけど……骨のヒビを治す〈自然回復力アップ〉の為とはいえ、美味しくない。
「あ! ドロップと宝箱が出たわよ!」
目敏く見つけたフルナさんが走っていった。
ジャック・オー・ランタンの居た場所は黒く焼け焦げ煙を上げている。その中央には赤い剣が突き立っていた。
いや、伝説の剣とかではなく、回収し忘れた紅蓮剣だけどな。ポイントに戻すと、消えていった。ドロップ品と宝箱は、焼け野原を避けて出現している。フルナさんが宝箱を開けようと四苦八苦しているのが見えた。
俺もレスミアに肩を借りて、ゆっくり近付いた。
「参ったわね~。宝箱に鍵が掛かっているなんて……ザックス君!聖剣で蓋を壊してちょうだい!」
「これは銀の宝箱ですか? 鉄だったら鍵が有るのに……仕方がない、鍵の部分だけ壊しましょうか」
なかなか綺麗な宝箱なのに壊すのは勿体ない。聖剣を取り出そうとしたところで、待ったが掛かった。
「ちょっと待ちなさい。これは鉄の宝箱よ。鍵を持っているの? 結構レアなのよ?」
「ええ、20層のサンダーディアーの宝箱から、3つほど入手しましたよ。」
以前手に入れた1つだけでなく、雷玉鹿の角マラソンをした時にも追加で手に入れている。それにしても銀の縁取りと装飾が綺麗なのに、鉄の宝箱なのか……
言われてみると、箱の部分や、カマボコ状の蓋の大部分は鉄だ。木の宝箱も、木箱に鉄の縁取りだったな。本体の素材が鉄なので、鉄の宝箱と判断するようだ。
鉄の鍵を刺し、持ち手の水晶に魔力を流す。鍵が崩れ去ると同時にガチャっと音がして宝箱の蓋が少し開いた。
「ダンジョンで一番ワクワクする瞬間よね!
さ~て、何が入っているのかしら? レスミアちゃん、そっち持って」
「はーい、せーのっ!」
女性陣は息の合った流れで、蓋を上げる。中を覗き込んだ途端に、きゃあきゃあと騒ぎ出した。そんな良い物が入っていたのかと気になり、俺も覗き込んでみる。そこには3個の紫色の宝石と、拳大の金属の塊が見えた。
「大きなアメジスト! このサイズは高く売れるわよ! いえ、せっかく銀鉱石も手に入るのだから、アクセサリーにした方が高く……」
【宝石】【名称:アメジスト】【レア度:B】
・高密度の雷属性のマナが凝縮した宝石。厳密には鉱物としてのアメジストとは別物。
内部に大量のマナを貯蔵することが出来、放出する時に雷属性の魔力となる。魔道具の動力源や、魔法の発動媒体として使われるが、その美しさから宝飾品としての需要も高い。発動媒体にした場合、雷属性の威力が上がる。
外部から魔力を注ぐことで繰り返し使うことが可能だが、内包するマナが少ないときは強度も落ちるので注意が必要。
以前手に入れたターコイズは小さかったけど、こちらのアメジストは大きい。直径3cmくらいあるので、宝玉と言ってもいいくらいだ。レスミアも宝石に見惚れているので、余った拳大の金属を手に取った。規則的に三角形が組み合わさった多面体……数えてみると10面体で、各面に盾や剣十字、魔法陣等の文様が入っている。反射光が緑に見えるのは、もしかして……
【魔道具】【名称:付与の輝石】【レア度:B】
・スキルや魔法を、武具へ永続付与するための触媒。使い捨て。
・錬金術で作成(レシピ:ミスリルインゴット+魔結晶+ポゼストーン)
やっぱりミスリルだったよ。でも、スキルの追加が出来るのは非常に重要、是非欲しい。追加スキルを入れ替えて〈相場チェック〉で買値を見てみると、50万円と表示された。思わずスキルを使い直したが、やはり50万円。
以前、火属性の武器を探した時に、最低でも100万円と言われた事を思い出した。スキルを付与するだけで50万円なら高い訳だ。
それから、宝箱の近くに落ちていたドロップ品、モスアゲートと言う宝石1つと、大きなアネモネの花弁。これらも含めて分配について話し合いをした。
強化石は無事、俺が貰う事になった。レア種戦で獅子奮迅の活躍をして、宝箱の鍵も提供。更に、今後もダンジョン攻略するなら必要だろうと、言う事らしい。
アネモネの花弁はレスミアに。女性向けの防具素材になるらしい。本人は宝石よりも、こっちの方が嬉しそうだった。
【素材】【名称:巨大氷花の花弁】【レア度:B】
・アルラウネのレア種から取れた花弁。レア種の氷の魔力で強化されており、軽く丈夫で衝撃も吸収する。更に、氷の魔力で耐熱性にも優れ、ある程度の温度調節を行ってくれる。
雪女アルラウネのアネモネの花弁は途中から真っ黒に染まっていたが、ドロップしたのは蕾の時の色でホッとした。白から紺にグラデーションしている花弁は、色合い的にレスミアに似合いそうだ。例によって、村では加工出来る人が居ないので、ノートヘルム伯爵に伝手がないか聞いてみよう。
残りの宝石は男性陣にアメジスト、フルナさんがモスアゲートですんなり決まった。
【宝石】【名称:モスアゲート】【レア度:B】
・高密度の木属性のマナが凝縮した宝石。厳密には鉱物としてのモスアゲートとは別物。
内部に大量のマナを貯蔵することが出来、放出する時に木属性の魔力となる。魔道具の動力源や、魔法の発動媒体として使われるが、その美しさから宝飾品としての需要も高い。発動媒体にした場合、木属性の威力が上がるほか、回復の奇跡の回復量が上がる。
外部から魔力を注ぐことで繰り返し使うことが可能だが、内包するマナが少ないときは強度も落ちるので注意が必要。
ドロップ品も宝箱の中身も全てレア度Bだ。レア度Bはダンジョンでいうところの50層以上のアイテムらしいが、それだけレア種が強敵だったとわかる。おそらく、侵略型だったのも影響しているだろうけど。
「フルナよう。俺の宝石を買い取ってくれんか? 9万でどうだ?」
「ギルドの買い取り価格よりは高く、ギルド直売よりは安くってところね。8万なら買い取るわよ?
他の人はどうする?」
「俺は母ちゃんにやるから、持って帰るぞ」
「儂もじゃ。こんな宝石は初めてだからの、家宝にするわい」
「それなら、銀を使ったアクセサリーに加工も出来るから、後でも注文は受けるわ。ネックレスでも、指輪でも錬金術で作れるから。パーティーだったよしみで、加工代は少しまけてあげるわよ~」
買い取れないとみるや、アクセサリー加工を勧めるとは……銀の分だけ高く付きそう。商魂逞しいなぁ。俺はあそこまで貪欲になれそうもない。ただ、銀加工はちょっと気になるけど。
休憩した後、村へ帰還する事になった。自警団や村の方で防衛準備が進んでいるので、終わった事も伝えないといけない。
そんな中、俺は足がまだ痛むので、もう少し休憩して行くと伝えると、
「もちろん、私も残りますよ」
「派手に暴れたせいか、魔物もおらんからな。動けんでも聖剣があれば大丈夫か。
夕方までには戻ってこいよ。それに、今日は無理だが、明日には宴会するぞ、宴会!」
流石に、村の方でも後片付けがあるので、宴会の準備は間に合わないそうだ。俺としても疲れたので今日は勘弁して欲しいと伝えたら、皆そろって頷いた。〈ゲート〉を開き、皆を見送る。
〈ゲート〉を閉じてから、いそいそと聖剣を取り出す。フルナさんも見落としていたけど、空の宝箱の回収がまだだったからな。木の宝箱よりも、装飾が豪華になっているのだから、回収しない手は無い。片膝をついたまま作業して、ストレージに格納すると、レスミアから呆れたような声が掛けられた。
「もう、仕方ない人ですねぇ……ザックス様、お昼にしましょう。敷物とか色々出して下さい」
既に13時を過ぎていた。長丁場の戦いだったが、レア種の2連戦で2時間くらい掛かっていたみたいだ。殆ど蔦や根っことの戦いだった気もするけど。
時間を意識したら、お腹が空いてきた。ストレージから作り置きしてある料理を取り出して、昼食にした。
何故か、レスミアが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。不自由なのは右足だけなので、あ~んとかしなくても大丈夫だけど、誰も見ていないし、少しくらいイチャイチャしても良いよな?
食後に追加で〈ヒール〉を掛けていると、レスミアが心配そうに右足を摩ってくれる。
「それほど時間が経っていませんけど、やっぱりまだ痛みますか?」
「ああ、動かすと少し痛いな。ただ、落ちてきた時に比べれば、かなりマシになったよ。特に癒しの盾を身に着けているだけで、効いている気がする」
「空に飛ばされた時は、どうなるかと思いましたよ。フノー司祭とオルテゴさんで受け止めようと構えていたら、大きな剣を出して、火を噴きながら突撃するんですもの……あまり無理をしないで下さいね」
柔らかく微笑みながら頭を撫でてくる。少し気恥ずかしいが、心が安らぐ。そのまま、レスミアの気が済むまで撫でられていた。しばらくして、撫で終わったと思いきや、パンッと手を打ち合わせた。
「あ!良い事思い付きました。体を休めるなら、横になった方が良いですよね!
はい!私の足で良ければ、枕にしてください」
革のドレスの上から、太ももをパフパフと叩き、誘惑してくる。彼女の膝枕とか抗える訳がなかった。革のドレスはちょっと硬いけど、その下の柔らかな弾力が心地良い。あ、これは駄目だ。疲れもあるので、一瞬で眠くなってきた。
レア種を倒してから、この階層の気温も春の陽気に戻り、上には抜けるような青空(偽)。ピクニックだったら、このまま眠りたい気分だ。
「眠いなら、寝ても良いんですよ。魔物の気配も無いですし、〈猫耳探知術〉で警戒していますから」
「っと、ダンジョン内で眠るのは止めよう。何か話でも……そうそう、またレベルが上がったから、新スキルでも覚えていないかチェックしないと」
ステータス欄に色々【NEW】マークが出ていたので、気になってはいたんだ。
ジョブ欄に付いた【NEW】マークは、おそらく魔法使いのセカンドクラス。ワクワクしながら開くと、そこには『魔道士』のジョブ。それと、職人のセカンドクラスに『付与術師』が増えていた。
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アネモネの花言葉は物騒なのが多いですけど、色別にすると前向きな良い内容になります。ヒロイン用なので流石にね。
アネモネの花言葉(白):期待、希望、真実
アネモネの花言葉(青):あなたを信じて待つ
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