第140話 お菓子作りでのんびり

 思いの外、簡単に殻剥きが終わったので意気揚々とキッチンに戻り、レスミアに渡すとかなり驚かれた。


「あの大きな袋、全部終わった??? 

 小さい袋分で良いのに、渋皮まで剥くとか早すぎますよ! 今度はどんなスキルを使ったんですか?」


 簡単に説明しながら、2袋目も隣に置くと更に困惑させてしまった。


「オーブンでローストしないといけないのに、量が多過ぎですよ~。2袋目はしまっておいて下さい!

 取り敢えず、オーブンに入る分だけローストして、残りはお夕飯の後に使いましょう」


「無理に使う必要はないんじゃ無いか? ストレージにしまっておくよ」

「いえ、明日も調査ですから、栄養補給には良いと思います。皆で食べる分くらいは用意しておきますよ。ザックス様は毎日ダンジョンに入っているので平気かもしれませんが、他の人達は今日1日でもお疲れの様でしたから」


 あ~確かに、休憩はちょこちょこ入れていたけど、終盤は歩みが遅くなった気がしたな。フルナさんは精算に入ると、逆に活き活きし始めたけど。


 料理の手伝いは十分との事で、お役御免となった。夕飯には、まだ少し掛かるそうなので工作でもする事にする。今日破損したワンドの代わりと、混ぜ棒、剣尾狼の尻尾の加工だな。


 サーベルスタールトに真っ二つにされたワンドは〈メタモトーン〉でくっ付けても駄目だった。以前より魔力の通りが悪くなってしまったからだ。目詰まりしたストローのようで、フルナさんの言っていた魔力の通り道が潰れたのだろう。


 暗くなった庭先で、倉庫の扉から差す光を頼りに作業を始めた。家が丘の上にあるため、外で〈サンライト〉を使うと目立ちそうだしな……

 ここ1週間くらい、錬金調合で出る赤い煙や青い煙のせいで、近所で噂になっていたそうだ。

 既にフルナさんと言う錬金術師がいるので、珍しくも無いと思っていたけど、あのアトリエは林と外壁の向こうにあるので身近では無いらしい。色々と噂になっていた所を村長の奥さん経由でレスミアが聞き、フォローしてくれたそうだ。

 以前の瞬火玉改は裏手でやったから(多分)セーフ。苦情も来ていないし。


 ストレージに入れていたスタミナッツの木とプラスベリーの木を取り出し、持ちやすそうな太さと長さの枝を切り取る。そして、〈フォースドライング〉のスキルで乾燥してから倉庫に戻った。


 ワンドの方はプラスベリーの枝を〈研磨〉で磨いて、根元にストラップ(只の紐)を取り付けた。魔力の通りも、以前のワンドと同程度なのでこんな物だろう。もうちょっと魔力の通りが良いと言う事なかったが、インゴット待ちだな。仕上げにニス塗装してツヤツヤに仕上げておく。


 そして、混ぜ棒の方で失敗した。殆どワンドと同じなのだけど、先端をマドラーの様に平らにしたら魔力が詰まった感じになってしまったのだ。

 別の枝で再チャレンジし、ナイフで削り平らにする事で正常に流れた。つまり〈メタモトーン〉で潰したせいで、魔力の経路が潰れたのが原因だと思う。



 これらの経験を踏まえて、剣尾狼の尻尾に持ち手を少し工夫する事にした。

 魔力を通すのは尻尾の根本の方なので、取り付ける柄は握り易くする為の物だ。ただし、木材を咬ますと尻尾への魔力の流れが悪くなりそう。

 つまり、柄を穴空きにして、握った際に尻尾の根元に直接触れられる構造にすれば良いのではないだろうか?


 取り敢えず、試作だな。

 スタミナッツの木材を〈メタモトーン〉で柔らかくして、ショートソードの柄の型取りをする。効果が切れて固まってから、二つに割れば型の出来上がり。後は、別の木材を柔らかくして型に嵌めれば、あっと言う間に柄の完成だ。


 出来た柄を縦に割り、真ん中に穴を開け、尻尾を挟み込む部分を削る(抉る)。後は毛刈りした尻尾の根本をサンドイッチして完成だ。柄の上の方を握れば中心の尻尾に触れる事が出来るので容易に魔力を流せるし、サーベル状に硬化した後も、握り手が出来て振りやすい。


 ただ、片刄のサーベルに、両刃のショートソードの柄は合わなかったかな? 鞘も付けられないので、剣帯に佩く事も出来ない。なので、紐で吊るす事にしたけど、これはこれで咄嗟に握ると刃の向きが逆になりそうだ。


 鍔の形でも変えてみるか? いや、咄嗟に握るなら、鍔を見ている余裕も無い……ああ、握っただけで分かればいいなら、握る部分を加工するか。確か指の形に凸凹した包丁とかあったからな。


 加工は柄の腹を〈メタモトーン〉で柔らかくしてから、握るだけ。凸凹のサイズ的に、俺のオーダーメイドみたいな物だな。ハンドグリップが滑り止めにもなって振り易くなる。素人加工だけど、中々良い出来じゃないか。黒毛豚の槍に続いて、第2号だな。



【武具】【名称:ウルフテイル】【レア度:D】

 ・サーベルスタールトの尻尾を利用したサーベル。柄を付けただけなので魔力伝導率が良く、生前と同等の切れ味を発揮出来る。魔力で硬化していない状態では、只の尻尾と同じ耐久力しかなく、破損し易い。



 破損し易いのはフルナさんに聞いていた通りなので、許容範囲内だな。元々、次の武器までの繋ぎのつもりだ。更に、今日だけで尻尾を4本手に入れているので、替えを用意しておけばいい。

 この後、同じ物をもう一本作ったが、レスミアの分なので本人に握らせて加工しよう。




「遅くなりましたけど、召し上がれ~。新しい食材と言っても、ベリーとナッツなのは変わらないので、普通のレシピです」

 夕飯はプラスベリーをソースにしたチキンステーキに、スタミナッツ をドレッシングにしたサラダが目新しかった。


「ベリーソースなんて珍しいな。

 ……へぇ、肉に合うのかと思ったけど、甘酸っぱいのが淡白な鶏肉に合っていて美味い」


「ベリーソースが珍しい? あぁ、秋頃だと取れませんからねぇ。これからは、この村でも年中食べられますよ」


 なんか斜めに解釈されたけど、まあ良いか。次いで、新作と言うサラダも一口頂く。

 ナッツが香ばしく、薄切りにしたスタミナッツも散りばめられていて、歯応えもアクセントになる。ナッツのドレッシングはあれだ、ごまドレッシングの亜種と考えれば普通に美味しい。



 階層が増えた事で大騒ぎしていたけど、悪い事ばかりじゃないよなぁ。



 食後、休憩もそこそこに、明日の準備を始めた。レスミアはフライパンでタコス用のトルティーヤを焼いている。トウモロコシ粉を使った薄焼きパンだな。これに焼豚と野菜を挟んでソースを掛けるだけ。そして、ソースには先程のスタミナッツのドレッシングを使うらしい。


「今日のお昼は百合根の料理を出したので、明日はスタミナッツをアピールしましょう。多分、おじさん達はおつまみとしか、見ていないですよ。

 ……後、何やっているんです?」


「ん? 言われた通り、ナッツを砕いているけど?」


 何故か呆れた様子のレスミアに、俺はブラストナックルをはめた手で、スタミナッツを砕きながら答えた。

「一粒が大きいから、小さくしてね」という指示で、オーブンでローストしたスタミナッツを包丁で切っていたのだけど、非常に熱い。オーブンから出した直後など、オーブンミトンがないと触れない程だからな。

 しかし、熱いなら無効化すれば良いじゃないか、と言う事でブラストナックルを装着してみた。ミトン無しでもオーブン内の角皿を取り出せるし、ナッツも殻を割った時の要領で砕ける。便利なのになぁ……


 鍋いっぱいに砕いたナッツは一部だけ〈インペースト〉のスキルでペースト化して、残りはお菓子作り行き。

 別の鍋に蜜リンゴの蜜とハチミツをブレンドして火を掛け、茶色になるまで煮詰めていくとキャラメルになる。ここに牛乳とバターを混ぜれば生キャラメルも作れるが、今日は外でも食べられるようにする為、柔らかくする訳にはいかない。出来たキャラメルをナッツの鍋に混ぜ、掻き混ぜてからパレットに広げた。


「レスミア、こっちは出来たよ」

「はーい、すぐ行きます」


 出来栄えを見てもらおうと声を掛けたが、トルティーヤに食材を色々挟んでいるところだった。レスミアが来る前に、自分で味見に一口分つまんでみると、キャラメルが糸引く。そのまま、口に入れると蕩けるキャラメルの甘さが広がった。ナッツの歯ごたえも良いけど、くどい程に甘い。キャラメル菓子だからこんなものか?


「良い色のキャラメリゼですね~。私もさっそく味見を……あふっ、はふっ、あひゅい!」


 まだ冷え固まっていないキャラメルは熱いのに、そそっかしいなぁ。熱さであたふたしている姿は見ていて和むけど、火傷してもいけないので水の入ったコップを手渡した。


「大丈夫か? まだ熱いのに、いきなり口に入れるから…………〈ヒール〉!」


「ふぅ、ありがとうございます~って、ザックス様が普通に味見していたから、冷めていると思ったんですよ!」

「それはゴメン。まだブレイズナックル着けているから〈熱無効〉の効果だよ」


 両手の赤いガントレットを見せながら、謝っておく。装備中に誤って魔力を通すと発熱して危険なので、距離をとって作業していたけど、こういうケースもあるとは……今度、とんかつ等の揚げ物をする時、ブレイズナックルを着ければ素手で油に投入できるかも、なんて考えていたけど、止めた方が良いか。万が一誰かに見られて真似されると危ないよなぁ。


 レスミアの様子を伺うと、今度はふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてから味見をしている。美味しそうな顔を見ればキャラメルは成功なのだろう。


「俺的には甘すぎる気もするけどなぁ。そうだ、運動後の栄養補給と言うなら、塩も入れた方が良いんじゃいか? 塩キャラメルとか定番だし、食べやすくなると思うぞ」

「アハハ!甘すぎるからって、塩を混ぜても駄目です。味がおかしくなっちゃいますよぉ」


「いや、混ぜるんじゃなくて、結晶が残る程度に表面に少し散らせばいいはず」


 パレットの一角に、ピンクソルトをおろし金で削り降らせた。アクセント程度なるよう一口分に塩一粒程度と、かなり少なめだ。それを味見してみると、甘さ一辺倒だったキャラメルにまろやかな塩味が絶妙に効いていて、味が引き締まったように感じる。うん、こっちの方が食べやすい。レスミアにも進めてみる。


「……へ~、これは塩味が後から効いてきて……甘味が引き立っている?

 ピンクソルトのコクも加わって、これは美味しいですね!」


 夏場のコンビニで塩スイーツとか、一時期流行っていたのを思い出せて良かった。因みに、俺も料理人のジョブを装備していたので、バフ効果が発現している。



【食品】【名称:塩キャラメルナッツ】【レア度:D】

・スタミナッツをキャラメルでコーティングし、塩をまぶしたお菓子。相反する甘味と塩味をまとめた不思議な味がする。スタミナが回復するので、行動食としては最適。

 ダンジョン産の調味料が使われているため、効果時間が伸びている。

・バフ効果:スタミナ自然回復量小アップ

・効果時間:15分



 不思議な味か……この世界だと、塩スイーツは一般的でないのかも知れないな。レスミアも驚いていたし。それと、行動食と言えば、騎士団の行軍食が美味しくないと嘆いていたらしいけど、スタミナッツのお菓子は入っていなかったのだろうか? カロリーの高いチョコ菓子が、ミリ飯(ミリタリーの飯、戦場携帯食)に入っているとか、有名なのになぁ。


 そんな雑談をレスミアとしながら、料理を続けた。日本のお菓子について根掘り葉掘り聞かれたり、代わりに猫の国ドナテッラについて聞いたりしていると、6の鐘(20時)が鳴り響く。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくというが、ここ数日は特に早い。レスミアが帰る時間も徐々に遅くなっていっているので、手早く後片付けをして村長宅へ送り届けた。


 明日も調査の続きなので、あまり遅くまで起きていて支障が出ると不味い。俺とレスミアだけなら好きに予定が組めるけど、他のパーティーメンバーに迷惑を掛ける訳にもいかないからな。さっさと風呂入って寝よう。

 今日1日のレベル変動は以下の通り。


・基礎レベル21→22

・村の英雄レベル20→21  ・魔法使いレベル21→22 

・スカウトレベル17→20   ・罠術師レベル21→22


 始めていくフィールド階層だったから、安全第一でジョブを変えてなかったからな。このレベルアップの少なさは村に来た当初以来かもしれない。傾向は分かったから、明日はもうちょっと緩めて他のジョブも上げよう。

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